表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エンディングから始まる異世界漂流。  作者: 桜木彩花。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/31

第6章 救っちゃいますよ異世界

 悩みは半分以上解決できた。冒険を進める大義名分も出来た。そしたら、プレイしちゃうよー! このゲームを!


 売店に行って、剣とか短剣とか、弓とか杖を買って図書館に向かう。図書館は赤い煉瓦造りの、独立した建物だ。


「あら、今年の新入生ね」


 図書館の入り口で、あたし達を待ち受けていたのは、図書委員のジャスミン。


 彼女からクエストの受領し、報告を行う事でイベントを進めていく。赤茶色の髪を三つ編みにしているところと言い、小さな顔に珍しくそばかすが散っているところと言い、赤毛のアンを彷彿させるような女の子だ。名前、ジャスミンだけど。


「私はジャスミン。図書委員よ。クエストを受領しに来たのね?」


 あ、自己紹介があった。ごめんよ、事前に色々言っちゃって。


「初めましてー、サキって言います。新入生です」


「同じく新入生のカズキです。クエストを受領しに来ました」


 ふわふわ笑ったのはサキちゃん、生真面目に答えたのはカズキだ。ソウマ? もうジャスミンの横を通り過ぎて図書館の中に入ってるよ。あの男は、ほんとにもう。


 確か初めに受領する事になるクエストは――


「このクエスト、受領したい」


 ソウマが1枚の紙を持って戻ってくる。あんたね。会話はキャッチボールだよ。あたしの言えた義理じゃないけど。サキちゃんとかカズキを見習いなよ。


「分かったわ。それじゃ、そこにパーティの代表者がサインをしてね」


 ジャスミンは気を悪くした様子も無く、ペンを取り出した。


 ソウマが持ってるのは羊皮紙――とかじゃなくて、真っ白のコピー用紙っぽい。ちぇっ。羊皮紙って見てみたかったんだけどなぁ。うわっ。ジャスミンが取りだしたペンも、ふっつーのボールペンみたいだ。ここは羊皮紙に羽ペンであって欲しかった。


「めっちゃ普通の紙とボールペンだ……」


 ケントも残念そうに、ぼそっと呟いた。だよねー。だよねー!? ソウマはちょっとだけ眉を寄せてから、ジャスミンに示された紙に『池田相馬』と書き込んだ。あら、ソウマってば字、とっても綺麗。習字とかきちんとやってた系の綺麗さだった。


「はい。これで受領は完了です。ソウマの受領したクエストは、『最初の試験』。内容は、“モルゲンロード学園の近くにあるダンジョンの最奥にいるボス『トードストゥール』を倒して来ること”クエストが完了したら、またここに報告に来てね」


 人懐こくジャスミンが微笑む。わーい、可愛いー。ジャスミンにせよ、ローゼン先生にせよ、寮母さんにせよ、みんな親切で優しい感じだ。優しくされれば、嬉しい。


 はーい、とか、はい、とかジャスミンに答えてから、校門に向かう。


 ジャスミンが説明してくれた通り、最初のクエストは、チュートリアルも兼ねた単純なものだ。


 モルゲンロード学園から移動できるダンジョン、『魔女が潜む森』に行って、最奥にいるボスを倒せばいい。ちなみに驚け。ボスは魔女じゃない。でっかいキノコみたいなモンスターだ。あと、モルゲンロード学園から移動できる『近くにあるダンジョン』は3つある。


 だからとにかく不親切なんだってばー!


 校門に辿り着く。石造りの立派な門の傍には、立て看板があった。右矢印と、真っすぐ矢印と、左矢印が書かれていて、それぞれ『魔女が潜む森』、『影森への野道』、『薔薇園への街道』とある。


 ソウマとあたしは、迷わず右――『魔女が潜む森』への道を選んだ。


「『魔女が潜む森』ってことは、ボスは魔女?」


 案の定、素直な思考回路のケントが尋ねると、ソウマは平然と言った。


「違う。ちなみに、その後のストーリーを進めても『魔女が潜む森』に魔女は現れない。完全な名前負けだ」


 名前負けって、何か違う様な気がするけど。


 まぁでも、ソウマの言う通りだ。


 初めは魔女、出すつもりだったのかもね……?


