星光 第128話 再臨と遠い遠い記憶
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聖櫃の出現、混迷する事態、そこで最後に勝利する者は?
聖櫃が超空間ネットワークの上部に出現する。
アマテラスは驚愕し
「な、あれは…」
ミカボシとスクナは並び、ミカボシが
「まさか…使う事になろうとは…」
スクナが下ろしたティリオを見つめ
「さすが、聖櫃と融合しただけはある。抜群に引き寄せてくれる」
ティリオが目を覚ますと「ええ…」と状況を見て混乱するも整理を始める。
多分、ネオシウス時空の高次元、超空間ネットワークの領域にいて、その超空間ネットワークの上に浮かぶ時空戦艦の甲板にいて、目の前には七色の黄金の髪をなびかせる獅子のようなアマテラスがいて、自分がいる隣を見ると、ミカボシとスクナの二人がいる。
そして、聖櫃が出現している。
ティリオがミカボシを見上げて
「あの…これは…」
ミカボシが左のポケットから何かの端末を取り出して座っているティリオに渡して
「これは、代金だ。聖櫃を使わせて貰うね」
ティリオは意味が分からずに端末を受け取る。
スクナがミカボシに
「データの転送は?」
ミカボシが頷き
「構築しながら複製を同時に作ったからな、問題ない」
スクナが頷き
「では、転送済みという事で…」
ミカボシも頷き
「まさか、このバックアッププランを使う事になるとは…」
アマテラスが動く、ミカボシへ向かって飛び込む。
その姿は、獲物を狙う獅子のようだった。
スクナが前に入り「オン」と唱えると、アマテラスの全身を見えない空間の束縛で固定した。
アマテラスが
「ティリオ・グレンテル! ミカボシを押さえなさい! 押さえたなら…相応の報酬を渡します」
ティリオが困惑していると、その額にミカボシが指先を当て、ティリオの体が動かなくなる。正確には痺れて指先や足に力が入らない。
ミカボシが
「終われる頃には、麻痺が取れるから心配するな」
スクナは笑みティリオに
「すまんな。聖櫃を呼び寄せる鈴として君に来て貰った。非礼をお詫びする」
ミカボシが聖櫃の方へ歩き出し、アマテラスが涙しながら
「雅人…どうして…?」
それを聞いてミカボシは、驚きでアマテラスを見つめて
「まさか、明美だったのか…」
アマテラスが縋るように
「ええ…そうよ。だから…」
ミカボシが嘲笑いを向けて
「そうか、結局、オレから搾取していたのは、何時ものあのクソ女だったという事か…人生とは運命とは、最高の皮肉を用意しているというのは、この事だな」
スクナがミカボシを見て
「知り合いか?」
ミカボシが
「前の前にな、そのお陰で…オレはミカボシとして転生した前があり、そして、今がある」
アマテラスが涙しながら
「私は…やり直したかった。だから…ミカボシ…アナタがどんな事をしていても構わない。非道な悪人でも…だから、私の元に帰ってきて、それだけで」
ミカボシが束縛されるアマテラスに近づき、バカにした笑みで
「お前は下らんなぁ…愛だの、希望だの、それは、それが通用する奴らに言え。愛にも限界はある。希望にも限界がある。無限の可能性なんて、進化という絶望にしかない。お前は、相変わらず…愛に取り憑かれているなんて…もう、終わった事なのになぁ…」
と、告げて聖櫃に手を伸ばす。
聖櫃から光が伸びてミカボシを包む。
ティリオは、ミカボシが聖櫃と対話している事に驚く。
自分には出来ない事だ。
ミカボシが聖櫃との対話を終えると、聖櫃が開く。
そこへ向かってミカボシが飛び、聖櫃へ入った頃に、武装したディオスが時空戦艦へ現れて着地する。
ティリオは、禁止装備デウスオメガウスを持ち出した父親ディオスに驚き
「父さん! それ! 禁止されている装備!」
ディオスが
「ティリオ! 無事か!」
と、ディオスが叫ぶ頃には、スクナは姿を消した。
そして、ミカボシを入れた聖櫃が光輝き、その光から再び、ミカボシのサルヴァートであるエーシェントルドが出現した。
ミカボシは力を取り戻した後に
「では、これで…後は…よろしく」
と、エーシェントルドの力を放って攪乱して逃亡した。
同時刻、北斗と対戦していたハジュンも、自身のラージャハラアーダーを爆破させて逃亡した。
北斗は、宇宙空間で佇み
「終わった?」
何とも不可思議な終わりを見せてネオシウス時空で起こった前代未聞のテロ事案は収束した。
