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2.ヒロインとフラグを立てよう!

 俺、キリツグは異世界へ転生して間もなく、とんでもない窮地に立たされていた。全ては運:8の恩恵、いや仕業か。

 

 人気のない路地裏で屈強な男達4人に取り囲まれている1人の少女。見たところ俺と同い年ぐらいだろう。少女がはたしてNPCかプレイヤーかは定かではないが、見るからにピンチだ。

 

「おいお前たち、俺が相手になってやるぜ!」

 

 見切り発車で威勢よく啖呵を切ったはいいものの、男達全員が刃物ないしバールのようなものを取り出すと、俺は体を翻し、本能の赴くままに逃走した。

 

 そして考える。

 ……4人はやりすぎか。

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

 異世界転生して間もなく、というのがミソだ。いくら剣士、いくら二刀流とはいえ、武器を持たなければ効果をなさない。

 加えて『屈強』は余計だったな。悪事を働こうとする男達を修飾するにあたって、必要のないワードだ。なにも屈強にする必要はない。

 つまり、素手で勝てる相手が素手で勝てる人数だけ。

 

「俺の体力と筋力、可能性を秘めた知識と敏捷から考えて……」

 

 あまり体を鍛えていなさそうな、脂肪の乗った男2人……。

 

 そこでハッと息を飲む。いくら体格や人数を弄っても、レベルが高ければ意味がない!

 男達がレベル10の中ボスかもしれない。ステータスカンストの廃NPCかもしれない。更にはステータスを底上げするような強力な武器を所持しているかもしれない。

 こうなったら新たに『スキル:透視』を習得しておくか? いや、『スキル:透視』と『スキル:コピー』両方の習得なんて、バランスが悪すぎる。これ以上、俺のステータスには手を加えない方がいい。

 

 そうか! NPCだ! NPCに『スキル:透視』を習得させればいい! それも人ではいけない。何故なら舞台は人気のない路地裏だからだ。黒猫ならどうだ? 黒猫なら路地裏にひょっこり現れてもおかしくはないし、何となく透視とかお告げとか似合いそうだし。

 何なら『黒猫のような魔獣』でもいい。いっそ翼でも生やすか……。

 

 だんだんと構想が固まってきたので、俺は目を閉じ路地裏へと意識を赴かせた。

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

 俺、キリツグは異世界へ転生して間もなく、とんでもない窮地に立たされていた。全ては運:8の恩恵、いや仕業か。

 

 人気のない路地裏で、俺よりも背の低く、歩くだけで息を切らすほど太ったよぼよぼの男2人が1人の少女を取り囲んでいた。

 見たところ俺と同い年ぐらいだろうか。少女が果たしてNPCかプレイヤーかは定かではないが、見るからにピンチだ。

 

「おいお前たち、俺が相手になってやるぜ!」

 

 勢いよく啖呵を切ると、それを聞いた男達は怒りを露にして標的を俺に変更する。

 

「チッ、誰だか知らねーが、俺らの邪魔すんじゃねぇ」

 

 そう言うと、懐から何かを取り出す―――ような素振りも見せず、拳こそが武器と言わんばかりにファイティングポーズを取る。しかし腹と腕の肉が邪魔をして、腕が腰の辺りまでしか上がっていない。端から見ると、いい年したおっさんが電車ごっこをしているようにも見える。

 

「くそっ、素手とはいえ、流石に2人が相手じゃ分が悪いな……。こんなところであの力を使うわけにも……」

 

 取り敢えず奥の手を匂わせておく。もちろん『今は』そんなものはない。後々、正真正銘のピンチに陥ったときの布石だ。

 

 男達はジリジリと、俺との距離を詰める。

 

 くそっ、せめてあいつらのステータスが分かれば!

