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エンディングから始まる異世界漂流。  作者: 桜木彩花。


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第26章 異世界の夢は覚めるものなんだから

 そうしてあたし達はストーリーに戻る。それからきっと、決められたレールの上を歩く中学生に戻る。たぶん、通学と成績の都合で進学できる高校を選んで、就職と成績の都合で進学できる大学を選んで、そうしてまだ見ぬ、大人という何者かになるんだろう。


 それが正しいんだ。間違ってないんだ。あたし達は、きっとそれなりに幸福な地方都市の中学生だ。貧困も別離も暴力も知らない。


 『界の狭間』に踏み込んだ時、ケントは明らかに元気が無かった。


 『界の狭間』は、何だか空が7色で、きらきらしていて、昼も夜も無くて――そういう、眩暈がする様な場所だった。地面は木の根が絡まったようにでこぼこしていて、でも何故だかすこぅし柔らかかった。生き物の内臓みたい、と誰もが思っただろうけど、誰も口にしなかった。気持ち悪いし。


「ふわぁ……」


 サキちゃんが空を見上げて、何度も瞬きをしている。


「……凄い、ねぇ」


「うん」


 あたしは頷く。すごい。お別れの光景としては、申し分ない。


 見たことの無いものを幾つも見た。


 触ったことの無いものを幾つも触った。


 食べたことの無いものを幾つも食べた。


 満足だ。


 うん。



 

 さよなら、世界。



 

 ダンジョンではないのだけれど、『界の狭間』には地面の木の根っこがせり上がる様な形で壁が出来ていて、幾つもの細い道に分かれていて、ダンジョンよりもずっとダンジョンみたいだった。


 左右からの木の根に飲み込まれてしまいそうな気分になる道を、あたし達は探索する。ダンジョン扱いではないから、マップ、と呟いてもマップ画面は出て来なかった。うげー! ここで初めて自力で地図作らなきゃいけないの!?


「……一応、ここ、拠点扱い、なのかな?」


 誰かに――というか、あたしかソウマに対する問いかけだろう、アキラが呟くように言った。


 『界の狭間』には、あたし達以外の人はいなくて、モンスターも出て来なくて、だから、すごく静かだ。アキラの声は、細い道を形作る柔らかい壁に吸い込まれるようにして消えた。


「おそらく。飛竜を呼べば、呼べるはずだ」


 ソウマが答えてくれた。


 あ、そうか、拠点扱いだから、それが可能なのか。他の同級生をここまで連れて来るのは楽そうで良かった。


 でもなぁ……地球への道をまず探さないとだよね。


 うー。アトランティスでも、あたし迷ったんだよねー。お買い物にサキちゃんと繰り出して、楽しく遊んでたら宿への帰り道が分かんなくなっちゃって大変だった。あの時はどうしたんだっけな。忘れた。他の住人もいたから、何とか宿の名前を告げて道を教えてもらったんだっけ。人の記憶ってほんと不思議。


 サキちゃんと泣きそうに困った事は覚えてるのに、その後の事は既に薄らぼんやりしている。あたしの記憶力、もしかしてヤバい?


 あああ、あたし、こんなんでちゃんとした大人になれるのかな。心配。


 あたしがうだうだ悩んでいる間に、地図を作っていくことに話がまとまってた。やっぱり書くんだね、地図。


 メジャーを調達して、測量とかをするほど手間暇は掛けられないから、試しに、歩数で測量モドキをして地図を書いて行く事にする。10歩進んだら、十字路。右に曲がって、85歩。さらに分かれ道。右を選んで57歩。行き止まり。戻って、今度は分かれ道を左に進んで――あたしがもう、帰り道も分かんないです、ごめんなさい。みたいな気分で泣きたくなってくるころ、そこは見つかった。


 あっさり見つかったとも、何となく、懐かしい気がして呼ばれたのかもしれないとも、言える。


「あぁ……!」


 溜息みたいな声を上げたのは、誰だっただろう。


 喜びと、安堵と、諦めと、不安と、あと、あと何だろ。とにかく、いろーんなものが混じり合った、あぁ、だった。


 何だか鏡みたいなモノが、立っていた。立ってたって、変かな。鏡みたいなモノが、道を塞いでた。この言い方が正しいかな。


 揺れる水面みたいなモノが道を塞いでいる。その先に移っていた景色は――病院、みたいな所で眠る、あたしだったり、ソウマだったり、サキちゃんだったり、アキラだったり、ケントだったり、カズキだったりした。