主犯格であり、様々な手配をしたミカボシとハジュンは逃走。
ネオシウス時空には、新たな超越存在であるアマテラスが誕生してもたらされた。
だが、アマテラスの願いは…遂げられなかった。
◇◇◇◇◇
それは、遠い遠い昔話だった。
小さな街角の小さなアパートに、彼女は帰ってきた。
寒い師走、パートから帰ってきて一人…食事を用意して、小さなアパートの部屋にある小さなコタツに並べて、一人と…とある名前が書かれた木の札を前にして
「いただきます」
と、木の札に祈りをして…。
木の札には、若本 雅人とだけ。
木札に書かれた人物は、二十年以上も前に亡くなった、彼女の別れた元夫である。
原因は、夫のDVとされているが…ウソである。
彼女は、明美は浮気をして、浮気した男と一緒になるつもりだった。
そして、妊娠した子供も浮気相手の子だった。
浮気相手の男は、元夫の同僚で、上手く夫を罠にはめて…
会社をクビになり、夫は次の仕事を探している時に、妻だった明美は追い詰めた。
そして、手が出た。
それによって、自分が慰謝料付きで子供の親権も手にして、浮気相手の男に渡った。
明美は、まだ二十歳後半だった。
自分は、まだまだいける…と思い上がっていた。
確かに美人であり、大学でも人気だった。
驕りがあった。
だが、その驕りは続かなかった。
浮気相手の男は、明美をアッサリと捨てた。
他の女が現れて、そっちへ移ったのだ。
明美は、浮気相手の男を責めるが、浮気相手の男は明美の子は自分の子では無いと言って慰謝料を請求した。
明美は娘をDNA鑑定した結果、浮気相手の男の子供でもなかった。
浮気相手の男は知っていた。明美が他の男にも流れていたのを…
不貞の証拠となり、明美は慰謝料を請求されて、離婚となった。
そして、明美が頼ったのは、あの別れた元夫だった。
だから、元夫の実家を訪ねたが、元夫の実家は明美を拒絶した。
当然だ。
ウソと虚偽によって離婚させた女なんて、家族でもなんでもない。
邪悪な存在だ。
明美は、娘のDNA鑑定をして元夫の子だと…証明しようとしたが…。
浮気相手の男でも、元夫の子でもなかった。
その事を知った娘は、高校生の時に家出して消えた。
明美の周囲が全て瓦解した。
どうしようもなくなって、明美は…細々と暮らす事にして、元夫を探す事にした。
そして、見つけた時には死んでいた。
明美がすがりついたのは…元夫との幸せだった家族の一時だけ。
現実は、誰もいない。全ての原因は自分の愚かさだ。
そして、明美の人生も終わる。
末期のガンで、治療をすれば…延命も…
それを明美は拒絶した。
これは…自分への罰だとして、そうして、たった一人、元夫と初めて大学時代に暮らした安いアパートの部屋で、吐血して、唯一残っていた元夫との思い出のスマホの写真を見て微笑む。
もし、生まれ変わるなら…次にやり直せるなら…
次こそは…と明美は、亡くなった享年五十代である。
そして、アマテラスとして転生した。
そこで、見つけた。生まれ変わった彼を…
◇◇◇◇◇
若本 雅人は、全てに絶望した。
愛した筈の彼女は、元妻は不貞を働き、子供は自分の子ではない。
そして、自分をはめて離婚させて。
後々に、会社では、元妻の浮気相手の男の横領がバレて、そして…会社がクビにした間違いも露呈して、会社は一気に信用が失墜して潰れた。
そして、若本 雅人は最後の人生を終えようとしていた。
肺炎を起こして、救急車を呼ぶ気力もない。
その枕元に、幽玄の存在が立つ
ソイツが微笑み
「どうだった? 人の人生は?」
雅人は微笑み
「クソ食らえだ。何が愛だ、幸せだ…所詮、愚か者の…戯言だ…」
世界を呪うでもない、世界を恨むでもない、人の真理を知って達観していた。
ソイツは微笑み
「そうか…学んだなぁ…お前は…人の本質を学んだ。人に生まれ、人の本質である愚かさを最も味わえる時代に生き、人とは?を十分に学んだ。それをもって、再び人に生まれ直したいか?」
雅人は最後の微笑みで
「もう、人である人生の興味はない。本来の神生を…」
ソイツは雅人の額をなで
「よし、戻って来い。天津甕星…」
と、転生させて本来の姿へ戻した。
若本 雅人、二十代後半で亡くなる。
天津甕星に…
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次回、亡国覚醒カタルシスの後日談