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【勇ましき者たち】

この作品は【勇者のアンチテーゼ】のスピンオフ作品です。

作中には本編のネタバレになる内容等が含まれますので、本編をまだお読みになっていない方は先に本編【勇者のアンチテーゼ】を読まれる事をお勧めいたします。

 アイツに出会ったのはテルゼリアに向かう船の中だった。


 アイツは船酔いしているオレに、ある魔法を掛けてくれた。その魔法のお陰でオレはそれ以降船酔いにならなくなった。


 オレはそいつが何者なのかすぐに分かった。この世で魔法道具を使わずに魔法が使えるのはただ一人。


 “勇者”だ。


 アイツはまだまだガキだった。それなのに世界中の希望を背負って魔王っていう得体の知れないヤツを倒すために旅をしていた。すでにいくつかの街や都市を魔物から救ったのだという。


 それもアイツが話した話ではなく、同行していた従者の人間の話ではあるが。


 正直オレは目の前で勇者を見てガッカリした。


 伝説で語られる勇者は絶世の美女っていうのもあるが、オレが持っている勇者のイメージは筋肉粒々の屈強な男だった。だからアイツを初めて見た時にガッカリしたのだ。


 こんなヤツに魔王が倒せるのか?世界が救えるのか?当初オレはアイツの事をそんな風に思っていた。


 船がテルゼリアの港に着くと、オレと勇者の一行の向かう方向が一緒という事もあり、少しの間同行することになった。


 勇者たちはフォルクスクにある魔物が大量発生している廃村に向かうのだという。オレはそこから更に山を越えたダンベルナに向かう予定だった。


 オレがダンベルナに向かうのは傭兵の仕事を求めてだった。


 ダンベルナは近郊にある鉱山の恩恵を受け、年々規模が大きくなっていく都市国家だった。魔物は不思議と人が多く集まる場所に寄ってくる習性があるらしく、ダンベルナも魔物の被害を受けていたのだ。だから都市の防衛のために多くの傭兵を雇っていたのだ。


 ダンベルナに向かう道中、いくつかの小さな集落を通った。その集落の周りの魔物を勇者は片っ端に片付けていった。


 人々は勇者に感謝していた。まるで神にでも祈るように、勇者に対して祈りを捧げていた。


 オレには正直理解できなかった。


 オレは生まれた時から両親がおらず、エルロッシュア共和国の首都にあるスラムで育った。


 食うか食われるか、それがスラムでの起きてだった。そんな過酷な環境で育った故に、腕っぷしが強くなり、オレは傭兵になった。


 オレは常に自分の為に戦ってきた。それをアイツはまだ15だっていうのに他人のために自分の命を投げ売ってやがる。そんなアイツの姿にオレは吐き気がした。


 だが、フォルクスクにある廃村に向かう4日間でそんな嫌悪感は無くなり、逆にアイツがどこまでやれるのかを見たくなってきていた。


 従者の話によればアイツも幼い頃に住んでた村を魔物に襲われ、家族を失い孤児院で育ったのだという。


 そういう境遇に同情心が湧いたのか?


