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或る日、海にて

作者: 上宮穂高

べたべた恋愛同好会第二回企画『テーマ・告白』参加作品です。

詳細は『小説家になろう〜秘密基地〜』内に展開中のスレッド、もしくはべたべた恋愛同好会のページまでどうぞ。


また、キーワード『べた恋』で検索すると、他の作者様の素晴らしい作品を見ることができます。

  


  

   

  

   

夕暮れ。

キレイだね。

海の夕暮れって。

   

  

何度目だろ、ここに来たの。

ずいぶん小さい頃からだったよね。

うん。

ここでよかったの。

わたし、この浜辺好きだから。

  

   

  

──ザザァーン……

──ザザァーン……

  

   

  

ありがとね。

無理言っちゃって。

ほんとは、あそこから出ちゃいけなかったんだよ?

……フフフッ、驚いた顔してるネ。

でも、いいから。

ほんとに、ほんとにありがと。

わたし、心から感謝してる。

こうして、キミの自転車に揺られて。

一も二もなく連れ出してくれて……ウフフッ。

海に着いて。

こんな広い海が見れるなんてね。

  

   

  

──ザザァーン……

──ザザァーン……

  

   

  

キャッ、冷たッ。

ちょっとね……波かぶっちゃった。

でも、気持ちいいね。

渚を裸足で歩くって。

   

  

左には、海と空でしょ。

みんな薄青に溶け合っちゃって。

右向いたら、一面うすぅい橙の夕暮れ空。

それに振り向くと、そういう景色の中にキミがいてくれて。

アレ、赤くなってるよ?

フフフッ。

  

   

わたし、そんな景色の真ん中を歩けてるんだよ。

暗い気持ちなんか、吹き飛んじゃった。

幸せだよ?

わたし、十分に。

  

   

ホラ、こんな風に手を広げると!

飛べそうな気がするの。

ね、ね?

そうだと思わない?

この広い広ぉい景色の中へ。

風、気持ちいいね。

こんなステキな景色に、ステキな風。

飛びたくも、なるよ。

  

   

それに、足の裏。

波がチャプチャプ打ち寄せる辺り。

ヒヤッ、としてさ。

足の裏がムズムズするの。

わたしの体そのものが、飛びたがってるみたい……。

  

   

えっ、体大丈夫かって?

な〜に、わたしがこれくらいで体壊すとでも?

ダイジョーブイッ!

それは、キミが一番知ってるでしょ?

それより、わたしのサンダル。

きちんと持っててよ?

帰りもそれなんだから。

か弱い乙女を素足で歩かす気?

  

   

もう、五月蠅いなぁ。

揚げ足取らないでよっ。

それは体は弱いけど……気丈夫って言うのッ。

なぁに!?

赤くなってもないよ!

夕陽の……せいだよっ。

  

   

  

──ザザァーン……

──ザザァーン……

  

   

  

キミ、ちっとも変わってないネ。

ずっとわたしの揚げ足取ったり、からかってたりして。

一言で言っちゃえば、ナマイキ。

そ、ナマイキ!

何、怒んないでよ。

ほんとのことだもん。

でも、そういうとこも嫌いじゃなかったかな……。

  

   

フフフ。

ううん、何でもなーい。

  

   

  

   

ね、覚えてる?

わたし達、何度もここに来たよね。

最近は……いつだっけ。

来てなかったね、ここしばらく。

  

   

小さい頃は毎年毎年。

そこまで覚えてない?

ヒドいよぉ、わたしはいつも覚えてたよ……いつも。

家族ぐるみで海水浴にも来たし。

ませてた頃は、二人っきりでも来たよネ。

え〜、その時のも覚えてない?

じゃあ、どうして顔がまた赤らんでるのかな?

フフフッ。

  

   

波打際を思いっ切り駆けっこしたり。

キレイな貝殻拾ったり。

どれだけ遠くまで泳げるか遠泳、なんてのもしてたよね。

それで疲れた後は、決まってお父さんお手製の塩焼きそば。

美味しかったなぁ……また、食べれるのかな。

ビーチパラソルの下で、並んで食べて。

  

   

最後は夕暮れ時。

帰り支度の前に。

二人でさ。

渚、歩いたよね。

今みたいに。

今、みたいに。

  

   

……ほんとに、久し振りなんだよね。

うん。

思い出したら……想い出の中じゃ、キミもわたしも、子供の姿だったよ。

みんな。

キミが忘れちゃうのも、無理は……ないかもしれないね。

  

   

──ザザァーン……

──ザザァーン……

  

   

今日は、ほんとにありがとね。

わたしも、昔のこと……少し忘れかけてたの。

ホントのこと言うと。

ずっとあんな場所で暮らしてたから。

それをね、最後に思い出せてね……よかったよ。

ほんとに……。

  

   

あ、ヤだな。

そんな、悲しそうな顔しないでよ。

笑ってよ。ね?

