第2王子のひとりごと
「ーーー今宵の卒業パーティーを始める前に私から皆に伝えたいことがある。私はアリスティナ・カークライト公爵令嬢との婚約を破棄することを宣言する!私が愛してやまないカレンを男爵で平民上がりだから私の伴侶には相応しくない、という理由で虐げたからだ。国母には相応しくない、と判断した。よって、次期王妃を虐げた罰として国外追放を命じる!異論はないな。」
学園の卒業パーティでこの国の第一王子であるケンドリック・アクロス殿下が宣言した。その周りでは側近たちがそうだそうだと同意している。
はぁ、ついにやっちゃったよ。この人。僕はしがない商人の息子のアレクだ。この殿下は公爵令嬢という婚約者がいたのだが、2年生の時に編入してきた平民上がりの男爵令嬢に心を奪われた。マナーなどの注意をしただけなのに、公爵令嬢はいじめの犯人として噂された。そして、怒り狂った公爵から婚約の撤回を求められ、陛下は了承している。また、彼女には新しい婚約者、第二王子のアレクサンドル殿下がいる。そう、今第一王子殿下が破棄する、と言った婚約はとっくに白紙に、なかったことになっているのだ。昨日、伝えられているはずなのに。
視線を戻してみると、どうやら盛り上がってきたようだ。第一王子殿下のとりま...げふんげふん、側近候補の宰相の長男と騎士団長長男が参戦している。お茶会に誘わなかったとか、殿下と踊るなとか言ったとか。
どうやら、件の男爵令嬢は殿下ご一行に大切にされているらしい。公爵令嬢はやっていない、証拠はないのか、と聞いているが、男爵令嬢の言葉が証拠である!みたいな馬鹿なことを言っている。彼女が嘘をついている可能性だってあるだろうに。あ、そうか、恋は盲目というからな。まあ、そういうことだろう、うん。
彼女はたらしというか、婚約者がいる男子生徒に普段からたくさん話しかけているため、女子生徒のほとんどから嫌われている。だから、虐められていたというのも、公爵令嬢ではなく、他の令嬢の仕業だろう。ほら、顔色悪い人いるし。真っ青だ。そりゃそうだよなー、自分のせいであの公爵様の令嬢が国外追放を命じられたんだもんな。まあ、陛下の決定ではないし、ましてや王太子でもないのだから全く効力はないのだが。
とか見ていたら、生徒会長でクラスメイトの宰相次男の侯爵家、セシリオ・ルーゼンブルクとかから、なんとかしろ、という視線が送られてきた。
まあ、そうなるよね。けど、せっかくその他大勢に紛れてるんだから、そのまま見させてよ。うん、え、こっちくるのかよ。
「おい、なんとかしてくれよ、あれ。」
「え、やだ。めんどくさい。あと、面白そうだし。そんなこと言うくらいなら、君が行ってきたら?次期宰相さん?それか、後始末は陛下に任せればいいんじゃないか?」
「お前、なぁ。それでも第二王子かよ。それに、あいつらに絡まれてる公爵令嬢、今はお前の婚約者だろ?婚約者を助けなくってどうするんだ。ほら、いくぞ」
あーあ、言われちゃった。
「仕方がないか...」
俺は渋々中央に連れて行かれた。
って、そんなに急かすなよ。
「先ほどから、アリスティナ嬢がその男爵令嬢をいじめたと主張していらっしゃいますが、根拠はあるのですか。男爵令嬢様の証言だけで決めつけるのは早急すぎるのではないでしょうか?」
セシリオも同意をしている。
「商人風情が口を挟まないでもらえるかな。そもそも、なぜ、セシリオがその平民の援護をするのだ!平民は黙っておれ!関係ないだろう!」
「それが答えですか。残念です。」
セシリオが哀れみの視線を送ってくる。
「お前、この方は第一王子殿下だぞ!どんな口の利き方をしているんだ。罰せられたいのか?!」
はあ、うるさい奴らだ。僕のクラスメイトが悲鳴をあげている。大丈夫だよ、と彼らに向かって苦笑した。
そして、僕は自身の髪と瞳の色を変えていた魔法を解いた。
「それが、あなたがたの答えですか、兄上。僕は残念です。」
「は?!お前、アレクなのか?!騙したな」