 ゆらゆらと水面が揺れる度に景色は変わる。あたし達以外の誰かが眠っている光景も、見えた。あたし達の傍で、泣いていたり、疲れたように座っていたり、あたし達に話しかけている人の姿も、あった。誰かのお父さんとか、お母さんとか、兄弟姉妹とかだろう。もしかしたら、他の学校の友達とかかも。


「……ここだな」


 ソウマが囁く。


「ここだね」


 あたしも頷いた。


 ここだ。


 ここが世界の境目。


「……みんなを、連れて来ないと」


 カズキはもう『飛竜の呼び笛』を取り出している。あたしは発作的に、カズキの手から『飛竜の呼び笛』を叩き落としそうになっていた。そんな自分の激しさに、ぞっとする。


 あぁ。あたし、あたしはこんなにもこの世界が。


 ぎゅぅっと手を握り締める。掌に、爪を立てる。


 帰ろう。


 帰らなくては。


 ほら、あたしはあっちで、あんなにも青ざめた顔をして眠っている。起きないと。夢は、覚めるものなんだから。


「サキ、先に帰りたかったら……」


 食い入るように、水面の向こうの光景に見入っていたサキちゃんの肩を叩いて、カズキ。サキちゃんはふるふるっ、と首を振った。


「ううん。わたしだって、パーティの仲間だもの。みんなと、最後まで頑張るよ」


 最後まで。


 そうだね。


 あたし達は飛竜くんを呼んで、モルゲンロード学園に戻った。戻って、飛竜くんの定員が10人くらいだってことに気付いて、あーあってなる。あたし達は、全員ちょっと、浮かれてる、じゃないけど、浮足立っていたらしい。


 あたし達6人と、まずはってことで、カズキ以外の他のクラスの学級委員長達を乗せて飛竜は『界の狭間』まで飛ぶ。あたし達お手製の地図を見て、もう1度、あの場所まで戻った。


「ここが……」


 学級委員長達は、呻いて、そうして誰もあたし達の予想を疑わなかった。この水面を通り抜ければ、帰れる。あたし達は全員そう信じた。


 あたし達を追うように、そして、もしもあたし達が全滅して何もかもが止まってしまったら困るから、あたし達の他にも、ストーリーを進めてる生徒は何人もいた。『飛竜の呼び笛』をゲットしてるパーティも、2組の学級委員長曰く、あと2パーティあるらしかった。だから、モルゲンロード学園と『界の狭間』をあたし達(というか、カズキ1人)が往復する間に、あちこちの迷宮を回って同級生達をかき集めた。


 カズキを除くあたし達は、『界の狭間』の十字路とか分かれ道に立って、同級生達を『その場所』まで誘導する。


 水面の壁の傍に、大きな広間みたいな空間があったから、そこに久しぶりに同級生が集結しつつあった。剣道部の女子同士でパーティを組んだアヤちゃんとも久しぶりに会って、きゃーとかなった。人目を避ける様にローブのフードを被ってこそこそ歩く内藤一行も見た。灰になって、ロストしてしまった川上くんと組んでいたパーティメンバーを見た時には、胃がきゅうってなった。


 でも、何日か掛けて、200人近い同級生が、そこに集まった。


 カズキとか、他のクラスの学級委員長達が、各クラスで点呼を取っている。あたしとソウマも、4組の学級委員長の木下さんに、いるよーって返事をする。


 みんな、水面の壁を覗き込んで、水面の向こう側に駆けだしそうになって、でも、ちょっとだけ残る恐怖心が誰もの足を止めていた。


 誰が最初にアレを通り抜けるか。


 案の定、カズキか――と思ったら、5組の学級委員長の足立くんが、「もうどうなってもいい。これ以上1秒だってこの世界にいるのは耐えられない。頭がおかしくなりそうだ」とか言い出して、足立くんが先陣を切る事になった。


 あたし達が、見守る中――足立くんは水面の壁を通り抜ける。この水面の壁を見つけた責任、じゃないけど、とにかくあたし達6人は、最前列でその光景を見ていた。


 足立くんが水面の壁を通り抜けた。戻っては、来ない。どころか、水面の壁の向こう、病室みたいな所で、足立くんが目を覚ましている光景が、見えた。


 歓声が、上がる。


 それは最前列にいたあたし達が上げたものだったけど、誰もがその歓声の意味には気付いた。連鎖するように、歓声が続いて、広まって行く。


 同級生達が、押し寄せてきて、あたし達は慌てて横に逃げた。


 みんな、嬉しそう。


 良かった。


 この世界は救えなくても、あたし達の冒険には意味があった。

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