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エンディングから始まる異世界漂流。  作者: 桜木彩花。


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第29章 このクソゲーは、ほんとにもう

 前列はソウマとケント、後列はあたし1人。なんだか、スカスカした感じ。


「オレ、どうした方が良い!?」


 ケントがコマンド入力画面を見ながら問いかけて来る。あたしとソウマは声を揃えて叫んだ。


「「『落とし穴』!」」


 盗賊のスキルで、敵の回避率を下げる効果がある。重ね掛け有効なのがありがたい。


「「戦闘終わるまで、ずっと『落とし穴』で!」」


「うわーぉ、ソウマもユカも息ぴったり! 了解!」


「あたしは『絶対障壁』しか出来ないから、ソウマ、あとはよろしく!」


 『絶対障壁』のスキルを選びながら、祈るように言う。暗黒属性は、ちょっと笑ったらしかった。


「任せろ」


 最速スキルの『絶対障壁』と『落とし穴』が発動する。それから、まずはニルズベルグの攻撃。さすがラスボス――っていうか、あたし達のレベルがちょっと不足気味なんだ。先手を取られる。


 巨体がぐわーって迫って来て、齧りつかれそうになるのは、結構な迫力があった。でも、ソウマもケントも平然としている。あたしの『絶対障壁』を信じていてくれる。


 ニルズベルグの『齧りつき』は列攻撃だから、あたしには届かない。ソウマとケントも、『絶対障壁』で守られる。うーん、バランスブレイカー。敵1匹しかいないボス戦では、パーティ全員に対して敵の攻撃を確実に一回ダメージゼロにする『絶対障壁』はとんでもない効果を誇る。ソウマが巫女あたしを勧誘するはずだよ。


 そして、ソウマの番。4連撃。全部外した。ぐぅ。


「ちょ、え、剣とか急に持ったから!?」


 ケントは焦った様に叫んだ。まぁね。攻撃役、ソウマしかいないわけだし。


「違うの! ニルズベルグ、回避率がすっごい高いの!」


 あたしはソウマを庇うみたいに言う。


 そう。


 ストーリー上のラスボスで、びっくりするような巨体を誇るくせに、ニルズベルグの回避率は半端無く高いのだ。だからケントに『落とし穴』を依頼したんだってばー。


「えぇー……マジでー……?」


 ケントも不服そうだ。まぁ、あの、クソゲーですので……。


 消耗戦、じゃないけど、あたしとケントのMPだけが減り続けて行く。ソウマは、攻撃を外し続ける。これ、『絶対障壁』が無いパーティだったら、ニルズベルグに殴られっぱなしってことになる。酷い。


「やばい、やばいやばいやばい! MP切れそう!」


 悲鳴を上げるケントに、あたしは後ろから叫ぶ。


「アイテム使っちゃえ! 聖水あったはずだから!」


 聖水――MPを回復するアイテムだ。っていうか、嘘だった!


「ごめん、嘘! あたしもあと2ターンでMP切れちゃう! 『絶対障壁』止められないから、あたしのMP回復してくれる!?」


「分かった!」


 ソウマは黙々と『4連撃』を選択し続ける。ケントは、盗賊って言うか、アイテム士顔負けなくらいの勢いでアイテムをばら撒く。あたしも、延々と『絶対障壁』を選び続ける。


 あぁもう!


 焦るな、あたし!


 でも、ちょっとだけ思ってしまう。もう少しレベルがあれば。そうすれば、命中率も上がったはずだし、もう少し早く勝負が付いた筈だ。


「やっべぇ! アイテム切れた!」


「なぬー!?」


 叫んだって仕方ないけど、叫ぶしかない。あたしのMPが切れたら、『絶対障壁』が無くなる。今のあたし達には、回復魔法を使ってくれるカズキはいない。


「うぅー! もう仕方ない! あとは祈って!」


「わ、分かった!」


 ケントは不安そうだ。だって、戦闘が始まって、1回もニルズベルグにダメージを与えられていない。ニルズベルグの回避率、半端ない。そろそろ、ケントが重ね掛けした『落とし穴』の効果も切れちゃいそうだ。


 お願いします。


 あたしは何かに祈る。


 この世界を、救いたいんです。救わせてください! 無謀な事をした馬鹿な中学生じゃなくて、あたし達を、本物の、本当の、冒険者にしてください! その為に、あたし達、今日まで手にしていた全部を捨てたんです。捨てても惜しくないと思う位、この世界が好きなんです!


 どうか。


 どうか!


 祈りが通じたのか、数字は裏切らないからか――ソウマの攻撃が、当たった!


「やったー!」


 あたしは手放しで諸手を上げて歓喜する。


「……っし!」


 さすがのソウマも、絞り出す様な喜びの声を上げた。


「いや、1発だけじゃん……!?」


 ケントはあたし達の喜びように、不思議そうだ。


 だけどね。


 だけどねぇ……!


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 みたいなとんでもなく大きな声を上げて、ニルズベルグが崩れ落ちてく。


 あっはっは。


 このクソゲーは、ほんとにもう。


 愛してるけど。


「……え? 一撃で死んだ?」


 呆然と、半分口を開けながらケント。


 そう。


 このニルズベルグ。


 回避率が高いだけで、ものっそい弱いのだ。


 ラスボスなのに。


 最後なのに!


 ニルズベルグが斃れるのと共に、地面が揺れる。揺れまくる。7色の空から、キラキラした何かが降り注ぐ。『界の狭間』が崩れるって、こんな感じなんだ。


「ユカ、ケント! 逃げるぞ!」


 どこへ?


 とは聞くまでも無かった。


 ダンジョンを出て、『飛竜の呼び笛』を使って、この『界の狭間』から脱出、しないと。


「う、うん!」


「逃げちゃいますかー!」


「急げ!」


 あたしとケントとソウマは、揺れて、揺れて、もうこれ震度6とか7とかあるでしょ、大地震でしょ、歩くのも、しんどい。


 みたいに、わけ分かんない事になりそうな揺れの中で這うようにダンジョンから脱出する。


 暗転。


 が、終わっても、まだ揺れてる。


 アイテムボックスから、『飛竜の呼び笛』を取り出したソウマが、『ポーポーポーポポーポーポポーポー』みたいな、こんな時でも切なくて懐かしい感じの旋律を奏でる。仕様だからね。仕方ないよね。


 7色の空は崩壊しつつあって、物理的な重さを持って降り注いで来る。あたし達は、頭を庇いながら飛竜くんを待つ。あたし達を、何度も運んでくれた飛竜くん……!


 飛竜くんの影が見えたとき、巨大な空の塊が(何だか分かんないけど、そんな感じだ)あたしの頭を直撃した。杞憂って、取り越し苦労じゃ無かったよ……! ほんとに空って、落ちて来るんだよ……!


 すこぶるどうでも良い事を考えながら、あたしは意識を失った。


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