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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

サイコピエロの素敵なお話

作者: 緑木 琥珀

※『噂の遊園地(作品提出ID:239)』と繋がる部分があります。



 ピエロはもともと、遊園地のサーカスで働いていた。けれど、サーカスの維持が難しくなって、遊園地からはサーカステントがなくなってしまった。

 ピエロは幸運にもみんなに人気があったから、遊園地側から風船配りの役として雇われた。ピエロは子供と遊ぶのが好きだから、快くそれを承諾した。



 青い風船は大人や学生に。黄色い風船はカップルに。赤い風船は、子供達に。


 風船配りはそれなりに楽しかったし、ピエロはジャグリングやなんかをやって見せたりして、やっぱりみんなから人気者だった。


 ―――道化はやっぱり、こうでないと!


 人から注目されるのが大好きなピエロは、色々なことをしてみんなを楽しませた。その分、自分も楽しんだ。




 そんなピエロには、もうひとつの楽しみがあった。それは、



―――子供達をいたぶること



 それを始めたのはピエロが風船配りを引き受けたのと同じとき。偶然見つけたドリームキャッスルの地下に、自分だけの『プレイルーム』を作った。

 もちろん豪華なものを買うお金はないから、立派な金属の椅子をひとつ置いた。壁に備え付けられていた松明は、スイッチで火がつくように、自分で配線した。




 記念すべき一人目は、赤いリボンのワンピースを着た女の子。とても素敵に泣き叫んでいたのを覚えている。


 二人目は男の子の二人組。とても仲良しそうだったから、二人の片手を縫い合わせてあげた。こうしたらずっと一緒にいられる。


 三人目は小柄で華奢な女の子。とても可愛かったから、人形にしたくて綺麗に殺した。


四人目は......



 『遊び』始めてから、数えて二十一人目の子供を地下室に連れていった翌日。

 ピエロは遊園地の管理者から「遊園地の営業を終了する」と伝えられた。理由は、子供の行方不明事件、だった。


 ―――ピエロの所為(せい)?ピエロは子供達と『遊んで』いただけ。何も悪いことはしていない。



 ピエロは廃園するまでずっと、子供達と『遊び』続けた。




そしてそれは、今も......




◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ピエロはいつも通りに遊園地に来て、レストハウスの前に立っていた。そうして昔の楽しかった頃を思い出しながら、お客さんが来るのを待っていた。


 若者の集団が来たのは、午前二時をまわった頃。


「本当にお化けなんて出るのかよ」

「雰囲気はあるけどなぁ」


ガヤガヤと(やかま)しくビデオカメラを構えて進む一行(いっこう)を見て、ピエロは動きを止めた。

 まるで最初からそこにあった人形というように、にっこり笑顔を浮かべて微塵も動かない。それでも自然、胸が高鳴って、自分でも目がキラキラと輝いているのがわかった。


 ――ああ、久しぶりのお客さん!精一杯『遊んで』あげよう!!


 ピエロは集団を追いかけた。彼らは錆び付いた観覧車の前で談笑している。その後ろ姿めがけて、ピエロは片手を伸ばした。


「やあやあ皆さん、裏野ドリームランドにようこそ!ピエロが夢のような世界へご招待するよ!!」


 ピエロは彼らを連れて色々なアトラクションに乗った。脳みそが回るコーヒーカップや、きらびやかに回るメリーゴーラウンド、永遠に回る楽しい観覧車。


 ピエロは最後に、お気に入りになった(ひと)をドリームキャッスルに連れていった。一緒にトロッコに乗って、綺麗なお城の中にある地下室へ連れていった。

 その頃の地下室は血がベタベタについていて、子供達の骨や腐った肉が散乱していた。とっても素敵な部屋だった。

 なのに、その(ひと)はひどく怯えて逃げようとした。だからピエロはその(ひと)の両足を切り落とした!そしたら素敵な声で答えてくれた。たくさん叫んで答えてくれた。ピエロはそれが嬉しかった。


 その(ひと)と遊び終わってから、ピエロは死体を遊園地の外に広がる山に捨ててきた。放置してあった子供の肉や骨も、要らない分だけ同じところに捨てた。昔に作った女の子の剥製も、劣化してしまっていたから物置に入れておいた。

 残しておくのは、綺麗な骨と血の跡だけ。


 ―――新しいお客さんが来るんだから、きちんと掃除しておかないとね!



