白夜 37話 ヤライの願い
次話を読んでいただきありがとうございます。
ヤライと接触するクロード
クロードの恒星間戦略兵器デウスが乗る超巨大宇宙戦艦エルドリッジが、ヤライが制圧した惑星へ向かう。
エルドリッジに乗る弟のアルードが
「兄さん、本当に後で…サクラに謝ろう」
クロードは答えない。
アルードが
「兄さんの悪い所は、そこだよ! 兄さんが正しいのかもしれない。でも、人は正しさで生きている訳じゃない」
クロードが
「オレは、兵器だ」
アルードが
「違う! 兄さんは人だ! 人とだから、ヒトして幸せになる権利がある」
そう言い争っている間に、超巨大宇宙戦艦エルドリッジが超空間トンネルを抜けて、目標の惑星へ到着した。
直ぐにエルドリッジから無数の無人兵器達とアルードのデウスイドが飛び出したが、そこへ向かって膨大な紫電が降り注ぐ。
突然、宇宙空間から現れた稲妻達、その発生場所は…宇宙空間の闇よりも深い闇をした二十メートルの人型が七体も現れて、その七体から紫電が放出されて、アルードの乗るデウスイドと、無人兵器達が押さえられている。
アルードが
「な! これは…」
クロードが
「アル!」
と、叫んだそこにヤライからの通信が入り
「やあ、元気かね?」
クロードが通信画面のヤライを睨み
「お前…」
ヤライは微笑みながら
「どうだね。クロード・リー・ナカタくん。二人だけで話をしようじゃないか…」
クロードが答えずにいると、ヤライが
「君と話をしたいから、弟くんには捕まって貰ったよ。君がこっちの提案を受けてくれるまで離さないよ」
紫電の捕縛にいるアルードのデウスイド、アルードが
「兄さん! 罠だ!!!!!!!!」
ヤライが
「どうするかね?」
クロードが溜息を吐き
「分かった」
ヤライの提案を受け入れる事にした。
◇◇◇◇◇
クロードは、恒星間戦略兵器デウスの単騎でエルドリッジから出ると、目の前に黒い巨人が現れて、顎を振る。
こっちだ…と。
それにクロードは従って続く。
黒い巨人と共にクロードが乗った恒星間戦略兵器デウスが惑星の空港に着地する。
黒い巨人が人サイズに縮み、一人の紳士が姿を現す。
アズサワだ。
クロードがデウスから降りて、アズサワの前に来る。
アズサワが笑み
「ようこそ、クロード殿」
クロードが鋭くアズサワを見つめて
「お前は何だ?」
アズサワが笑みつつ
「エヴォリューション・インパクターとされる小間使いさ」
クロードが鋭い視線で
「ヤライの部下なのか?」
アズサワが背を向けて
「今回の事で雇われた。それだけさ、こっちだ」
と、クロードを案内する。
アズサワは、クロードを無人運転車に乗せて、とある都市のベンチに運ぶ。
そのベンチには、四十代のヤライが座っていた。
惑星は、何時もの日常の風景が広がっている。
占拠された…というのに焦りや不安はない。
なぜだ?とクロードは困惑しつつヤライの座るベンチに来る。
ヤライが微笑み
「やあ、直接会うのは初めてだね。クロードくん」
クロードが立ったままヤライを見下ろして
「どういう魂胆だ?」
ヤライが胸ポケットからチョコレートスティックが入ったケースを取り出してクロードに向ける。
「食べるかい? バイオ製造加工品じゃあない。栽培された天然モノだぞ」
クロードは戸惑うも、そのチョコレートスティックを手にして口にする。
ヤライは、それに笑ってしまい
「警戒しないのか?」
クロードがスティックのチョコを食べながら
「オレを呼んだのに、毒殺なんて…面白くないだろう。それに…オレの身体には、特別なナノテクノロジーが仕込んであるし、死にそうになったら機体のデウスを呼んで治療するだけだ」
ヤライが笑みながら、同じチョコレートスティックを口にして
「そうか…面白い子だ」
クロードが
「用件はなんだ?」
ヤライが
「少しは、会話を楽しむとかしないのか?」
クロードは視線を横にして
「オレは、兵器だ。お前を倒す為の…な」
ヤライが隣の空いている場所を手で示して
「隣に座りなさい」
クロードは、従いヤライの右のベンチへ座る。
ヤライが
「私は…疲れたよ。ファイライの宇宙王である事に…」
クロードが
「どうしてだよ。アンタ…トップなんだろう?」
ヤライがベンチに背を預けて街の風景を見つめて
「トップだが、独裁者じゃあない。私には決められた事を拒否する権利がないんだよ」
クロードは
「じゃあ、逃げればいいじゃないか…」
ヤライが笑みをクロードに向けて
「何度か、そうしようとしたさ。でも…できなかった。もしかしたら…みんな考えて直してくれるんじゃないかって、希望を抱いた数だけ絶望した。皆、自分の正義を相手に押し付けようとして、その道具して…私は使われた。正義レイプってヤツさ」
クロードが渋い顔をして
「正義ってのは、自分を戒める為のモノであって、相手に押し付ける正義は、正義じゃあなくて悪意だ」
「ははははは!」とヤライは笑い声を放ち
「その通りだ。だが、多くの人達が掲げる正義は、自分が気持ちよくなる為の相手を潰す快楽を正義と呼んで、自分を戒める本当の正義を不要なゴミと叫んでいる。情けないが、それが世の中に溢れている」
クロードが重苦しい顔をしていると、ヤライが微笑みながら持っているチョコレートスティックをクロードに渡して
「ごめんな。君にこんなヒドい現実を教えてしまって」
クロードがチョコレートスティックを受け取って、そこからもう一つチョコレートスティックを取り出して食べて
「別に、オレも似たような感じだったから」
ヤライが手袋を外して素手の右手を右にいるクロードに向け
「もう、こんな戦争を終わらせよう」
クロードがその右手を見つめて驚愕している。
ヤライが優しく微笑み
「君に出会えて良かった。君と語り継ぐ事が出来てよかった」
クロードは苦しそうにヤライの右手に、自分の右手を合わせて握手した。
そして、ヤライから受け取った。
ヤライはクロードに握手して託して、立ち上がり
「アズサワ…後は、頼む」
離れていたアズサワが頷く。
ヤライはクロードに
「ありがとう」
と、告げて去って行った。
ヤライは占拠した惑星から去って行く。
クロードは、ヤライと握手した右手を見つめて固く固く握り締めた。
アズサワがそこへ来て
「後の手配は、そちらの評議会がやってくれる」
クロードは黙って立ち上がり、デウスがいる空港へ戻り、デウスに乗ってエルドリッジに戻ると、アルード達を捕縛していた紫電を放つ黒い巨人達がその場から去って行った。
アルードがクロードに
「兄さん、何があったの?」
クロードが無言でいると、評議会から派遣された宇宙艦隊がクロードのエルドリッジを囲む。
「ええ…」とアルードが困惑する。
クロードへ通信で
「こちらは、インドラ時空帝国、第七艦隊、クロード殿を保護して、最終作戦の決行の助力をするように命令されました」
アルードが
「兄さん、何が起こっているんだよ!」
クロードが
「命令を受理する。これより、八雷神、封印計画を発動させる」
ここまで読んで頂きありがとうございます。
続きを読みたい、面白いと思っていただけたなら
ブックマークと☆の評価をお願いします。
次話を出すがんばりになります。
次回、封印と評議会