第91話 政争の法廷
次話を読んでいただきありがとうございます。
ゆっくりと楽しんでいってください。
あらすじです。
ディオスの買収書類で揺れるバルストラン議会、そこへディオスが来て、その書類に関する戦いが始まった。
バルストランの王都にある議会堂で、今日もあのディオスがオルディナイトを買収して、ソフィアを王にしたという議論が噴出していた。
野党席、民主新進党の評議員が、ディオスが王座を買収したという書類が入った、透明ケースを掲げる。
「このような、不義があっていいのだろうか! 公正な王位選抜であるキングトロイヤルが、穢された責任は誰が取るべきか? その責任の所在をギレン議長にお聞きしたい」
与党席、自由国民党の評議員は、静かにそれを見つめる。
書類の入ったケースを掲げる評議員が
「議会裁判長、ギレン議長を前に…」
議会裁判長は「ギレンくん前へ…」
ギレンはやれやれという感じで立ち上がり、与党の質疑席に行こうとした次に、与党と野党との間の広間に奥にあるドアが開いた。
そこにいたのはディオスだった。
ディオスは悠然と歩きながら、与党と野党との間の真ん中に立つ。
おおおおおおお
議会が響めく。
しかも、この様子は国内及び、国外に向けて生中継で放送されている。
野党の質疑席にいる評議員が
「自由国民党の横暴ここに極まり! 正式に証人喚問をしていないで、本人を呼び出すなど、権力の横暴だ!」
ディオスは鋭い眼光で野党の評議員を射貫く。
それに、野党の評議員は黙ってしまう。
ディオスはフ…と息を吐き
「自分がここにいる理由は、証人喚問ではなく、己の犯罪に関する潔白を証明する為に来た」
ギレンが
「つまり…グレンテル殿…。犯罪証明という緊急事態なのですね」
ディオスは肯き
「そうだ…」
空気が飲まれている。
ディオスが登場しただけで、ディオスにヤジを飛ばそうにも出ない。
ディオスは野党を威圧して睨んでいる。
アーリシアを四度も絶望に落としたヴァシロウスさえ、恐怖させる威圧に野党達は飲まれていた。
これが、アーリシアの大英雄の威光か…と。
ディオスは口を開く。
「まずは、始めに…民主新進党が、証拠として掲げる書類ですが…。全くの憶えがありません。ゼリティア…」
ディオスの来た扉からゼリティアが歩いてくる。
ゼリティアはディオスの隣に立ち
「こんにちは…ディオスの妻であります。ゼリティア・グレンテル・オルディナイトでございます」
お辞儀して、扇子を広げ自分を扇ぎながら
「では…妾から…民主新進党が持つ、夫の契約書…もし、本物なら、それは…妾のオルディナイトから盗まれた事になります。ですが…確認した所によると…、書類は盗まれていないと…報告を受けています。これは…どういう事でしょう?」
書類を持つ民主新進党の評議員が
「これは、雄志の方よりお譲りいただいたモノ…。オルディナイト大公…貴女が来たという事は…これが本物だと、認めたという事ですね!」
ゼリティアは扇子を畳み、パンパンと手を叩くと、頑丈なケースを持ったセバスが現れ
「失礼します」
と、お辞儀して扉から中へ入る。
セバスはゼリティアの隣に立ち、頑丈なケースを両手に持ってゼリティアに向ける。
ゼリティアがケースのロックに触れてロックを解除する魔法陣を発動した。
このケースのロックは、ゼリティアの魔力波紋しか反応しない。
ロックを解除するには、ゼリティア個人のロックを解除する魔法を使うしかない。
ケースが開いて一枚の書類が出てきた。
ゼリティアはコレを掲げ
「これが…当時、妾と夫が交わした正式な契約書なり、夫のサインと妾のサイン、そして、契約を交わした公正証書の日付の印が押されておる。
この日付は…ソフィア陛下が…王に即位して二週間後である。
これに疑いがあるならオルディナイトの魔導石の取引日報を提出しよう。
日報には、この契約の三日後に夫が作った高純度魔導石の取引が記してある。
これでも不服なら、外部の魔導石の取引記録も見せようぞ」
高らかにゼリティアは言い放った。
野党評議員は
「そんなのデタラメだ! 幾らでも工作出来る!」
