第84話 平和交流、出発
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あらすじです。
ゼリティアが出産して、元気な女の子、ゼティアも誕生してのもつかの間、ディオスは、再びロマリアへ派遣される。雪解けムードのアーリシアとロマリアの関係を加速させる為に。だが…その裏では…
その日、ゼリティアの城邸では、ソフィアとレディアン、ゼリティアの三人が大きな客間で話をしていた。
ソフィアが
「もうそろそろね。ゼリティア」
と、大きなゼリティアのお腹を見る。
「そうじゃのぉ…」
ゼリティアは、産まれる赤ん坊がいるお腹を愛おしそうに撫でると、その両脇には、ティリオとリリーシャがいて、ゼリティアのお腹に触れている。
ティリオとリリーシャがいるのは何故か?
王都周辺で、大きな魔力の渦が発生し、それに伴って小型の犬サイズの魔物が大量発生したのだ。それを狩るために、ハンターであるクレティアとクリシュナが出ていて、その魔物を狩る者達の炊き出しの手伝いに屋敷のメイド達も呼ばれているので、こうして、ゼリティアの所に預けられているのだ。
ティリオとリリーシャは何度もゼリティアの大きなお腹に触れながら、驚いた顔を見せているとソフィアが嬉しそうに
「あんた達、もうすぐ兄妹が増えるわよ」
ゼリティアのお腹にいるのは、検査で女の子と分かっている。
レディアンが
「なぁ…ゼリティア…。その産まれる赤子だが…。どうだ? ウチの一族の誰かを許嫁にしないか」
ゼリティアは、呆れた顔をして
「レディアンもそれを言うか…。色んな者達から、是非、許嫁と言われて耳にタコが出来そうだわ」
レディアンは惜しそうな顔で
「良いではないか…。あのディオスのシンギラリティの体質と、オルディナイトの血筋を受け継いでいる子だぞ。ちゃんとした相手がいた方がいいに越したことはないぞ」
ゼリティアは
「この子は、自由に選ばせてやりたいと、ディオスと共々、思っておるのだ…。だから…」
「よーし、分かった。選んで貰えるようにすれば、良いのだろう」
レディアンは自信ありげな顔をする。
「全く…」とゼリティアは呆れている。
ソフィアはそれを見て微笑む。この場景は、親戚同士の会話のように暖かい。
「不思議よねぇ…」
と、ソフィアがポツリと漏らす。
『んん?』とゼリティアとレディアンが顔を向ける。
「だって、アタシ達…ホン近年まで、王座を巡って火花を散らしていたのよ。それが…今では、こうして気軽に井戸端会議なんてして…」
そう、ホンの三年前くらいまで、この三人は親戚の家族の様な付き合いは出来なかった。
己の主義を巡って熾烈に争った。
お互いの一族関係や背景を巡って戦っていた。
だが…冷静に考えれば、ソフィアの父親は前王の長男、ゼリティアの母親はその長女、レディアンの母親もその次女である。
普通なら、親の兄妹関係として親戚だったが…。
それは、今までなかった。
そして、今は…その親同士の姪っ子として、気軽に話せるのだ。
レディアンは、含み笑みでゼリティアを見て
「どっかの誰かの旦那、所為だなぁ…」
それにゼリティアは気付いて「フフ…」と微笑む。
ソフィアが
「あと、十七年ぽっちで、私の王座は終わるわ。その後は、二人の任せるわ」
レディアンとゼリティアを見るソフィア。
レディアンは困った顔をして
「それは、出来ない相談だ。私は、アーリシア統合軍を任されいる身だ。まだ、アーリシア統合軍は、ヨチヨチ歩きの赤ん坊だ。立派にするには…十年、いや…数十年と掛かりそうだ。なので、ゼリティア。お前の譲ろう」
ゼリティアも困った顔をして
