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プロローグ

 待ち遠しい事この上ない!

 世間で人気を博している『VRMMORPG:異世界転生』のメンテナンスが今日、この瞬間にも終わっているかも知れないのだ!

 

 そう考えると、中年数学教師の小難しい話なんて全く耳に入ってこなかった。

 俺、霧々崎継々(キリキリザキツグツグ)は隣の席で同じくメンテナンスの復旧を待つメガネに耳打ちをした。

 

「なぁメガネ。ゲーム内で使う名前、もう決めたか?」


 ― □ボタンでスキップ可能 ―

「ドゥフフ、授業中に何を言い出すかと思えば……。それは愚問でござるよキリツグ殿。答えはもちろんNAI(ネー ギリシャ語で肯定の意)。『VRMMORPG:異世界転生』通称イセテンが出るずっと前から、拙者はゲームで使用する名前を決めていたでござる。……と言うのも拙者、これまで多くのゲームをプレイしてきたでござるが、そのどれもゲーム内での名前は統一してきた。もちろん拙者の本名、ニックネーム等拙者に関係した名前では一切ござらん。そもそもゲーム内における主人公キャラ=自身の分身という浅はかな考えから安直にネーミングするプレイヤーが多く存在することに拙者は遺憾の」

 

 

 『VRMMORPG:異世界転生』のここがすごい!

①VRと異世界転生、流行りに流行った2つのジャンルを贅沢に融合し、MMORPGとして発売。メーカー小売希望価格はキュウキュッパと挑戦的な値段ながら、予約は殺到。今ではどの店舗でも入荷待ちの状態で、インターネットオークションにてパッケージのみを高額で売り付ける『イセテン詐欺』が横行し、社会問題にまでなっている。

 

②とにかくバグが多い。アイテムの紛失、増殖、NPCの暴走は日常茶飯事。進行不可バグや強制終了で挙げられるプレイヤーの悲鳴は暴言として1分に1回ネット掲示板に書き込まれ、中にはデータが破損、消失した者さえいる。発売前と後での評価の推移には新しい可能性すら感じてしまう。

 

③メンテナンスが長い。②によってイセテンはサービス開始から僅か3日で、メンテナンスの為にサービスを停止した。……そしてはや1週間。何の音沙汰もないイセテンの復旧を、プレイヤーたちは待ち続けているのだ……!

 

 多くの問題を抱えるイセテンだが、それでも一度掴んだプレイヤーの心を離さないのには理由がある。それはずばり、唯一無二の組み合わせだろう。これまでVR×スポーツやらVR×バトルやら、数多くのジャンルのVRゲームが世に出されてきたが、VR×異世界転生というドストレートなジャンルはイセテンただ一つのみだ。

 今後、バグもなくメンテナンスもない優良な異世界転生ソフトが出たらきっとプレイヤーたちは一斉にそちらへ流れるのだろうが、今はない。仕方なしに、という単純かつ明快な理由で、俺含む1万円を失った人々はどぶの中にある希望を信じ、ひたすらに待ち続けるのだ。

 

「ずばり、拙者がゲーム内で使う名前は『†漆黒ヲ纏フ天使†』だ!それにしても、ゲームを買ったその日にメンテナンスが始まるなんて、拙者たちも運がないでござるなドゥフフ」

 

「ん、そうだな」

 

 そう、俺と†漆黒ヲ纏フ天使†はまだイセテンをプレイしていない。学内テストとの兼ね合いもあり、発売日から三日遅れて予約していたCEOへソフトを受け取りに行ったのだ。

 そして家に帰り、プレイ。目の前に表示される赤い文字。

 

―――『VRMMORPG:異世界転生』はメンテナンスのためサービスを停止します。なお、復旧日時は未定となっております。

 

 あぁっ、早く、早く俺を異世界へ連れて行ってくれ!

 目を閉じ、隣で延々と虚空に語り続ける†漆黒ヲ纏フ天使†の声をシャットアウトすると、俺はイセテンの世界を思い描いた。

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