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吟遊詩人と護衛2

お立ち寄り下さりありがとうございます。一度、間違えて投稿してしまいましたので、定刻ではありませんが、投稿します。5/14 第2話に「先を読む者」を投稿しました。新しい話の投稿でなく申し訳ございません。

そして、今日。

フェリペの予想は正しかった。

彼がいつも仕事場にしているという、王都で一番大きな噴水の広場で、フェリペは演奏を始めた。

素晴らしい彼の演奏と声に、道行く人はこちらに目を向け興味を示してくれながらも、そのまま通り過ぎていく。

フェリペはそれでもくじけず演奏してくれるが、人は集まらない。

3度目の演奏が終わったとき、彼は息を吐いた。

「フェリペ、すまなかった」

僕は彼に心から申し訳なく思った。彼はこの事態を予想していたのに、無理をさせている。

「いや、私の力不足ですよ。チャーリー様。この仕事で独り立ちしたころもこんなものでした」

カラリと笑って彼は再びリュートを取り上げた。

僕は首を振った。

「こんなに素晴らしい曲と君の艶のある歌なのに、もったいない。僕は特にあの調べで胸を掴まれる気がする」

好きな部分の調べを歌ってみせると、フェリペは目を丸くした。

思いがけないところだったのだろうか。僕には切ない二人の感情が胸に迫る部分なのだが、作り手からすれば、違うのかもしれない。

僕がフェリペの立場を推し量っていると、凛とした声が背後からかかった。

「何をしているのだ?」

振り返ると、予想通り、空の青に近い瞳の持ち主が美しく背筋を伸ばしてこちらを見ていた。


それから1時間も立たないうちに僕は思っていた。

なぜ、こうなったんだ?


――彼女に声をかけられて、僕たちは事情を説明した。シルヴィア嬢も関わることだけに、彼女は熱心に耳を傾けた。その後、歌を聞かせて欲しいと頼んできたのだった。

フェリペは頷き、歌い出した途端、彼女が声を上げた。

「先ほど、チャーリーも歌っていたではないか。どうして、歌わないのだ」

「いや、あれは単に好きな部分を、歌――」

彼女は僕の襟元をつかんだ。彼女の眼差しは、思わず後ずさる迫力だ。

「どうして歌わないのだ。私はチャーリーの声に惹かれてここに来たのだ」

「いや、僕はプロではないから、人に聴かせることは無――」

彼女はいつも通り僕の意見は聞かない。

「一人により二人の方が、迫力が出るだろう?」


隣でフェリペが手を叩いた。

「確かに、いい案です!二重唱でいきましょう。先ほどのチャーリー様の声は、爽やかに澄んだもので耳に心地よく、とても驚きました。この曲の初々しい二人の恋に合っています。何より、二重唱なら、曲に深みが増します!」


どうやら疲れのあまり、彼の判断力は鈍ったらしい。「チャーリー様の外見で客を釣れるでしょう」と意味が不明なことまで呟いている。ここは僕が踏ん張らなくては。

必死に二人へ、人に聴かせるための歌は歌えないと、当たり前のことを訴えたが、頑として聞いてくれない。


「チャーリー様、まずは試してみましょう」

フェリペは前日の僕の言葉を打ち返してきた。

「チャーリー、一度でいいのだ。聞かせてくれ」

縋るような眼差しで、シャーリーが追い打ちをかける。


脳裏に悪魔のささやきが響いた。

どの道、シャーリー以外は聴く人はいないんだ。一度ぐらいならいいじゃないか。


――そして、僕は後悔している。

悪魔のささやきに耳を傾けてはいけなかったのだ。

確かに始めはシャーリーだけだった。

けれど、シャーリーにつられたように、一人、また一人、耳を傾ける女性が増えていったのだ。

逃げ出したい思いで眩暈がしそうだったが、フェリペは主旋律を僕に任せているため、後には引けなかった。


天使たちのためだ。

僕は腹をくくった。

フェリペの美しい演奏と巧みなリードに任せ、天使たちの思いを歌った。

脳裏に天使たちの幼いころからの時間が蘇っていた。

どうか、二人の思いを実らせてほしい。

切なる願いが胸にこみあげていた。

曲が物悲しく最後の音を響かせると、広場には一瞬の静寂が訪れ、その後、割れんばかりの拍手が起こった。

シャーリーも涙ぐみながら、熱い拍手をしている。


彼女もシルヴィア嬢の護衛として、僕と同じ気持ちがこみ上げたらしい。

そう感じた時、僕の胸にゆっくりと温かなものが広がっていた。


彼女のあの顔が見られたのなら、一度くらいの恥もよかったかもしれない。


彼女を恨む気持ちも消え失せ、僕は頬を緩めたが、間を置かず頬は強張った。

集まった観衆が、アンコールを叫び始めたのだ。

なぜだ? 今は、やめて欲しい。次からにして欲しい――!

狼狽える僕の隣で、フェリペが極上の笑みを僕に投げかけ、リュートを構えた。

僕に断る選択肢は与えられてはいなかったのだ。

僕は溜息を吐いた。



毒を食らわば皿まで。

それからは、連日、フェリペと噴水で歌っていた。

シャーリーは、時間の許す限り連日通ってくれた。

集まる人はどんどんと増え、フェリペもここまで人を集めたのは初めての経験らしい。

評判を聞きつけたアメリア様のご友人以外の貴族からも、フェリペは招かれるまでになった。

実のところ、僕も招かれていたが、断固として同行を辞退した。

僕にも譲れない一線がある。

顔見知りに自分の歌など、断じて聞かれたくない。シャーリーだけで十分だった。


しかし、雨が降り、噴水に行けなくなった日。

アメリア様は満面の笑みを浮かべて、歌を所望したのだ。

僕は溜息を隠しながら、思った。


シャーリー、やはり、君を恨みたい。


お読み下さりありがとうございました。投稿を失敗してしまいました。最近、投稿するときに、かな入力が出来なくなり苦戦しています。今日の失敗もそれが原因です。お恥ずかしい話です。

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