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エンディングから始まる異世界漂流。  作者: 桜木彩花。


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第24章 クリアしよう

「クリアしよう」


 カズキは黙って泣いて、泣いて、なんだかあたしとサキちゃんまで泣けて来て、ほろほろ、ほろほろ泣くあたし達を困ったように見て、カズキは言った。


「……ん、しよ」


 あたしは鼻を啜って、さて、レベル上げレベル上げ、とは元気に言えないけど、何とか足を動かした。カズキが『飛竜の呼び笛』で飛竜を呼び出す。


「『アトランティス』まで」


 『海底神殿』のすぐ側にある集落の名を飛竜に告げる。


 ――それでも、カズキはきっと。


 あたしは目をすがめる。カズキの柔らかい緑色の髪は、この世界で半年くらい過ごして、けっこう伸びた。あんまり気にしない性質なのか、肩まで伸ばして放っておいている。ソウマとかアキラとかケントとかは、時々短剣で適当に切り揃えていた。


 飛竜が舞い降りて、風が、カズキの緑色の髪をなびかせる。カズキの横顔から、涙の痕はもう窺えない。


 ――カズキはきっと、この『黄泉比良坂』まで戻って来るだろう。


 1人かも知れないし、他のクラスの学級委員長と一緒かも知れない。でも、来るだろう。そうして、『黄泉比良坂』のダンジョンの地面で倒れる、内藤一行を蘇生させることだろう。


 善良な人って、本当にいるんだなぁ。


 お母さんも、カズキみたいな人と結婚すれば良かったのに。


 久しぶりに家族の事を思い出したら、それだった。あああ。自分にがっかりだ。でも、思ってしまうんだから仕方ない。お父さんがカズキみたいな人だったら。そうしたら、あたしはきっとこんなにも灰クロに嵌まりはしなかっただろう。ううん、そもそも、ゲーマーにもならなかったかもしれない。ゲームと漫画とラノベを愛する、ド内気な少女であるあたしには、ならなかった事だろう。


 良いやら、悪いやら。


 飛竜の背中に乗って、『アトランティス』まで飛ぶ。アトランティス――神の怒りに触れて沈められた島とその島で栄えた王国の名前――の通り? かは分かんないけど、アトランティスは、周囲を海で囲まれた城下町って感じだ。白壁の家が密集していて、海が青くて、お天気がいい日が多くて、うーん、ギリシャ風? 外国なんて、行ったことないけど。パスポートなんて、持ってないけど。


 ちなみにアトランティスの宿屋の食事でも、魚介類がいっぱい出て来た。周りが海に囲まれてるしね。けど、タコとかイカとか貝が主で、ウツシヨみたいに魚の骨に悩まされることはない。それより、付け合わせとかサラダに妙にたくさん出て来るトマトに苦しめられた。生トマト、苦手なので……。しかしまぁ、手軽に海外旅行気分。


 アトランティスで1泊してから、『海底神殿』で経験値を稼ぐ。稼ぐ。稼ぎまくる!


 『海底神殿』に出て来るのは、ギョジンっていう、でっかい魚に手足が生えたような敵と、アンモナイトっていう、アンモナイトみたいな……間違えた。アモナイトっていう、アンモナイトみたいな敵。それから、クラージェンっていう、タコみたいな敵の3種類。


 アモナイトがねー。美味しいんですよ。経験値多いの。ただ、ギョジンが全体魔法をバシバシ使って来るから、ちょっとめんどい。ギョジンが7匹とか8匹とかいっぺんに出て来ると、あたしは『操り繰糸』をアキラに使う。で、あたしのMPが切れたらアトランティスに帰ることになる。しょぼん。もっとダンジョンに居たいんだけどー。


 MPを回復するのに1泊しなくちゃいけないから、時間が掛かる。クリア、急いでるんだけど。ぬぅ。


 ゲームでは、1泊しても一瞬だったから気付かなかったけど、この世界だと、けっこう長い間冒険することになる。長い間過ごしてると、まぁ、こういう事もあるのかなー。


 夜――っていっても、そんなに遅い時間じゃないけど、でも、夜にすることもないし。だってスマホもないし、ゲーム機もないし。それに、ダンジョン探索するのはそれなりに疲れるし。だから、夜ご飯を食べてお風呂に入ったら、あたし達はいつもすぐ寝てしまっていた。時計は持ってないけど、でも、現実世界で言うなら8時とか、9時とか、そんな時間かな。


 隣のベッドでサキちゃんが、むくっと起き上った。横になってるあたしに何にも言わずに、部屋から出て行く。トイレかなぁって思ったけど、おやおや、隣の部屋からも、誰かが出て来る音がしましたよ?


 隣の部屋では、ソウマとかアキラとかケントとかカズキが寝ているはずだ。


 偶然?


 出来過ぎじゃない?


 あたしは、本当に、本当に、最低だと思いながらも、抜き足、差し足でドアに近寄る。最低だ。あああ。でもでも。とか思いながら、ドアに耳を付ける。


 ……誰か、サキちゃんと廊下で話してる。


 っていうか。


 カズキだ。


 話している内容までは聞こえない。いや、本気出せあたしの聴力。『……ここじゃ、何だから……』聞こえた。聞こえちゃったよ! うわー! うわーぁぁー!


 あたしのサキちゃんをー! と、へー、カズキとサキちゃん、へぇぇぇ、と、明日からどうしよう、と、いや、どうもしないけど、とが入り混じる。


 その場でごろんごろん転がりたいのを、何とか堪える。


 ……聞いちゃった。


 いいけど。


 いーいーけーどー!


 うわぁ、うわぁ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!


 何か、何かどうしたらいいのー!?


 上手く行って、いや、サキちゃん可愛いし良い子だし、カズキは優しいし格好良いし、上手く行かないはずがないし。そうしたら、お、お付き合いとか、しちゃって。あわわ。良いんだけど。良いけど! でも、あたしお邪魔? いや、でも、ふ、ふたりで同じ部屋に泊まるとか、そんなの絶対駄目だし! そうしたら、別に今まで通り? うー、分かんないぃぃぃぃ!


 っていうか、どっちがどっちを呼び出したんだろう。でも、呼び出されてついて行く時点で、もう何か、何か返事してるようなもんだよね!? そんなことない!? 分かんない!


 ぐるぐる考えたら、本当に目が回って来て「きゅぅぅ……」とか我ながら変な声が出た。よろめく足取りでベッドに戻る。


 分かんない。


 あたしには何にも分かんない。


 ぐるぐる目が回って、世界が回って、回ってまわって回りまくる中で――あたしは闇の中に落っこちてしまうみたいにして、寝た。


 で、次の日。


 おれ達、わたし達、付き合います!


 みたいなことを朝食の場とかで宣言されたらどうしようー!? とか思っていたけど、そんなことは全然なくて、っていうか、カズキもサキちゃんも普段通りで、あたしは内心えぇぇぇぇぇっ!? って感じだった。


 『海底神殿』に行っても同じで、お昼も普通に『商店』で買ったお弁当とか食べちゃって、あたしのMPがまた夕方には切れちゃって、宿まで戻ってきちゃって、夜だ。でも、サキちゃんと2人でお風呂に入って、普通に、寝た。


 何だろ……。


 分っかんない、なぁ……?

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