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【魔王になろうとした皇帝】後編

この作品は【勇者のアンチテーゼ】のスピンオフ作品です。

作中には本編のネタバレになる内容等が含まれますので、本編をまだお読みになっていない方は先に本編【勇者のアンチテーゼ】を読まれる事をお勧めいたします。

 神に犠牲を捧げよ。さすれば神は人々に安寧を齎さん…。



―テルゼリア皇国 帝都ロードリア


 帝都の中心にある広場に、数万の民衆がひしめきあうように今か今かとその時を待っていた。


 私はそんな民衆が待つ中、広場に特設された檀上に上がった。


『ベルグナム!!ベルグナム!!ベルグナム!!』


 民衆は私の名を叫びながら、私の第一声を待っていた。


 私が右手を上げると、民衆は一斉に口を閉ざし、いつもは人々の笑い声等で賑わう人場は静まり返った。


 沈黙が続いた。


 私は民衆の一人一人の顔を見るように黙ったまま見渡した。


 30秒…1分、2分と沈黙が続いた。


 沈黙は民衆に不安を与えた。


「何かのトラブルだろうか?」「皇帝は体調でも崩されたのだろうか?」と様々な憶測を持ちながら、沈黙の時間を過ごした。


 そして、3分が経過した時、私は大きく息を吸い込むと、演説を開始した。


「我々は愛するべき家族を失った。

 その者は皇国の民の為、我らが信仰する神の為、我らが故郷たる皇国の為に命をとして戦った。

 しかし、彼は敵の卑劣な罠により神の元へと旅立った。

 ではこれは敗北への兆しか?いや違う!これは勝利への狼煙なのだ!

 彼の死によって神は我々の甘えを、取り払い、改めて神の望んだ世界の安寧を勝ち取れと告げているのだ!

 彼は我々に自らの身を犠牲にして我々に神の意志を示したのだ!

 我々の手には神の剣がある!

 今こそ、この剣で我らが神に仇なす悪魔の民を根絶やしにするのだ!

 彼の名を叫べ!

 神に勝利を捧げよ!

 神の元に旅立った彼に勝利を捧げよ!

 我らが子孫に勝利を捧げよ!」


『ザールガス!!ザールガス!!ザールガス!!』


 民衆は兄の名を叫びながら雄たけびを上げていた。


 この演説はラジオ放送によって発信され、敵国にも向けても放送した。



 私が城の自室に戻ると、マルキスがそこにいた。


「ベル…これで完全に後戻りが出来なくなったぞ。」


「最初から後戻りなんてしようとは考えていないさ。それよりも例の物は既に完成しているのだろう?」


「ああ、しかし、あれは悪魔の兵器だ。自分自身で作っておいていうのもなんだが、あれを使えば世界が変わってしまう。」


「世界が変わる?結構じゃないか。私は世界を変えるために今まで多くの犠牲を払ってきたのだ。叔父や、実の兄でさえ利用してね。」


「しかしだな!」


「悪魔の兵器?我々が使えば神の兵器だ。神の剣によって無神論者たちを裁くのだよ。」


「お前はどうしてそこまで無神論者たちを憎む?私もその憎む無神論者の一人なのだぞ。」


「恨んでなんていないさ。彼らに哀れみすら感じている。それに、私自身も心の底から神を信じているわけではない。」


「ではどうしてそこまで!」


「人には絶対なる正義が必要だからだ。」


「絶対なる正義?」


「魔王が討伐されてから人類は魔王や魔物と言った枷から解放され、文明を発展させてきた。

 しかし、その結果、人類は互いの欲の赴くままに物欲を満たそうとした。それが近代で問題となっている略奪戦争だ。

 一部の貴族たちが自分たちの利益の為に周辺の弱小国や都市を狙い侵略行為を行っている。

 その戦争によって多くの弱者が命を落とした。

 私は父から皇帝の名を受け継ぐ前から多くの国々と交流し、交渉を続けてきた。

 だが、その交渉の結果彼ら貴族は私の事を疎ましく思い、叔父をけしかけて私を暗殺しようとしたのだ。」


「そんな事が…。だからと言って武力によって押さえつけても反発を生むだけだぞ。」


「そこで信仰の力が必要になるのだ。人間が人間を信仰する事は実に不確実な要素を含むことになる。何故ならば人は完璧ではないからだ。だからこそ人ではない神という完璧な存在を信仰する必要があった。だから皇国は神への信仰を絶対としているのだ。神の名を使えば大儀も生まれるしな。」