 手持ち無沙汰になったピエロは、『遊んだ』(ひと)の持っていたビデオカメラを(いじ)っていた。

 家に帰ったピエロは、その映像を再生してみた。動画はこの遊園地の宣伝用に使えそうだった。ただ、若者の声に混じってか細く、『たすけて......』『こっちにおいで......』と、声が聞こえた。地獄の底から(ささや)くような声に首をかしげて、ピエロは音声データをカットした。

 有名な投稿サイトに動画をアップして、ピエロは考える。この映像を見て、何人の人が遊びに来てくれるだろう。




 反応があったのはそれから一ヶ月と二週間が経ったある日だった。

 ピエロは機材整備のために遊園地のアトラクションに電気を通した。すぐに園内は賑やかな音楽に(あふ)れ、幻想的な光に包まれる。


 この頃は、得体の知れない実態のない(こえ)が、ピエロにも聞こえ始めていた。


 ヒュウヒュウと奇怪な音がピエロの周りを旋回している。それを振り払うようにしながら、ピエロはレストハウスの前に移動した。

 五分も経たないうちに、中学生らしい四人組がやって来た。何やら怖がっている様子の三人と、それを先導する、ビデオカメラを持った虚ろな目の少年。


 ピエロは目を輝かせた。

―――やっぱり宣伝効果があった!遊びに来てくれた!


 ピエロはにっこりと微笑んで彼らに近づいていった。少年のうちの一人がこちらを指差している。きっとこんなに素敵なピエロを見たことがなかったんだろう。

 ジャグリング用のナイフを片手に持ち、ピエロは子供を追ってお化け屋敷の中に入っていった。


 そこから先は、いつも通り――――


 ドリームキャッスルの地下で子供達と遊んだ。ピエロが一番最後に捕まえた少年も、ついには死んでしまった。



 ―――ピエロの周りでは行き場のない声達が唸りをあげている






◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 「どう?ピエロの話、面白い?」


彼は手に持った金槌を振り上げる。


 「面白い?面白かった?」


それが、何度も頭に振り下ろされる。


 「ねえ、君も、『動画』見てきてくれたんでしょ?ピエロは変?変なの?」


呼び掛けられても、ほとんど聞き取ることができない。意識が朦朧(もうろう)としている。

 どうして、こうなった?


 友人に面白い動画があると勧められて見た、アレ。残酷な描写の一切無い、ホラー動画。興味を持って、その遊園地に来てみた。それだけなのに。


 目の前のピエロは頭がおかしい。ドリームキャッスルに入った瞬間に出てきたこいつは、マスコットキャラクター然とした態度で(まと)わり付いてきた。

 ―――そして、地下に案内され、現在。


 「あは、アハハ、はははハハハハ!!たのし、楽しぃね!」


イカれてる。


 殴りつけながら、だんだんこいつは人格も自我も崩れてきている。

 こいつは人間じゃない。それは自分も同じだし、それを自覚している。けどこいつはそれを知らない。



 苔と錆びにまみれた、捨てられた土地。この山は十年以上前に地主を失ってから、誰も寄り付かない。まして、奇怪な事件ばかりある場所だ。今ではここに遊園地があったと覚えている人間はいないだろう。『動画』もとうの昔に削除されている。


 ―――約37人を殺した連続狂気殺人犯


それが、このピエロに世間が与えた称号。未だ犯人は捕まっていない。......当然だ。犯人は遊園地の、誰も知らない地下室で死んでいるのだから。




 「次はどんな遊びがしたい?」


ピエロの亡霊が語りかける。獰猛(どうもう)なナイフが脳天に振り下ろされる。


 ――そしてもう一度、ピエロの独白が、始まる。

彼が死を自覚するまで、この『夢』は終わらない......



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