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エンディングから始まる異世界漂流。  作者: 桜木彩花。


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第11章 ぜんぜん足りない!

 あたし達は既にレベル6。適正レベルの1つ上だ。だからまぁ『影森への野道』も、そんなに警戒する必要は無い。


 『影森への野道』に出て来る敵は、カラフルなでっかいニワトリみたいな敵、チェキィンと、おっきい人魂みたいな敵、ボーレイの2種類。ボーレイは魔法のファイアを使ってくるから、後列のメンバーも注意って感じかな。それくらい。


 あたし達は、チェキィン2匹を1回倒して、そしてそこに辿り着いた。


「……あぁ!」


 細い悲鳴みたいな溜息を、アキラが漏らした。


 うわー。何か。何か――まぁ、死んでますねって、感じ。血が出ていたりしないのは、せめてもの救いだ。去年亡くなったおじいちゃんの遺体って、こんな感じだった。


 綺麗で、眠ってるだけみたいだけど、でも、決定的に何処かが違う。


 彼等の回りには、硬貨が数枚、ばら撒かれていた。全滅したせいだろう。


 見ただけじゃ、彼等の職業は分かんない。けど、一応、剣とか杖を持っているから、職員室に行って職業を変更して、売店に行って武器を買って――そういう、ゲーマーとして基本の事はやったんだろう。彼等とあたし達の間に、違いはそんなに無い。


 ただ、あたしとソウマは知っていた。


 このゲームがちょっとクソゲーだって。


 “モルゲンロード学園の近くにあるダンジョン”がいきなり3つもあって、その内2つは、レベル1で突入したら絶対に全滅する様な難易度を誇っているって。


 あぁ。


 ここで死んでる同級生と、あたし達の違いってどれくらい?


 ダメだ、見捨てたりしたら絶対にダメ。彼等を助けないと。


「なむなむ……」


 サキちゃんが、倒れている6人に手を合わせた。うーん、それじゃほんとに死んじゃったみたいだよ。


「サキ、それ、まだ早くね?」


 そうそう、ケントの言う通り。


 サキちゃんはぱちぱちと目を瞬かせた。


「あっ、そうか。そうだよね。えーと、回収して、保健室に連れて行けば、生き返るんだよね」


「たぶんな。しかし、考えてみれば『回収』ってどうすんだろうな……」


 ソウマはステータス画面とかアイテム画面とか、画面を幾つも開いて考え込んでいる。『回収』コマンドが見つからないらしい。


「向こうも6人だ。最悪、おれ達が1人ずつ背負って帰れば……」


 言いながら、カズキはあたしとサキちゃんを見て、情けない顔をした。倒れてるのは、全員男子だ。うーん、でも、まぁ、ナチュラルに弓を引けたりするし、筋力も多少強化されてるんじゃないかな。あたしなんて男子とそんなに身長も違わないし。大丈夫、だよ。


「あたし達も、何とか頑張るよ」


「うん、頑張る!」


 あたしより小柄なサキちゃんも、勢い込んで言った。


 言うだけじゃ何だし、あたしは男子生徒1を持ち上げようと彼の傍らにしゃがみ込んで――


 ふと、気付いた。


「……アイテムボックス」


 アイテム画面が開いた。これ、さぁ。これ、あたしの手も、入ったよね?


「おい、ユカ?」


 さすがのソウマも、これはちょっと躊躇っていたらしかった。


 でも、重いし。


 彼等を助けなくちゃとは思うけど、それはそれ、これはこれだ。


「えいっ!」


 あたしは男子生徒1を引きずって、アイテム画面の中に突っ込んだ! 入った! やったぁ!


「うぇーい! やるねぇ、ユカ!」


「……たはは」


 歓声を上げたケントに、あたしは曖昧な笑みを返す。やっちゃいました。


 アイテム欄の中には、井上翔太×1、と表示されている。あ、クラスメイトだ。


「あ、アイテム扱い……?」


 アキラはじゃっかん引いたみたいだった。ソウマは顎を触って、それから、男子生徒2をアイテム画面の中に突っ込む。


「しかし実際、重いしな。他に3パーティもあるんだ。効率が良いのは確かだろ」


 そうしてソウマは、男子生徒3から6もどんどんアイテム画面に突っ込んで行く。あっと言う間に片付きました。


 残り3パーティも回収して、全部で24人分の名前がアイテム欄に並ぶ。うーん、おっそろしいな。


 保健室で蘇生を行った時の、蘇生率は70%。セーブ&ロードがあれば楽勝の確率なんだけど……。


 ここでは『それ』は出来ない。『それ』だけはない。


 となると、2回蘇生に失敗して灰になる確率は1割くらい。灰になると、蘇生率はさらに下がって50%になる。単純に数字の上では、4回蘇生に失敗してロストする可能性は2%ちょっと。大丈夫だと、思うけどねぇ……? しかし、2人は灰になってもおかしくないのか。見たくないなー。仕方ないけど。


