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アンダーブルー・クロスロード ~結晶の少女と楽園の後継者~  作者: 深月 慧
第一部 結晶の巫女と夜明け前の楽園と継ぐ者たち
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第二章-6 旧友

 エリュシオン。モジュール1。


 そこから伸びる軌道エレベータ(ユグドラシル)は、かつての時代における平和と繁栄の象徴として建造された。


 しかし、大析出が起こった。

 この大災害によって致命的なダメージを受けた不特定多数の国々はその世界樹に一縷を望みをかけ我先にと占領を試みた。しかしそこには『先住民』がいた。

 もとより独立志向が強く、また独立に近い状態での運営を前提としていたエリュシオンである。戦争にならないわけがなかったのだ。

 程なくして、ユグドラシルは平和と繁栄の他に独立の象徴にもなった。


 このエリュシオンに住む人間なら、誰でも知っている話である。


 誰も彼も必死だった。

 自分の居場所を、生活を、大事な人を守るために必死だった。

 故に、皆武器を持って立ち上がった。


 そして皆等しく死んでいった。


 中には良いやつもいた、同じように嫌なやつもいたし、また同じように見下げ果てたクズもいた。

 共に戦い、そして散っていったそんな彼らの名が、ユグドラシルの麓にあるこの慰霊碑に刻まれていた。

 

 エトの父であり、同時にエリュシオンの独立闘争――楽園戦争の英雄であった静馬聡明は一週間に一度そこに訪れる。あの戦争のことを、死んでいった仲間のことを忘れないために。


 ――もし自分が判断を誤っていなければ、助かる命もあっただろうか。


 ここに来るたびにそんなタラレバ(if)が頭をよぎるが、そんな事は無駄であるとは本人も判っている。

 皆から英雄だと言われてこそいるが、自分はその器でないと自覚しているからである。

 それでも、そう考えずにはいられないのだ。


「仲間の墓参りか、いかにもお前がやりそうなことだよな」


 後ろから声がかかる。だが彼は振り向かなかった。声の主が誰であるのか知っているし、本来話す資格もないからだ。

 

「お前のことは息子(エト)から聞いた。――なぜ戻ってきた」

「誰だって故郷が恋しくなることあるだろ?」

「どの口が言う……その故郷から追放される理由を自分から作った癖に」


 全く以てそうだ――と快活に笑いながら、その来訪者は聡明の隣に座り込み、慰霊碑の前に花束を置いた。

 

 花束の中身は菊――花言葉はたしか『ご冥福をお祈りします』だったか。

 

「お前がそれを置くと、ただの嫌味にしかならんぞ」

「すまんな、花屋に慰霊碑にふさわしい花を教えてくれって頼んだらこれを渡されたんだ」


 数分の沈黙――黙祷。

 

「お前らは、俺を恨んでるだろうな」


 聡明に向けた言葉ではなかった。

 

「……そうだろうな、ようやく戦争が終わったってのに内戦をおっ始めたんだから」


 あの内戦は首謀者たるクロムウェル・ザイツェフの死をもって鎮圧された――公式ではそうなっている。

 しかし、それが間違いであることを聡明の隣にいる男がその身を以て証明している。

 生きているとは言え、データ上一度は死んでいる身だ。大方偽IDか何かを使って戻ってきたのだろう。かと言ってその出処を追求する気は無かった。


「――聡明」

「なんだ」

「今も昔も、俺はあいつらを――廃棄街の連中を許すことができない。だから俺はシンパの連中をけしかけて立ち上がった」

「……あぁ、そうだったな」


 聡明は彼が立ち上がった本当の理由を知っている。

 エリュシオンに寄生(フリーライド)している者たち――即ち、大析出に伴って開発が中止されたモジュールこと『廃棄街(ロストエリア)』に不法に住み着いた難民に対する壮絶な怒りを、憎しみを抱くには余りあるきっかけに彼は立ち会っていたのだ。

 聡明自身、彼らに対しては良い感情を持っているとも言えないし、また本当の理由を指摘する気にもなれなかった。


 何事も、建前ってもんがある――とよく彼が語っていたことだ。だから、さっき言った事はあくまでも建前なのだ。


「そして俺は負けた。紆余曲折の果てに戦場での傭兵稼業で飯の種を稼ぎ、そしてここに戻ってきた。――ここは何も変わっちゃあいなかった」


 これは、彼にとっては理屈どうこうの話ではない。彼はまた何かをする気でいるのだろう。『スポンサー』の意図が何であれ、彼はやる気でいる。

 だが、だからこそ問うべきなのだろう。


「――変わっていないなら、どうするんだ。もう、戻ってくることはないってのは、いい加減お前もわかっているはずだ」


 彼は一瞬沈黙し――こう答える。


「戻ってくる来ないはもう問題じゃない。託されたんだ。託されたのなら、それはきっと成すべきことなんだ」

「そうか……わかった。わかったが、場合によっては殴ってでも止めに行くからな。覚悟しておけ」

「おぉ、怖い怖い……そうだ、こんな雰囲気になってなんだが、おめでとう。良かったじゃねぇか子供ができて」

「何だ急に、この空気でよくそれが言えたもんだな。まぁ……ありがとうとは言っておくが……」

「いや、いつまた会えるかわからないし、何より知らなかったからさ。こういう事は先に言っておいたほうがいいだろ?」


 さっきはここは何も変わっていないと言ったが――とクロムウェルは前置きして語る。


「やはり、時代と世代というものは変わっていくもんだな。お前さんの息子とその戦いぶりを見てそう思ったよ。似ているけど――その実違う。よくある話だよな。

 ……じゃあ、さようならだお前ら。そしてそう遠くない内にまた会おう静馬聡明。もしかしたらお前の息子ともまた会えるかもな」

「俺は――いや俺の息子(エト)は『静馬家』じゃない。事が起こっても――」

「おいおい、つい最近エドルアで、お前の息子さんが北方皇国の最新型VAF(アームド・フレーム)相手に大立ち回りを演じたのは知ってるだろう。

 ――いい加減覚悟しな。例え故郷から離れ、『家』との関わりを断ったとしても、その習性と才能は消えることはない。人間って言うのは得てしてそういうものだろう?」

「まさかお前――!」

「おっと落ち着きな聡明。慰霊碑の前だ、故人の前で騒ぐのはまずいんじゃあないか?」

「どの口が言う!」

「――賭けをしようじゃないか。お前の息子が『静馬』の人間か否かをさ」

「賭けだと? 何をふざけたこと――」

「俺は本気さ聡明。これでお前の望みがかなったかどうかがハッキリするんだ。かく言う俺だってお前の息子に手をかけるような真似はしたくはない。

 ――お前の息子が俺の前に立つことになれば俺の勝ち。お前だけが止めに来たならお前の勝ちだ」

「仮に俺が勝ったらどうする気だ、この際今ここで不成立にしたって良いんだぞ」


 直後、彼はあるハンドサインをした。

 それは戦場で何度も見たことがあるもので、故にその意味も瞬時に理解できた。


「――スナイパーだ」


 彼は小声でその意味を語る。


「正確には監視だ。ここであっけなく死にたくなければ余計なことはしないほうが身のためだ――少なくともこの場ではな」


 じゃあ改めて――と前置きして、


「また会おう、静馬聡明。願わくは、再会が安らかなものであらんことを」

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