「それは、こちらも困る。その頃には、お爺様からオルディナイト財団を譲り受けておるだろう。そうなると…夫殿が色々と考え貯めている事を、実現せねばならぬ。王座までは賄えぬぞ」
「と、言う事は…」とレディアンはソフィアを見つめ
「延長だなぁ…ソフィア」
「えええええ」とソフィアは嫌そうな顔をして
「何よ、まるで厄介払いみたいに押しつけられているんだけど…」
ゼリティアが
「仕方なかろう。事態が大きく変わりすぎておるのだ。故に、延長戦。頼むぞ。ソフィア」
ソフィアが二人をジーと見て
「アタシが、延長に入る前に、アンタ達…少しはやりなさいよ」
レディアンが
「やれればなぁ…。その見通しが立たんのが現状だ」
ソフィアが渋い顔をして
「全く、なんて状況なのよ…。こんな事になったのも…」
ドアがノックされる。
「セバスです。ディオス様が来ましたので…」
「ああ…分かった」とゼリティアが返事をすると
「ああ、入るぞ」とディオスが入ってくる。
そこへ「全部、アンタの所為よーーーー」とソフィアがディオスを指さした。
ディオスは挙動不審となって自分を指さし
「え、オレの所為?」
全く事態が分からなかった。
そして、ゼリティアの出産日となった。
城邸にある整った医療施設で、ディオスはガタガタと震えていた。
その両脇には、クレティアとクリシュナがいた。
夜遅いので、赤ちゃんのティリオとリリーシャは、城邸でグッスリと寝ている。
ガチガチと歯を鳴らせてディオスは、震えている。
「だ、大丈夫ダーリン?」
クレティアが心配になって尋ねる。
「ううう…あああ…ううううう」
ディオスは震えて、反応しない。
クリシュナが傍にいるセバスに
「セバスさん。もしかして…私達の出産の時も…」
セバスは肯き
「はい。このような状況でした。クレティア様が帝王切開になると聞いた時には、気絶もしました」
クリシュナは顔を引き攣らせる。
クレティアが
「ねぇ…ダーリン。気分を落ち着ける為に、礼拝堂に行こう」
クレティアとクリシュナに連れられて、城邸内にある礼拝堂に来ると、十字架の神体を前に、ディオスは平伏して
「ああああああああああ」
頭の上に両手を組んで置いて、必死に祈りを捧げる。
神様、仏様、シューティア様! 古今東西のありとあらゆる神様! どうか! どうか! ゼリティアの出産が無事に終わりますように!
それだけしか念じていない。
必死な夫の姿に、ちょっとクレティアとクリシュナはドン引きしていた。
そして、数時間後。
それは丁度、バウワッハが来た時に、産声が響いた。
おぎゃああああああ おぎゃああああああああ
ゼリティアは無事に出産した。
産まれたのは検査の通り女の子で、元気な赤ん坊だった。
ゼティアの誕生である。
出産を終えたゼリティアが、病室でゼティアをとなりに、ベッドで寝ている所へ、ディオス達が来た。
クレティアが「おめでとう、ゼリティア」と喜び。
「がんばったわね」とクリシュナは微笑む。
ディオスは、産まれたばかりのゼティアを見て、嬉しさと感動のあまり号泣する。
ゼリティアが
「夫殿が泣いてどうする…」
「ああ…だけど、だけど…」
ディオスは言葉にならなかった。
その後、産まれたゼティアを見に、オルディナイトの人達が駆け付ける。
それぞれに祝福の言葉をゼリティアとゼティアに贈り、
レディアン達も来て
「よかったな、ゴッツいディオスに似てなくて」
それを聞いて、ディオスは渋い顔をして、そっくりな男の子を産んだクレティアは、フフ…と含み笑みをする。
三日後には、無事に城邸に移り、兄妹であるティリオとリリーシャと対面する。
ティリオとリリーシャは、自然にゼティアと握手した。
余りにも愛らしく素晴らしい光景に、ディオスは魔導カメラを連写させた。
三人の子供に恵まれて、ディオスは舞い上がるような日々だった。