「不思議なダンジョン名だね……」


 アキラも首をひねっている。


「でも、人間型のモンスターを倒すのは少し抵抗があるから、魔女じゃなくて良かったな」


 妙に現実的な事を、カズキが口にする。


 確かにそれは、そうかもね。でも、一部ボスを除けば、灰クロには動植物を模した様なモンスターがほとんどだから、大丈夫だと思う。


 そういえば、倒した敵はどうなるのかな。いつまでも死体が残るのも微妙だ。ま、行けば分かるか。


 『魔女が潜む森』は、何処までも名前に反しまくって、木漏れ日の射す明るい森だ。地面も、腐葉土が積もってふわふわ柔らかい。走ったりしたらちょっと滑るかもな。


 歩いていると、ダンジョンの探索じゃなくて、森林浴に来たような気分になってくる。


 いけない、いけない。


 ここでももう、モンスターが出てもおかしくないんだから。しっかりしろ、あたし。


 やーでも、緑が凄い綺麗。樹木の良い匂いがするし、さわさわと葉っぱが優しい音を立てている。


 先頭を歩いていた聖騎士のアキラも、数歩歩くなり立ち止まって、深呼吸をしている。分かる分かる。そんな感じだよね。


「あ、わたしもー」


 サキちゃんも、アキラの横に並んで深呼吸を始める。「オレもー」とか言って、ケントも2人に並んだ。のどかだ。


 ソウマは1人で難しい顔をして顎を触っている。あたしは勇気を振り絞って尋ねた。


「……どうしたの?」


「マップ、どうするんだろうな?」


 あ、そういえば。


 灰クロでは、ダンジョン内を歩く度にオートマッピングされる。下画面は、マップが常に表示されていたんだけど、ここではどうなるんだろ……? まさか、誰かが手書き!? それは無理だよ!


 改めて森を見回す。


 一応、道らしきものはある。


 あたしは道を逸れて、木がまばらに生えている森の中に入ろうとする――と、多少予想はしてたけど、額が壁みたいなものにぶつかった。


「あたっ!」


 うう、ゲームでも壁にぶつかるとキャラクターが悲鳴を上げて可愛かったんだけどね。まさか自分が実演することになるとは。


「……道しか歩けないみたい」


 あたしがソウマに報告すると、ソウマは、ははっ、と声を上げて笑っていた。


「実演。やべぇ、うける。ゲーム通りじゃねーか」


 笑うなー! って言いたいけど、気持ちは分かるよ。うん。ゲーム通りだ。楽しい。


 ここはあたし達の愛する灰クロだ。


「……たはは」


 あたしも力無く笑ってから、でもまぁ、困ったな、マップ。マップ。どうしよう。とか考える。今度は見えない壁に顔をぶつけない様に手を伸ばして、「マップねぇ……」とか呻く。


 出た。


「わぁっ!?」


「ユカちゃん、どうしたの?」


 奇声、2回目。さすがに心配になったのか、サキちゃんが駆け寄って来た。


「ま、マップ出た……」


 あたしは他に言いようが無く、報告する。


 そう、ステータス画面に似た、半透明の青い板みたいなものが手の先に現れていた。表示されているのは、ステータス画面じゃない。


 半透明の青い板の一番上には、『魔女が潜む森』と書かれていて、あたし達が歩いた範囲のマップ(わずか2マス分だけど)と、あたし達の現在位置と向いている方向を示しているんであろう、三角印が明滅していた。


「わー、ステータス画面みたいだね、ここがわたし達のいる場所かな?」


 サキちゃんが、三角印をつっつくと、『チーム・アキラ』と表示された。アキラなんだ。全員がいる場所を確認する。進行方向に対して、アキラが一番前にいる。だからかな?


「アキラ、ちょっと」


 ソウマがアキラを呼んだ。アキラがこっちに戻ってくる。


「どうしたの?」


 と、途端に表示が『チーム・ケント』に変わった。納得。ふんふんとあたしは頷いた。


「なるほどね。先頭を歩いている人がチーム名に表示されるんだ」


「みたいだな。しっかし、何処までが前列で、何処からが後列って判断されるんだろうな?」


「うーん……」


 あたしは一旦、マップ画面を消して、「ステータス」と唱えた。


 あ、あっぶない!


 ステータス画面の1ページ目、HP、MPバーと各種ステータスの下、レベルの横に、『前』って書いてある。巫女のあたしが前列扱いになってたよ!


「ここ、『前』ってある。隊列の事じゃないかな」


 あたしは言って、『前』って書いてあるところをつっつく。途端に、表示が『後』に変わった。よかったよかった。


「カズキとサキも、後列に変えとけ」


「分かった」


「はーい。ステータス!」


 ソウマに言われて、灰魔術師のカズキも、錬金術師のサキちゃんも、ステータス画面を表示させて隊列を変更した。


 これで、戦闘前にやっておくべき事は全部出来たかな。うん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