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エンディングから始まる異世界漂流。  作者: 桜木彩花。


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第20章 でも、ゲーマーだよ

 会うの、かなり久しぶりだ。


 『ロスト』事件があってから、もうかれこれ1、2ヶ月は経ってる。この世界に漂流してからは、もう半年くらいになるかな。


 そういえば、現実の、いや、この言い方が正しいか分かんないけど……とにかく元の世界で、あたし達ってどうなってるんだろ? 神隠し? 寝たきり? 実は時間が経過していない? ぬーん。分からんっ! 実は時間が経過していない、が一番良いかなぁ。平和で。


 ダンジョンを出て、カズキが『飛竜の呼び笛』を吹く。これ、笛と言いつつ、どっちかっていうとオカリナみたいな形してるんだよね。ん? あれ? オカリナって笛だっけ。だったら合ってるのかな。まぁどっちでもいっか。


 とにかく、『ポーポーポーポポーポーポポーポー』みたいな、ほんの少し切なくて懐かしい感じの、灰クロで聞きなれた旋律がカズキによって奏でられる。灰クロをプレイした事の無いカズキは、この曲を知らないはずなのに。でも、戦闘中と同じように、勝手に身体が動くらしい。


 飛竜くんは、あたし達に呼ばれていない時にはどう過ごしているのやら。でも、いつでも笛を吹けばあたし達の前にすぐに現れてくれる。街とか襲ってないでしょうね?


 初めて乗った時はおっそろしかったけど、今では飛行機とか車に乗るのと同じ様な感覚だ。飛んでいる時に、向かい風を受けないのが大きい。


「『ウツシヨ』まで」


 『黄泉比良坂』のすぐ側にある集落の名を飛竜に告げて、みんなで尻尾の方から飛竜の身体の上に登らせてもらう。あたしもサキちゃんも、ものっすごいミニスカートだけどぐいぐい登る。もうしょうがないし。なーんて諦めてる訳じゃない。灰クロには、『ブルマ』という、あいたたた、みたいな女性専用装備品があるのだ! 立派な防具で、防御力が5上がる。もちろん、制服の下に装備してますよ。見えてませーん。


 ゲームと違って、防具を重ねて装備できるのが嬉しい。ブルマの他にも、魔術師のローブとか(巫女だけど!)制服の上から着てるし。防御力は、ブルマと制服と魔術師のローブの合算値がステータスに反映されている。


 ちなみに、ゲームと違って、『女性専用』の縛りも無くなってるんじゃないの? って説があったけど、ソウマもカズキもアキラもケントもブルマを装備出来るか試してくれなかった。ちぇっ。防御力上がるのにー。もったいないなー。余ったブルマは売っちゃった。防御力の割に、高値で売れる辺りがクソゲーだったりする。スタッフ悪ふざけしすぎだから!


 飛んで、飛んで、『ウツシヨ』が見えて来る。『ウツシヨ』は和風の村って感じだ。茅葺屋根の木造平屋に、竹林に、着物姿の住人! 畳もあるよ! みたいな。


 村からちょっと離れた所に飛竜は降りる。んだけど、ちょうど近くで遊んでいた子供が群がって来る。


「冒険者だー!」


「竜だー! すげー!」


「冒険者さんー、うちの宿に泊まってってくださいよー」


 キラキラした目を向けて来る子供達の中に、商魂たくましいのが1人いるな。将来が楽しみだね!


 冒険者は、子供達の憧れの職業、みたいな感じらしい。


 ソウマはうるさそうにしてすたすた『ウツシヨ』に歩いて行ってしまうけど、カズキとかケントとかアキラは「どこから来たのー?」とか「すげー! 武器触らせてー!」とか言って来る子供にも丁寧に対応している。


 あたしとサキちゃんは、女の子が遠巻きに見つめて来るから、手を振ってみたりする。あ、はにかんで手を振り返してくれた。嬉しい。かわいいなー。現代日本にはなかなかいない田舎の純朴な子って感じだ。あたし達だって、地方都市の中学生――つまり、東京とか大阪とか大都会に住む人からしたら『田舎の子』に分類されるんだろうけど、あんなに純朴な感じではなかった。断じて。腐ってもいないけどね。


 子供に請われたからではないけど、『ウツシヨ』で一泊してから『黄泉比良坂』に向かう事にする。


 くさくはならないけどねー、お風呂がそこにあるならば! 入りたいわけですよ! 日本人だもの!


