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第3章 あたしのバカー!

 西君は思慮深げな顔で考えてから、ローゼン先生に尋ねた。


「先生、職業って何があるんですか?」


 お、西君いった。どう答えるNPC。


 ローゼン先生は笑んだまま、滑らかな口調で答える。


「ローゼンせんせ、って呼んでねぇ。職業は、普通科、戦士、聖騎士、狩人、盗賊、武道家、白魔術師、黒魔術師、赤魔術師、灰魔術師、侍、忍者/くのいち、神主/巫女、プリンス/プリンセス、海賊、吟遊詩人、錬金術師、獣使い、踊り子、ガンナー、死霊使い、狂戦士、召喚士、アイテム士の24種類よぉ」


 ひー!


 プレイして知ってるけど、そうやって羅列されると凄まじいものがあるなぁ。西君も目を白黒させている。1回言われただけじゃ、初めてプレイするユーザーは厳しいだろう。


「灰魔術師、とか、妖精族エルフなら良いと思うよ」


 あたしは、なけなしの勇気と親切心を振り絞って西君に囁く。


「攻撃魔法も回復魔法も覚えるし。運用が中途半端になりやすいのは否めないけど、序盤では便利だよ」


 おっとっと、楽しくてペラペラ喋りそうになってしまった。落ち着けあたし。


 西君は、妖精族エルフの素敵な美貌で微笑んだ。思わずきゅんとしてしまう。


「ありがとう、藤原さん」


 一気に冷めた。


 藤原さんはやめい。


 しっかしこれ、本当に夢じゃないのかなぁ……?


 どうなのかなぁ……。


 あたしが意識を飛ばしてる間に、西君は灰魔術師になったらしい。「次の子、どうぞぉ?」とローゼン先生に手招きされる。


 夢じゃ、ないなら。


 あたしは、ぺこっとローゼン先生に頭を下げた。


「はじめまして、ローゼン先生。新入生の藤原ふじわら優歌ゆかです」


「はい、はじめましてぇ。ローゼンせんせ、って呼んでねぇ、ユカちゃん。ユカちゃんは何の職業になるのぉ?」


 むー。普通の人、っぽい。


 髪の毛、紫色だけど。美人だけど。ローゼンせんせは椅子に座ってるから、立ってるあたしが見下ろすと、胸の谷間がすんごいことになってるけど。いや、でも、今のあたしなら、憧れの胸の谷間も実現可能……!? はっ、そんなことは後で良いんだった。


「巫女、でお願いします」


「はぁい、良いわよぉ」


 ローゼン先生は、手元の紙に何か書き込んだ。


 ぐっ、と、一瞬、身体が重くなる。


 巫女は、後衛の、魔術師系職業だ。HP(体力値)、下がった?


 ステータスって、数字で確認できるのかな。


「それじゃ、これで登録は終わり。転職の時はまた来てねぇ。次の子……は、もういないみたいね」


 身体の重さには、すぐ慣れた。


 ローゼン先生はちょっとの間、手隙きっぽい。これ、チャンス?


「あ、あの、ローゼンせんせ」


「なぁに? ユカちゃん」


 甘ったるい声であたしが言っても、ローゼン先生怒らず(まぁ、ローゼンせんせって呼べって言ったのはローゼン先生だ)微笑んだまま頷いた。あたしは、相変わらずのアルカイックスマイルを浮かべながら尋ねる。


「あの、ステータスって、どうやって確認するんでしたっけ……?」


 ぴくり、と、その場に何となく残っていた男子が全員ローゼン先生の口元に注目した。この異常事態を平然と受け止めて、職員室で職業選択をしたってことは、ここにいるメンバーは程度の差こそあれ、全員まぁこっちの世界の住人だろう。みんな気になっていた筈だ。


 ローゼン先生は口元に手を当てて、ころころ笑った。


「ユカちゃん、そんな簡単なことも忘れちゃったの? 手を伸ばして、『ステータス』って言えばいいのよぉ」


 うわぁ、ごく当然、みたいなテンションだった。


 っていうかやっぱり見られるんですね、ステータス。


「ええと……」


 あたしは手を伸ばして、呟く。


「ステータス」


 途端に、半透明の青い板みたいなものが手の先に現れた。2本のバーと、7種類の数字が光っている。


 HP、MPバーと、力、知力、生命力、素早さ、幸運値の数値。それから、レベルと、次のレベルまでに必要な経験値。


 流石、人間種族。HP25、MP10、それから、その他のステータスはオール8。


 元の数値がまだ小さいからか、職業補正が掛かっても生命力が下がってないのを感謝するべきかな。レベルは、もちろん1だ。この学園に来るまで、なにやってたんだろうね? 良いけど。


「ステータス」「ステータス!」「すてーたす?」と、淡々としていたり、楽しげだったり、訝しげだったりする声が幾つも聞こえて来る。みんなも確認しているらしい。何枚もの半透明の板が、浮かんでいる光景はけっこう幻想的だ。


「なるほどな」


 納得したように呟いたのは、やっぱり池田君だ。あたしと同じ熟練冒険者。なーんとなく、嫌な予感がして、あたしはずるずる後ずさる。さーて、女子は校門から動いてないんだっけ? じゃあ、校門に行こうか。それで、サキちゃんとか、アヤちゃんと、パーティを組もう。あたしと同じ、アニメ漫画部の部員だ。仲良しだ。2人はヘビーなゲーマーじゃないけど、友だ。きっと戦友ともになれる。


「藤原」


 こっそり職員室から出て行こうとした(といっても、ローゼン先生を含めてたった6人しかいないんだから、ばればれだっただろうけど)あたしの肩を、池田君ががしぃっと掴んだ。


「俺とパーティ組んでくれ」


「えー!!」


 内気なシャイガールであるあたしだけど、この時ばかりは大声で喚いていた。やだよー! 女の子と組むよ!


