星光 第34話 表裏一体
次話を読んでいただきありがとうございます。
ティリオとグランナは、共に超越存在の訓練を通じて友人となり、穏やかな日々を過ごすが
そこにスラッシャーが…
ティリオの監視という落ち所になったグランナ。
グランナは、ディオスから自身と繋がるオメガデウス・フォーミュラ・スペリオルを提供されて、それがグランナの超越存在の力と接続されて、グランナの時空へ設置されて様々なエネルギーの生産を開始して、グランナの時空を満たす事になった。
グランナは、覚醒したばかりの超越存在なので、まだまだ、出力できる超越存在の力は大した事でないが、それでも無から様々な有のエネルギー達を生産する力は、着実にグランナの時空のエネルギー問題を解決しつつあった。
グランナは、自分のホームで自分と繋がるゴールドとブルーメタルの陰陽合いの子のようなオメガデウス・フォーミュラ・スペリオルの様子を画面越しに見つめる。
「しかし、ティリオが使う戦うオメガデウスとは…違うんだなぁ…」
オメガデウス・フォーミュラ・スペリオルは、戦闘用の機能が一つしかない。
空間相転移砲という自身が感知する任意の空間領域内の空間を真空相転移させて爆発させるという武装だが…これが、どちらかと言うと、エネルギーを送信する機能に近い。
オメガデウス・フォーミュラ・スペリオルの放った真空相転移のエネルギーを受信する施設で、空間相転移砲の力を放ち、重力、電磁力、核力といったエネルギーをチャージさせる。
オメガデウス・フォーミュラ・スペリオルの他の機能は、マスターである超越存在の力を様々なエネルギー体にして生産する。
つまり、この時空に存在しない法則のエネルギーや、反エネルギーの生産を容易に行う。 無論、この時空に存在する正エネルギーや物質生産エネルギーもだ。
要するに超越存在の力を使ったエネルギーの生産動力炉施設みたいなのが、オメガデウス・フォーミュラ・スペリオルだ。
無論、繋がる超越存在が必要なのは当然だ。
グランナは目を閉じて、自分と繋がるオメガデウス・フォーミュラ・スペリオルに接続すると、その状態が手に取るように分かる。
今の所、自分が発生できる超越存在の力のレベルでは、問題ないが…行く行くはもっとエネルギーの生産や種類を増やしたい。
なので、超越存在の訓練と練習が必要だ。
「まだまだ、だな…」
と、グランナは頭を掻いて、学園の日々を過ごす。
グランナの日々は、何か特別な事になったか?と言えば…そうでもない。
何時ものように学園の学習施設に来て、仲間と共に勉強。
体を鍛える訓練と、マキナの操縦訓練。
そして、ティリオと一緒に超越存在の力の使い方の訓練。
何かを得たからと言って、何か変わるかと言えば、変わっていないが。
変わった事といえば…
「グランナ、次のエネルギーの種類の生成方法だけど」
と、ティリオがグランナと体力をトレーニングする時に、一緒に超越存在の力の使い方の勉強が始まる。
そう、ティリオと友達になった。
グランナが
「どんなエネルギーの種類なんだ?」
ティリオが
「重力と電磁力の合いの子を作る訓練さ」
グランナが首を傾げて
「おいおい、スケールが違う規模のエネルギー同士じゃないか…できるのか?」
ティリオが指を立て得意そうに
「だから、訓練になるんだよ。スケール規模が違うエネルギー同士の合いの子を作るという事は、他の存在しないエネルギーを構築する練習にもなる。直ぐには出来ない。時間を掛けてやろう」
グランナが頷き
「分かったよ」
ティリオとグランナは、時にお互いのホームで超越存在の訓練をする事も多くなった。
そして、必然的にグランナのホームの仲間とも顔見知りになっていく。
同時に、二人の訓練を見たいとして、ファクドやルビシャルも顔を見せるようになり、レリスも偶に顔を見せるように…。
エアリナは…
「アンタ、アタシの嫁になりさないよ」
と、ティリオの襟首を掴み自分に引き寄せるが、ティリオの方が圧倒的に力があるので、何時もエアリナが釣り上がって、駄々をこねる子供に見える。
身長も頭一個半もあるので余計に…。
エアリナは、顔を見合わせる度にそれをやってくるので、もう慣れてしまい。
