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吟遊詩人と護衛1

お立ち寄り下さりありがとうございます。今回、やや短いものになりました。

なぜ、こうなったんだ?

いや、原因は分かっている、シャーリーだ。


噴水には人だかりができていた。

素晴らしいことだ。この盛況ぶりから歌が広まることは間違いない。

当初の意図を考えると、喜ぶべきことだった。けれど、素直に喜べない自分がいた。


吟遊詩人のフェリペと「僕」の歌声が広場に響いている。

そう、信じられないことに、信じたくないことに、自分も歌っているのだ。

少し離れたところで、原因を作った本人は目を輝かせて歌に聞き入っている。

実に嬉しそうだ。こちらの気も知らないで。


僕は疲れを覚えて、事の起こりを思い出していた。



それは三日前のことだった。

公爵家の屋敷にリュートの甘い響きが流れていた。

星枯れ病とフロリマチの開花に明け暮れた三日の間に、屋敷の皆の緊張を気にかけたアメリア様は、お気に入りの吟遊詩人、フェリペを招いたらしい。

甘く艶やかな声を持つ彼は、恋の歌が得意だ。女性の使用人の中には涙を浮かべて聴き入っている者もいた。


そんな彼に、アメリア様はセディとシルヴィア嬢の歌を所望した。

歌を作るにあたって、使用人の女性陣は熱を込めて二人の状況を知る範囲で――、少々の叙情性を込めて――、フェリペに語り、仔細を聞いた彼は興奮に目を輝かせた。

「こう申し上げては何ですが、権力者に阻まれた美しい男女の辛い恋。歌にせずにはいられません」


彼はリュートを手に、庭を一日かけて歩き回り、次の日の昼に、歌を披露した。

彼を興奮させた辛い恋は、甘く切ない調べで切々と奏でられ、歌い上げられていた。

身近な二人の歌に、女性陣だけでなく、男性陣も、セバスチャンまでも薄っすら目を赤くしている。

僕も涙を拭いながら、思っていた。


殿下にも、レスリー殿の屋敷に詰めかける貴族にも、あの二人を引き離すことは許されない。一対の天使たちは、結ばれなければいけないのだ。

殿下とシルヴィア嬢の婚約を推す貴族たちには、彼らの正義がある。世論の反対を押し切ってフィアスから嫁いできた王妃を支える一派だ。本来なら、フィアス出身の僕は彼らに感謝しなければいけい。

しかし、幼いころから天使たちを見て、天使たちの結びつきを見守っていた僕には、何より天使たちの幸せが大事だった。

もっと、あの二人の結びつきを広く知ってもらいたかった。

広く知ってもらう――、


気が付けば、フェリペの肩を掴んでいた。

「フェリペ、君の力を貸してほしい!」


フェリペだけでなく皆が唖然とする中、僕はアメリア様に振り返った。

驚きに彩られた美しいその顔は、セディとよく似ている。

セディを見ているようで、より強く決意した。


「アメリア様。ハルベリー侯爵家にはシルヴィア嬢を殿下の婚約者に推す貴族が詰めかけています。」


アメリア様は頷いた。女性陣の幾人かは、昂った感情からすすり泣くものまでいる。

諦めないで欲しい。

シルヴィア嬢は、セディを想っていることを、印を贈ることで公にしたのだ。

天使は諦めていない。僕たちも諦めず、支えるべきだ。


「我々も動きましょう。貴族を説得することはできなくとも、この歌を広めることで、殿下との婚約が理不尽なものであると、民衆に広めましょう」


セディは以前、僕に話していた。

殿下は、陛下が世論の反対を押し切ってフィアスの王女を王妃に迎えたことを、納得なさっていない、と。

殿下は世論を尊重する。この歌を広めて、世論を天使たちへの同情に傾ければ、殿下は必ず婚約に異を唱えるはずだ。


部屋に驚きと期待が広がるのを感じた。

アメリア様が目を閉じ、黙考する。公爵はシルヴィア嬢と殿下の婚約を表立って何も意見を表明していない。アメリア様の立場は、セディと宰相の公爵に挟まれた難しいものだ。

アメリア様の黙考が続き、彼女の了解を得ずともフェリペと街に繰り出そうと考え始めた時、アメリア様が口を開いた。


「エリザベス様からも二人に協力してほしいと言われていました。思うように動きなさい、チャーリー」


歓声が部屋中に上がった。

屋敷で心配しているばかりでなく、できることが見つかったことが皆の顔を明るくした。

沸き立つ雰囲気の中、おずおずと小さな声がかけられた。

「チャーリー様。王都は厳戒態勢が敷かれ、街に出る人も余裕がなく、中々私の歌に足を止めてくれない状況なのです。だから、この屋敷にお呼びいただいたことはとても有難かった…」

フェリペの悲しそうな顔に僕は笑顔を向けた。

「フェリペ、僕も隣に立って皆に聞いてもらうように声をかける。とにかくやってみてくれないか」


アメリア様のご友人たちは、厳戒態勢のため、外出を控えお茶会も開かれない状態だ。

それは、街中に出ていかなければ、この歌は全く広がらないことを意味する。

試すしかない。

フェリペは諦めたように頷いた。


お読み下さりありがとうございました。この部分が長くなってしまい、何とか短くできないか足掻いているうちに日が過ぎてしまい、強引に二つ分けました。お恥ずかしい限りです。投稿失敗がなければ、続きは明日投稿いたします。よろしくお願いいたします。

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