だが…それで、仕事が手に付かないと、レベッカの怒りが飛んで来る日々も増えた。
そうして、二ヶ月後、ゼティアの首が据わり始めた頃、王宮で一枚の書面を見て渋い顔をするディオス。
王の執務室で、ディオスは、王の執務机にいるソフィアを前に、一枚の書面も見ていた。
「はぁ…また、ロマリアに行けって…」
ソフィアが両手を組んで前に置いて
「アンタの修学目的で、ロマリアに派遣よ」
「理由は?」
「最近、ロマリアとアーリシアが雪解けムードなの。此処いらで、一発、それを加速するカンフル剤が欲しいの。その一番のカンフル剤が、アンタのロマリアでの修学なの。期間は一ヶ月。なぁ…に、直ぐに終わるわ」
ディオスは額を掻きながら嫌そうな顔で
「断る事は?」
ソフィアはニヤリと睨むような笑みで
「出来ると思う?」
「はぁ…」とディオスは項垂れた。
出発は三日後だった。
帰って来ると直ぐにディオスは、ティリオとリリーシャを抱き締めて離さない。
完全にいじけモードのディオス。
それにクレティアが
「ダーリン、一ヶ月だけだから…」
無反応のディオス、その日は寝た後もティリオとリリーシャを手放さなかった。
次の日、ゼリティアへ元へ行って、ゼティアを離さない。
ゼティアも大分、意思がハッキリして、抱き締めるディオスの頬を触ったりする。
「夫殿」とゼリティアは呼び掛ける。
「行きたくない」と意地を張るディオス。
ゼリティアは、近づきディオスの背に額を置いて
「帰ってきたら、存分に夫殿、好きにさせるから。なぁ」
その次の日、夜にはフェニックス町のギルド兼食堂で
「ああ! 行きたくない! 子供達と嫁達の傍にいたい! なんでそうなるんだよ!」
盛大に愚痴っていた。それをヒロキを含めフェニックス町の人達が慰めていた。
そして、出発当日、何とかしてディオスを送り出して、空港のロビーで見送るクレティアとクリシュナにゼリティア。
「全く、ダーリンの子煩悩にも困ったもんだわ」とクレティア
「本当よ。ああも変貌するなんて」とクリシュナ
「まあ、嬉しい限りではあるが…夫殿の使命を阻害してはのぉ」とゼリティア
ディオスは、飛空艇の部屋で、懐から写真を取り出す。
それには、クレティア、クリシュナ、ゼリティア、ティリオ、リリーシャ、ゼティアに屋敷のレベッカとユーリにチズとココナと皆の集合写真である。
「ああ…これを糧にしてがんばるか…」
そうぼやいた。
ロマリアの首都モルドスの空港に到着すると、お出迎えは
「ようこそ! アーリシアの大英雄よ」
と、魔法研究家のドリトルが出迎える。
「ど、どうも…」
と、ディオスはドリトルと握手する。
「いやはや…数ヶ月前にあった。ジン・ゴーレムに関する技術説明大会。素晴らしかったですぞ」
と、ドリトルは褒める。
そう、ゼリティアの出産の数日前、ディオスはエルギアの技術を応用して作ったジン・ゴーレムの説明会をしようとしていた。
まあ、予定して規模は、精々、五十名前後の講堂くらいの予定だ。半分の二十五名は、開発に手伝ってくれたエルダー級魔導士達の新人で埋まり、残り半分は、公募した。
まあ…集まる事はないだろうと…ディオスは思っていたが…。
公募に集中した人数は、二万人だった。軽く千倍越えに集まってしまい。
困惑するディオスに更に、その説明会の人数を増やすように、各国から圧力が掛かった。
そんな事するか! 普通!
ディオスはそう、思いつつ
講演の場所が不足していると、説明したら、レギレル連合王国が、この講義の為に万人の入れるドームを提供しやがった。
こうして、各国から魔導技術関係の人間が集まり、万単位の講演会となった。
ドームのど真ん中でディオスは思った。
普通、ここまで聞きたいか?
