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1.ステータスを決めたい!

「ステータスオープン!」

 

 これは自身の能力を数値化して見ることが出来る、一種の魔法のようなものだ。大抵のゲームでは『スタートボタン』でこの操作を行うことが出来るが、プレイヤー没入型VRゲームの場合ボタンなんてものは存在しない。コントローラーで言うところの『十字ボタン』は自分の手足だし、○や×の『コマンドボタン』は思考や行動、発言だし……。

 VRゲームを初めてやる人はその辺り、戸惑うこともあるだろう。だが俺はこのイセテンが初めてではない。故に、操作の基本は理解しているのだ。

 

 ブゥン、と音を立て、目の前に半透明のステータスウィンドウが表示された。うっすらと青い光を放つそれは、やはり他のVRゲームとそう変わらない仕様で、ひとまず安堵する。

 

「なになに……? 俺のステータスは、と……」

 

 ――――――――――――

 名前:キリツグ lev.1

 性別:♂ 職業:剣聖

 体力:142

 筋力:29

 魔力:39

 知力:13

 敏捷:89

 運:8

 

 スキル

 鑑定 全知全能

 

 ――――――――――――

 

「…………微妙だな」

 

 俺は改めてステータスを確認する。

 まず名前、『キリツグ』これはいい。メガネもそんなことを言っていたが、実は俺もこれまでプレイしてきたゲームの名前のほとんどを、『キリツグ』で統一してきた。まぁ、メガネの言う主人公キャラに自己投影するな! 理論には反しているが。


 次に性別、これもいい。確かに俺は中性的な見た目(メガネ曰く)だが、割りと筋肉質だと思う(俺的に)し、声は低くて太いイケボだし、何より立派な椎茸が生えている。

 

 問題は……。

 職業:剣聖。

 うーん、正直よく分からん。最初の職業といえば冒険者がベターなところだろうが、敢えて剣聖という明らかに位の高そうな職業を持ってくるのはちょっと図々しいか。

 取り敢えず『剣聖』について調べてみると、『剣における聖人』とあった。つまり剣を極めし者のことだろう。

 

 それなら、レベル1で剣聖っておかしくね?

 

 剣聖とはつまり剣士としてのレベルを極めた先にある、いわば剣士が成った職業。将棋を指すとき、駒を並べる段階で飛車を竜王へと成らせる人はいない。つまり、いくら俺が才能溢れるプレイヤーだったとしても、剣士としての経験を積まないままでの剣聖などあり得ないのだ。

 

「おこがましいにも程があるってか」

 

 頭を抱え悩んだ末、

 

 職業:剣士

 

 にしておいた。職業:冒険者というのも味気ないな、と米粒ほどのプライドが邪魔をしたのだ。

 

「よしっ、次は……」

 

 職業を変更した俺は、次に立ちはだかる大きな壁、ステータスの醍醐味とも言える能力値に意識を向けた。

 

「体力、敏捷が高く、知力、運が低い、か……」

 

 と、数値だけを見ればそういう評価になる。

 しかしゲーム内の能力値において、最も重要なことは数値の大小ではない。そのレベルの時の、他のプレイヤーの数値の平均値である。ののののののののうるさいが、大切な事なのでもう1度言おう。

 

 ―□ボタンでスキップ可能―

 そのレベルの時の、他のプレイヤーの数値の平均値である!

 そのレベルの時の、他のプレイヤーの数値の平均値である!

 そのレベルの時の、他のプレイヤーの数値の平均値である!

 

 

 つまり高いと思っていた体力も、同レベルの平均値が200だった場合、平均から58も下回っていることになる。

 低いと思っていた運も、実はデフォルトが0、本来レベルアップで上昇しないタイプの特殊ステータスかもしれない。

 

「俺のステータスを決める前に、周りの平均値を決めとくべきだったな」

 

 ここは無難に、レベル×100の方程式を使うか……。

 俺は再度、表示された自身のステータスに意識を向ける。

 

 体力……はある程度高い方が都合が良いな。142という数値も十分魅力的だが、俺はイセテン全クリまでを死亡無しで突っ走りたい。少々やり過ぎ感もあるが、このぐらいに……。

 

 筋力……低いな。やはりRPGの序盤は力で強引に突破する展開が増えてくる。平均よりもやや上回ってくる位でどうだろうか。……しかし体力を上げた皺寄せは必ずどこかにくる。やはり筋力は平均プラス一桁以内で抑えておこう。ついでにそれっぽいスキルも習得しておくか。

 

 魔力……は取り敢えずこのままでいいや。平均値よりも大幅に下回ることになるが、あいにく俺は魔法剣士になりたい訳じゃない。魔力にステ振りしたプレイヤーやNPCとパーティーを組めばいい話だ。俺自身は最低限の回復魔法と魔力の扱いが出来れば十分だろう。

 

 知力……そもそも知力って何なの? 知力が上がったところで俺の学力テストの点数が上がるわけでもあるまいし。おっと、そういう時のためにチュートリアルコマンドがあるんだった。

 

「チュートリアルオープン」

 

 そう唱えると、ステータスウィンドウとは重ならない位置に、同じように半透明のウィンドウが現れた。俺は慣れた手つきでコマンドを操作すると、知力の説明を開く。

 

「なになに……?」

 

 知力が高いと獲得する経験値、武器熟練度、スキルポイントが上昇

 使用する道具の効果が上昇

 古代言語の習得

 

 つまりゲームを有利に進めるためのステータスということだ。これは本来、どのステータスよりも優先すべきだったに違いない。

 あーミスった。しかし改めて他のステータスを練るのもめんどくさいな……。


「スキル:急成長を習得……なんてチートになるか?」

 

 まぁ、いいや。取り敢えず知性は後回し!『キリツグの知性は底が見えない』設定でいこう! 


