第30章 また冒険をしよう
うんん……?
あ。
あたし、生きてる。
がばっ、と起き上がる。起き上がったってことは、横になっていたらしい。でも、身体の何処かが痛かったりはしない。回復魔法を掛けられて、ベッドで横になってたみたい。
モルゲンロード学園の、保健室だった。
あれ? もしかして死んでた? でも夢は見なかったし、気絶してただけかな。うん。
「よ」
「ユカ、おはよ」
ソウマとケントも、あたしと同じようにベッドから起き上がって、まだぼんやりしてたみたい。
何だか、夢みたいだ。
もう帰れないなんて。
「みんな、気が付いて良かったわ」
そう声を掛けてきたのは、リリアン先生だった。
「……カズキくんや、サキさんや、アキラくんは残念だったわね。どうやら、『界の狭間』の崩壊に巻き込まれて、どこか別の世界に行ってしまったみたい」
ほぅ。この世界からしたら、そういう事になるのか。
「……でも、3人なら、大丈夫です」
あたしが小さな声で言うと、リリアン先生は一瞬意外そうな顔をしてから、微笑んだ。
「そうね、あの3人だったら、きっと何処の世界でも立派に生きていけるわね」
「はい」
何処の世界でもって言うか、元の世界だけどね。とにかく、この世界じゃなくても、3人は立派に生きていくだろう。あたし達や、川上くんの事も、説明してくれるかもしれない。ごめん。
あたし達は集団で倒れて、そして、あたしやソウマやケントや川上くんだけ目を覚まさなかったってことになるんだろうか。それとも、あっちとこっちの接続が切れてしまった時点で、あっちのあたしは死んでしまったんだろうか。
分かんない。
でも、いい。
もう、戻りたいとは思わない。思っちゃいけない。あたしは選んだんだ。こっちの世界を。
「……これから、どうしようか?」
ケントが楽しそうに言う。これから。そうだ、あたし達にはこれからがある。こっちの世界で生きるこれからが。
「これから、新しく依頼されるクエストもあるでしょうし、あなた達なら、世界中を改めて回ってみるのもいいんじゃないかしら? あなた達はこの世界を救った英雄よ。だけど、様々な人に助けられた学生でもある。色々な人に会うと、良いわ――世界の危機は去った。先は、長いのだから」
リリアン先生の言葉に、あたし達は素直に頷く。
たしか、追加のクエストでは、別の大陸の話が出てきたり、異界の神様まで倒しちゃったり、上級生と手合わせしたり、まだまだ色々あったはずだ。
色々な所に行って、色々な人に会って、色々な冒険をしよう。
あたし達は、自由で、孤独で、誇り高い冒険者なんだ。
そういう人生を、選んだんだ。掴み取ったんだ。
幸せ、だなぁ。
「……楽しみだな」
ソウマが――暗黒属性に相応しくないくらい、無邪気な顔で笑った。
「楽しみだね」
「だよなー」
あたしもケントも口々に頷く。
楽しみだ。
幸せだ。
でもちょっと今は疲れてて、すごく疲れてて、まだ眠くて仕方ないから――あたしはぽふん、とベッドに横になり直した。
「でも、もうちょっと寝させて……」
「仕方ねーな」
「ユカ、お休みー」
うん。お休み。
目を覚ましたら、また冒険をしよう。一緒に。
あたしは、凄くすごく満ち足りた、幸せな気分で、目を閉じた――。