 24人を回収したら、今日はレベル上げを諦めて、モルゲンロード学園に戻る。


 保健室にいるのは、『男の娘』担当と名高いリリアン先生。


 天使族クリスティアの、先生にしてはちょっと幼めだよなー? みたいな女性の外見で、名前も『リリアン』なんてちゃんと女性名なのに、中盤のイベントで自分は男だみたいな発言が唐突に挟まれる。どうしてこうなった、と、だがそれが良い、とファンからの評価は半々に分かれる。


 あたし個人としては、どうしてこうなった、と言いたい。良いじゃないか、普通にロリ先生で。何故男の娘にしてしまったんだ。


 ロリ先生、もといリリアン先生は、保健室に入って来たあたし達を見るなり血相を変えた。


「大変! 死者24人なんて!」


 あたし達が何か言う前に、リリアン先生はあたし達の状況を見抜いてみせる。ほー、死者連れて保健室行くと、こうなるんだ。ちなみにあたしは『パーティ内のメンバーのレベルアップのタイミングがずれるのは嫌』派だから死者を保健室に連れて来るのなんて初めてだ。え、もしも戦闘中にキャラが死んだら? 蘇生が間に合わずに戦闘終わっちゃったら、リセット一択だよ。


 まぁあたしのプレイスタイルはさておき。


 あたし達がアイテム画面から同級生を取り出すと、リリアン先生は手早く保健室の奥に並んだベッドに彼等を寝かせていった。おお、あたしよりも背がちっちゃくて、力の低い天使族なのに、軽々と2人も3人も担ぎあげてるよ、リリアン先生。先生のレベルって、幾つくらいに設定されてるんだろうな。


「さて、蘇生は1回100エンよ」


 リリアン先生は振り返り、そしてあたし達6人の口からは「あ」という間抜けな声が漏れた。


 お金。


 ぜんぜん足りない!


 あたし達の所持金は現在68Yだよ! ろくじゅうはちえん! 24人蘇生させるなら、最低でも2400Yも必要だ。


「……と、とりあえず昨日ドロップした『キャロリンの根』を売りに行こうか」


 顔を引きつらせながら、カズキが言う。そうだそうだ。昨日、キャロリンを狩りまくって、『キャロリンの根』は30個くらい溜まった。それを売れば。売れば……そうだねぇ……確か1個7Yで売れるから、210Yになるかなぁ……。うわーん、2人しか蘇生出来ないじゃん!


「あの、先生」


 ソウマが軽く手を上げた。


「どうしたの?」


「金足りないんで、しばらくこいつ等預かってもらえますか」


 あたしと同じように、『キャロリンの根』の低価格っぷりに思いを馳せたんだろう。ソウマが、妥当な相談を始める。


 リリアン先生は、わりとよくある事なのかあっさりと頷いてくれた。


「あぁ、新入生さんはどうしてもね。大丈夫よ」


 うわー、良かったぁ! しっかし、2400Y。蘇生に失敗して複数回依頼することも考えると、3500――いや、4000Yくらいは欲しい。大変だぁ……。


 リリアン先生に頭を下げてから、保健室を出る。出るなり、ソウマが溜息を吐いた。


「新しいキャラ作って、装備剥ぎ取って売れないのがキツイな」


 ソウマが口にしたのは、ゲームだった灰クロの、序盤で一番お手軽にお金を稼げる方法だった。新しいキャラクターを登録すると、初期装備で、短剣と、制服上・制服下、と革靴を装備している。その初期装備4点を売り払えば、100Yくらいにはなるのだ。あ、あたしはそんな非道な真似しないけどね!?


「そ、そんな酷い事、ダメだよ」


 あたしと同じくキャラクターメイキング出来るゲームを愛するアキラは、ソウマの手法にすぐピンと来たのか、眉を寄せた。


「たかがゲームの無名キャラだろ」


「でも、ダメだよ」


 そーだそーだ! 頑張れアキラ!


 まぁ、出来ないものは出来ないんだけどね。


 4000Yかぁ……。あ、でも、『影森への野道』だけじゃなくて、『薔薇園への街道』に行った人もいるってカズキ、言ってたよね。ってことは、もっとかー!?


「……あの」


 あたしはおそるおそる、ソウマとアキラの会話に割り込む。


「システム的に出来ない事は諦めて……で、みんなを蘇生するために、お金、貯めなきゃいけないでしょ。それも、たくさん。『キャロリンの根』なんて、7Yでしか売れないから、とにかく、もっと良いドロップアイテムが手に入る、先のダンジョンに挑まないとダメだと思うの。だけど、あたし、嘘か本当か分かんないんだけど、攻略サイトに載ってた情報で、試してみたい事があって……」


 それは、攻略サイトに吐き捨てるように書き込まれていた情報。


 嘘か真か、有志はその事実に挑み、そして余りにも低い可能性に、誰もが心折れて行った。


 そういう、途方も無い、確率に、あたしは挑もうとしていた。


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