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【魔王になろうとした皇帝】前編 ※挿絵あり

この作品は【勇者のアンチテーゼ】のスピンオフ作品です。

作中には本編のネタバレになる内容等が含まれますので、本編をまだお読みになっていない方は先に本編【勇者のアンチテーゼ】を読まれる事をお勧めいたします。

 誇り高き先人たちは、我々を神の使徒へと生まれ変わらせた。


 我らは神の子であり、神の意志を体現する者であり、神の裁きの執行者である。


 テルゼリア皇国第7代皇帝 ベルグナム3世




―テルゼリア皇国領 フォルクスク自治区


 魔王が勇者によって討伐されてから200年余り…魔王討伐後に勢いを失った魔物も今では殆ど見かける事もない。


 我が曾祖父、ベルグナム1世は魔王の脅威の中国民を守り、今のテルゼリア皇国の基礎を築いた偉大な方だった。私もそんな曾祖父の名を受け継ぐ者として、曾祖父の様に世に安寧を齎したいと思っている。


 しかし、魔王の脅威が去った昨今、魔王や魔物の影響によって開拓が困難だった土地や、鉱山等を多くの国が開拓をこぞって行っている。それに伴う国や自治体同士の争いが頻発しているのが現状だ。


 だが、それはデメリットだけではなく、メリットも当然あった。新たに発見された鉱山から魔法道具の動力源となる魔石が多く発見されたのだ。


 この魔石の安定供給によって魔法道具の大型化等が進み、今までは不可能とされていた大陸間の長距離航海や、空を飛行する船の開発等様々な恩恵が人類に齎された。


 人々は大開拓時代と呼んだ。


 そんな現実主義の時代に、神を信仰する者は少なくなった。しかし、そういう時代だからこそ、我らに勇者を遣わし、魔王を討伐して下さった神への感謝を忘れてはならない。



 そんな神の加護によって父上が統治したフォルクスク自治区に私は旧知の友を訪ねて来ていた。


≪コンコン≫


 私が窓から外を眺めていると、扉をノックする音がした。


「入れ。」


 扉がゆっくり開き、親衛隊のモルバンが部屋に入ってきた。


「陛下、ザルガス将軍がお越しです。」


「ご苦労、将軍をここに。」


「かしこまりました。」


 モルバンは部屋の扉を閉めると、別の部屋で待たせていたザルガス将軍を呼びに行った。



 扉の向こうの廊下から≪ドスドス≫という鈍い足音が近づいてきて、扉の前で足音が止まると、勢い良く扉が開いた。


「おお!元気だったか“弟”よ!」


「お陰様でこの通り。」


「ガッハッハー!だがちと色白いの!まるで華奢な女子のようじゃて!ガッハッハー!」


「これは手厳しい。ですが兄上、部下の前ではそのような発言はお控え下さい。」


 モルバンが部屋の中の扉の前で待機していた。


「何が部下か!モルバンは我らの旧知の仲!なんの問題もなかろう!」


「そうではありますが。」


「皇帝陛下、将軍閣下。私はただの置物と思って下さい。」


 モルバンは曾祖父ベルグナム1世の時代より皇室に使えてきた貴族の出で、私や兄ザルガス2世とは旧知の仲であった。


 子供の頃は立場等なく、良く遊んだものだ。


「兄上、彼は一緒ではなかったのですか?」


「ああ、ヤツか。ヤツは今新しく発見された坑道の中よ。なんでも歴史的発見がなんちゃらと訳の分からんことを言っておったわ。」


「そうでしたか。」


 彼とは、“マルキス=バーキン”といい、私が幼い頃に出会った平民出の男で、平民出でありながら、その類まれなる頭脳によって新たな魔法道具の開発、魔石力学においての新説等の提唱等多くの功績によって、我が父6代皇帝バルグナム2世に認められ、新設された科学省長官という地位と、爵位が与えられた天才だ。


 彼と出会ったのは私が城を抜け出して帝都を散歩している時だった。彼は帝都を南北に分断する川に掛かったロードリア橋の見える川辺で一人ボロボロになった本を読んでいた。


 私はそんな彼に何かを感じた。


 私は彼に近づき、どんな本を読んでいるのかと聞いた。そして彼はこう答えた…「百科事典」と。


 驚く事に彼はその分厚い百科事典の内容を暗記するまでに読み込んでいた。


 私は更に彼に興味が湧いた。


 次の日も彼は同じ場所で同じ百科事典を読んでいた。そんな彼に私は城の図書館にあった魔法学の本を手渡した。


 彼は満面の笑みでその本を読み始めた。そして、たった1日でその本を読み終え、私は次々に彼に本を貸した。彼の知識に対しての欲求はすさまじい物だった。


 そして、私が13の時、彼は平民の出でありながら、国立バルグナム学修院に主席として入学した。


 入学当初、彼は周囲の貴族出の子供たちに虐めを受けていた。私がそれを止めようとすると、彼は首を振り、彼らの虐めを受け止めた。しかし、それも1年と経たずに終わった。何故ならば、学院の学院長でもあった“メルハザード博士”の養子になったからだ。

