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疑問

お立ち寄り下さりありがとうございます。

「すまなかった」

セバスチャンがいつものように用意してくれた飲み物を口にしたとき、シャーリーが悄然とした様子で呟いた。彼女にはそんな様子は似合わない。

落ち着かない気持ちになり、思わず、彼女をこんな状態に追い込んだ二人を見遣った。

リッチーはまだ剣の近くで座り込み、エリー嬢はそんな彼に何か話しかけている。


「兄は、どうしても殿下のお披露目会の前に、求婚したかったらしい」

「そうだったのか」


彼は殿下主催の舞踏会で会場担当をしていた。殿下直属の騎士なのだろう。暗殺から殿下を護るために、お披露目の会で大きな危険にさらされる可能性は高い。

殿下の側近のセディのように。

僕は溜息を零してしまった。

大事の前に求婚して、別の男に惚れていると見え透いた嘘をつかれ、挑んだ手合わせで負けたのだ。

随分と残酷な状況だ。その一端を担ってしまったことに後味の悪さを覚え、思わずエリー嬢を再び見遣った。

彼女は、リッチーの頬に口づけていた。

呆然としている彼の顔からは、その口づけがどんな意味を持つのかは、読み取れなかった。

願わくば優しい意味であってほしい。


「チャーリー。肩が切れている」


僕の物思いは、シャーリーの鋭い声で遮られた。

シャーリーが眉を顰めグラスを置き、僕の肩を凝視していた。手合わせの最後に彼女を避難させるときに負った傷だ。

「ああ、多分、1週間ほどで――」

彼女は僕の言葉を無視して、そっと傷口に触れた。彼女の手から温かな電気のようなものが流れ出し、体に入り込んでくる。肩全体が熱くなり、そして熱が収まった。

「治した。傷跡も残らないはずだ。不具合が出たら言ってくれ。必ず治す」

真摯な眼差しと口調だった。

「ありがとう。助かるよ」

元々深刻な傷ではなかったが、治癒の魔法をかけてくれた彼女の心遣いはありがたかった。

彼女は眩しそうに目を細め、頬を染めて横を向いた。

何となく、その横顔から目を逸らしたくなくて眺めていると、彼女は横を向いたままで尋ねてきた。

「チャーリーは、か、可愛い女性が好みなのか?」

「え?」

いつものように彼女の会話についていけなかった。

しばらくして、朧げに彼女の思考に追いついた。

「手合わせを受けたのは、別にエリー嬢が好みだからということではないよ」


心の中ではもう少し本音が続いていた。

突然こんなことに赤の他人を巻き込んできた女性だ。むしろ避けて通りたい。

俯いて本音を隠した僕は、勢いよく襟元をつかまれた。


「どんな女性が好みなのだ?」

シャーリーの瞳が食い入るように僕を見つめ、思わず少しのけ反ってしまう。

「いや、好みと言われても…」

口にしながら、ふと気が付いた。

「好みはないと思う」


夜会では女性とダンスが出来ないため、必死に女性から逃げることに専念していた。

ダンスの誘いがなくなっても、女性の夜会服が苦手で、やはり逃げることに専念する羽目になっていた。

それでも、もし、好みの女性がいたら、僕は踊れなくともその女性とせめて話をしたいと思ったのではないだろうか。

好みどころか、夜会で出会う女性、屋敷の皆、これまでの人生でたくさんの女性に出会ったけれど、誰一人として心を動かされたことはなかったように思う。

美しい女性もいた。それこそ可愛らしい女性もいた。けれど、あくまで絵画を見るような美への関心であって、セディがシルヴィア嬢を想うような意味で、女性に心を動かされたことはなかった。


「震えの走るほどの豊かな体つきの女性の方がいいとか、すっきりとした少女らしい方がいいとか…」

シャーリーがまだ僕の好みを聞き出そうと具体例を挙げていたが、僕は聞き流していた。


何とも寂しい人生だ。

レスリー殿やアメリア様が、僕に夜会へ行かせたがる理由がようやく分かった。

まだ、出会えていないだけなのだろうか。

いつかベインズに戻ることを考えすぎているのだろうか。

知らず知らず、自分で女性との距離を作っていたのだろうか。

いつかベインズに戻り離れてしまうのだから、初めから離れておこうと。


「従順な性格がいいとか、小悪魔系がいいとか…」


女性の性格まで分かるほど、親しくなったことはなかった。

いや――、

まだ僕の襟元を掴んだまま、あれこれ言い続けるシャーリーに目をやった。


性格を分かるほど親しくなった女性が、一人いた。

僕とは違う世界に住んでいるような性格の持ち主。

猪突猛進で意志の強い側面もあるが、他人への気配りはしっかりとある。

傍にいると退屈とは無縁になる女性だ。


現に、今、僕は口元が緩み始めている。彼女はまだ僕に問い続ける。

答えをどうしても引き出したいようだ。答えなどないのに困ったものだ。

「どんな女性なら、世界の色が変わるような心地になるのだ?」

僕は口元を手で覆った。世界の色を疑わせた女性なら目の前にいる。


「どういう女性の笑顔を見ると悶えそうになるのだ?」

――悶える、か。誰の笑顔でも嬉しくはなるが、悶えたことはない。

全く関係のないことが脳裏によぎった。

そういえば、目の前のシャーリーから笑顔がなくなり、焦燥に駆られたことがあった。

あのとき、彼女の笑顔が戻って…


過去に思いを巡らせている時間をシャーリーは許してくれなかった。

「どんな女性なら、全身全霊をかけて護りたいと思うのだ?」

――!

ハッと息を呑んだ。

先ほど、彼女に治してもらった肩がもう一度熱を持った気がした。

護りたい…と思ったのだろうか。


あの時、何も考えず、限界を超えるような動きをして彼女を護った。

…え…?


いや、あれは緊急のものだ。彼女でなくても助けただろう。

けれど、彼女でなくて自分はあそこまで必死になったのだろうか…。

彼女だから護りたかったのだろうか…。


僕はその疑問を即座に否定できない自分に気が付いた。

…え…?


返事をしない僕に焦れたシャーリーに激しく揺さぶられながら、僕は答えを探していた。


お読み下さりありがとうございました。昨日から連続して、PCを起動すると、青い画面で「問題が発生しました」のメッセージが出ています。どうもPCの状態が危ないようです。1週間全く更新がなければ、PCがもたなかったとお察しいただけると幸いです。別のPCが入手出来次第、再開します。5月中の完結、無理かもしれません。

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