星光 第134話 時間の無情さ
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キュリアを迎えに来た者達、その接触は…
シュルメルム宇宙工業学園に接岸した時空戦艦からアズサワを連れた一団が渡橋を進んでシュルメルム宇宙工業学園へ入る。
それに対応したのは、ヴィルガメスだった。
ヴィルガメスが部下達を連れてアズサワと共に来た黒い軍服の一団と対面して
「どういう事情か…教えて頂きたいのだが…」
時空戦艦から来た黒い軍服の一団、キュリアと同じ意匠の軍服を身につける一団の先頭にいる男性が
「ここに我々の部隊の者が来ていると思うが…」
ヴィルガメスが溜息をして
「まずは、自己紹介が定石だと思うのだが…」
一団の男性が帽子のツバを持ち笑み
「失礼した。我々は、ディーエ時空連合に所属する部隊で、私はヴァサラス・ホフマン大佐、この部隊を指揮している。先日、交戦中だった部隊の者が、何かの拍子に時空転移に巻き込まれて貴殿の施設へ時空転移してしまった。不幸な事故だ。もし、何らかの損害が出たのなら…こちらでも損害の回復をしよう」
ヴィルガメスがヴァサラス大佐を見つめて
「ここは、シュルメルム宇宙工業学園で多くの学生を抱えるコロニー学園だ。昨日、突如…倉庫区画に出現した未明の機体…マキナによって破壊が行われた。損害は軽微なので問題はないが…。交戦中と?」
ヴァサラス大佐は肩をすくめて
「言葉の通りだ。我々は戦争をしている。無論、貴殿のシュルメルム時空には関係のない話だ」
ヴィルガメスが真剣な目で
「当学園にいる生徒の中に…どうやら、今回の事件に絡んだ人物の知人がいるのでね」
ヴァサラス大佐の両隣にいる部下達が前に出るのをヴァサラス大佐は手を上げて静止させて
「それは、初耳だ」
ヴァサラス大佐側は、ヴィルガメスがごねていると思った。
ヴィルガメスが話している後方に、ティリオとファクドにレリスとルビシャルの四人がいた。
ヴィルガメスとヴァサラス大佐の話の最中、ティリオはアズサワを見ていた。
アズサワはティリオと視線を合わせて、ティリオに怪しく微笑む。
ティリオが鋭い顔をする。
エヴォリューション・インパクターのアズサワが関わっているのだ。
何かの大きな動きがあるのは、間違いない。
ティリオは、一団から抜けて、ヴィルガメス達を抜いて、ヴァサラス大佐の脇を通り過ぎて、アズサワを前にする。
ヴァサラス大佐の部下達が腰にあるエネルギー剣を抜く構えをするが、アズサワが
「やあ…聖帝のご子息くん。初めまして」
ヴァサラス大佐が鋭い顔をして、部下達が困惑。
ヴィルガメスは静かに様子を見る事にする。
アズサワより上の目線になるティリオが
「ボクには初めまして…ではないです。五年くらいですかね」
アズサワが笑み
「なるほど…直接は、会った事がないのに…」
ティリオは鋭い顔で
「アナタがアースガイヤのオルディナイト邸に来た時に、窓から見ましたから」
アズサワは笑みながら
「なるほど、なるほど…」
ティリオが
「幾らで情報を売ってくれますか?」
ヴァサラス大佐達は困惑し、ヴァサラス大佐は鋭い顔をする。
この小僧…アズサワの事を知っている。そして、聖帝のご子息…まさか…
ヴァサラス大佐は、ティリオの正体を察する。
アズサワは呆れ笑みで
「こっちにも色々とあってね…」
ティリオが冷たい目で
「幾らで、いや…どんな物質が欲しいんですか? 少量なら…ボクでも超高次元多結晶体を持っていますよ」
アズサワは苦笑いをする。
ティリオがあの二機を解析し終えているのを理解した。
鋭い顔のティリオと、アズサワの苦笑いが交錯する。
ヴァサラス大佐が
「んん…聖帝のご子息様で間違いないですよね?」
ティリオがヴァサラス大佐を見ると、ヴァサラス大佐は強い圧を感じる。
ティリオは、学生なのだから十代後半な筈なのに、歴戦の戦士のような圧を感じる。 ヴァサラス大佐が
「我々は、正式な軍だ。もし…この問題をこじらせると、後々に…それは」
ティリオが
「このシュルメルム時空は、超越存在の連合に入っている。そこに…しかも、将来の超越存在の連合に加わる超越存在を育成する施設に、そちらの兵力が入り込んだ。説明も無しに回収するとなったら、そちらの方が大問題でしょう」
ヴァサラス大佐は苦笑いする。直球で正論を返したティリオの態度にどうすれば…と困惑する。
あ、これは険悪になる…と察したファクドが入り
「はいはい。お互いに苦労が絶えませんね」
と営業スマイルで場を誤魔化しつつティリオの首を抱き掴んでちょっと離して
少し離れた場所で、ティリオの耳元で
「お前、バカか…険悪にしてどうする?」
ティリオがファクドに掴まれつつ渋い顔で
「事実だろう。それに…」
ファクドが
