星光 第108話 断罪の卒業生パーティー
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オルスが断罪された運命のパーティー、そこでは…
オルスは一人、屋敷の部屋で居住区の宇宙コロニーの天井が見える窓を見つめていた。
円筒形のコロニーの内壁には、様々な街が広がり、コロニーの回転する天井の風景に…
「ここに転生して、もう…18年か…」
オルスは転生体である。
とある目的の為に転生した者。それには期限がある。
期限中には目的を達成できそうだ。
オルスの体内にあるナノマシン通信にコールがされて
”よう…元気か?”
オルスがナノマシン通信をとり
「ああ…元気さ」
通信相手が
”でだ。お前の望み通り用意して置いた。場所はここだ”
オルスにその場所が転送される。
「感謝する。ありがとう」
通信相手が
”何時、行くんだ?”
オルスが
「直ぐさ。卒業式も終わったし。この後に卒業生のパーティーがあるんだが…その最中に行く」
通信相手が
”トラブルは? もしあるなら…手を貸そうか?”
オルスが皮肉に笑み
「必要ない。どうせ、オレのここでの現世の立場は、廃嫡寸前の皇太子だ。いなくなっても…大丈夫さ」
通信相手が
”もう少し、大人しくしていてもいいぞ。期限まで時間に余裕がある”
オルスが真剣な顔で
「期限までには余裕があるが…オレがやるべき事の期限はギリギリだ」
通信相手が
”そこまで、気にする必要があるとは思えないが…まあいい。じゃあ”
オルスが
「ああ…またな。スクナ」
通信相手が
”ああ…またな。ミカボシ”
通信を終えたオルスが「さて…」と動き出すと、玄関のコールが鳴る。
玄関の映像を確認すると…ドレスにメイクアップしたルシアがいた。
面倒な顔をして、オルスは玄関に向かい
「なんだよ」
ルシアが腰に手を当て不満そうな顔で
「アンタを迎えに来たのよ!」
オルスが呆れた顔で
「卒業生のパーティーなんて出ないぞ。オレには関係ない」
ルシアがオルスの手を握り
「アタシのパートナーとしての最後の仕事をしなさい!」
その手を振りほどくオルスは、腕組みして
「オレを自分の欲の為に利用した女が、パートナーとは…」
ルシアが長身のオルスを睨み上げ
「ええ…そうよ。どんな形でさえ、アンタとアタシは…学園でパートナーだった」
オルスは呆れた感じで
「これで、終わりだからな。学園でのパートナーの仕事は…」
ここで拒否してもルシアは、うるさいのを知っているから折れるしかない。
それを何度も体験した経験から、最短で問題が軽く済む方を選んだ。
オルスは素早くタキシードに着替える。
黒を基調とした重厚なネクタイの紳士。それは、パーティーに行くというより護衛のような雰囲気がある。
オルスは、チャンとした皇族としての継承者ではないので、皇族としての制服は持っていない。それに不満を漏らした事はない。それは…オルスが転生体という肉体年齢より年齢を経ているという事実があるからだ。
見た目は子供だが、中身が大人という事だ。
ルシアは見慣れたオルスの黒い紳士の戦闘服に
「もっと華やかな格好をしなさいよ」
オルスがルシアを見て
「オレの黒と、ルシアの白のドレス、対比となって良いと思うが…」
ルシアはフンと鼻息を荒げるも、手を差し出す。
それをオルスは握る。
こうして、どうでもいい卒業生のパーティーへ向かった。
◇◇◇◇◇
卒業生のパーティー会場、二階席でアナスタシアは付き添いをお願いした弟ルークスと共にテーブルにいた。
別の席、広間席ではカイラルド達が不安と苛立ちで待っている。
二階席の皇族席では、オルスの両親であるアルヴァート陛下とレアス妃が静かにパーティー会場を見下ろしていた。
この卒業生のパーティーにいる全員は、とある仕込みをしていた。
だが、その相手であるオルスが現れる可能性が低いのを知っている。
彼らがやろうとしているのは…その全ての算段を用意している。
今か今かとオルスを待っているが…現れない。
このままでは…失敗か…と思われたそこに
オルスがルシアを連れて現れた。
それに全員が安堵した。これで計画に…。
オルスが鋭い顔でルシアを連れてパーティー会場へ入る。
「くだらない」
と、オルスが呟く
それをルシアは聞いていた。
コイツは…昔からこうだ。煌びやかな世界に全く興味が無い。知識と理論、理屈の人間で感情を顕わにする事はない。何処となく冷めていて、大人びている。
ルシアは自分も同じ転生体なのに、オルスの方が遙かに年上に感じて、自分の未熟さを痛感して、何時も…オルスに当たっていたが。それをオルスは分析して応じていた。
だから、今回も冷静に…。
誰しもが…ルシアと同じく思っていた。
だが…
オルスが静かに会釈してルシアを連れて、どこに行こうか…と周囲を見ている。
面倒には巻き込まれたくない。そう動いていると…。
「オルス…」と呼び止めるカイラルドがいた。
オルスは、そこを振り向くとカイラルド達がいた。
カイラルドは、母親の本家の貴族達で血族の親戚ではあるが…繋がりは薄い。
オルスが会釈して去ろうするがカイラルドが
「オルス、キミは皇族として相応しくない! ここにキミを断罪する!」
と、書面を掲げる。
始まった。卒業生のパーティーの会場の空気が緊張に包まれる。
オルスは、はぁ?と内心で疑問に思うも…とある事が過る。
そして、静かにカイラルドの次の行動を待つ。
カイラルドがオルスの反応に予定通りだ!として
「ここには、キミが皇族として相応しくなかった振る舞いの数々が告発されている! キミは」
一つ一つ、告白を読み上げる。
皇族としての責務、星艦の事に加わっていない事。
更に学園での相応しくない暮らしぶり。
皇族としての自覚の欠如。
と、オルスが皇族として相応しくないとして断罪する。
カイラルドが二階の皇族席にいるアルヴァート陛下夫婦に
「オルスの皇族からの廃嫡をここに申し上げます」
全ては仕組まれた事、オルスを皇族から排籍して、貴族へ卸す儀式。
それをアナスタシアは見つめて苦々しい顔だ。
本当は…アナスタシアは固く手を握り締めていた。
それをルークスが
「姉様。あまり良い事でありませんので」
アナスタシアが
「いいの。最後まで見るわ」
全てはオルスの性格までも考慮して進められる。
オルスは感情を荒げる事はない。
どこまでも冷静に対応する。
それを込みで進められる。
これでオルスは、皇族から卸されて貴族の元へ嫁ぐ。
オルスを生かす為に…
父のアルヴァート陛下が
「誠か、オルスよ…」
と、告げた瞬間
オルスがテーブルを殴り飛ばしてひっくり返した。
全体の空気が変わった。え?