笑って。

笑ってよ……。

  

   

──ザザァーン……

──ザザァーン……

  

   

大分……暗くなって来たね。

ううん、もう少しいさせて。

笑顔、見せてくれないんだもん。

バツだよ、バツ。

これくらいのワガママ、通らせてよね。

  

   

風……少し、寒くなって来たかな。

あ、うん、大丈夫。

大丈夫だって。

まだ、平気。

それに、この風に吹かれてたら、体が中からスッとするみたい。

さっきから手広げてるのもそれの為だよ。

いっぱい、いっぱい風を浴びて。

  

   

こんなことも、今の内にいっぱいしておくつもりなんだ。

あの部屋じゃ……風、なんて吹かないの。

ちっとも。

だからね。あそこで色々溜まってたのをここで全部スッキリさせるつもり。

スッキリ、ね。

  

   

──ザザァーン……

──ザザァーン……

  

   

え、昔からずっと変わってないって……?

昔からこんなポーズしてたね、って。

……そう、かもね。

  

   

ね、一つだけ聞いていい?

わたし……変わった?  

   

  

   

何、その返事。

もう、どっちかにしてよっ。フフフッ。

じゃ、わたしに言わせれば、キミはちっとも変わってない!

ちぃっとも。

バカにしてるんじゃないよぉ、ホンキで言ってるの。

  

   

  

  

変わってないって……変わってほしくないって、わたしが、思ってるんだからっ。

  

   

──ザザァーン……

──ザザァーン……

  

   

……あの、さ。

覚えてる?

二人っきりで、ここに来た時のこと。

うん、あの時。

そういえば……あれが、前にここに来た最後だったかな。

  

   

キミの自転車に二人乗りして。

何十分もかかって。

その上、着いて裸足で走ってたら、砂に埋もれてた硝子の破片で足、切っちゃったよね。

わたし。

そ。

あの時、心配してくれたキミの顔……今でも思い出せるんだ。

笑ってるって、バカにしてるんじゃないよっ? もう。

それくらい、嬉しかったってことだよ……あの時。

  

   

手当てなんかもしてくれたよね。

砂浜から防波堤まで、わたしを連れて行って座らせて。

周りに、誰も人いなかったからって。

ハンカチちぎって巻いてくれて。

わたし……泣いてばっかだったな。

血が止まらなかったから、死んじゃう、死んじゃうよって。

フフッ、バカはわたしだったみたい。

でも、ね。

はっきり覚えてるの。

あの時、泣いてばかりのわたしに、

  

『いざっていう時は。俺が守ってやるから、泣くな』

  

って……言ってくれた、こと。

  

   

──ザザァーン……

──ザザァーン……

  

   

あの言葉……今も、変わってない……のかな。

わたし、すごく嬉しかった。

嬉しかったよ。

あんなこと、お父さんやお母さんも中々言ってくれなかったし、他の人なんて……。

だからね、すっごく嬉しかったんだよ……あの言葉。

  

   

あの言葉が、なかったら……わたし、今頃死んじゃってるんじゃ、ないかな。

ううん、本当の話。

知ってる、わたしが死にたがってたって。

  

   

  

   

……知ってたんだ。

  

   

  

   

──ザザァーン……

──ザザァーン……

──ザザァーン……

  

   

   

  

寂しかったの。

どうしても。

独りぼっち、だったしね。

お父さんも、お母さんも中々来てくれない。

そういう、そういう時に思い出してたんだ……。

うん。

御守り代わり、って言ったらヘンかな。

  

   

だからね。

さっきも……言ったけど、本当に、感謝してる。

本当に……感謝、してるよ。

ありがとう、って何回でも……言いたいくらい。

  

   

  

   

──ザザァーン……

──ザザァ……

──ザァ……

  

   

  

   

明日。

明日、わたし……死ぬかもしれない。

聞いちゃった、よね。

明日のこと。

  

   

でもね……わたし、死なない。

約束、するよ。

どんなに、苦しくても。

この先……独りぼっちでも、寂しくても。

  

   

だからね、だから、だから……代わりに約束、してくれる?

