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その日2

お立ち寄り下さりありがとうございます。本日、話が短いこともあり、2話投稿しています。こちらは1話目です。

アメリア様の下に逆戻りさせられた僕は、震えだしそうな不安を懸命に抑えて、アメリア様に事情を説明した。

アメリア様はすっと表情を消すと、執事のセバスチャンを呼び、僕にはダンスの練習を言い渡した。

この日、僕は初めて女性とステップを踏むことに成功していたらしい。

そうだろう、いつダンスを始めたかも、いつダンスが終わったのかも記憶になかったのだから。

――とてつもなく悪いことが起きる

頭の中はその不安に染まっていた。


後に、アメリア様から事の次第を教えていただいた。

その日の午後、殿下は猛毒を盛られ倒れたそうだ。

セドリック様はその場に居合わせたのだ。幸い、毒を口にすることはなかったそうだが、精神への衝撃が大きく、周りの呼びかけに反応を示さない状態だという。

結局、セドリック様は、仲の良い、治癒の力のあるシルヴィア嬢のいるハルベリー侯爵家へ預けられることになった。


アメリア様からの話を聞いて、僕は腑に落ちた。

ハリーは暗殺が「見えた」のだろう。

そして、身元が確かでない、――かつての敵国の出身である――僕が疑われないよう城から離したのだ。


王太子殿下の母上、王妃陛下はフィアス国の出身だ。

ウィンデリア国とフィアス国の終戦からさほど年月が経たないうちに、王妃陛下はウィンデリアに嫁いできた。

婚姻に対して、当初、国民の、貴族の反対は強かったらしい。そのため、フィアス国の血を引く王太子殿下も立場の弱い状況で、生れた時から何度も毒を盛られているそうだ。



目の前に剣を突き付けられたような衝撃が背筋を駆け抜けた。

自分の立場が分かったのだ。

そして公爵がフィアス国出身の僕を抱え込むという意味が分かった。

このウィンデリアでフィアス国出身という立場は、忌避される存在なのだ。

フィアス出身という立場でなくとも、身元が確かではない僕は、何か重大な事態が起こる度に疑われ、引いては僕を庇護している公爵も巻き込まれることになるのだ。


ここ1年、この公爵家の温かい配慮に守られて、こんな当たり前のことを分かっていなかった。

今までこんなことが分からない程、この公爵家は僕を温かく包み込んでくれていたのだ。


自分はいつまでもこの温かい心に甘えてはいけない。

父上たちの迎えが来なくとも、ここからいつか出ていくべきなのだ。

与えてもらった温かな心に恩を感じているからこそ、ここから出ることで恩に報いたかった。

気が付いた事実の衝撃が収まらない中、その思いだけはしっかりと胸に刻まれていた。



殿下の暗殺未遂が起きた後、朝食の席にいつもの4人が揃うまで一月ほどが必要だった。

殿下の状態はひどく、治癒の力を見込まれて、とうとう幼いシルヴィア嬢が殿下の治癒に当たることになった。

彼女は治癒に成功したものの、魔力が暴走したらしい。隣にいたセドリック様がその暴走を抑え、何とか二人は生還したそうだ。


暴走を抑えるため、セドリック様はシルヴィア嬢の意識に入り込んだという。

あの二人の絆は「仲が良い」程度ではなかったのだ。

天使たちは無事生還したものの、衰弱が激しく城で一月静養しなければならなかった。


一月の静養の後、無事回復したセドリック様が帰られた日の夕食の際、僕は「家族水入らずで」と同席を初めて断った。

執事のセバスチャンの一瞬見せた悲しそうな顔が胸に応えたが、見えなかったふりをして押し通した。

少しずつ、この温かな空気から離れていかなければならないのだ。


もっとも、翌日、アメリア様にこっぴどく叱られ、必ず同席することを誓わされていた。

少し離れたところに控えていたセバスチャンが、珍しく顔を輝かせてアメリア様の言葉に頷いていた。


ゆっくりと離れていく決意は変わらないが、この温かい心を傷つけないよう、もっと穏やかな形を探していこう。

二人の顔を見ながら、心にそう誓っていた。



お読み下さりありがとうございました。

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