星光 第138話 キュリア達の不文律
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キュリア達の現状、それは…
ディーエ時空連合のとある場所、そこは戦争シェアリングで犠牲になった人達の為に設けられた巨大な慰霊碑だ。
その前に制服のキュリアが立ち、黙祷を捧げている。
キュリアの他に多くの人達が黙祷や祈り、花を捧げていた。
その隣を四人の男達が通る。
その四人を見てキュリアが鋭い顔をする。
その四人は、ミカボシ、ハジュン、スクナ、アテルイだ。
キュリア以外の慰霊碑の前に来ていた者達もキュリアと同じ視線だ。
なぜ、お前達がここに来た!
そう、訴えるような視線が四人に集中していた。
その四人に子供が
「父さんを返せ!」
子供の母親が
「やめなさい」
ミカボシとハジュン、スクナにアテルイの四人が黙祷の祈りを捧げた後、ハジュンが子供の前に来て、母親が庇うように子供を抱える。
ハジュンが冷徹に
「小僧…お前の父親は、オレをこんな体にした張本人の一人だぞ」
と、ハジュンは自分の顔にある金属の部品に触れる。
母親が
「申し訳ありません。この子は関係ありません。どうか…」
ハジュンが小僧を睨み下ろして
「お前の父親は、オレを殺した。そして…オレは、あの三人達のお陰で今、ここにいる」
子供はハジュンを怯えた顔で見つめていた。
ハジュンは、冷徹に
「なぁ…オレを殺したお前の父親は、お前にとっては正しいが…オレにとっては、オレを殺した殺人者だ」
それに別の男性が
「アンタだって…原因が」
ハジュンは男に
「無いね。オレはただ、この世界、ディーエ時空連合にエネルギーや物質となる力を提供していただけなのに…それを勝手に恐怖して、お前達は、オレをいや…アテルイも殺した」
それを聞くアテルイがフッと笑む。
ハジュンが手を広げて演者の如く
「では、汝達に問う。この結果は、誰が責任だ? オレの責任でも、アテルイの責任でもない。オレ達がいなくなった後、こんな結果になったのは、お前達全員の責任だ!」
アテルイがハジュンに笑みながら近づき
「やめろ。ハジュン…コイツらに何を言っても意味は無いさ。何も考えない普通の人達なんだからなぁ…事実陳列罪で逮捕されるぞ」
それを聞いて、スクナが笑い、ミカボシの嘲笑を見せる。
ハジュンが
「ごめんごめん。本当の事を言って、申し訳ない。本当の事を言うと逮捕する普通の人様、ごめんなさい」
キュリアが
「じゃあ、アンタ達なら止められるのか!」
ハジュンが堂々と
「止められるよ。でも、止めた瞬間、オレ達を殺しにくるだろう…前の前もそうだった」
アテルイが冷徹な笑みで
「お前達は、もう…逃げられないんだよ。自分の利益の為に他者を犠牲にする。戦争シェアリングから…」
ハジュンが手を広げて
「お前達全員が望んだ結果だ。それを手伝う事をして何が悪い? もし、これで罪というなら…我々は去るよ。でも、それでは困るから、我々を受け入れて黙認している」
キュリアが苛立った顔で
「じゃあ、なんで慰霊碑の前に来た!」
アテルイが
「犠牲者を弔う気持ちがあって何が悪い?」
キュリアは苛立って仕方ない。
嘲笑いつつも、犠牲者を弔う気持ちとか、矛盾すぎて頭が痛くなる程の憎しみが沸いてくる。
ミカボシが
「小娘、キサマの小さな価値観で、人を見るなよ。我々は矛盾していない。真実を言っている。そして、この世界、ディーエ時空連合の為に動いている。そして、その犠牲になった者達を痛んで何が悪い? 例え、過去に…己を殺しに来た者だったとしても…だ」
キュリアは飛び出してミカボシへ殴りかかる。
その手を
「止めろ、キュリア少佐」
と、ヴァサラス大佐が握って止めた。
ヴァサラス大佐に止められてキュリアは、荒くなった息を整えて
「申し訳ありません。大佐」
ヴァサラス大佐がハジュン達四人に
「慰霊ですか。結構な事です。ですが…ここでの荒事は、慰霊碑に刻まれた魂達を侮辱するとは思いませんか?」
それを聞いて、ハジュンが
「確かに、では…ここまでという事で…」
と、四人は去っていた。
四人が去る背中をヴァサラス大佐が見ていると、キュリアが
