第3話 デビリータ大地に立つのじゃ!
今、洋子、いやデビリータの眼の前には自身の身長ほどもある文字が飛び跳ねていた。
それはReady?という文字でVRギアに接続し、VCFOを選択した時に現れた。
時間は11:53分。
つまり開始12:00前の演出だろうことは分かる。
しかし、右を向いても左を向いても、それこそ上を向いても文字が視線の正面にくるのはいかがな物か。
少し呆れもするが、それでもデビリータはワクワクしていた。
実はβテストから参加するのは初であった。
これでワクワクしないゲーマーはおらんじゃろ、とデビリータは思うのだ。
そして気付けば、時刻は11:59分。
Resdy?の文字は変化していく。
気付けば30の数字に代わり、カウントダウンが始まった。
5……
4……
3……
2……
1……
0!
「VCFOにフロプス!」
フロプスとは、脳にあるというプシオン波を検知したVRギアが、空気中に散布されたフロギストン粒子に干渉を開始する。
そして、フロギストン内に構成されている無限に広がるスフィアに意識体を接続させる。
これがフロギストン・プシオン反応、通称フロプスダイブという物である。
軽い酩酊感の後に襲ってくる浮遊感。
それを感じたのち、デビリータはゆっくりと目を開ける。
デビリータが最初に目にした物は大海原。
太陽を受けキラキラと輝くその海を、一隻の大きな船が波を立てながら航行していた。
視線は上空からその船に下がっていき、そのうちの誰かの視線に移った所で……
「スキップじゃ!」
デビリータは無情にもそう言って運営渾身の作であるムービーをスキップした。
まあこのムービーは公式サイトからも見る事が出来、デビリータも一度見ているのだが。
そんな訳で渾身のムービーはおろかにもキャンセルされ、哀れなデビリータは渾身のムービーを二度と見る事が叶わないと知りながら、渾身のムー「やかましいわっ! さっさと続けよ!!」
ゴホンッ。
再び何時の間にか閉じていた目を開けると、そこは噴水のある広場だった。
”始まりの街アイント”そう呼ばれる街の、始まりの広場を呼ばれるプレイヤーが最初に現れる場所である。
本来はムービーでここに飛ばされる演出があるのだが、それは兎も角、ここにはデビリータと同じように中腰になって辺りを見渡すプレイヤーが多数現れていた。
デビリータは感動したように辺りを見渡す。
これまでにやってきたゲームよりも違和感のない映像。 自然な動きをする人々。
そんな周りから聞こえてくる「ステータスオープン」の言葉に、慌ててデビリータもステータスを表示させるべく
唱える。 小声で。
すると、設定時に作成したのと同じステータスが無事に表示された。
名前:デビリータ
力:D
体力:C
素早さ:B
知力:B
精神:C
魅力:A(敵対種族はE)
聖属性耐性
邪悪属性弱点
スキル
【飛行】 1
【聖魔法】 1
【祈り】 1
【聖結界】 1
【邪悪看破】 1
【魔力増幅】 1
装備
右手:初心者の杖 攻撃G
左手:なし
頭:なし
胴上:初心者のローブ 防御G
銅下:初心者のズボン 防御G
足:初心者のブーツ 防御G
「ふむ」
デビリータはそれを見ると、次に表示されている、チュートリアルクエストのウィンドゥに目をやる。
内容は、”始まりの街にある冒険者ギルドへ行きそこで冒険者登録をする。”という物だ。
チュートリアルクエストクリアでスキル枠を一つ貰えるらしい。
そしてクエストはいくつかの連続クエストになっている。
登録すると、まず支度金で1000ゼニ。 このゲームのお金はゼニであった。
デビリータは早速ギルドに向かおうと移動する。
デビリータは気付いていなかった。
今の自分の見た目を、このゲームで唯一の種族を手に入れていた事を。
デビリータが歩き始めると、人々の視線が動き、自分を追っている事に遅まきながら気付いた。
ブワッと汗が噴き出るような感覚。 このゲームにそんな機能はないが、背中に冷たい汗が流れるような気はした。
そそっと道の端に寄ってみるも視線は自分を追ってきた。
冷や汗が止まらない。 そんな機能はないが。
デビリータはコミュ症であった。 人の目にさらされる事が大変苦手であった。
つまりどうなるかというと。
「うひゃああああああああああ!?」
デビリータは慌てて駆け出す。
が、あまりにも慌て過ぎた為に躓き倒れそうになった。
しかし、無意識だろうか、倒れまいとするあまりに背中の羽が動き、デビリータの身体を宙へと舞い上がらせたのだった。
「うおおおおおお!?」「飛んだ?」「なんだあれ? あんな種族あったか?」
「レア種族キタコレ!」
そんな歓声など知らぬとばかりにデビリータは空を駆けた。
のちにプレイヤーやNPCたちに語り伝わる事になる”聖天使の降臨”であった。