星光 第110話 逸般の誤家庭
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ティリオはアルヴァート陛下に呼ばれて交流の食事会を…
ティリオは、食事に呼ばれていた。
相手は…アルヴァート陛下だ。
アルヴァート陛下の城、そこは空中に浮かぶ宮殿で、アルヴァート陛下のような皇族達が暮らしている。
その宮殿が浮かぶ惑星は、緑に覆われて美しく、地上には誰も住んでいない。
その惑星に住む全ての知的生命は、空中宮殿に暮らしている。
この惑星は、皇族とその関係する貴族達が暮らしているタルコシアス連合宇宙帝国の主星だ。
地上の風景が足共に広がるホール。
天井は、空が見える。
外の風景が全て見える透過のホールには、テーブルが置かれて、それをティリオとアルヴァート陛下が挟んでいる。
二人の目の前に給仕が食事を運ぶ。
宇宙文明級の世界では、人に食事を運ばせる事は贅沢だ。
全てがテクノロジーによって維持される。
サービスや対面の事は、人より遙かに高速に演算して答える人工知性DIによって処理される。
宇宙文明級の世界を支える圧倒的な物資の生産は、惑星規模の自動工場が人とDIの共同管理で運営される。
人は、様々な仕事をDIと共に行う。
だからこそ、人が人の世話をするの事が贅沢になった。
そんな贅沢が許されるのは、宇宙文明級の世界でも上流階級だけだ。
全体の99%は、進んだ文明の恩恵を受けている。
残り1%、宇宙文明級の世界の富を独占する者達は、逆行した生活形式を求めて退化した様式を…。
それは…人とは、こうであるべきという戒律に縛れているかの如く…。
故に、富を独占する者達の生活は、その生活を支えるシステム以外は、宇宙に出る前の惑星時代にあった中世のような世界になっている。
ティリオは、ナイフとフォークで食事する。
人が誤って手を切らないようにレーザーの刃が消えるナイフでもないし、フォークが人肌を感知してゴムのように柔らかくなるナノマシン素材ではない。
金属の…人の手が加工したナイフとフォークを使う。
ティリオがナイフとフォークを見つめていると、アルヴァート陛下が
「どうかしたのかね?」
ティリオが
「いいえ…その、珍しいナイフとフォークだと思って」
アルヴァート陛下が
「この惑星で職人に作らせている。この惑星で生活する者達には、人の手で加工した物を使用するようにしている」
ティリオが唸り
「こういうのを贅沢…という事なんでしょうね」
アルヴァート陛下が
「アースガイヤでは、一般でさえも人が作った食器や物が溢れているのだろう」
ティリオが
「それが当たり前だったので、アースガイヤ外の進んだ技術の世界の便利さが…良いと思っています」
アルヴァート陛下が
「我々には、人が手を加えて作った物の贅沢が分かる。それは…宇宙全体に広がる程に進んだ技術文明から見れば素晴らしい事だ」
ティリオが「はぁ…」と告げる。
アルヴァート陛下が
「キミに聞きたい事があってね」
ティリオが
「聞きたい事? どういう事でしょうか?」
アルヴァート陛下が少し悲しげに
「キミは、偉大な聖帝である父君の次、跡継ぎとなった。どうして…成れたのか?とね」
ティリオが微妙な顔で
「まあ、そうなってしまった…とし答えられませんね。色々とやっていたら…そうなってしまった、と…」
アルヴァート陛下が
「それについて、不満はないのかね?」
ティリオが
「不満ですか。まあ、仕方ないと思っている反面、何かあったら…みんなを頼ればいいし、ムリせず…やって行けば良いとしか思っていませんから」
アルヴァート陛下が深刻な顔で
「君達も色々と聞き及んでいるから分かっているだろうが。我が息子のオルスは…」
ティリオが
「何か後悔があるのですか? 陛下…」
アルヴァート陛下が自分の右にあるワインを飲み干して
「本当は…皇族としての居場所を与えたかったが…」
ティリオが「はぁ…」としか答えられない。
アルヴァート陛下が