「そうかよ!!!!!!」
と、オルスが怒声を荒げた。
予定外が起こった。
アルヴァート陛下が黙ってしまう。
オルスが父親と母親の席を指さして怒りの顔で
「そんなに、オレに死んで欲しいなら、死んでやるよ!」
カイラルドが「いや」と告げた瞬間、オルスは別のテーブルを蹴り飛ばして更に場を荒らした。
完全に会場の空気がオルスに飲まれて
「オレを殺したいなら、オレはオレで死ぬよ。星艦オルボスに挑んで死んでやるよ」
アルヴァート陛下が
「オルスよ」
「黙れ!」とオルスはアルヴァート陛下を指さして殺気の視線で睨み、近くにあったグラスを両親の席へ投げた。
それを守ろうと左右の護衛が動いたので両親は無事だが、割れたグラスが両親の席に転がる。
初めて見せた息子オルスの激怒に対応できない両親。
オルスがパートナーであるルシアに
「どうだ? ルシア…一緒に来ないか? オレのパートナーだろう」
と、ルシアの肩を掴んだ。
ルシアが青ざめてオルスを弾き飛ばして
「ふざけんじゃあないわよ! 自殺なんて、アンタが勝手にやればいいでしょう!」
と、防衛で叫んだ後、オルスのあざ笑いがあった。
それでルシアは察した。
やられた…こう、言い返すのをオルスは想定していた。
オルスは、はははははは!と狂ったように笑み
「さすが、オレが惚れた女だけはある。自分の利益の為にオレを利用しただけはある」
と、次はカイラルド達を睨み笑みで
「お前等も一緒だろう」
その視線に晒されただけでカイラルド達は動けなかった。
全ての状況がオルスに飲まれてしまった。
そこへ
「私を連れて行きなさい! アナタとなら地獄の底だって付き合います」
と、アナスタシアが階段から下りてきた。
オルスがアナスタシアを指さして
「お前は! そこがバカなんだよ! 自分の立場も状況も理解しないで行動する! アナスタシア皇女である自覚を持て!」
それでもアナスタシアがオルスの元へ来て
「ええ! そうよ! アナタのバカにつき合うなら、このくらいバカで十分よ」
オルスがアナスタシアの額を小突いて
「お前みたいなバカなヤツと一緒に死ぬなんて冥府での恥だ! 来るな!」
負けじとアナスタシアが立ち向かおうとするが、殺気の睨みをオルスが向けて
「来るな…」
アナスタシアの全身が金縛りのように動かなくなり、言葉さえ出ない。
動け、動いて! どうして?
アナスタシアは動かない体に檄を飛ばして動かそうとするも動かない。
オルスは笑み、背を向けて
「じゃあな。皆々様」
と、パーティー会場から去っていた。
全体が息を吹き返した後、アルヴァート陛下が
「このコロニーの全宇宙港を封鎖しろ!」
と、命令する。
全てが後の祭りとなり、アナスタシアが動くようになった体に
「どうして…今になって…」
ルシアが
「やられた…アイツの思惑通りに…」
その後、封鎖された宇宙港からではない。コロニー外壁に隠されていたオルスの宇宙船がコロニーから出て行ったのを知ったのは、オルスの宇宙船が港にあると偽装が判明した後だった。
それから一ヶ月後、オルスは星艦オルボスを手にした。
封印された星艦オルボスを手にした功績は直ぐに広まり、オルスを正式に皇族としてする布令が出されるも、オルスはパーティー会場の断罪を盾に皇族から除籍されていると…断罪した貴族達や仕組んだアルヴァート陛下達は、行き詰まった。
オルスは皇族ではない、一般として星艦オルボスの力を使って様々な宇宙コロニー会社を作り貴族達や皇族や王族以外の者達に提供した。
ルシアとアナスタシアには慰謝料として、宇宙コロニー会社を分与した。
皇族や王族、貴族ではない。別の者が宇宙財産を与えるという事態が続き、それに反発する貴族もいて、オルスを討伐しようと向けるも、討伐を指示した貴族の遺産達がオルスによって停止させられて、討伐は立ち消えになった。
オルスのやった事は、二千年も続いたネオシウス時空の統治体制に混乱と大穴を残す事になり、卒業生のパーティーから七年後にオルスが失踪した。
今も、オルスがやった爪痕は大きく後を引いている。
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次回、諸々の動き