表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/31

第7章 はじめての戦闘

 あたし達は森の中を歩きだす。生えている木は、んー、なんだろうな。ブナとか楡とか、そんな感じ。葉っぱの回りがギザギザしている、広葉樹。


 少し歩くと、道は左右に分かれる。とりあえずマップは埋めた方が良い。あたしやソウマのコンプ魂って訳じゃなくて、マップを埋める程度にはダンジョン内を歩き回って、敵とエンカウントしてレベルを上げた方が良いのだ。あたしは(たぶんソウマも)ボスへの最短ルートは覚えているけど、そこだけを歩いて行ったら、多分ボスに勝てない。


「道、分かれてんじゃん。どっち行くべき?」


 ケントがソウマに尋ねている。ソウマは平坦な声で答えた。


「レベル上げと、アイテム回収を兼ねてまずは左」


 アイテムなんてあったかしらん。そこまでは覚えてないなぁ。ま、いいや。ソウマが自信満々に言ったので、誰からも異論は出なかった。左の道を選んで――


 そして、視界が暗転した。


「なっ、なに?」


 アキラの不安そうな声が聞こえて来る。よかった。あたしが貧血を起こしたとかいうオチじゃなくて。


「みんな、大丈夫!?」


 これはカズキか。さすが学級委員長、って感じだ。


「大丈夫だよー」


 サキちゃんの声。無事で良かった!


「あ、あたしも平気!」


 あたしが答えると、視界が開けて、森の中に戻る。何だったんだろ、今の。


 いや、何かいつの間にか立ち位置が変わっている。


 あたし、サキちゃん、カズキが後列、ソウマ、アキラ、ケントが前列に。


「ひょー! 出た! 出た出た! 出ちゃったよ!」


 やたらとテンションの高いケントの声も、気にならない。なぜならあたしも同じような気分だったからだ。出た! 出たよ! もしかして今の、ロード時間?


 まぁ何にせよ、出ていた。


 敵だ。


 どんな敵? って問われたら、『手足の生えた巨大ニンジン』としか答えられない。名前はキャロリン。キャロリンは3匹も出て来ていた。全員前列。誰か1人に攻撃が集中しちゃうと、危ないかもしれない。その前に、倒す!


 あたし達がなにも宣言しなくても、半透明の青い板が、また現れていた。


 表示されているのは、『攻撃』、『防御』、『魔法』、『スキル』、『逃げる』の5択。ただしあたしはまだ使える魔法が無いから、魔法の項の文字は灰色に消えている。正確には4択か。


 巫女は『解呪』という、装備品の呪いを解くスキルを初めから使えるけど、戦闘中は役に立たない。キャロリンが全員前列と言う事は、キャロリンの攻撃は後列のあたしには届かない。よって、防御も不要。逃げる、は有り得ない。経験値、稼がないと。


 というわけで、やることは、攻撃一択だ。


 攻撃、の項を選ぶと、対象を選択するように指示が出る。むむ。みんなと意見を合わせないと。


「とりあえず、真ん中のニンジンに攻撃集中でオッケー?」


 ケントが腰に下げていた短剣を抜いて、真ん中のキャロリンに切っ先を向けた。ケント、偉い!


「わ、分かった!」


 あたしはすぐに真ん中のキャロリンを選択する。隣でサキちゃんが、「えっと、えっと……?」と焦っていたから、声を掛ける。


「サキちゃん、落ち着いてコマンド選んで大丈夫だよ。こっちのコマンド入力が終わるまで、キャロリン、何にもしてこないから」


「きゃ、キャロリンって言うんだ……」


 間抜けな名前に、肩の力が抜けたみたいだった。サキちゃんの細い指先が、攻撃、と、それから真ん中のキャロリンを選択する。


「これで大丈夫?」


「大丈夫!」


 あたしが答えるが早いか――盗賊のケントがキャロリンに短剣で突き掛かる。


「てぇぃっ!」


 剣道の事はそんなに詳しくないけど、アヤちゃんの大会の応援に行った事があるくらいだけど、突きって難しいじゃなかったっけ。危ないんだったかな? 良く分かんないけど、ケントは素人とはとても思えない様な滑らかな動きでキャロリンの身体を抉った。


