間違えた願い
唐突だけど僕は死んだ。そして、転生することになった。
「まあ、お主がいたようなところと同じような場所じゃ。大和という平和な国に転生することになる」
目の前の謎のお爺さんは神様らしい。
神様の説明を要約すると、日本と同じような場所に生まれ変わるということだろう。生き残れる気がしないファンタジー世界とか、紛争地帯じゃないのだ。素晴らしい。
「そして、生まれ変わるに辺り、お主の願いを一つだけ叶えてやる」
「僕が考える最高のイケメンにしてください!」
「よかろう。お主の考える最高のイケメンにしてやる」
即断だった。平々凡々な僕の顔立ちだけど、僕はこの顔にコンプレックスを持っていた。
親兄弟、親戚、友人、知人、何故か皆おかしいレベルで整った顔立ちをしていたのだ。僕だけが平凡。みんなで集まると僕だけが浮いていた。
小さくない劣等感。それは僕のコンプレックスとなっていた。この顔じゃなければと思ったことも何度もある。
それだけじゃない。僕の顔は周囲にも影響を与えた。僕が小さい時のことだが、なんと父が母の浮気を疑ったことがあるのだ。原因はもちろん僕の顔。DNA鑑定で僕が実の子供だと証明されたけれど、そのせいで父は家では今でも肩身が狭い。なんとなく父からの愛が感じられないのは、ここらへんに理由があるのだろう。
そうそう、僕の死因もそのあたりが関係している。僕は、父方の祖母に刺されたからね。
理由なんて単純だ。息子の血を引いていない奴はいらないってことだよ。祖母は母が浮気したと信じ込んでいるらしい。
DNA鑑定までしたのにね。本当、この顔が嫌になる……。
ちなみに、神様に聞いたことだけど、僕が死んだ後に父と母は、父が莫大な慰謝料を払うことになって離婚したらしい。
当然父方の祖母は逮捕。父の家族は崩壊状態だ。父の家族が僕を殺した。でも、喜べばいいのか、悲しめばいいのか、複雑な気分だ。
本当、この顔じゃなければね……。普通に生きることが出来ていたのかな……。
◆
こうして僕は、僕の考える最高のイケメンに転生した。
僕が生まれてから十六年。僕の考えているとおりに、僕は成長したといえる。
理想の自分。理想の顔。僕が考える最高のイケメンに、僕は生まれ変わることが出来た。
前の世界ならば、きっと順風満帆、人生をベリーイージーモードで生き抜くことが出来たと思う。痴情のもつれがなければね。
でも……。
この世界では……。
この世界と元の世界は、ある一点を除いてとてもよく似ている。
歴史、国の名前、各国の首脳、町並み、ファッション。細部の違いはあるけれど、瓜二つと言ってもいいほど、元の世界とこの世界は同じである。
だから、生活していく上であまり支障はない。前世と同じように、僕は平凡に生活出来ている……と思う。といいなあ。と信じたい。
僕は今は高校生だけど、いじめなどにはあっていない。クラスメイトからは遠巻きにされているけれど、それは事情があってそうしているだけだ。僕も理解していることだから、クラスメイトを責める気にはとてもなれない。実際、僕も同じような立場ならばそうするだろうと思っている。
悲しいことだけど。
教師も何とかしようとしてくれているけれど、やはりもって生まれたものだからどうしようもないのだろう。遠回しに解決方法を勧めてくれるけれど、それをするにはかなりの金額が必要になる。
いや、そもそも受けてくれる医者がいないかもしれない。それだけこれを変えるのは難しいんだ。
まあ、色々とあるけれど、この世界で行きていくのにあまり不自由はない。この世界と元の世界は、ある一点を除いてとてもよく似ているから、生きていくことは出来る。
そう、ある一点を除いて……。
「お前が世界一の……ウゲエエエエェェェェ」
「おいおい大袈裟オボロロロロロロ」
僕をからかおうとした不良がゲロをぶちまける。僕の顔を直視したため、気分が悪くなったのだ。閲覧注意、直視厳禁と言われる僕の顔を見るだなんて、度胸あるよね。
でも、それで人の迷惑になるのはいただけない。
「……ズボンと靴にかかったんだけど」
「ひぃ、すいません! 近づかないで!」
「クリーニング代払います! だから勘弁してください! 気持ちオボロロロロ」