そんな疑問が過ぎるも、ディオスはエルダー級魔導士達の力を借りて、四方に投影する巨大立体スクリーンを頭上に、ジン・ゴーレムについての説明と、それによって分かったスキルの真実の仮説と、ジン・ゴーレムの技術を応用させての、スキル特化型システムの説明をしたのであった。
そして、現在のロマリアで
「その…弱輩な自分の講義をあのように盛大にして頂き、感謝しています」
ディオスはお礼を告げる。
ドリトルは
「ディオス殿、貴方のお力…存分に見せて頂きたいですな!」
ディオスを宿泊する屋敷へ導いた。
その屋敷は、都市内にある。大きな屋敷だった。
門を潜り、大きな玄関の向こうには、黒の制服を纏う乙女達が並んでいた。三人両脇に並ぶ六人がディオスにお辞儀して
『ようこそ、アーリシアの大英雄様!』
六人は、ピッタリと告げる。
「ああ…どうも…」
と、ディオスはお辞儀する。
ドリトルが
「彼女達は、アルミリアス皇女殿下の親衛隊の少女達です。ロマリアでの貴殿の生活を手伝うように、アルミリアス様から仰せつかっているのですよ」
魔族、人族混合のアルミリアスの親衛隊の乙女の一人が、ディオスの前に来て
「ようこそ…ディオス様。歓迎いたします」
「ああ…ありがとう」
と、ディオスは彼女と握手する。
ドリトルが「では、こちらへ」とディオスを二階の部屋に導く。
そこは、書斎だった。沢山の書籍が並ぶ。そのラインナップは、魔法に関する技術書だ。
そして、机の上には書類の束が五つある。
「これは…」とディオスが手にする。
ドリトルが
「それは、現在、ロマリアで開発中の魔法技術ですよ。どうですかな? 我々の技術は」
そう、それは、ロマリアの力を示すロマリアでの最新の魔法についてだ。
ディオスは、その書類に喰らい付く
「凄い、流石…ロマリア帝国。アーリシアとは、ひと味もふた味も違う」
ディオスの言葉に、ドリトルは笑むが、ディオスが次に、机に仕舞ってある魔導用紙を取り出すと、そこへ、魔法陣の設計図を書き込む。
それを持っていた書類と合わせて、ドリトルに渡し
「これで、この魔法は使えるようになるはずです」
「はぁ?」とドリトルは間の抜けた顔をする。
そう、ディオスは屋敷でやっているように、その魔法をアシストして発動可能にさせる補足魔法を設計していく。
ドリトルは、ディオスが設計し続ける魔法陣の設計図を見て、驚愕した。
そう、確実に必要とする魔法陣を、書類のデータを見ただけで作っていくディオスに戦々恐々とした。
そして、ドリトルは痛感した。
ここ最近のアーリシアの魔法技術の発展の目覚ましい原因は、このディオスの所為だと…。
ディオスが次々と魔法を完成させる様を、親衛隊の乙女達は見つめて、とある事を思い返す。
アルミリアスが
「いいこと…。今回のディオス殿の派遣は好機である。ディオス殿と懇意になり、そして…その繋がりを作れば…、ロマリアにとっても大きな財産になる。アナタ達の使命は…その為に動く事。手段は問わない! ロマリアにアーリシアの大英雄の血という至宝をもたらしなさい。栄光ある祖国に!」
『栄光ある祖国に!』と親衛隊の乙女達は掛け声をした。
間近でディオスの凄まじい力を見て、俄然、親衛隊の乙女達はやる気が沸いてきた。
そんな、事態の裏で…
巨大な立体通信画面に囲まれるアズナブル、正面にはゴルドと、右にはマッドハッター、左にはあのレジプトでアズナブルを助けた少年、シェルブリッドがいた。
ゴルドが
「で、次の動きはどうするかね?」
アズナブルが
「ゴルド殿が用意したアンタレスの作戦も、上手く行かなかった。これは当分、慎重に動く方が無難だと思うが…」
「け!」とシェルブリッドは唸り「まあ、いいさ。オレは好きにやるぜ」と告げて通信の画面が消えた。
マッドハッターが
「そうだな…。では、今回は私が大きく動くとしよう。丁度、実験したい兵器もあるしね」
ゴルドが
「私も当分、水面下に潜る。何かあった場合は…連絡を」
と、通信画面が消えた。
アズナブルが
「マッドハッター殿。ロマリアの件…」
マッドハッターが
「そうだな。少々、我らの思惑通りに動かなくなった。ここいらで揺さぶってみるのも悪くない」
マッドハッターは怪しげに微笑んだ。
エニグマの牙が再び剥かれようとしていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次話があります。よろしくお願いします。
ありがとうございました。




