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エンディングから始まる異世界漂流。  作者: 桜木彩花。


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第12章 ローズー狩って狩って

 もう、何日続けただろう。


 あたし達は、『影森への野道』でのクエストを完了させ、『薔薇園への街道』へやって来ていた。『薔薇園への街道』で全滅していたパーティは3つ。18人。『影森への野道』で全滅していた24人と合わせて、42人。1クラス分くらいは、この状況を何とか受け入れたんだなと思うと嬉しい様な、その42人が全員外れダンジョンを引いたんだと思うと悲しい様な。何だかな。


 必要なお金は最低でも4200Y。蘇生に失敗して、複数回依頼する事を考えれば、6000Yくらいは欲しい。


 『薔薇園への街道』に出て来る敵は、ローズーという、薔薇型の敵1種類。蔓みたいにのばして来る茨の鞭が、後列まで届いて痛いけど、火属性の魔法にえらく弱い。カズキとサキちゃんで、1匹ずつ確実に倒せるから、そんなに戦闘は長引かない。


 さて。


 ローズーがドロップするのは、『折れた薔薇の枝』。売値は何と、12Y。微妙ですね。はい。分かってます。500個は集めないとね。果てしないね。


 ドロップアイテムは、モンスターによって1種類か2種類、固有で落とす売却用のアイテムの他に、あたし達プレイヤーが装備できる武具をドロップする事もある。ドロップする確率は、1回の戦闘につき13分の1。つまり7.7パーセント。


 『1回の戦闘につき』って言うのが悲しい所で、1回の戦闘でモンスターが1匹出現しようが、5匹も6匹も出現しようが、武具のドロップ率は変わらないらしい。まぁ、仕様だから仕方ない。


「燃えちゃえっ!」


 サキちゃんが残り1匹となったローズーを燃やして、戦闘終了。


 っと、噂の武具ドロップがあったみたい。


 武具は、勝手にアイテム欄に追加される売却用アイテムと違って、宝箱の中に入っている。今も、ローズーが7色の光に包まれて消えると、入れ替わりみたいに茶色い木の箱の宝箱が現れた。


「おっ! 宝箱! 来た来たー!」


 盗賊のケントが、宝箱の傍にしゃがみこむ。申し訳ないけど、あたし達は逆に、ケントと宝箱から距離を取る。


 宝箱には、ほぼ間違いなく罠が仕掛けられている。安全に罠を解除して開ける『解錠』って魔法もあることはあるんだけど、盗賊のレベルが30にならないと覚えない。あたし達は、ローズーを狩り続けたけと、まだレベル17だ。


 『解錠』には届かないとはいえ、『薔薇園への街道』の適正レベルは8から10だから、あたし達がどれだけぶっ飛んだ回数、『薔薇園への街道』で戦闘を続けたかおわかり頂けると思う。


 今日もローズー、昨日もローズー、きっと明日も、ローズー。


 あたしの曖昧な情報に付き合ってくれているみんなの優しさが、とっても有り難い。


 まぁ、まだ6000Y溜まって無いっていうのもあるんだけど。


 でも、この先のダンジョンに進んでしまえば、もっと早く6000Y貯められるだろうし。


 カチリ、と音がして、宝箱から矢が飛び出した。盗賊のケントは、罠の解除に失敗したらしい。でも、ケントは慣れたもので(というか、回避率の判定が入って)矢をかわして、宝箱の中から何かを取り出す。


 お願い。


 お願いっ!


「あー、またマントだ。誰か、装備するー?」


 がーん。


 まぁ、マントも防御力の底上げになるから良いんだけどね。前列の3人は、もうとっくに以前入手したマントを装備しているから、次は後列のあたし達だ。


「誰かっつーか、後列で一番防御力の低い奴だろ。カズキか?」


「そうだね、おれかな」


 カズキは、宝箱の中から出てきた茶色のマントを制服の上から羽織る。うーん、マントとか、一気に冒険者っぽい!