しかし、これも何回繰り返したことだろう。顔を見られる度に嘔吐される僕の身にもなって欲しい。はじめの頃はそれはもう僕の心も傷ついたけれど、悲しいことに今ではもう慣れてしまった。
「二万円でいいよ」
「え、いやそれ高……」
「え?」
「覗き込まないで! 払います! 払いまウオエエエエェェェェ」
とまあ、こんな風に対処も慣れたものだ。少しばかり慰謝料をもらうのは仕方ないよね。
「すいません……足りなくて……一万円しかないっす……」
「じゃあそれでいいよ。あのねえ、こんなことされる度に僕も辟易してるんだよ。これ、授業料だと思ってね?」
「はい! わかりました!」
「後、君の友人達にも僕に絡まないように伝えておいてね」
「はい! 確実に伝えます!」
「わかってくれたらいいよ。僕はもう行くから。あ、ここの掃除はしておいてね」
「すいませんでした!」
「ごめんなさい!」
不良が逃げ去っていく。たぶん掃除用具を取りに行ったんだろう。僕から見ると不良はめちゃくちゃブサイクに見えるんだけど、信じられないことにこの世界では彼らがイケメンに見えるようだ。
僕は、僕が考える世界一のイケメンになることが出来た。でも、僕の基準は前の世界の基準。決してこの世界の基準と一致するものじゃないのだ。
おわかりいただけるだろうか? この世界では、ブサイクがイケメンとして扱われる。顔が崩れていればいるほど、魅力的に見えるという僕の基準とは信じられないほどかけ離れた感性をしているのだ。
では、そんな世界で、前の世界の基準で世界一のイケメンとなった僕はどうなるだろうか? イケメンとして扱われる? そんな馬鹿な。そんなことはありえない。
そう、つまり……。
この世界での僕は……。
世界一のブサイクだ。
僕はこの世界では世界一のブサイクとして有名だ。
転生前の世界では、僕は文句なしに世界一のイケメンだっただろう。元の世界に転生すれば、有名になれたはずだ。俳優とかになったりして、夢みたいな生活を送ることもまさしく夢ではなかったはずだ。
でも、この世界では、僕は世界一のブサイクだ。夢みたいな生活どころか、悪夢のような生活を送ることになった。
まあ、中途半端なブサイクになるよりはマシだったかもしれない。突き抜けるほどのブサイクになった僕は、そのおかげでいじめられることもなく生きることが出来ているのだから。
料理店とかに行くと入店拒否されたりする時もあるけどね。入ることが出来ても、店の奥の目立たない席に座ることになったりする。
世知辛い世の中だ。
さて、僕は自他ともに認める世界一のブサイクだ。そのため、ブサイクすぎる少年としてそれなりに有名だったりする。
世界一のブサイクとして、テレビに出たこともあるというのがその証明になるだろうか。この際だから、もう少しだけ僕の体験談を話すとしよう。
今までの僕の体験として、こんなことがある。
ちょっとしたトラブルを見かけて止めに入ったら、揉めてた二人が僕に向かって謝ってきた。
ガラの悪い人に絡まれたら、相手が逆にお金を差し出してきた。
道行く人達は僕を見ると必ず顔を背ける。僕の顔を直視した人が、その場で嘔吐することもある。
ネットではグロ画像として僕の顔が出回っている。凄惨な惨殺死体とか、処刑画像よりもグロいってどういうことなの?
都市伝説だけど、僕と結婚したら国から莫大な報奨金が出るとか何とか。流石にそれは嘘だと思うけど、真に受けた女性が僕に告白しようとして、嘔吐したということがある。馬鹿じゃないだろうか。
これ以外にも色々とあるけれど、なかなかどうして愉快なことが起きる。
最近では何が起きるのか楽しみになってきたほどだ。きっとこの世界に染まってきた証明だろう。はたしていいことなのか、悪いことなのか。図太く生きる事が出来るようになった、という意味ではいいことなのだろう、たぶん。
転生したせいで、とてもひどい顔になってしまった僕だけど、こんな顔でも愛してくれる家族がいる。自分からネタにするくらいには吹っ切れることも出来た。
なんだかんだとありながら、今の生活を楽しむことは出来ている。だったら、きっと僕は幸せなんだろう。
でも、やっぱり顔のことで悩んだりする時もある。
だって、ねぇ、世界一のブサイクっていうのは……ねえ?
はぁ、先生達からも勧められているし、真剣に考えてみようかな。
そう、整形することをね。




