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エンディングから始まる異世界漂流。  作者: 桜木彩花。


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第22章 いい気になってんじゃないよ

「うるせーな! どーせ後で生き返るんだから、騒ぐなよ!」


 ばっかじゃないの。いや、馬鹿なんだ。馬鹿だからこんなPKなんて格好悪い行為が出来るし、馬鹿だから、カズキの偉さも分かんないし、馬鹿だから。馬鹿だから――!


 サキちゃんが涙目で叫んだ。


「4回蘇生に失敗したら、死んじゃうんだよ!? 死んじゃった子もいるよ――1組の川上くん、死んじゃったんだよ!?」


「4回も失敗するとか、どんだけ運わりーんだよ。うける」


「ちっとも面白くない――きゃぁっ!? あうっ!」


 くそー。カズキを倒して、手が余った2人の攻撃が、運悪くサキちゃんに集中した。


 だけど――何とか、サキちゃんは生きてる!


 っていうか、っていうか、サキちゃんにまで、何て事を!


 ぜったい、ぜぇったい、許さない!


 ごーっ、と、地獄の業火にも負けず劣らずな火力を誇る怒りの炎が燃え上がっていたけど、でも、あたしは冷静だった。


 連中の攻撃が終わると、あたし達も行動できるようになる。


「かっ、カズキ生き返らせないと……!」


 アキラが急かしてくるけど、あたしはステータス画面を開いた。


「みんなもステータス画面開いて! 隊列変更はターン消費しないから! まず、立て直す!」


「ちっ!」


 3組の内藤とやらが舌打ちをした。ざーんねんでした! あたしと、ソウマほど、灰クロのシステムに詳しい人間なんていないんだから!


 あたしは落ちついてステータス画面に触れて、後列に戻る。瞬きする間に移動したみたい。ソウマとアキラとケントの背中が見える。カズキは、前列で倒れたままだ。ごめんね、カズキ。


 サキちゃんも、後列に戻って来ていた。サキちゃんのHPバーは4割くらいまで減っている。あぁ、何て事。


「次で、あの天使族クリスティア仕留めるぞ!」


 内藤一行は好き勝手言ってる。


 悔しい。


 けど、あたしの『絶対障壁』で防げる攻撃は1回だけ。サキちゃんが自分自身を回復したって、残りの5人の攻撃がサキちゃんに集中したら、確かにサキちゃんは持ちこたえられない。まだ死んだ事の無いサキちゃんが、悲痛な悲鳴を上げる。


「や――やだ、やだやだやだ! 灰になるのは、ロストするのは嫌! ユカちゃん、アキラくん、ケントくん、ソウマくん、た、助けて!」


「……大丈夫」


 手は――動かない。


 足も、動かない。


 だから、サキちゃんの手を握れない。


 悔しい。


 でも、あたしは言った。


「大丈夫だよ、サキちゃん」


「ユカちゃん……」


「何が大丈夫なんだよ! お前らはここで死んで俺達の金貨になるんだよ!」


 品の無い声で内藤が笑う。あんたほんとに同級生?


 確かにね。やっかいではあるよ。単純な確率じゃなくて、確実に後衛を仕留めて来る悪意は。他の生徒だったら、こんな事態になったら動転して、慌てて回復したり、隊列を整えないままに破れかぶれになって戦闘を継続したり、しちゃうことだろう。だからこそ、こいつ等は買って、調子に乗って、お金を貯めて、黄金シリーズの武器とか買っちゃって、さぁ。


 ねぇ。


 いい気になってんじゃないよ。


 あたしを。


 あたしとソウマを、誰だと思ってんの。


「……うるっさい、なぁ」


 あたしは、我ながら凶悪な声で唸った。


 カズキなら、止めただろうな。


 話し合おうとか、そういう事を言ったに違いない。


 でも、カズキは死んでしまった。こいつらに殺された。


「ユカ」


「分かってる」


 ソウマに呼ばれて、あたしは冷静に『絶対障壁』を選び――は、しない。別のスキルを選択する。でも、ソウマもきっと分かってる。あたし達は、負けない。背中を叩くつもりで、あたしはアキラに声を掛けた。


「アキラ、『大暴れ』よろしく」


「うん――カズキに、こんな酷いこと。おれ、許さないよ」


 アキラは振り返れないけど、大きく頷いてくれた。サキちゃんに、ソウマが言う。


「サキは普通に回復しとけ」


「い、いいの……?」


「問題ない」


「ごちゃごちゃ、うるせーんだよ、お前ら!」


 内藤が喚く。ははーん。あたし達がコマンド入力を終えないから、動けないのに苛ついてるな。サキちゃんに、しばらくコマンド選ばなくて良いよって言ってやろうか。しないけど。


 こいつの顔見てるの、気分悪いし。


「後衛仕留めれば、連中に回復手段は無い! 俺等の必勝パターンは崩れねーんだよ!」


 うん、まぁ、普通ならね。


 だけど、あたし達には『宙の剣』がある。


 それに――


「『操り繰糸くりいと』っ!」


 普段は消費MPが多すぎるから使わないけど――あたしには、巫女には、とあるスキルがあった。


 発動は最速。


 効果は、自分以外の、指定した味方1人を最速行動にする。


 地味だけどね。


 だけど、あたし達にはアキラがいて、『宙の剣』がある。


 あたしが、ははーん、と、鼻で笑っている間に。


 内藤一行の後列は壊滅していた。


「……え?」


 呆けた声が、内藤の口から漏れた。まぁ、びっくりだろう。アキラのたった一撃で、『お店で買える』最強シリーズを装備していた仲間のHPがゼロになるなんて。


 何だろうなぁ。


 確かにこの灰クロはクソゲーだ。


 序盤の敵が最強武器を落とすとか、ぶっ壊れたゲームバランスをしている。もっさりした画面の癖に、マップ切り替え時のロード時間が長いし、『この世界』では起こらないけど、ゲームではハングアップもちょいちょい起こるからこまめなセーブが欠かせなかった。UIだって不親切な方だ。


 だけど、ゲーマーにとって絶対的に大切な事を違えはしなかった。


 だから、あたしは、あたし達は、何のかんの言いながらも、この灰クロを愛している。


 あたしは、動ける範囲内で、出来る限り胸を張った。


 

「努力は、数字は、絶対にあたしを裏切らないっ!」


 

 この『宙の剣』の圧倒的ステータスは。レベル差は。決して、決して、あたし達を裏切ったりはしないのだ。


 あたし達はこんな奴に負けはしない!


「てぇぃっ!」


「……ふっ!」


 ケントとソウマが、アキラの『大暴れ』を受けても何とか生き残ったメンバーを確実に潰していく。


「う、嘘だろ、おい!」


 内藤は喚くけど、レベルが違う。素早さが違う。


「治って!」


 サキちゃんが、内藤が動く前に『キュア』を発動する。サキちゃんのHPバーが、あっというまに満タンに戻る。はっはっはー。全快しちゃったサキちゃんに、君1人で何するってー? あぁん?


 普通なら、内藤達の通常攻撃のほうが、『大暴れ』より速かっただろう。そうしたら、サキちゃんまであたし達は失っていたはずだ。


 でも、巫女ってのはね、地味だけど便利なんですよ! 『絶対障壁』にせよ、『操り繰糸』にせよ! 慣れた灰クロプレイヤーなら必ず組みこむ巫女の威力、見たか!

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