「さて、またローズー狩るかー」


 ケントは、その辺りをぐるぐる回り始める。猫が自分の尻尾を追いかけてるみたいな光景だ。その内バターになっちゃったら、どうしよう。


 ほんとに、そろそろ融けちゃいそう。


 6000Yまでは果てしない。


 ドロップ率も、果てしない。


 だけどあたしは信じてる。


 このゲームはクソゲーだけど。


 でも、ゲームは、あたしの、あたし達の努力を決して裏切らないって。


 掛けた時間は報われるって。


 信じてる。


 けど……。


「陽……暮れて来たね……」


「来ちゃったねー」


 アキラとケントが言い合う。確かに、空はもう夕方と夜の境目。マジックアワー。世界は金色に輝いているみたいに見えた。


 『薔薇園への街道』は、薔薇園に向かうダンジョンと見せかけて、もう薔薇園みたいな体裁を成している。道の両側には薔薇の生け垣が並んでいて、赤や白や黄色やピンクの薔薇が花を咲かせていた。その薔薇の花も、濃い緑色の葉も、全部が柔らかい金色に染まる。


「ユカちゃん、見てみて、バラ、すっごい綺麗。金色」


 サキちゃんがふわりと笑って、生け垣の白い薔薇を指差す。触れようとすると不可視の壁に阻まれるから、触りはしないけど。


「うん、綺麗」


 嘘みたいな。


 本物みたいな。


 世界。


 この異世界漂流を――異世界転生なのか異世界転移なのか異世界召喚なのか悩んだ結果、学年の誰が言い出したか、異世界漂流という言い方に落ち着いていた。この世界に『居つきたくない』という想いというか怨念が籠っていて何ともはやな感じだけど――あたし達、だけじゃなく、この世界に引っ張りこまれた1学年205人引く死亡中の42人引くあたし達6人の、157人も、受け入れ始めたみたいだった。受け入れる、だと、ちょっと変かな。納得したみたいだから。


 でも何ていうか、初めのあの絶望に座り込んだような調子は無くなった。


 恐る恐る、カズキから得た情報を元にして『魔女が潜む森』の探索を始めた生徒もいた。


 図書館には、元の世界の数学とか化学とか、何と英語と国語の教科書まで揃っていたらしく、自学自習に勤しんでいる生徒もいた。


 あるいは、この世界での時間を『休み時間』と認識して、サッカーとか、比較的道具が少なくてすむ球技をして遊び呆けている生徒もいる。


 みんな、この世界で生き始めた。


 それもこれも、カズキのお陰だと思う。


 ほんと凄い。


 走って逃げたあたしや、無駄だと鼻で笑ったソウマと違って、カズキは灰クロプレイヤーでも何でもないのに、この世界の説明をみんなにした。


 八つ当たり気味に恨まれた、みたいだけど。


 でも、あの澱んだ空気はどっかに行った。


 みんな、この世界に馴染み始めた。


 ほんっと、カズキは凄い。


 単なる、偶然、この灰クロに詳しいだけの、ゲーマーたるあたしは、何が出来るのか。


 ソウマは、俺達ゲーマーに出来る事なんて、ゲームをプレイする事だけだろ、と言い切った。まったくもってその通りだ。頑張らないと。もっともっと、頑張らないと。


 そこで、あたしはふと気付く。


 あたしのレベルはもう17。『薔薇園への街道』の適正レベルは8から10。


 ……もう、あたし1人でも、ローズー狩りに、行けるんじゃない?


 あたしの巫女という職業は、確かに後衛魔法使い系だけど、レベル、倍もあるんだよ? しかも、レベル15になった時に『キュア』と同等の単体回復魔法『祝福』を覚えていた。


 部誌の締め切り前とか、定期試験の前に、1日2日ほとんど寝なくたってあたしは割と平気な体質だし。


 よし、決めた!


 モルゲンロート学園に戻ってご飯食べたら、1人でまた『薔薇園への街道』に来よう!


 1度決めてしまうと、あたしは迷わない派だ。


 学生寮で食べる夕食を控えめにして、さっさとお風呂に入って自室に引き上げる。隣の部屋のサキちゃんとかケントに気付かれないように、しばらく待ってから外に出る。廊下には誰もいない。よしっ!


 すっかりとっぷり日が暮れた後の学生寮は、割と暗い。でもまぁ、夜の住宅地程度の暗さだ。この世界にさすがに電気はないみたいだけど、廊下の所々に、『ライトン』という辺りを照らす魔法で生み出されたのであろう光球が幾つかふよふよ浮かんでいた。


 あたしは弓を握りしめて、『薔薇園への街道』に向かう。


 1人ぼっちで。


 初めは、ちょっと怖いから入口近くをうろうろする。視界の暗転。エンカウント。緊張したけど、やっぱり、どうってことなかった。あたしの弓の1撃で、ローズーは七色の光に変わる。ローズーからの攻撃は、冬に紙で手を切った時くらい痛い。その程度だ。


 地味に痛いけど、HPバーは5パーセントくらいしか減らない。ローズーは1度に最大5匹までしか現れないから、うん、大丈夫そう!