グランナも放置している。
グランナにエアリナが鋭い視線を向け
「いい、コイツはアタシの嫁になるんだから。アンタの嫁にはならないの」
グランナが呆れて額を抱える。
正直に言って、グランナとティリオは馬が合う。
何となく、お互いに気持ちを察する事ができる。
付き合いは最近なのに、お互いの空気感が、さも昔からいました幼馴染み感が漂っている。
それを感じてのエアリナの嫉妬なのだろう。
エアリナが、ティリオの嫁達であるジュリアとナリルとアリルに
「アンタ達の旦那、コイツに取られるわよ!」
「ええ…」とジュリアとナリルとアリルの三人は困惑する。
グランナ、ティリオ、ジュリアとナリルとアリルのティリオの妻達、その全員がエアリナの行動に呆れてしまう。
それを外から見てニヤニヤとファクドとルビシャルが笑っている。
レリスは平然としている。
そんな感じで平穏な日々が流れていく。
◇◇◇◇◇
その日は、ティリオとグランナがトレーニング施設からホームへ帰宅する道最中だった。 グランナが操縦する電動バイクの後部座席にティリオが座り、二人して帰って行く。
ちなみにグランナの電動バイクは、自分の超越存在としての力で動くように改造してある。
速度は人が走るくらいで、転倒しても二人なら問題なく着地するが、安全装置として乗っている人が放り出されたら、慣性力を消す装置が備わっている。
グランナがハンドルを操作しながら
「明日の訓練はどうする?」
ティリオが
「光子を物質に変換する訓練でもやってみるかい」
グランナが
「そんな事も出来るのか? 超越存在は…」
ティリオが
「そう。だから超越存在、超越なんだよ。色んな領域を超越できるから…」
グランナが
「色んな領域を超えて、色んな物質やエネルギーが作れても、結局は…それを使って物を作る者がいないと…ただの置物と同じだしな」
ティリオが
「超越存在が凄いって言っても、なんだかんだ多くの人や技術に叡智の力は必要だから」
グランナが
「強い力を持てば持つほど、出来ない事も大きいし。人材ってのが重要なのが見えてくる。うぬぼれるなんて一生ないな」
ティリオが
「そうだよ。だから…」
グランナが唐突に電動バイクを止めた。
「んん? どうしたの?」とティリオが背中合わせのグランナの方を見ると、グランナが鋭い視線で前方を見ていた。
そして
「よう…スペシャル」
と、グランナの視線の先にスラッシャーが立っていた。
グランナのバイクの後部座席にいたティリオが消えた。
次の瞬間、スラッシャーの正面で閃光が放たれる。
その閃光の元はティリオで、スラッシャーが右手を伸ばしている。
スラッシャーの右手には、ガトリングの装甲が備わっていて、そこから放たれるエネルギー障壁にティリオが衝突した。
ティリオの両手には、エネルギー剣が握られていて、スラッシャーのエネルギー障壁とぶつかっていた。
スラッシャーが
「出会って即殺すとか、お前…大丈夫か?」
ティリオは殺気の視線で答えを返した。
スラッシャーが呆れて
「おいおい、オレは…少し話をしに来ただけだぜ」
ティリオが
「お前と話す事はない」
スラッシャーが
「お前には無くても、オレにはある。まあ、聞けやスペシャル」
ティリオの殺気とぶつかる膂力が増加する。
そこへ
「落ち着け…」
と、グランナがティリオの肩に手を置いた。
ティリオは鼻息を荒げた後、身を引かせる。
そして、グランナが前に出て
「で? 話って何?」
グランナの隣にティリオは殺気を出したまま両手にエネルギー剣を握ったままの戦闘態勢だ。
グランナの態度にスラッシャーは満足げに
「話が通じるヤツで助かるぜ。お前…スペシャルの親友になれるぜ」
グランナが首を傾げて鋭い顔で
「言いたい事だけ言え」
スラッシャーが両手を広げて
「褒めに来たんだよ。あの死者蘇生した小娘を生かした事についてなぁ…だけどよ。どうするんだ? 死んだヤツが再び復活して現れて、はい、ハッピーうれぴー、幸せでーす。ってなる訳がない。地獄が続くぞ。そればかりか…死者蘇生を」
「うるせぇなぁ…」とグランナが遮り