 良く見ると、キャロリンの足元にはバーが1本表示されている。キャロリンのHPバーだろう。サキちゃんを見ると、仲間にはバーが2本表示されていた。HPとMPかぁ。


 ケントの攻撃で、キャロリンのHPバーが7割位削られる。ケントの次に動いたのは、武道家のソウマだった。


「……ふっ!」


 さすが暗黒属性。掛け声まで何か暗い。


 盗賊と武道家の速度順は同程度だけど、豹頭族フェルプール小人族ドワーフじゃ素早さが違う。それでソウマは出遅れたんだな。


 って、呑気に観察する前にお前も動けって思われそうだけど、動けないのだ。足も腕も動かない。ほんとにゲームみたい、としか言いようが無い。自分のターンが回ってくるまで、何も出来ない。


 ソウマが真ん中のキャロリンのHPを0にすると、キャロリンのオレンジ色の身体は7色の光に包まれて、弾けて消えた。あーよかった。屍がごろごろする系じゃなくて。


 さて、次は――巫女のあたしみたいだった。


 弓なんて使ったことないけど。


 でも、何度も繰り返したことのあるように滑らかな動きで、あたしは弓に矢を番えた。まるで自分の身体じゃないみたい。2匹になったキャロリンの、あたしから見て左側の方のやつに向けて矢を放つ。


「やぁっ!」


 当たるかもなぁ、と思った。


 実際、当たった。


 キャロリンのHPバーが、半分くらいになる。


 まるで、現実感が無い。


 ただただ、楽しかった。


 ひゃーとか、うぎゃーみたいな歓声が漏れそうになって、堪える。フルダイブのVRってこんな感じかな。


 だってだって、キャロリンが巨大ニンジンみたいって言ったって、大きさは1メートルくらいだ。で、彼我の距離は10メートル、はないけど5メートル以上はある。だって言うのに、弓なんて産まれて初めて持ったあたしが、こんなに綺麗に当てられるなんて!


 あたしが浮かれていると、今度はキャロリンのターンが回って来たみたいだった。キャロリンの攻撃方法は、何の変哲もない体当たり。標的にされたアキラのHPバーが2割くらい減少する。2割か。これなら、回復を疎かにしなければ、死ぬ事はなさそうだ。


 残りのキャロリンは、2匹とも標的をアキラにした。アキラは体当たりされる度に、「うわぁ!」とか「いてっ!」とか言っている。考えてみればHPが4割減る様な怪我って、もしかして、そうとう痛い……? あぁ、サキちゃんを前衛にしなくて良かった!


 怪我がどれくらい深刻なのかは分かんないけど、キャロリン達の次は、聖騎士のアキラのターンみたいだった。重そうな長剣を軽々と振り回す。怪我のせいで動きが鈍いとか、そんなことは無さそうだった。


「せやっ!」


 おしい、あたしがHPを削ったキャロリンじゃない方を攻撃した。


「……燃えろっ!」


 じゃっかん照れながら言ったのは、灰魔術師のカズキだ。おおお! ゲーム通りの専用ボイス(呪文)


 そして、炎っ!


 ひゃー! 魔法だっ! 魔法っ!


 キャロリンの足元から、おもむろに炎が湧き上がる! 熱そう! あっ、キャロリンの身体に火が付いた! それと同時に、HPバーが凄い勢いで減少して、0になる。キャロリンは7色の光に包まれて、弾けて消えた。


 ぎゃー! 凄い! いいな、いいな! あたしもあれ、やりたい!


 あたしが興奮している間にも、戦闘は続く。サキちゃんが、「えーいっ!」と可愛らしい掛け声と共に矢を放って、残り1匹のキャロリンに止めを刺した。


 また、暗転。


 今度はもう、誰も慌てなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