「騙したも何も、入学前には伝えましたよ?忘れたのはあなたの方ではないのですか。あと、先ほど、アリスティナ嬢との婚約を破棄する、と仰っていましたが、すでに解消されていますよ。」
「どういうことだ!」
「あなたと彼女の婚約の白紙撤回は昨日の夜、陛下から書面で通達されませんでしたか。そこに、あなたとの婚約を撤回し、私と婚約を結び直す、と書かれていたはずです。公務を行っていれば必ず目を通すはずですが...まさか、かの令嬢に熱を上げてばかりで公務を放棄されていたわけではありませんよね?」
兄は顔を真っ赤にしている、
「あと、補足ですが、彼女はいじめてなどいません。少しきな...いや、心配だったので彼女には陛下に許可を得て王の影をつけていましたが、そのような報告はありませんでしたし、むしろ厳しい言葉をかけた方々を宥めていたようです。変な言いがかりをつけるのはやめてください。」
「そのようなこと、私は聞いていない!ふざけたことを言うな!」
そうだ、そうだと取り巻きも同意している。第一王子殿下だぞ、次期国王だぞ!と。
俺はそれを聞いて呆れた。どこまでこの人たちは馬鹿なんだ。
「兄上、それも忘れてしまったのですか?次期国王こと、王太子は私です。あなたではありません。この間、陛下や大臣から話されたでしょう。」
諦めが悪いのか、聞いてないだとか、それは嘘だとか彼らは口々に罵ってくる。立太子の式を体調不良と称したかの令嬢とのデートで欠席したのはそちらだろうに。もう、これ以上話しても意味がなさそうだったから、後片付けに入ろう。うん。
「かの者たちを捕らえよ。」
取り敢えず、魔法で束縛した。
ちなみにこれ、地味に王家限定の魔法だ。
「何をする!」
と、喚いている彼らに黒い笑みを向けると、黙った。
そして僕は、衛兵に彼らを城の牢へと連れて行くように命じた。そして、彼らの家へこのことを伝えるように言った。
さあ、最後の仕上げにかかるか。これやったら、しばらくは働かなくていいよな。きっと。
「慶事である今宵のパーティーで騒いでしまい、すまなかった。彼らは私が責任を持って対処させていただく。皆には今からでもパーティーを楽しんでほしい。また、商人、と身分を隠して学園に来ていたため、驚いた人も多いと思う。黙っていて申し訳なかった。今まで通り、とは行かないと思うが、私がこの学園を卒業するまでは、気楽に接してもらえると嬉しい。」
ふう。なんで、後始末しなきゃならないんだ。こんな俺が王太子なんかやれてるんだろうな、ってセシリオに聞いたら、意外とやるときはやりますからね、って言われた。
俺はセシリオとアリスティナと城に戻って、陛下たちと話した。
彼らは成績も散々だったらしく、それぞれの家から追放された。兄は、王位継承権を剥奪されたのに加えて、王族籍を抹消、国外追放となった。どうやら、かの男爵家とともに奴隷の違法売買に関わっていたらしい。男爵家は当主は処刑で取りつぶしとなった。
かの令嬢は、奴隷の売買には携わっていなかったが、兄とその側近たちなどの他の男とも関係を持っていたようで、北の修道院へ入ることになった。そこは、やけに病死や事故死が多いところだから、無事に寿命を全うできることを祈ろう。
⭐︎おまけ⭐︎
「くるのが遅かったわ!何をやっていたのかしら?」
「身分を隠していたからね。それにティナでもなんとかなると思ってたんだ。まさかあそこまでとは思ってなかったよ。」
「まあ、うふふ。でも、わたくしも同意見ですわ。」
実は、ティナは僕にとって初恋の相手なのだ。そして、ティナにとっても。だから、王太子の立場は大変で面倒だけど、ティナのためにも頑張ろうと思う。
ちなみに、この国はこの後、若干やる気のないように見える王太子の活躍で大いに発展しましたとさ、おしまい。
初投稿でつたない文章ですが、最後まで読んでくださりありがとうございます!
また時間があれば長編なり、新しいお話なりと書いてみたいと思っているので、暖かく見守っていただけたら嬉しいです。
くろねこ
第一王子の側近くんが宰相次男となっていましたが、長男の間違いでした。
混乱させてしまい、すみません…ご指摘、ありがとうございました!