 所持金に余裕があるから、男女で分かれて2部屋借りる。おー、お布団! 修学旅行みたい。そして露天風呂。染みるぅ。鹿威しが良い音立てたりしていてね。ふわー。ずっとお風呂入ってたいなー。


 のぼせる寸前までお風呂を堪能して、上がったらさくっと着替えて、サキちゃんの背中の羽を拭くのを手伝う。手伝うと言うか、しっとりふわふわという絶妙な触り心地を楽しんでいたり――は、してませんよ?


 元の世界でもサキちゃんは髪が長かったし、ここでも長い。しかも背中に羽まで生えちゃって、寝るまで大変だ。ドライヤーもないし。そう、無いのだよ……。残念。まぁ、電気が存在しないみたいだからねぇ。魔法の道具で何か代用品が無いかと期待してたんだけど、無い。ぐぅ。


 だからあたし達は丁寧にタオルで羽を叩いて叩いて乾かす。途中で飽きて、寝てしまう。でも風邪とかは引かない。この辺も丈夫になってるのかなー。ラッキー。


 丈夫にはなってるけど、サキちゃんもあたしも、髪をちゃんと乾かさないで寝たから寝癖が凄い。お互い笑いあってから、梳かしたり、水をちょっとつけたりして、何とか人前に出られる程度には身だしなみを整える。


 朝ご飯は、穀物の混ざったおにぎりと、おみそ汁と、お漬物。それから、頭を落として丸ごと焼いたお魚。う、お魚綺麗に食べるの苦手なんだよなぁ……。頑張る。


 髪の毛が緑色のカズキは、お箸を美しく扱って魚を食していく。金髪のサキちゃんは、あたしと同じく苦戦気味だ。赤毛になっちゃったアキラも、けっこう綺麗に食べてる。髪の色は色とりどりのあたし達が、みんなでお箸を持って焼き魚を一生懸命食べてる図は、傍から見たらけっこうシュールだろうな。


 一番早くに食べ終わったソウマは、お茶を呑みながら『黄泉比良坂』のマップを眺めている。あっ、あっ! ソウマの食べ終わったお魚の骨、すっごい綺麗! 字も綺麗だったし、もしかしてソウマって育ちが良い系? 謎。


 ダンジョン『黄泉比良坂』に向かって歩く途中に、そういう事を尋ねてみたら、ソウマから「いや、ゲーマー」と返された。ゲーマーと、育ちが良い系って両立しないもんだっけ……? はて。


「何でまた、唐突にんなこと」


「お魚、凄く綺麗に食べてたから。クエスト受領する時に名前書くのも、字、凄く綺麗だし」


「……女って良く見てるよな」


 呆れられた。あたしは慌てて、付け足す。


「でも、ゲーマーだよ」


「確かに」


 ソウマは頷きながらも、怪訝そうだ。


「それ両立すんのか」


「するに決まってるじゃん」


「俺の姉貴はゲーマーなんて全員社会不適合者だと思ってる。お袋も」


「ひどいお姉さんとお母さんだね」


「酷くはねーが、くだんねー」


 ソウマの声は物凄く乾いていて、少しも傷付いている所はなかった。いいなぁ、とあたしは呑気に思う。いいなぁ。ソウマみたいに、強くなりたいな。


「ソウマはブレないね。良いなぁ」


 あたしが素直に称賛すると、ソウマは誇らしげに笑んだ。


「なぜなら、俺はゲーマーだからだ」


「あたしだって、そうなのに」


「……確かに」


 むむっ。禅問答みたいになってきた。何故だー!?


 そんな事を話している内に、『黄泉比良坂』に着いた。ちなみに、『黄泉比良坂』を越えても『ヨミ』に着いたりはしない。普通に他の街に着く。この辺の設定の甘さも、愛しき灰クロクオリティーだ。


「さて、稼ぐか」


 ソウマが相変わらず平坦な声で言う。風が、強く吹いた。


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