「いいか、グランナの知り合いであるのは、分かっているんだ。向こうは所属を言ったんだから。それから、おいおい調べればいいだろうが。まずはお互いに顔を売って、ちょっとした繋がりを作る。それからだぞ」
ティリオは何とも言えない顔をした後に
「分かった」
と、素直にファクドに従う事にした。
ティリオはファクドから解放されて、ヴァサラス大佐に頭を下げて
「失礼な態度をして申し訳ありません」
と、謝罪した。
ヴァサラス大佐は棘が無くなったティリオに
「まあ、確かにそちらの言い分も分かりますので」
ティリオが謝罪した後に
「こちらに漂着した。そちらのマキナなのですが。損傷が激しく修理をして操縦者を一名、保護しています」
ヴァサラス大佐が僅かに瞳を広げたが、直ぐに平静にして
「修理した…と?」
ティリオは頷き
「はい、同じ性能の部品を作る事は可能でしたから、それで…作り修理して…」
アズサワはプッと吹き出してしまう。
確かに戦闘中であったので、機体の損傷はネットワークで繋がっている時に分かっている。それが途切れて後は不明だったが…まさか、修理をされていたなんて。
いや、これは、機体を解析した言い訳だろう。
修理したという口実を使っての…。
聖帝ディオスと同じ、中々に曲者だ。
ヴァサラス大佐が少し鋭い視線で
「軍事なので、機密条項がありまして…」
ティリオが冷静に
「機体の修理をしただけで、機体にあったデータは流出していません。もし、不安な事がありましたら…そちらの法的な契約を結んでも構いません」
ヴァサラス大佐達がティリオを見つめる。
十七歳の子供とは思えないのだ。やっているのは…大人顔負けで契約とか言い出している。下手をしたらこちらが飲まれる可能性が…
ヴァサラス大佐が戸惑っているとアズサワが耳打ちする。
「この小僧と繋がりを作っていても損はないぞ。こちらの立場を明確に伝えれば…それを考慮はしてくれし…後々に…」
ヴァサラス大佐が頷き
「そうですね。まあ、では、機密条項に関しての契約の話を」
「ヴァサラス大佐」とキュリアが現れる。
ヴァサラス大佐がキュリアを向いて
「キュリア少尉…無事だったか…」
キュリアがヴァサラス大佐に敬礼して
「申し訳ありません。このような事になってしまい」
ヴァサラス大佐が頷き
「後で話は聞く。直ぐに帰還せよ」
「は!」とキュリアが敬礼してヴァサラス大佐の時空戦艦に通じる渡橋へ進むと
「キュリア!」
と、呼び止めるグランナがいた。
グランナの顔は、今までに見た事が無い程に悲しく苦しそうな顔だった。
キュリアが背を向けたまま
「グランナ。もう…過去のようには戻れないの…忘れて…」
グランナが
「そんな事できる訳ないだろう!」
と、キュリアへ向かうが、その先をエネルギー剣を抜いたヴァサラス大佐の部下達が止める。
グランナが「どけよ!」と超越存在の力を使おうとしたが、その方をファクドが引っ張って
「落ち着け!」
と、下がらせた。
ヴァサラス大佐がキュリアに
「キュリア少尉…キミの知り合いかね?」
キュリアは渡橋を進みながら
「もう、終わった昔の事です」
ヴァサラス大佐は溜息をした後に
「あと…こちらの機体…二機のマキナに関してだが」
ファクドが営業スマイルで
「直ぐに引き渡しますので」
と伝えた後ろには、項垂れるグランナがいる。
ヴァサラス大佐が
「早急に頼むよ。それと…」
と、ティリオを向いて
「機密条項に関する契約だが…我々が帰還した後でも?」
ティリオが頷き
「ええ…構いません」
ヴァサラス大佐が頷き
「では、よろしく頼むよ」
こうして、キュリアは帰還した。
グランナは、またしても何も出来なかった後悔を強めてしまい、ホームの自室に引きこもってしまった。
グランナの自室のドア前でシェルテ達が不安そうに立ち止まっていると、そこへファクドとレリスが来た。
ファクドが
「グランナは…そこか…」
シェルテ達の中にいるラドが
「グランナ様、昔にキュリア様が去った時もこうなった」
レリスがデータ端末を手にする腕を上げて
「じゃあ、このデータは届けられないね。彼女、キュリアの所属するディーエ時空連合の情報なんだけど」
と、口にした瞬間、グランナの自室のドアが開いて、グランナが急いで部屋を出てレリスが手にするデータ端末を奪い取った。
「えええ…」とレリスは困惑する。
グランナがレリスが持って来た情報を見て
「これは…本当なのか?」
ファクドがグランナに肩組みして
「ティリオの所へ行くぞ。ティリオはディーエ時空連合の軍と機密条項に関する契約を結んだはずだ。それによって、もっと良い情報が手に入るぞ」
グランナは力強く頷いて
「今度こそ、絶対にキュリアを…」
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次回、戦争シェアリング