「だが、そんな武力によっての弾圧で信仰心が目覚めるというのか?」


「目覚めないだろう。だから粛清するのだ。」


「それでお前は私にあれを作らせたのか!」


「そうだ。信仰を持たない者に信仰心を植え付ける事は難しい。奇跡でも起こさぬ限り彼らは神を信じようとしない。であれば人類の安寧を実現するための犠牲になってもらう他あるまい。」


「そんなバカな理屈が!」


「だが現に歴史が物語っている。魔王が存在した時代において、国家間での戦争等は起こっていなかった。」


「それは…。」


「魔王とは必要悪だったのだ。魔王がいたからこそ人類は尊厳を保ってこれたのだ。」


「これではまるで魔王信仰じゃないか!」


「ああ…そうかもしれないな。」




 マルキスはその日以来姿を消した。しかし、作戦はその部下たちによって実行され、地図上からベーグドロスの首都が姿を消した。


 皇国は次々に勝利を重ねて言った。捕えた敵国の貴族たちをその親族共々処刑した。


 これは必要な犠牲なのだ。


 人類を正しい道へと導くために犠牲を捧げなければならない。



 だが、ある日、僻地の戦場で一個中隊が全滅したと報告を受けた。


 報告によると一個中隊を全滅させたのはたった一人の青年だったという。その青年は空を飛び魔法のようなものを魔法道具なしに使ったというのだ。


 私の頭に“魔王”という存在が過った。


 その事件から数日後、皇国から脱走していたマルキスが自ら投降してきた。




「ずいぶんとやつれたな、マルキス。」


「お陰様でな。逃亡生活は楽ではなかったよ。まるで幼い頃の家の無い生活に戻ったように感じたよ。」


「それでどうして戻った?皇国を内部から滅ぼすためか?」


「違う。」


「ではなんだというんだ。」


「私は出会い、この目で見たのだ。」


「何をだ?」


「怪物だ。」


「怪物?」


「ああ、あれは人の皮を被った怪物だ。」


「魔物にでも遭遇したのか?」


「違う。あれは確かに人間だった。だが人間離れした存在だった。」


「勿体ぶらずに簡潔に言え!」


「あれは魔王だ!」


「魔王?」


「ああ…魔法を操っていた。なんの道具も使う事なく。」


「詳しく聞かせろ!」



 私はマルキスから逃亡中に出会ったという青年の話を聞いた。


 マルキスはひどく怯えていた。彼が本物ならばこの先世界が滅ぼされるかもしれないと。それを阻止するために彼は研究室に籠った。そして更に多くの兵器を開発し、皇国は勢力を増していった。


 次第に周辺の国々は皇国に無条件で降伏をするようになってきた。


 しかし、それが破滅への始まりだった。


 無条件降伏した国々の支配階級を処刑したとしても、その民衆たちは憎しみを持ったまま残ってしまったのだ。


 その結果、反対勢力を生み出す事になってしまった。


 反対勢力は生き延びた各国の貴族たちの後ろ盾を得て、次々に皇国の占領した領地を奪っていった。


 その反対勢力の中心には奇跡の戦士と呼ばれる存在がいたという。


 それはまるでマルキスが言っていた青年のようだった。


 そして遂に反対勢力たちはここ帝都ロードリアまで進行してきた。



―帝都ロードリア 皇帝城


「皇帝陛下こちらへ!このままでは反皇国軍がここまで来てしまいます!」


「なんてことだ!この儂がこの帝都から逃げることになろうとは!」


 私が玉座の間から逃げようとした時、玉座の間の扉が勢いよく開いた。そこには反皇国軍の兵士の姿があった。


「ついに追い詰めたぞ皇帝!」


「くっ!」


 これは神の名を使い、人々を騙してきた私に対しての罰なのか…。


 私は人類の平和を願い何もかも犠牲にしてきた。


 それなのに、その結果がこれなのか…。


 神よ!本当に存在しているのならば答えてくれ!


 私のした事は罪だったのか!


 人々に安寧を齎そうとする事は罪なのか!


 神よ!




 誰も答えてはくれなかった…。


 そして、私は暗闇の中へと落ちていった…。


 ■【魔王になろうとした皇帝】後編 終…

お読み頂きありがとうございます。

当作品はオムニバス形式の作品ですので、一話一話に連続性はありません。あくまでも本編のサイドストーリーなので時系列も前後します。できれば色々な題材の作品が書ければと考えていますので、

今後もお付き合い頂ければ幸いです。【ガサイハジメ】

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