 とうとう行き止まりまで追い詰められたとき、どこからか突き抜けるような鋭い声が路地裏に響いた。

 

『やれやれ全く、世話のやける奴だニャ』

 

「誰だ!」

 

 男達は声の主を探した。しかし彼らよりも先に、そいつは『猫のように』俺の足元へと忍び寄った。

 

『俺はレイン。色々あってこの姿になっている通りすがりの誇り高き聖獣ニャ』

 

 黒い毛並み、背中に生えた白い翼、そして首元で光る小さな鈴が印象的な謎の生物は、俺の頭の先から爪先までをなめるようにじっくり目を通すと、今度は男二人にさっと一瞥をくれた。

 

『ふん、いかにも序盤の街に出てきそうな低レベルで低能な輩達ニャ。

 名前:男A lev.1

 性別:♂ 職業:輩

 体力:13

 筋力:10

 魔力:8

 知力:2

 敏捷:18

 運:5

 

 スキル

 痔

 

 名前:男B lev.1

 性別:♂ 職業:輩

 体力:20

 筋力:18

 魔力:3

 知力:3

 敏捷:9

 運:11

 

 スキル

 深爪

 

 武器の所持は無し。お前のステータスなら目を瞑って戦ってもお釣りが来る、さぁ適当に片付けるニャ!』

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

 「便利すぎるだろ!」

 

 予定としては、ここぞという場面で痒いところに手が届くような助言をくれる師匠キャラ。

 現状、相手の手の内を全て晒してくれる、太っ腹チートキャラ。

 

 くそっ、バランスが、バランスが狂ってしまう!

 

 しかし路地裏での大まかな流れは掴めてきた。要するに、俺、少女、レインの2人と1匹を対面させればいいのだ。そこに男達を上手い具合に絡めて、3者の間にフラグを立てる。

 男達に囲まれた少女、助ける俺、を助ける猫、キャー俺さんありがとう、怪我はないかい、ニャー……。

 


 「駄目だ、いい展開が浮かばない」

 

 どう謙虚に頑張っても、俺(とレイン)と男達が敵対した時点で俺TUEEEEになる未来しか見えない。レインというキャラのチートっぷりを、俺の頑張りどうこうで誤魔化すことは出来ないらしい。

 いっそ『スキル:コピー(使用する度にバッドスキルを習得する)』で無理やり中和しようとも考えたが、魔力一桁台に使える魔法があってたまるかということで止めておいた。

 

 だいたい男達が弱すぎんだよな。何なら女の子一人でも解決出来んじゃね?

 

「……っ! そうか! 分かったぞ!」

 

 脳に稲妻が走ったような感覚だ。俺は興奮冷めやらぬまま、まだ名前も決めていない異世界の、人気のない路地裏に意識を向けた。

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

 俺、キリツグは異世界へ転生して間もなく、とんでもない窮地に立たされていた。全ては運:8の恩恵、いや仕業か。

 

 人気のない路地裏で屈強な男たち4人に取り囲まれている1人の少女。見たところ俺と同い年ぐらいだろう。少女がはたしてNPCかプレイヤーかは定かではないが、見るからにピンチだ。

 

 おいお前たち、俺が相手に―――。

 そう啖呵を切ろうとした次の瞬間、男たちの体はそれぞれ後方に吹き飛ばされ、壁に激突。気絶したようだ、ぐったりとうなだれ起き上がるものはいない。

 

「やれやれ全く、この私を誰だと思ってるのかしら」

 

 赤く光る艶やかなロングヘアーと、見ていると吸い込まれそうなほど深く紅い瞳。

 キメ細やかな白い肌に若干の紅潮を見せ、圧倒的な力量を見せつけた少女は、怒りの標的を呆然とする俺へと変更した。

 

「何よあんた、さっきの奴らの仲間?」

 

「ち、ちげーよ。俺は……」

 

 言い終わるよりも早く、少女は動いた。彼女が先ほどまでいた場所は地面に亀裂が走り、その衝撃を物語っている。脱兎の勢いで飛び出し、少女は俺との距離を一瞬で詰めた。手には燃え盛る剣、魔法で作り出したらしい。

 

「くそっ、仕方ねぇ……!」

 

 鍔迫り合い……。俺の手には同じように、燃え盛る剣が握られていた。

 少女は驚いたように口を開く。

 

「あんた、どうやって……」

 