 さて最後は運だが……。

 

「ま、運なんて悪い方が展開に困らないっしょ。ステータスオープン!」

 

 一度、表示されていたステータスが光の粒子になって消え、また現れた。ウィンドウに表示された文字の羅列を見て、俺は強く頷いた。

 

――――――――――

 名前:キリツグ lev.1

 性別:♂ 職業:剣士

 体力:289

 筋力:107

 魔力:39

 知力:???

 敏捷:89

 運:8

 

 スキル

 二刀流 鑑定 全知全能

 ――――――――――――

  

 あっ、敏捷を忘れてたな……。『敏捷も底が見えない』にしておくか。

 しかし???が2つ、というのはちょっと謎キャラというか、フードを被って暗躍するチートキャラっぽいな。その辺はスキルで調整しよう。

 

 さて、いよいよ最後、スキルだが……。

 なんだ? 鑑定って。商人用のスキルか? 確かに武器や鉱石なんかを鑑定できれば『何でも鑑定店』なる店を構えて一儲けできるだろう。

 だがしかし、俺は剣士だ。商人ではない。

 そもそも人にはそれぞれ役割があり、得手不得手があり、必要無駄がある。鑑定スキルは鑑定スキルを十二分に発揮できる職、ステ振り、思考のプレイヤーが取得すればいい。もし必要になれば、そのプレイヤーを頼ればいい。俺には無用の長物だ。

 

 そして『全知全能』……、ヒェェー、こりゃ参った。

 迷うことなく却下だ。チュートリアルを読まなくても分かるバランスブレイカーっぷり。ステータスのどこかで帳尻を合わせるなら、スキル:『触れられると死ぬ』でも同時習得させないといけない。

 

 しかし……、何かそういう、特殊なスキルの1つは習得しておきたいな。パッと見弱いけど実は……、みたいな。

 

 さて、だいぶ煮詰まってきたようだ。俺はもう一度、ステータスウィンドウを開いて推敲した自身のステータスを確認した。

 

「ステータスオープン!」

 

 ――――――――――――

 名前:キリツグ lev.1

 性別:♂ 職業:剣聖

 体力:289

 筋力:107

 魔力:39

 知力:???

 敏捷:???

 運:8

 

 スキル

 二刀流 疲労蓄積(弱) コピー

 ――――――――――――

 

 ……さすがにチート過ぎたか? 『スキル:コピー』は相手の魔法をそっくりそのままコピーして使用できる、魔法使い殺しの禁じ手なのだ!

 「魔法なんて使わねー」とかほざいてすみませんでした。やっぱり俺、剣も魔法も使える万能型で行きたいねん! 許してほしいの。

 

 しかしこれでは流石に俺TUEEEE過ぎてクレームが来る。いい具合に足を引っ張る効果を追加しよう。

 『スキル:コピー(使用する度にバッドスキルを習得する)』

 これで何とかバランスは取れたかな? そうホイホイ使用できない、正に奥の手になったはずだ。

 

 これで俺のステータス設定は終わりだ。

 上手いこと、『平均よりもほどほどに強く未知の可能性を秘めた、強キャラ感を隠しきれていない剣士レベル1』に仕上げることが出来たと思う。

 ……うーん、やっぱり体力:289はやり過ぎか? あと100は減らしてその分を筋力に上乗せするべきか。

 しかし運を8に設定した以上、戦闘イベントが突然起こらないとも―――。

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

「霧々崎っ!!」

「はいっっ!!!」

 

 中年数学教師の鋭い視線が、さっきまで異世界を漂っていた俺の視線と交差した。


「お前ちゃんと授業を聞いていたのか!? この問題の問いは何だ、答えろ!」


「に、289であります!」

 

 ビュッと風切り音を立てながら、中年数学教師の投じたチョークは俺の額めがけてジャイロ回転、そして着弾。

 

「授業中に妄想とは……、さすがキリツグ殿。しかし未だにイセテンの復旧は目処が立たずでごさるよ」

 

 メガネに一瞥をくれると、俺は額を擦りながら天井を仰いだ。

 

 俺、霧々崎継々の特技は妄想……ではなく想像。

 あの忌々しい中年数学教師は次の次辺りで噛ませ犬Aとして出演させてやろうと心に決め、黒板に書かれた数字の羅列をノートに書き写した。

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