「大佐…この場を収めて頂き感謝します」
ヴァサラス大佐が少し溜息を漏らすと、そこにあの子供が来て
「ねぇ…ボクの父さんは悪い人だったの?」
ヴァサラス大佐は跪き子供に
「君にとって優しかった父親なら、それが真実だよ」
「うん、ありがとう」と子供は答えた。
◇◇◇◇◇
ハジュン、ミカボシ、スクナ、アテルイが宇宙戦艦へ乗る渡橋を進んでいると
「もう、こんな事…辞めませんか? アシュリオ兄さん、ナライラ様…」
と、呼びかけたのはヴァサラス大佐だ。
ハジュンとアテルイが、ヴァサラス大佐へ向き、ミカボシが
「先に行っているぞ」
と、ミカボシにスクナの二人が先に宇宙戦艦へ入った。
ハジュンが
「もう、そんなヤツはこの世にいない」
ヴァサラス大佐が渡橋を歩み
「それでも…血肉は違えど…魂は兄であるのは変わらない」
と、ハジュンを見つめる。
ハジュンがこの存在になる前は、アシュリオ。
アテルイは、ナライラ。
アシュリオは、ヴァサラス大佐の亡き兄だ。
ヴァサラス大佐が
「確かに…二人を殺した罪は許されない事だった。だから、こそ…アナタ方が再び現れて、この戦争シェアリングに加わる事を誰も反対しなかった。そして…アナタ達がそれを変えてくると思っていた。でも、違った。まだ、憎いですか? 自分達を殺した者達の事が…」
ハジュンとアテルイは静かにヴァサラス大佐を見つめる。
ヴァサラス大佐が
「もう、十分でしょう。アナタ方を殺した者達は、戦争シェアリングの限定的戦争によって全員、アナタ方に殺された。全員が二人に殺される事で、二人の憎しみが消えて…再び、この世界に光が灯る事に賭けていた。でも…結局は、何も変わらない」
ハジュンとアテルイは静かにヴァサラス大佐を見つめている。
ヴァサラス大佐が
「兄さん、ナライラ様。まだ…憎いですか? まだ…恨んでいる方がいるのですか? それとも我々が、ディーエ時空連合にいる者達が全員、滅亡すれば満足ですか?」
アテルイとハジュンは背を向ける。
アテルイが
「何度でも言おう。この現状を作り出して続けようとしているのは、お前達が原因だ」
ハジュンがが
「我々は、そのルールに従っているだけだ」
二人が宇宙戦艦に乗ると、渡橋が動いて宇宙戦艦から離れる。
ヴァサラス大佐は渡橋に乗せられて宇宙戦艦から離れて、去って行く四人の宇宙戦艦を見上げ
「私達では、もう…止められないのですよ。兄さん、ナライラ様…」
◇◇◇◇◇
ヴァサラス大佐は他時空との交渉をする時空港へ来ていた。
時空港のビルの会議室で待つヴァサラス大佐と部下達。
その会議室に来たのは
「よう…」
と、収天螺王と全事顕王の二人が現れた。
ヴァサラス大佐が立ち上がり
「ようこそ、トオル様、スベル様」
と、挨拶をして交渉というか…収天螺王達から購入する物質…ディオンニウムの話し合いが始まった。
交渉は何時も通りで、問題なく契約締結と諸々が終わり
収天螺王が
「現状は…どうだ?」
と、ヴァサラス大佐に尋ねる。
ヴァサラス大佐が苦しそうな顔で
「良くない。より…深刻化している。お二人には、何時も…協力を感謝します」
収天螺王が全事顕王を見て、全事顕王が
「構いません。そういう商売ですし…それに、このディーエ時空連合が…時空間で生じる流民の受け入れ先にもなっている」
収天螺王が
「結局、エネルギー問題も、どんな宇宙でも生きる適応性の問題も、解消しても…時空間を渡るようになっても…争いを続ける。何も変わっていない。知性体の永遠の問題さ」
ヴァサラス大佐がそれを聞いて
「それは、超越存在であるアナタ方でも解決は出来ないのですか?」
収天螺王が溜息をして
「無限にどんなエネルギーでも物質でも作れる存在でも、解決できない問題はある。それは、関係性だ。人が人であるが故に争いは起こる。知性体であるが故に知性を持つ者同士は争う。全てが平和になるには膨大な時間が必要だ」
ヴァサラス大佐は、それを聞いて黙る。
全ては、解決不能なレベルまで深刻化し続けている。
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