まだわたしを……守っていて、くれる?

  

   

  

   

わたし……好き。

キミのこと。

  

   

  

   

好き、なの。

だから、今まで……生きてこれたの。

だから、だから……。

   

  

  

   

──ザザァ……

──ザザァーン……

──ザザァ……

──ザザァ……

  

   

  

   

帰ろっか。

うん。

もう、十分。

言いたいこと言えたし。

やりたいことは、全部やれたから。

……不思議だね、わたし今は全然疲れてないの。

明日の手術まで、グッスリ眠れそう。

  

   

あ、サンダルありがと。

うん、病院まで。

抜け出したのバレちゃってるかな。

バレちゃってるか。

ごめんね、散々付き合わせて。

  

   

その代わり!

わたしの病気が全部治ったら、思いっ切り恩返ししてあげる。

だから、それまで覚えててねっ。

わたし、ずっと生きるから。

  

   

  

   

キミを好きで、いたいから……。

   

  

   

  

   

  

──ザザァ……

──ザザァーン……

──ザザァーン……

  

   

  

   

  

   

夕暮れ、キレイだったね。

海の夕暮れ。

また見たいね。

二人で、また。

  

   


いかがでしたでしょうか。

この話は、ひと頃流行ったサナトリウムもので……ってそれに入るんですかこれは?

更に、作者の自分自身が今までやったことのなかった全文一人称・会話文調。

それの試験作……という名をかぶった『ネタに詰まって長らく書けなかった挙句の妥協作品』。

猶予はしっかりあったはずなのに。

ええ……すみません。  

さて、謝罪は堅苦しいのでここまでとしまして。

今回は上にもある通り、ネタに悩んだ末の作品でした。

三つ四つ、は没ネタがありましたかね。

それで、もう浮かんで来ない……とめげていた頃、たまたま聞いた歌謡曲に自分は救われました。無論、それが題材な訳です。

どんな曲かと言えば……1970年のヒット曲、トワ・エ・モアの『誰もいない海』。

古ッ。

誰か、知ってる人いますか? 実態はモロ、自分の趣味です。ハイ。

言ってしまうときっかけは曲中のワンフレーズ。

 ─つらくても

  つらくても

  死にはしないと─           』

これなんです。

そこから、話の骨格がピピピッと出て来て、お次はそれに肉付けを……。

こんな所が制作の全貌ですかね。

歌が気になった人は是非聞いてみて下さい。『誰もいない海』。

歌とこの話と情景が、大幅に違うんですよ。

歌じゃ、主人公以外海辺に人いませんし。

第一、歌は『今はもう秋』って言っちゃってますし……。

こちらの話は、一応夏ですよ。季節。

……すみません。

  

謝ってばかりですね。

自分。

少しは内容に触れましょう。

──登場するのは、重い病に冒された少女と幼馴染みの少年。

少年はせめて大手術の前に最後に、と少女をかつてよく行った海辺へと連れ出す。

そのそばで、少女にも秘めたる思いがあった……。

そういう話です。

切な過ぎる、哀し過ぎる恋物語のワンシーン。

小説、と言うより一篇の詩……と言った方がいいかも知れません。

作者の自分も、そんな気分です。

今見てみると。

出すのはきちんとした『小説』……ってことだったんだよなぁ。

……反省。

  

それから。

ちなみに言うと、この二人の行方は、この先どうなるかなどは……誰も知りません。

作者も知りません。

全ては読者の皆さんの胸の中に……。

  

何か感じたものがおありなら幸いです。

  

  

では、読者の皆さんと会長さん始めべた恋の皆さんに最大級の謝辞を述べまして、失礼致します。

  

  

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― 新着の感想 ―
[一言] どうも、こんにちわNATAです。昨日は評価ありがとうございます。 私は元々、携帯小説関連はあまり読まないのですが、この作品は凄いと思いました。何が凄いと良いますと、最初はなぜ海で思い出話と思…
[一言] はじめまして。べた恋R15のオトハです。 おお、こういの初めて読みました(驚) ケータイ小説なんですかね? 詩? ではないですよね。 ごめんなさい。あの、ちょっとだけ「フフフ」が気になりまし…
[一言] かなり遅くなってしまいましたが、べた恋参加者の文樹妃です。 拝読しました! とても切ない恋の一ページを読ませてもらった、という印象でした。 個人的には手術が成功して、ハッピーエンドになって…
2008/07/15 17:22 退会済み
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