『両者、そこまでニャ』

 

 突き抜けるような鋭い声が、路地裏に響いた。少女は慌てて俺との間を取り、燃え盛る剣を仕舞う。

 

「レイン、どこに行ってたのよ!?」

 

 少女の視線は俺の後方。釣られるように振り返ると、そこにいたのは『猫のような』生物だった。

 

『はぐれたのはお前の方だろう、リズよ。ようやく見つけたかと思えば、俺の恩人に刃を向けよってニャ。この男はお前を探すのを手伝ってくれたのニャ』

 

 レインと呼ばれた生物は俺にしか見えない角度で不適に微笑んだ。なるほど……、俺も小さく頷く。

 

「……ほんとなの?」

 

「まぁ、困っている人を見かけたらほっとけないしね」

 

 人じゃないけど。助けてないけど。

 そう言うと、少女はバツの悪そうな顔をして頭を下げた。

 

「ごめんなさい! 私の早とちりで、何てことを……」

 

 狼狽する少女に、俺はここぞとばかりに甘い言葉を掛ける。


「いいって。それよりも君に怪我がなくて何よりだ」

 

 少女は頬から耳までを赤く染め、潤んだ瞳で俺を見つめた。

 

「その、お詫びといっては何だけど、あんたのパーティに入れてくれないかしら。あっ、もちろん嫌ならいいわ! もしよければ、だから、その……」

 

『リズの実力は俺が保証するニャ。きっとお前の支えになるニャ』

 

 レインはシュタタッと少女の肩まで駆け上がり、大きく伸びをした。それだけ見れば猫そのものだが、猫と呼ぶには背中に生えた白い背中が邪魔をしすぎている。

 

「どう、かな……?」

 

「もちろん大歓迎だ。これからよろしくな、リズ」

 

 俺が手を差し出すと、リズは柔和な笑みを浮かべて手を握り返した。先ほど俺を斬りに来た少女とは思えないほど、その手は小さく温かかった。

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

「チョロインか!」

 

 夕暮れに染まる通学路に、俺の叫びがこだました。

 隣を歩くメガネがデュフフと笑って、メガネをクイッとする。

 

「チョロイン、それは君が見た光、僕が見た希望」

 

 確かに箸が転げただけで惚れるようなヒロインは、男にとっては光であり希望である。一体その生活に支障が出るレベルの惚れやすさで今まで何人の男に好意を抱いてきたのか、なんて考えるのは野暮というものだ。

 

「うん、やっぱヒロインはある程度チョロくないとな。ゆくゆくはハーレムも形成したいけど、チョロインじゃないと殺伐としそうだし」

 


 『キリツグはみんなのものだよ~ (チョロイン)』

 『わ、私も抱きついていいですか……? (チョロイン)』

 『は? 何してんの浮気? 誰が本命なの? いやふざけないで無理なんだけど。彼女がいるのに他の女に手出してたの? ほんと死ねよ (NOTチョロイン)』

 

 

 しかしまぁ、こんな感じの構想でよかったかな。

 ファーストミッション『ヒロインとフラグを立てよう』では3つのノルマをクリアする必要がある。

 ①ヒロインに恩を売る。

 ②ヒロインに底知れぬ強さを見せる。

 ③ヒロインとの距離を詰める。

 

 ③に関しては、舞台がMMORPGの異世界だから『パーティを組む』で達成となる。

 他には『連絡先を交換する』や『同じクラスになる』など……。要するに、いつでも会える状態にしないといけない。

 神出鬼没なヒロインもそれはそれでいいけど、ね。

 

 

「それよりもキリツグ殿」

 

 NOTチョロインの生ゴミを見るような冷たい瞳も意外と悪くはないかもな、とヒロインのレパートリーに加えていると、メガネがデュフフと口を開いた。

 

「初めに所属するギルドは決まったでござるか?」

 

 俺、霧々崎継々の特技は妄想……ではなく想像。

 所属するギルドによってストーリーの展開が大きく変わってくるため、続きは眠る前と予定を立てようと、夕日に向かって駆け出した。

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