 メルハザード博士の養子になり、彼は更に多くを学び、そして若干15歳にして今までの常識を覆す魔法力学の新説を提唱しだした。最初は彼の説に否定的だった学者たちも、その革新的な説に認めざるを得なかった。


 18の時、彼が学院を卒業するのと同時に、彼はメルハザード博士が作った魔法道具研究所の副所長として働きだした。


 そして彼が28歳の頃、父バルグナム2世の命によって新設された科学省長官という地位と、侯爵の爵位が与えらえた。


 それから7年の歳月が過ぎ、亡き父の意志により、私が第7代皇帝として就任した。


 本来ならば直系である兄が皇帝になるが自然の流れだと思うが、父の指名と、兄であるザルガス2世自身が父に次期皇帝は弟である私にと推薦していたという。


 兄はあまり政治的な事が得意ではない故に、皇帝という座に就くのを拒んだのだと思う。


 などと過去の事を思い出していると彼がいるという新たに発見された坑道に辿り着いたが、どうも様子がおかしかった。


「調査隊の面々がいないようだな。飯でも食いに行ったのか?」


「調査道具を残してですか?」


「それもそうだな。」


「陛下、ここは一旦砦へと戻りましょう。」


 俺はマルキスの事が気になったが、モルバンの言うように砦に戻ることにした。


 だが、砦に戻る途中の森の中で、我々は魔物に遭遇した。それも幼い頃に本で見たことのある“トレントドラゴン”だ。


 我が皇国において魔物の目撃例等ここ5年程なかった。それなのに今我々の目の前に魔物がいる。それもドラゴン級の魔物だ。


 モルバンは同伴した5人の親衛隊の隊員と共に、私を守るように陣形を組んだ。兄であるザルガスもまた、私のすぐ横で剣を抜いた。


 トレントドラゴンは我々を睨みつけながら、ピクリとも動かずじっとしていた。


「モルバン、どうする?」


「我々親衛隊で魔物の注意をひきつけますので、ザルガス将軍は皇帝陛下を連れて砦へとお逃げ下さい。」


「承知した。モルバン死ぬことは許さんぞ。」


「はい、後ほどお会いしましょう。」


 そういうとモルバン率いる親衛隊の面々がトレントドラゴンに襲い掛かった。


 その隙を見て、私と兄上は砦へと向かって走り出した。


 300メートル程走った時、後ろから何かが飛んできて、前にある樹に激しく当たった。


 それはモルバンの上半身だった。


 私と兄上が振り返ると、そこにはトレントドラゴンがいた。


「ウウォォォォォォォォ!!」


 兄ザルガスが叫びながらトレントドラゴンに立ち向かっていった。だが、トレントドラゴンにはかなわず、尻尾で2メートル程の兄の巨体が吹き飛ばされた。


 トレントドラゴンは振り向き、私を見てきた。


≪ドガーン!!≫


 凄まじい閃光と共に、物凄い音が森に響いた。


 閃光によって閉じた目を開けると、そこには胴体に巨大な穴が開いたトレントドラゴンが横たわっていた。


 その後ろから左手を負傷したマルキスが現れた。


「ベル!無事か!」


 マルキスの右手には何かの魔法道具が握られていた。


「ああ、お前こそその怪我は!」


「大丈夫、骨までは達していない。」


 私たちは兄を起こし、砦へと向かった。




 トレントドラゴンに遭遇した翌日、マルキスから坑道であった襲撃事件の事を話してくれた。


 マルキス達が発掘作業をしていると、黒い服を着た連中が無断で入ってきて、次々に調査団のメンバーを殺したのだという。幸いにもマルキスは負傷しながらも連中から逃げることができた。


 恐らくトレントドラゴンを放ったのも奴らの仕業ではないかということだった。


 私は諜報部に調査団を襲った黒い服を着た連中の調査を命じた。




 1週間程経ち、黒い服を着た連中の正体が判明した。それは叔父であるダイクーン3世の雇った殺し屋組織だった。


 叔父は私や兄のザルガスを殺し、皇帝の座を得ようと画策したのだった。


 それだけではなく、叔父は隣国のベーグドロス共和国との繋がっており、奴らの口車に載せられ私を暗殺しようとしたのだった。


 曾祖父ベルグナム1世は世界に平和を齎し、人々が平等に暮らせる世界を築くために立ち上がり、テルゼリア皇国を建国した。そんな曾祖父の子孫たる叔父は自らの手で争いの火種を生み出そうとしていたのだ。


 私の中で今まで感じた事の無い“怒り”の感情が湧いてきた。


 この怒りは叔父に対してだけではなく、魔王や魔物の脅威が去った現代において、人間同士で争い、更なる混沌を生もうとしている事に対しての怒りだった。




 アルデラル神書にある一説に、こうある…。


 犠牲無くして何かを得る事は出来ない。

 犠牲を神に捧げることによって安寧は得られるだろう。


 世界に完全な平和を齎すためには、犠牲が必要だ。


 では今こそ神に犠牲を捧げよう。


 私はその為ならば“魔王”にですらなろう。


挿絵(By みてみん)


■後編に続く…

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