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Supporter~オウンゴール気味の恋  作者: 若樹あい
3/4

第3話 監視部、それはたった一人のサポーター

翌日の放課後、彩名は校舎の三階の渡り廊下から身を乗り出して校庭を見ていた。

果たして、勇人は練習にやって来た。


校庭で前原たち部員がゴールを片付けようとしていたときだ。

「待って、前原!」

勇人が前原に歩み寄った。

無断で練習休んで悪かった……このとおり」

勇人が頭を下げて続けた。

「もう一度ボールを蹴らせてくれへんか。お願いだ、チャンスをくれ」

「……俺とPKで対決して、勝ったら許したる。小学校の頃、公園でよくやったよな」


様子を窺っていた彩名はダッシュで校庭に駆け出した。


サッカーゴールの見えるところまで走ってきた彩名はまだ息が荒く、腰に手をあててハアハアと息を整えた。


ゴール前では今まさに勇人と前原の男と男の意地を賭けた闘いが始まろうとしていた。

彩名は固唾を飲んで決闘の行方を見守った。


「んじゃ行くよ」

先攻の前原が助走を取って走りだした。

フェイントをかけて軽くゴールに流し込むと、キーパーをかって出た選手の逆方向にボールは突き刺さった。

取り巻きが前原にハイタッチして喜びあっている。


次は勇人の番だ。

ボールをセットする勇人の表情は心なしか堅い。

深呼吸をして気持ちを静める勇人を、彩名はお守りを握りしめて見つめる。


(真田様、今こそ真の実力を! 蹴鞠道の神様、どうかお守りください)


勇人は助走を長く取って走り出した。

力いっぱいボールめがけてキックした。

勇人の蹴ったボールはゴール右隅に決まった。


(やった! やりました~!)


声を潜めて彩名は飛び跳ねたいのをぐっと堪えた。

次もその次も成功してPK対決に勝って練習を再開して欲しい、と願った。


なのに彩名の影なる声援も虚しく、その後、勇人は二本目を外し、前原は連続四本のPKを決めた。


いよいよ勇人が最後のペナルティーキックを蹴る番だ。

「これが決まらなきゃおまえの負けだからな」

頷く勇人は、緊張して堅くなった体をほぐすように屈伸をしている。


彩名にちらっと不安がよぎった。

彩名は指をぎゅっと組んで祈った。


勇人は両手で握ったボールに「頼んだよ」と小声で囁き、助走をとる。

だが、勇人の蹴ったボールはゴールをわずかに外れて、ラインの外へ出てしまった。


「頼む、もう一回だけ蹴らしてくれへんか。どうしてもここで練習がしたいねん」

勇人は頭を下げて懇願するが、前原は冷笑を浮かべている。


「勝手に練習するんだったら、許可はいらんやん。ただしサッカー部とは別にな」

そう言い放たれて、勇人は絶句してうなだれた。


(おのれ、前原殿……)


彩名もまた、悔しさに打ち震えて地団駄を踏んだ。


翌日、前原たちレギュラー組が練習している隅で、勇人は一人黙々とドリブルの練習をしていた。

からかうように前原と取り巻きたちが、へらへらと笑っている。

「負け犬が隅でボールごっこしてまちゅよ」

前原が聞こえよがしに言うと、わっと笑い声がこだまする。


彩名は今日も桜の木の下のベンチで読書をするふりをして様子を窺っていたが、「もう黙ってられない!」と怒り心頭となる。

勢い余って抗議しようとしたときに、監督が前原を呼びつけた。


「おい前原、ほどほどにしろよ。新人戦の一次予選はお前をキャプテンにするからな。チームをまとめろよ」

監督は前原の肩をぽんと軽く叩いた。


「キャプテンですか……」

前原は少しして複雑な表情になり、リフティングする勇人のほうをちらっと見た。

 

練習帰りにとぼとぼと歩く勇人を、同じようにがっくりと肩を落とした彩名が後を追う。

そのとき、後方からタッタッタッと走ってくる靴音がした。


「あれっ、前原くん?」

前原は彩名には目もくれず、またたく間に追い越していった。


「おい、真田!」

いきなり呼び止められた勇人は戸惑いを隠せない。


勇人の肩に手を掛けて、顔を覗き込むようにして前原は話しかけた。

その口調はいつもの紋切り型とは違って、意外にも穏やかだった。


「……おまえとは小学校からコンビ組んでたよな。あの頃はアイコンタクトできてたんだよな俺たち。お前、いつから下ばっかり向いてるようになったんだ?」


無言で聞いている勇人に、前原の口調は徐々に激しくなっていった。


「……いつまでもグズグズ後ろ向きになってんじゃねぇよ。オウンゴールして悪いか、って、なんで言われへんねん!」


「前原……?」

激した前原を、勇人は澄んだ瞳で受け止めた。


彩名には「お前がいつ開き直るか見てたんだよ」と聞こえたような気がした。


「次の試合、俺がキャプテンに指名されたんだよ。真田、お前、練習に参加してもいいから、その代わり、絶対に自分の手でレギュラーつかめよ」


「えっ……? いいのか、練習、一緒にやっても」

「ああ、俺には、お前が必要やねん」

「前原……」


前原は小学校時代から人前ではすかしているが、暗くなった公園で夜遅くまでリフティングしたりして、見えない所で人一倍練習をする努力家だと聞いた。

努力の人に見えて、実はひらめきの勇人。

勇人と前原は、お互いに無いものを持ち合わせ、引き立てあってきた。


(あああああ、まるで幸村様と終生のライバルだった伊達政宗のようでございます!)


彩名は二人の間には、誰も立ち入ることのできないゾーンがあると感じた。

友情などいう言葉では片付けられない、共鳴し合う絆がそこには歴然としてあった。



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