 そんなわけで、あたしはいい気になってローズーを狩り続ける。


 ローズー3匹を倒す。『折れた薔薇の枝』を1つドロップ。


 ローズー2匹を倒す。ドロップ品なし。


 ローズー4匹を倒す。ドロップ品なし。


 ローズー3匹を倒す。ドロップ品なし。ちぇっ。


 ローズー5匹を倒す。『折れた薔薇の枝』を2つドロップ。


 ローズー3匹を倒す。『折れた薔薇の枝』を1つドロップ。


 ローズー3匹を倒す。


 ……とっ! とうとう宝箱が出た! 13分の1なのに、7回目でもう出てくれてちょっと、いや、だいぶ嬉しい。あ、でも宝箱って罠が仕掛けられてるんだよなぁ……。今日の昼間、ケントは失敗してたけど、盗賊系の職業の場合は罠の解除成功率が高い。あたしは巫女だ。しかも人間種族ヒューマンだから、幸運値も高くも無く低くも無くって感じ。


 うーん。


 罠が仕掛けられていない可能性もあるけど、まぁ、まず間違いなく、罠は発動するだろう。


 ま、いいや! 開けちゃえ!


 昼間みたいに矢が飛び出して来たって、回復すればいいし!


 あたしは、宝箱の蓋に手を掛ける。開ける。ちくりっ、と指に痛みが走った。


 う、これは……。


 あたしはステータス画面を確認する。やっぱり。『毒』のアイコンが表示されていた。毒針の罠かー。まぁいいや、時間経過で毒が切れるまで、こまめに『祝福』使おう。

 

 気を取り直して、宝箱の中を覗き込む。か、空っぽ……!? に、一瞬見えたけど、端っこに小さな指輪が入っていることに気付く。


「護りの指輪かぁ……」


 防御力が4上がる、装飾品装備だ。ま、装備しておこっと。


 そしてまたローズー3匹を倒す。ドロップ品なし


 ローズー4匹を倒す。『折れた薔薇の枝』を1つドロップ。


 ローズーを……。


 ……どれくらい、倒しただろ。


「……アイテムボックス」


 アイテム欄を確認する。折れた薔薇の枝×13、とあった。時計なんて持ってないけど、薄っすらと空は明るくなり始めている。うーん、まぁ、何日もやってダメだったんだから、そう簡単に上手く行かないか。あと、2、3回戦ったら帰ろうかな。


 そしてあたしはぐるぐると同じ場所を歩き回る。暗転。ほとんど無意識の動作で、攻撃コマンドを押し、ローズーを適当に選択する。


 ショートボウでの攻撃。ローズー1は7色の光と化す。


 ローズー達の攻撃。いたっ。あいたた。2回攻撃されて、ターンエンド。


 圧倒的なレベル差のお陰で、また、あたしの攻撃からターンスタート。ローズー2が死亡。ローズー3があたしに攻撃してくるけど、回復は戦闘後でいいや。そのままローズー3も倒して……。


 出た。


 宝箱だ!


 やったー! 区切りとしては良い感じ。これ開けたら、もうほんとに帰ろう。眠くなって来たし。今から帰れば、朝まで仮眠くらいは出来るだろう。


 あたしは光に吸い寄せられる虫みたいに、宝箱に近付いて、開けた。


 かちり、と罠が発動する音がした。


 まぁ、仕方ないよ。罠解除なんて出来ないし。何かしらのダメージは受けるだろう。でも、レベル18だし。えへへ。1人で延々と戦って経験値独り占めしたら、レベル上がっちゃったよ。あ、勝手な事したって、みんなに気付かれちゃうな。ま、いいか。


 考える時間はたっぷりあった。


 罠の発動が、遅かった――独自の視覚効果エフェクトと、音声を伴うものだったからだ。


 鎌を振り上げた死神の姿が、見えた。


 あ。


 やばい。



 これ、即死効果の――



 ケヒヒ、と死神が笑う声が、聞こえた様な、聞こえなかった様な。


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