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エンディングから始まる異世界漂流。  作者: 桜木彩花。


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第19章 クリアに向けて頑張るぞー!

 さて、クリアに向けて頑張るぞー!


 ストーリー的に考えると、もう7割くらいは進んでいる。敵も強くなってきてるけど、まだ『宙の剣』の威力は絶大だ。狂戦士のスキルで、アキラが『大暴れ』という全体物理攻撃を覚えたのも強い。


 あたしもようやっと、巫女の便利スキル、『絶対障壁』を覚えた。これは、パーティ全員に対して、敵の攻撃を確実に1回ダメージゼロにするというスキルだ。しかも発動は最速。


 灰クロでは、敵味方問わず終盤はダメージがインフレ気味で、後列のメンバーは敵の攻撃が届いてしまうと1発で沈んだりするから、その事故死を1度は確実に防げる『絶対障壁』は非常に便利だ。というか、じゃっかんバランスブレイカーの毛がある。仕様だけどね!


 ちなみに男子生徒がなれる職業、『神主』だと、何故か『絶対障壁』を覚えなくて、敵からの魔法攻撃を15パーセント軽減する『魔法障壁』しか覚えてくれない。『魔法障壁』も便利と言えば便利だけど、ダメージカットしてみせる『絶対障壁』の便利さには及ばない。


 狂戦士の『大暴れ』はじゃっかん発動遅めだから、まず『絶対障壁』で敵のダメージを防いで、物理攻撃に耐性のある敵のHPを灰魔術師のカズキと錬金術師のサキちゃんが削って、『大暴れ』。って感じ。宝箱が出てきたら、ケントが開ける。ケントの罠解除の腕はだいぶ上がって来た。まぁ、単純にレベルが上がって幸運値が上がったっていうのも大きいんだけど。とにかく、盗賊の本領発揮って感じだ。


 初期は、良い銃をドロップしたら、盗賊の上位互換職である『海賊』に転職しようっていう計画だったんだけど、何か全然良い銃ドロップしなくて、それどころか、結構良い短剣をドロップしたから、ケントは盗賊のまんまだ。


 灰クロでは、基本的に装備は『店で買うもの』ではなくて、『ダンジョンで手に入れるもの』だ。だから、狙った通りにはなかなか装備を集めにくい。良い銃ドロップする敵を延々と狩ってもいいんだけど、っていうか、ゲームだったら絶対にそうするけど、この世界でクリアを急ぐあたし達には(そして、レベルも何とか足りていたあたし達には)それはいかにも手間だった。


 ストーリーはいよいよ佳境を迎える。ラスボスの竜・ニルズヘルグの目論みも明らかになって、大変だーって感じ。まぁ、その、灰クロでストーリーは添えものですので……。


 でも、図書委員・ジャスミン嬢をはじめ、先生達とか、他のNPCに相応するキャラクター達は、この世界ではまるで人間みたいに話をしてくれて、っていうか、あたしには同級生との違いは見受けられない。


 もちろん、「ストーリー上の」台詞を言う事もあるけれど。でも、先輩達と雑談も出来るし、先生達はあたし達を――すなわち、モルゲンロード学園の新入生であり、世界を救わんとしている生徒――案じてくれる。


「――アキラ達、聞こえている? ニルズベルグの張った結界によって、私達大人はダンジョン内に入れない。直接手助けをすることは出来ないわ」


 おうおう、そういえばそういう設定でしたな。はい。いま、こうして先生と会話をしているのは、魔法で何とか通信をしているって状況だ。半透明の、3Dホログラムみたいなローゼン先生は、あたし達をみて微笑んだ。


「でも、今日までの苦難を乗り越えてきた君達なら、きっと世界を救ってくれるって信じている……無理をしないで、頑張ってね」


 ストーリーは添えものだからうろ覚えだけど――でも、最後の台詞は、灰クロでは存在しなかったはずだ。


 あたしは嬉しくなって、小さく「頑張ります」と答える。ローゼン先生にも聞こえたみたいだった。

「危ないと思ったら、ランクの低いダンジョンに行って、レベルを上げてからまた挑むのよ。ユカちゃん」と、メタなのか、この世界での常識なのか、微妙なラインの発言が返って来た。まぁ、後者なのだろう。この世界では当然の様にレベルが存在して、HPが存在して、蘇生魔法が存在する。


 蘇生魔法、だ。


 実は(危なっかしい事に)『薔薇園への街道』で1度だけ『死んだ』あたしだけじゃなく、前列のソウマとケントも、ちょいちょい『死んで』いた。無事に蘇生出来てるけどね!


