【戦争が奪った物、与えた物】前編
この作品は【勇者のアンチテーゼ】のスピンオフ作品です。
作中には本編のネタバレになる内容等が含まれますので、本編をまだお読みになっていない方は先に本編【勇者のアンチテーゼ】を読まれる事をお勧めいたします。
僕たちは廃墟となった商業都市の街の中を見回りしていた。
「あーあ、退屈だよなー。」
「退屈なのはいいことじゃないか。」
「何言ってるんだよ。今でも最前線では同期の奴らは邪教徒や無神論者を相手に戦ってるっていうのによ。」
「だったら尚の事最前線じゃない方が命の心配をしなくていい分いいじゃないか。」
「お前はつくづく愛国心の無い奴だな。」
「愛国心はあるさ。ただむやみに弾圧する事は良くないと思うんだ。」
「これは粛清なんだよ。世界に平和を齎すためのな。」
「神様は本当にそんな事を望んでいるのかな?神様っていうのはもっと慈愛に満ちている存在だと思うんだ。」
「これこそが神様にとっての慈愛さ。邪教徒という嘘に騙された人々や、神を信じる事の出来ない不幸な人間たちの魂を浄化してくれてるのさ。これ以上の慈愛がとこにあるっていうのさ!」
「それも皇帝陛下の受け売りだろ。」
「ああそうさ。あの方は神の言葉を聞いた賢者の一人だからな。」
「神様の言葉を聞いた賢者ね。果たして神様がそんな不平等な事をするものなのか。」
「何がいいたいんだ?皇帝陛下がペテン師だとでもいうのか?」
「そうじゃないんだ。でも何でも盲目的に信じるのは危険だって話さ。」
「俺はちゃんと自分で考えてるから安心しろ。」
「だったらいいんだけど。」
そうこうしていると、廃墟の中から二人の子供が出てきた。二人の子供は僕たちに気付くと、走って廃墟と廃墟の路地に逃げていった。
「おい!あれはこの街の無神論者のガキだ!追うぞ!」
「お、おう。」
僕とセルゲイは走って子供たちを追いかけた。
子供たちは路地の木製の壁にできた隙間から反対側に逃げてしまった。
「ヨセフ!お前は反対側から回り込んでくれ!俺はこの壁をよじ登って追いかけてみる!」
「わかった!」
僕はセルゲイのいうように、一つとなりの路地から回り込むように子供たちを追った。
そして遂に行き止まりに追い詰めた。セルゲイはまだ追いついてきていない。
「君たちはここの子供なのか?」
「………。」
二人の子供はよくみると兄弟のようだった。小さい弟らしき子供の方が兄らしき子供の後ろに隠れ、兄らしき子供の腕を握っていた。
二人の子供は怯えていた。
それも当然だろう。我々皇国兵には生存者は見つけ次第皆殺しだと命令が下されているので、大規模攻撃を生き残った連中も次々に殺されていったのだから。
「ヨセフどこだぁー!!」
セルゲイが僕の事を探していた。
「君たち、僕の話を良く聞くんだ。」
子供たちは警戒していた。
「僕の同僚のセルゲイは君たちを見つけたとたん殺すだろう。でも僕は君たちのような子供を殺したくない。だからここは一芝居付き合ってくれないか。」
子供たちは何を言っているんだという表情をしながら僕の方を見ていた。
「オレたちを殺さないって事?」
「ああ、僕は少なくとも君たちのようなまだ小さい子供を殺したくはない。だから僕に協力して欲しい。」
弟らしき子供が兄らしき子供の顔を覗き込むように見ていた。
そして兄らしき子供が口を開いた。
「何をすればいいの?」
「よし、では話は簡単だ。君たちはただそこで寝そべった状態でじっとしてればいい。」
「それだけ?」
「ああ、それだけだ。君たちが死んだふりをしている間に僕は銃を二発撃つ、その銃声を聴いてセルゲイがここに駆け付けるだろう。そして僕がセルゲイに君たちは死んだと伝える。ただそれだけだ。」
子供たちは考えていた。
「ヨセフ!返事しろ!!」
セルゲイの声が近づいていた。
「早くするんだ!」
子供たちは僕の言ったように地面にうつぶせになった。そして僕は銃を天にかざし、二発銃弾を放った。
銃声を聴き、すぐにセルゲイが駆けつけてきた。
「ヨセフ大丈夫か!」
「あ、ああ…すばしっこかったけど何とか仕留めたよ。」
「あんな小さい的に当てるなんて流石だな。」
「ああ…散々射撃練習はしてきたからね。」
「でも一発づつじゃあまだ生きてるかもしれないし、止めを刺しておこう。」
僕はドキっとした。あの子たちに近づかれたら死んだふりをしているのがバレてしまう。
「僕の手柄を取るつもりか?僕が最後まで確認してくるよ。」
そういうと僕はライフルから拳銃に持ち替えて、子供たちに近寄って行った。
子供たちがうつ伏せになっている横で、僕は拳銃の引き金を引いた。
子供たちはピクリとも動かなかった。今にも殺されるかもしれないという状況でこの子たちは本当に強い子たちだ。
僕は兄らしき子供の頭部に銃口を向けた。
僕はゆっくりと拳銃の引き金を引き、銃弾は拳銃の銃口から放たれ、地面に当たった。
それでも子供はビクリともしなかった。
僕の放った銃弾は子供が首から下げていた紐に当たり、紐が切断されていた。
僕はその切断された紐を引っ張った。その紐の先には懐中時計が繋がれていた。
僕は小声で「すまない」と謝ると、懐中時計を持ってセルゲイの元に戻った。
「最初の一発で仕留めてたみたいだ。」
「流石だな。じゃあさっそく何か持ってないか調べないとな。」
「金目の物はこれぐらいしか持ってなかったみたいだぞ。」
「これって時計か?」
「ああ、それも結構良い値が付くんじゃないか。商人の息子が言うんだから間違いないさ。」
「いいな。でもこれじゃあ二人で山分けってわけにはいかないな。」
セルゲイはおもむろに懐中時計の蓋を開いた。蓋の裏には若い女性の写真が入っていた。
「スゲー美人だな。これアイツの母ちゃんか?」
「母親にしては若すぎないか?」
「まあいいか。どの道これじゃあ山分けって訳にはいかないな。」
「それは君にやるよ。」
「いいのか!」
セルゲイは嬉しそうに懐中時計を見ていた。そして、僕たちはその場を離れた。
これ以上は今の僕にできるのは子供たちの無事を祈る事しかできない。
彼らに神のご加護がありますように…。
■【戦争が奪った物、与えた物】前編 終…
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