「攻略本は2冊あった方が良いだろ」


「それは……」


 そうかもしんないけど。


 えー。うー。でもでも。男子かぁ。


「え、藤原さんと池田、パーティ組むの? そしたらオレも入れてよ。オレ、2組の鈴木。鈴木すずき健斗けんと。2人のアドバイス通り盗賊になったからさぁ。お願いっ!」


 調子の良い事を言ってくるけど、鈴木君なんて知らない。去年も今年も違うクラスだから、話したこと、無いし。


 ますますハードル高い感じだ。


 なのに。


「おれもパーティに入れて欲しいな。パーティって、最大何人?」


 西君までそんな事を言って来る。


「「最大6人」」


 うわー、また池田君とハモった。息ぴったりみたいじゃんかー! やだもー!


 池田君とだって、正直、そんなに話したこと無いし。池田君、クラスでは暗黒属性、みたいな感じだし。悪い見本のゲーマー、みたいな感じ。あら、失礼しました。とにかくなー。


「あ、あの、ローゼンせんせ!」


 あたしは池田君の視線から逃れる様にして、ローゼン先生に尋ねる。


「なぁに? ユカちゃん」


「あのっ、新しいメンバーの登録って、職員室で出来ますか?」


「新しいメンバーの登録……? 新入生が入学する時の手続きのこと? ユカちゃん達はもう済んでるわよぉ」


 いや、そうじゃなくて、新しいキャラクターの登録って意味だったんだけど……。つまり、このローゼン先生の反応を見るだに、NPCをどんどん追加することは出来ないっぽい。がーん!


 最大6人でパーティを組めるってことだから、2人とか3人パーティで冒険を進めることも出来る。出来るっちゃぁ出来るけど、でも、6人いた方が圧倒的に有利だ。そして、友達の少ないあたしには、6人もパーティ組みたい友達がいない! ということは、誰かしら知らない人とパーティを組まなきゃいけない! がーん!


「キャラクターの追加は出来ないみたいだろ」


 ぼそっと池田君が囁く。くそー! 池田ー! お前の魂胆は分かってるんだからなー!


「うー、ローゼンせんせ、ありがとうございます!」


「いいえ。みんな、仲よくねぇ」


 ローゼン先生はにこにこしながらあたし達を見つめて来る。豹頭族フェルプールの軽そうな鈴木君とかは、分かりやすく鼻の下を伸ばしていた。男子だなぁ。


 やっぱりヤダ。


「あたし、サキちゃ……じゃなくて、安部さんとか、高橋さんとかと組みたいから……」


 だから池田。お前は誰かしら女子を捕まえるが良い!


 何で女子か。


 それは簡単だ。女子は巫女になれる。男子だと、神主にしかなれない。そして、神主と巫女は同等職業かと思いきや、何と覚えるスキルが変わるのだ。そして、ひっじょーに便利なスキルを覚えるのは、巫女だけ。神主は、覚えてくれない。これは酷い。でも、仕様なのだ。


「巫女がいないと困るんだよ」


 池田は分かってんだろ、と言わんばかりに詰め寄って来る。


 分かってるよー! 巫女、超便利だもん! あたしだって、あたしだったら、都合よくこの場にいる巫女を逃したりしないよー! 大体、池田、暗黒属性っぽいし。女子の友達とか、いなそう。


「ま、まぁまぁ、藤原さん困ってるし」


 西君ありがとう!


「でもさー、せっかくなんだから仲良くやろうよ。藤原さん、このゲーム詳しそうだし、一緒に組んでくれたら嬉しいなー」


 うっさいわ! 鈴木!


「あの……ぼく、何の職業になったら良いかな……?」


 うわ、忘れてた! っていうかどちら様?


 あたしの怪訝そうな顔に気付いたのか、竜人族ドラゴニアンの男の子は、おどおどと言った。


「あ、ぼく、3組の鈴木。鈴木すずきあきら


 お前も鈴木かい! まぁ、日本で2番目に多い名字だから仕方ないかなぁ。


「何だー、3組の鈴木かー。鈴木仲間だね、いえーい!」


 豹頭族の方の鈴木が両手を上げる。竜人族の方の鈴木も、挙動不審になりながら手を上げた。


「い、いえーい?」


「いえーい!」


 ハイタッチ。


 謎。


 何で猫耳、そんなテンション高いの……?


「竜人族か……盾役タンクなら聖騎士、攻撃役アタッカーなら狂戦士だよな」


 だよなって池田、あたしに同意求めてる? だよねぇ。


「……池田君が武道家なら、聖騎士が妥当じゃないかなー、何て……」


 答えちゃうから駄目なのよね。あたし。うー、でも無視なんて出来ないし。


「俺もそう思う。というわけで竜人族の鈴木、聖騎士になっとけ」


「わ、わかった。ところで、竜人族って、何?」


 そっからかー! 当然のように6種族把握してたよ。あたしは。でも、そうだよねぇ。こんなマイナーゲームの設定なんて、知らないよねぇ。


「後で説明する」


 池田は愛想なく言って、竜人族の鈴木君の背中を押した。その愛想ない感じがなぁ。パーティとか、組むとか、ちょっと躊躇ってしまう。っていうか、いつの間にか、この場にいるメンバーで組む感じになってない……? なってるよね。その前提で、あたし、聖騎士推しちゃったよね。うわー、あたしのバカー!

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