ディオスはフッと笑み
「言ったな…では、証明を始めるとしよう…」
パンパンとディオスは手を叩き
「彼女を…」
扉が開かれる。そこにいたのは蒼い制服、警察隊の女性正装をした嫌疑を調べる捜査官だった。
年齢的に二十代半ばで、鋭い眼光を眼鏡の奥に仕舞っている碧髪の人族の捜査官の女性だ。
捜査官の女性が
「初めまして…捜査官、サラ・ドラー・ヴォルドルです」
鋭い眼光の眼鏡を上げた。
野党の評議員は
「なんだね君は!」
サラの鋭い視線がその評議員を見る。
「う…」と評議員は圧に押されて下がる。
サラは
「今回は、とある詐欺事件の捜査に参りました」
「なんだとーーーー」
野党の評議員が叫ぶ。
ディオスの姿が消えた。ベクトの瞬間移動で動いたのだ。
来た場所は、ディオスの不正の証拠たる書類を持っている評議員の所だ。
「あ!」と評議員は驚いている間に、ディオスは書類のケースとって、ベクトで元の場所に帰還する。
「窃盗だーーーーー」
取られた評議員が指さして叫ぶ。
サラが
「はぁ? 何を言っているのですか? これは貴方方の主張では、グレンテル様の書類なのでしょう。つまり、持ち主の元へ帰った。それだけ…。それとも…戻ってはマズイ事でもあるのですか?」
そう言われて、叫んだ評議員は口を紡ぐ。
サラは眼鏡を上げ
「では…装置を…」
と、扉から、一台の大きな装置が運ばれる。
サラが
「これは、筆跡を調べる装置です。同時に…筆跡にある魔力波紋を検出も可能な機器でもあります」
野党の評議員が
「これは権力の横暴による強制だーーーーー」
サラが
「はい? 横暴…何を言っているのですか? これは憲法にある、第二十四条、刑法に関する事で、犯罪の抑止の為に国民は犯罪捜査に協力しなくてはならない。という条例をご存じの筈…。
つまり…これはグレンテル様の名で勝手に契約された詐欺犯罪を調べる為、犯罪捜査協力に…評議員も、王も、貴族も関係ありません。
バルストラン共和王国にいる全ての国民が対象です。
それとも…調べられてはマズイ事でもあるのですか?」
ぐぐ…と言い返した評議員は黙る。
サラは続ける。
「では、グレンテル様…お名前を…」
「ああ…」
ディオスは、議会の会話を記録している書記官達に近づき
「すまないが…紙とペンを…」
書記官は、ディオスに紙とペンを渡す。
ディオスはソレを持って野党側にある平らな机でワザと、自分の名前を紙に書く。
野党評議員は、クッと歯を食いしばって黙ってそれを見つめる。
「はい…」とディオスは名前を書いた紙をサラに渡す。
「ありがとうございます」
と、サラはお辞儀して
「では…まず…これを筆跡及び、筆跡にある魔力波紋を調べる装置に掛けます。皆さんはご存じでしょうが…。
全ての物を使う場合は、それを使う使い手の魔力が物に伝わって、一種の個人の魔力の波紋を保持します。
特に、書面に書いたインクなどには、顕著にその個人の魔力波紋が残っています」
サラがさっきディオスが書いた名前の書面を検査機に入れ
「これがグレンテル様の筆跡と…魔力波紋です」
議会の巨大画面にディオスの筆跡と、隣のグラフに六つの様々な高さを記したグラフが並ぶ。
サラが
「グレンテル様は、特殊な魔力持ちで、その持ち属性はヘキサゴンマテリアル。
6つの全属性持ちであり、さらに…強力な魔力を持っているので、このようにハッキリと特徴が出ます。
これほど…綺麗に六つの属性が出ているのは珍しいですが…」
次にサラはゼリティアに近付き
「では、本物であるとするオルディナイト大公が持って来た書類を装置に掛けます」
サラはゼリティアより書類を貰い、装置に掛ける。
「まずは…筆跡です。まあ…本人の物なので一致します。では、魔力波紋は…?」
筆跡と魔力波紋の画面が一致した。
「当然ですが…二つとも一致します」
サラが言い放つ。
「では、このグレンテル様の不正の証拠とされる書類は…」
サラは証拠品に痕跡を残さない為の、特殊な手袋を填めて、書類があるケースを開けて、書類を検査機に掛ける。
「まずは…筆跡です」
そう、一致した。
おおお なんだと…。 どういう事だ!