「あの日の卒業生のパーティーの事も…オルスなら冷静に…対処すると思っていた。だが…」
ティリオが純粋な感じで
「後悔しているのですか?」
アルヴァート陛下がうつむき
「もっと他の方法があったのかもしれない。それなのに…」
ティリオが黙ってしまうと、アルヴァート陛下が
「申し訳ない。キミに愚痴を言ってしまった。キミを呼んだのは、別の理由があるのだよ」
ティリオがアルヴァート陛下を見つめて
「どのような理由なのでしょうか?」
アルヴァート陛下が
「ティリオ・グレンテル殿。キミに星艦オルボスの分析をお願いしたい」
ティリオが困惑の顔で
「星艦の分析ですか…」
アルヴァート陛下が
「オルスが使っていた星艦オルボスには、我々の技術にはないモノがある。恥ずかしいが…それが我々には何なのか…分からないのだ。それをキミに解析して貰いたい」
ティリオが視線を右往左往さえ
「ですが、自分一人がその判断を…」
アルヴァート陛下が
「キミの父上、ディオス殿には伝えてある。ディオス殿は、ティリオが了承するなら構わないと…」
ティリオが溜息を漏らす。
根回しは済んでいるという事か…
「分かりました。お引き受けしますが。ですが、それはここにいる期間だけですから」
ティリオ達がここに居られるのは後一週間だ。
アルヴァート陛下が頷き
「構わない。その期間の間に成果がなくても、キミを責める事はしない」
ティリオが頷き
「では、早速、明日から…」
◇◇◇◇◇
ティリオが帰った後、アルヴァート陛下の書斎にカイラルドが来た。
「陛下…」
アルヴァート陛下が書斎で書類を見ながら
「ティリオくんは引き受けてくれた」
カイラルドが頷き
「そうですか。何か…怪しむ様子とかは…」
アルヴァート陛下が
「正直に、我々の技術では分からない事がある…と伝えた」
カイラルドが
「もし、これで…オルス様に繋がる手がかりが…」
アルヴァート陛下が
「そうなれば良いがな…」
◇◇◇◇◇
ティリオ達は、ヴァイオレットの艦隊に連れられて星艦オルボスへ来た。
全長が百億キロもある星系サイズの艦、星艦の内部に入るティリオ達を乗せた艦隊。
星艦オルボスの形は十字に巨大な円盤が備わる宗教的な外観だ。
星艦の内部は、中心が動力であり星艦の内部を支える重力とエネルギーを発生する動力太陽があり、その周辺を十数個にも及ぶ惑星が並び、その惑星では資源の生産や、物品の製造、食料とエネルギー生産、と多種多様な事が行われている。
星艦オルボスの内部を進むヴァイオレットの時空艦隊。
ヴァイオレットの時空艦隊の旗艦、全長100キロ程度の時空戦艦の艦橋にティリオ達がいて、艦隊司令であるヴァイオレットが
「アレです」
と、ティリオが調査を依頼された内部惑星を示す。
その惑星は、黄金の円環を二つ持ち、中心が光を放つエネルギーのコアの惑星だ。
ティリオと並ぶグランナ、ファクド、レリス達三人。
女性陣であるジュリア、アリル、ナリル、エアリナ、ルビシャルは、オージン達と別行動をしている。
レリスがエネルギーのコアの二連円環惑星を見つめて
「何かのエネルギー生成惑星施設かなぁ…」
ティリオが艦橋にあるエネルギー探査グラフを見て
「それにしては、何もエネルギーを放っていないし、その痕跡がない」
ファクドが
「何かのデザインとか?」
グランナが
「この持ち主だったオルスが、そんな事をする性格か?」
ファクドが
「まあ、そうだね」
ティリオが
「近づいて調べてみよう」
◇◇◇◇◇
同時刻、クロストとナハトルにアリエスといった若いセイントセイバーの十名が乗る魔導時空戦艦がネオシウス時空に到着して、クロストが
「ティリオは…ここにいるのか…」
と、ティリオの現在地を調べ
アリエスが
「じゃあ、そこへ向かいましょう」
クロストが頷き
「そうだな…」
クロスト達は、ティリオがいる星艦オルボスの宙域へ向かった。
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次回より新章、亡国覚醒カタルシスです。
嵐の前