 『死んで』いる間のことは――誰も、口にしなかった。


 何となく、お互いに気付いていたのかもしれない。あんまり楽しい記憶じゃないって。誰も口にしない事が何かの証明であるようでもあった。死んで生き返る度に、ケントは、「帰る、かぁ……」と普段からは想像できないくらい暗い目をして、ぼそりと呟く。


 どこのおうちにも、事情はあるのよ。


 お母さんはかつて、あたしに言った。


 それは、そうかもしれない。どこのおうちにも、きっと外から見えないだけで、何かがある。


 だけど。


 でも。


 だから?


 ……あたし達が、こんなにも傷ついているのは、どうなるの?


 暗転。


 敵だ。


 やっつけないと。


 敵は強くなってきたし、あたし達が、特にソウマとかケントが死んでしまうことも少し出てきた。確かに、ローゼン先生の言う通り、もう少しレベルを上げた方が良いかもしれない。だけど、命がけの勝負、って感じはあまりしない。どこまでもこの世界の戦闘はシステマチックだ。前列の3人はそうでもないのかもしれないけど。


 あたしに出来るのは『絶対障壁』を選び続けることだけだし。あとは、祈る、くらい? む、ちょっと巫女っぽい。のかな。


 敵の攻撃を受けて、『絶対障壁』が砕ける音がする。ガラスが割れる時の音を、細く、長く伸ばした様な音だ。悲鳴みたいにも、聞こえる瞬間がある。


 こんなに何度も悲鳴を上げて、何処へ行くのか。


 いやはや。


「……レベル、もう少し上げるか」


 戦闘が終わると、ステータス画面と睨みっこしながらソウマが言った。クリアを急いでるけど、そろそろねぇ。『宙の剣』の性能頼みじゃ、ちょっと厳しくなって来た。HPとか命中率とか、そっちの問題で。


「ソウマとユカが最短距離知ってるから、ダンジョン進むの早いよなー。早すぎたかー」


 この冒険が伸びるのが嬉しいのか、ケントはちょっと嬉しそう。ま、パーティ内で一番死んでるから、HPの重要性を知ってるのかもしれない。


「んー、と……そうしたら、『黄泉比良坂よもつひらさか』が良いかな? 経験値、稼ぎやすい『黄泉醜女よもつしこめ』がいっぱい出るし」


「だな。エネミーゾーンも多いから、エンカウントしやすい。『海底神殿』で事故死しても馬鹿らしいしな」


 あたしが、ちょっとダンジョンレベルは低いけど、敵がわんさか出る、かつ、相手が特殊攻撃もしてこないから安全に『狩れる』ようなダンジョンの名前を口にすると、ソウマがすぐに頷いてくれた。


 終盤でもまだ使える狩り場って、『黄泉比良坂』か『海底神殿』くらいなんだよね。『海底神殿』は、エンカウント率は申し分ないけど、全体魔法を使って来る敵がいるから、後列のあたし達の回復に手間が掛かる分、効率が悪い。


 っていうか、7匹とか8匹とかいっぺんに出て来て、その全部が全体魔法を使って来ると、HPが低い後列のあたし達は死にかねない。死んであそこ(・・・)にまた戻るのは――夢なのか、一瞬現実に接続しているのかは分かんないけど――御免こうむりたい。


 あの、何処にも行けず、何者にも成れず、消えてしまうしかないと思わせる、あたしのベッドの中には。


「頼りになるねぇ」


「ねぇ」


 ケントとサキちゃんがのんびりと言い合っている。いえいえ、それほどでも。


「『黄泉比良坂』だと……もしかしたら、他の同級生がいるかもしれないな」


 だからどう、という訳ではないけど、カズキ。


 カズキは、今でも時々、ダンジョン探索を終えた夜に1人で『飛竜の呼び笛』を使ってモルゲンロード学園や、他の大きな拠点に戻って、同級生の攻略本として働いたり、連絡が取れなくなった――つまり、全滅したパーティがいないかどうか確認したりと忙しく働いている。ほんと、偉い。


 カズキ曰く、各クラスの学級委員長が協力して始めた活動で、カズキだけがやってるわけではないとのことだけど。でも、その中でもリーダーとして扱われているのはカズキだろう。


 そのカズキが言うんだから、『黄泉比良坂』に、何パーティかは逗留していると思って間違いないだろう。『黄泉比良坂』はけっこう広いダンジョンで、攻略にはあたし達ですら1週間くらい掛かった。


 同級生。


 同級生、かぁ。

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