そんな声が自由国民党から漏れる。
野党の評議員が「正にこれが証拠だーーーー」と叫んだが…
民主新進党の総裁と、その回りにいる部下達だけは、怯えている。
サラが
「では…魔力波紋は?」
筆跡に次に魔力波紋のデータが投影される。
上がさっき取ったディオスの魔力波紋、下が書類から取った魔力波紋。
それは、明らかに違っていた。書類から取った魔力波紋は、九カ所のグラフを伸ばしている。
サラが
「重ねましょう…」
そういう前に、違っているのだから、野党の評議員は黙って震え、与党の評議員からは笑みが零れている。
結果は明白、全くの不一致だった。
「これはおかしい事ですね…」
サラが告げる。
「筆跡は合っているのに…魔力波紋が一致しない…。これはどういう事でしょう」
質問席の野党の評議員が
「これは複製、コピーなんだ。だから、本物は別に保管している!」
サラが鋭い目付きの眼鏡を上げ
「ほぅ…コピー…」
サラは、書記官の元へ行き
「コピーした書類を…」
「はい」と書記官は適当なコピーした書類を渡す。
サラは装置に戻り
「コピーなら、このように出ます」
魔法や機器で複製された書面の魔法波紋を出すと、綺麗に四つのグラフが並んでいる。
「機器や、魔法で複製された場合は…個人の魔力波紋は消失して、このように使われた機器や魔法の魔力波紋が出ます。
このように、何の素っ気もない並んだ魔力波紋になります。
ですが…この民主新進党が証拠される書類の署名の魔力波紋は、個人の反応があります…。どういう事でしょう?」
質問席にいる野党の評議員が黙って俯く。
サラの捜査が続く。
「では…どうして、筆跡が一致するの…魔力波紋は一致しないのでしょうか? とある実験をしましょう」
サラはさっきディオスが書いた名前の書面を手にして
「この上にもう一枚の紙を置いて…グレンテル様の署名をなぞりましょう。勿論、綺麗になぞる為に…魔法でアシストして…」
サラは綺麗に魔法のアシストにてディオスの署名をなぞって書いた。
「では、これを装置に掛けましょう」
サラはディオスの署名をなぞった紙を装置に掛ける。
「まず、筆跡ですが…。まあ…魔法で正確になぞった為に一致します。では…魔力波紋は?」
そこに出たのは、九つのグラフだ。
「おやおや…これは私が書いたのに…先程の…民主新進党が掲げる書類の九つの魔力波紋と似た反応をしています」
サラが機器を操作する。
「では…先程の、民主新進党の書類の魔力波紋を見ましょう」
画面にさっきの魔力波紋の九つのグラフが出る。
「妙な所があります。なんと…グレンテル様の魔力波紋と一致している箇所が六つあります。これを引いて見ましょう」
そこには三つの個人を識別出来る魔力波紋が出た。
「では…私が先程、グレンテル様の署名を写した筆記の魔力波紋を同じように、一致する部分を引きましょう」
そう、別の個人を識別出来る魔力波紋が出た。
サラは鋭い視線も眼鏡を上げ
「つまり…こういう事です。この民主新進党の証拠とする書面の筆跡は、私がさっき見せたように、誰かが…グレンテル様の署名をなぞって転写したモノという事です…」
民主新進党達は黙ってしまう。
何を血迷ったのか…共和王道党の一人が
「これは…グレンテル様が、再び書類をなぞったのです。ですから」
「バカ!」と仲間が下ろさせる。
サラは目線を鋭くさせ
「どうして、本人が、何のために…そんな無駄な事をするのですか? それに、もし、アナタの言う通りだとしても、同じ方が自分の筆跡を上からなぞっても同じ魔力波紋しか出ません」
ディオスが、サラの隣で
「オレは…この書類の署名を知っている。ヴァシロウスを倒した後、ぶっ倒れて、病余中に様々なお見舞いの品を貰った。
そのお礼状に記した署名だ。どうして分かったか、分かるか? 千枚近く書くので、最後の方にハネが付いているんだよ」