 違う、アイツにはどこか人を引き付ける魅力が存在したのだ。


 たった15才にしてヤツは世界の命運をかけて戦っている。そんなアイツにオレは何か熱い物を感じだした。


 オレはアイツに何故そこまで他人の為に命を懸けられるのか聞いた。



「僕と同じ苦しみをもう誰にもして欲しくないから。だから僕は魔王を倒してこの苦しみの連鎖に終止符を打ちたいんです。」



 オレは思わず笑ってしまった。たかだか15年しか生きてないこんなガキが大層な事を言ってやがると思ったからだ。


 だが、オレはアイツの事が好きになった。


 アイツの夢にオレも乗っかってみようかと思った。そしてオレはアイツの従者になることに決めた。




 それからオレたちはいくつもの街や国を救い、力を付けていった。


 そして、遂に魔王の城に辿りついた。魔王の城の場内に辿り着いたのは10人いた従者の内のオレを含めて3人だけだった。


 魔王の城の周囲は強力な魔物が多かったのだ。


 勇者には魔王との闘いがある、だから極力勇者は戦いに参加せず、温存させていた。


 そして、オレたちはなんとか魔王の玉座のある巨大な扉の前までたどり着いた。


 既にそこにはオレと初期から勇者と共に旅をしてきた従者だけしか残っていたなかった。


 しかし、扉の前には巨大な体に、頭が三つある狼の姿をした魔物が待ち構えていた。



「ここまできてこんな化け物とはな…。」


「ここは三人で戦いましょう。」


「いや、何度も言っているが、君はこの先の魔王との闘いの為に無理をするべきではない。」


「そうだぜ。お前はオレたち、いや…世界の希望なんだからよ。」


「イシュカさん、ガリオンさん…。」


「いいですか、ガリオン。私が左に走ってヤツの注意を引きます。その間にあなたはピートと共に玉座の間に行くのです。」


「何バカなこと言ってやがる!あんな化け物を一人で相手しようっていうのか!」


「魔王の力がどれほどのものか分からない。だから少しでも戦力はあった方がいい。」


「だけどよ!」


「今重要なのは生き残る事ではなく、勇者であるピートが魔王を倒す事です。」


「くそ!」


「イシュカさんありがとうございます。必ず魔王を倒してきます。」


「お願いしますよ。魔王を倒して世界を救って下さい。」



 イシュカが走り出したのを見て、オレとピートは逆方向に走り出した。


 頭が三又の獣はイシュカの狙い通りイシュカの方に攻撃を仕掛けた。しかし、オレとピートが走って扉に近づこうとすると、長く伸びた蛇の頭を持つ尻尾部分がオレたちに襲い掛かってきた。


 オレは身を挺して攻撃を防いだ。


「お前だけでも先に行け!」


 ピートは一瞬ためらいながらも魔王の待ち受ける部屋の扉を開き、玉座の間に入っていった。


 ピートが玉座の間に入ると、扉は閉まってしまった。


 オレとイシュカは持てる力を全て振り絞り、頭が三又の獣を討伐した。


「イシュカ…まだ生きてるか…?」


「………。」


 オレがイシュカの方に目を向けると、片足が捥げ、大量の血を流し、息絶えたイシュカの姿があった。


「先に行きやがったか…。」


 オレ自身も既に立ち上がる程の力が残っていなかった。


 左半分が頭が三又の獣が放った炎によって焼爛れ、呼吸するんもやっとの状態だった。


「あの扉の向こうでは何が起こってるんだろうな。ピートは魔王を倒してくれているかな。オレたちのしてきたことの意味が今問われているんだろう。」


 オレはそっと目を閉じた。


 すると、玉座の扉が開く音がした。しかし、オレには既に瞼を開く力すら残っていなかった。


「ガリオンさん…。」


「ピート…やったんだな。」


「ええ、魔王を討伐しました。もう全て終わったんです。」


「そうか…これでオレにも生まれてきた意味ができたって訳だ。」


「………。」


「さっきまで感じてた痛みや苦しみももう感じなくなってきた。もうオレは助からない。だから最後にお願いだ。オレの事を楽にしてくれないか。」


 ピートは躊躇っているようだった。


「頼む…勇者様よ。」


 暗闇の中で、ピートがゆっくりと剣を振り上げるのを感じた。


「勇ましく、皆のために自らを犠牲にできる者。皆さんこそが本当の勇者です。」


「ハハ…オレも勇者になれたんだな…。」


 暗闇の中で刃が風を切る音がした…。


 ■【勇ましき者たち】終…

お読み頂きありがとうございます。

感想や評価、ダメ出しなど頂ければ今後の執筆活動の励みになります。【ガサイハジメ】

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