再び、民主新進党の書面の署名を見ると、確かに名前の最後、グレンテルのルの所が終わり点からハネていた。
ゼリティアが、正式な書類を出したケースから、そのお礼状を取り出し、サラに渡すと、サラは早速、検査機に掛けて、筆跡を鑑定、99、9%で一致した。
ディオスが告げる。
「つまりだ…。これは沢山あるお礼状の署名を使って、このように偽証したという事だぞ」
サラが
「では、この公正証書の印も調べましょう」
偽証の書類の公正証書の印を調べる。
「まあ、正確な印鑑なので、筆跡鑑定は無意味ですが…。インクにはとある処理がされています」
偽証の書類の魔力波紋が出た。
それは12個の様々な長さのグラフである。
「公正証書の印には、その日付を読み取れる魔力波紋が刻まれています。この印は確かに、その日付の魔力波紋がありますが…。妙ですね…重なっている部分がある。それを取り出す事にしましょう」
民主新進党の総裁が手を上げて立ち
「今回の事は…我らの行き違いがあったようだ。これで…」
「黙れ!」とディオスは魔獣さえ怯ませる威圧で睨む。
「う…」と総裁は怯えて座る。
サラが
「では…重なっている部分を取り出しましょう」
そう、それは複製魔法を使ったという魔力波紋だった。
ディオスがオルディナイトを王座の為に高純度魔導石で買収した書類は、真っ黒だった。
完全なる詐欺偽証という犯罪行為によって作られていた。
質問席にいる民主新進党の評議員が
「議会裁判長、議会の閉廷をお願いします。これは後に…」
ドンと荒く扉が開かれた。そこにソフィアがいた。
ソフィアは議会の中心、ディオスの元へ来て、野党を睨み。
「これはどういう事…?」
「いえ…その…」と質問席にいる評議員は青ざめる。
「どういう事だと聞いているんだーーーーーーー」
ソフィアは怒声で荒げた。
ソフィア達の後ろの与党席にいる自由国民党の評議員は呆れかえっていた。
ソフィアが怒りを込めて淡々と
「お前達のやった事は、完全なる犯罪よ。その影響でどれだけ、アーリシアが揺れたと思う?」
民主新進党の総裁が立ち上がり
「ソフィア陛下…これは、後々の」
ソフィアは総裁を睨み
「ここにバルストラン王の権限によって、王権限第十二条における。国家強制犯罪を勅命します。バルストラン元帥、レディアン・ヴォルドル…」
扉からレディアンが部下達を伴って入ってくる。
ソフィアが勅命した国家強制犯罪とは、国を揺るがす大犯罪を国家の総力を挙げて解決するという布令だ。
強力すぎるこの布令は、バルストランでも数える程しか発令されていない。
それは、この布令された事件に関する事で偽証した場合は、貴族でも王族でも関係なく、投獄される。それ程までに恐ろしい勅命である。
その布令の最高施行者として、軍部の元帥が任命される。
レディアンはソフィアに跪き
「何でしょう陛下」
ソフィアは
「今回の事件に関しての全ての捜査権限権を任免します。王の代行して、事件の解決をしなさい」
「は…」とレディアンは傅いた後、立ち上がり野党の方を向き
「では…早速、一人一人、取り調べといこうではないか…。まずは…トゥルーベルを使ってのな」
トゥルーベル、それは証言している事が真実か、ウソかを見抜き、ウソなら鳴るという強力なウソ発見器の魔導具である。
余りにも強力過ぎるので、使用には、被疑者の同意が必要だ。
さらにトゥルーベルの厄介な所は、黙秘してもそのウソが見破られて鳴るのだ。
野党達は、沈黙して俯く、もう…死に体だ。
それを見てディオスは
「バカ共が…」
それしか、言葉が無かった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次話があります。よろしくお願いします。
ありがとうございました。