「それがどうした? お前のそうなって欲しい妄想だろうが…現実の問題って言いたいのか? それってお前の狭い世界の現実の話だろう。オレ達の現実は違う」
スラッシャーが
「おお、言うねぇ…確かにその通りだ」
グランナが
「お前の言い訳は、性犯罪者と同じだ。何もかも、それを誘発する相手が悪いって他責を言う。分かっているんだろう。他人のせいだって言い訳する裏には、自分が悪いって自覚がある。それを認めると」
スラッシャーが笑み
「小僧、いや…グランナ・アルド・新王だったか…。おれは自分が悪だって認めているぜ。負けを認めたら死んでしまう病じゃあなくて、負けを認めて前に進む。オレは、オレが、正義ではないって自覚している」
グランナが苛立ち気味に
「じゃあなんで、こんなヒドい事をする」
スラッシャーが両手を広げて予言者の如く
「それが世界の為なのさ。この世の中、この全ての世界、そのあまねく存在する知的存在は、自分が正義だと理解している。犯罪を犯す犯罪者とて、自分が正しいと…。この世には、一片の悪も存在しない。犯罪者は、自分が搾取されたんだから、奪われたモノを取り返してやるって、正義を振るう。この世に悪は一つもない」
ティリオが
「それで? だから、お前は…悪としている自分も正しいと…」
スラッシャーは笑みながら
「オレは間違っている。悪だ。世界を苦しめる悪だ。だからこそ、このあまねく世界を動かす仕組みで奪われて恨む奴らに力を与えて、世界を動かす仕組みの改善をさせる。考えても見ろよ。この世には、悪は一切存在しない。誰しもが全員、自分の正しさで生きている。その結果、地獄が生まれる。善意によって地獄は舗装される。オレはその舗装の手伝いをしているだけさ」
ティリオが
「それで何になるんだ? 多くの犠牲者が出て、それで…意味なんてない」
スラッシャーが得意げに
「意味はある。人は犠牲者が見えなければ…何も変わらない。お前達のように人の上にいるスペシャル達には、それが分からないんだよ」
ティリオとグランナの視線が鋭くなる。
二人して殺気が放たれる。
スラッシャーがイタズラ気味に
「おお…怖い怖い。本当のことを言うと、お前達はキレるんだなぁ…」
グランナが
「テメェ…ふざけた事、言ってんじゃねぞ! オレ達は指を咥えて、悲劇が加速するのを見ているだけじゃあねぞ」
スラッシャーは嬉しげに
「ああ…分かっているよ。スペシャルさん達は、がんばっているってね。オレが…それを加速させてやるよ。世界を維持するシステムによって奪われて苦しむ連中に力を与えて、世界に…お前達が能天気に幸せを噛みしめるから、悲劇が生まれて、そこから正義の復讐という犠牲が生まれるってなぁ…」
「そうかよ…」とグランナが静かに答えた次に、グランナは自分と繋がるもう一つのオメガデウス・ガイオロスに接続して、スラッシャーを空間相転移砲で狙撃した。
だが、その空間相転移砲のエネルギー爆発が外れた。
爆発で荒れる。
その中を凄まじい速度で駆け抜けるティリオは、真っ直ぐにスラッシャーを狙うが、スラッシャーの目の前に人影が現れて、無数の斬撃をティリオへ放つ。
その全てにティリオは応戦して、ティリオは下がる。
スラッシャーが「バイバイ…スペシャルくん」と告げて、ティリオと応戦した人影と共に消えた。
ティリオは額のサードアイを開いてスラッシャーを追跡するが…。
「ティリオ」とグランナが来る。
ティリオが溜息をして
「逃げられた」
グランナが苛立ち気味に
「ムカつくヤロウだぜ」
ティリオは
「次は逃がさない」
グランナが少し俯き
「あんなヤロウ、存在してはいけねぇ…」
ティリオが
「同感。悲劇によって世界を変えるなんて、やってはいけない」
スラッシャーは、世界を変える為の悪という仕掛けである。
それは…きっと便利なのだろう。
わざわざ、悲劇を見つける労力が必要ないからだ。
だが、それでは…結局、手遅れなままだ。
世界の表裏一体を皆で理解して変えていく事が未来を良くする。
◇◇◇◇◇
スラッシャーと聖ゾロアスが対話していた。
聖ゾロアスが
「キミは、説教くさいね」
スラッシャーが
「それは、アンタもだろう」
聖ゾロアスは笑み
「私は真理を告げているだけさ」
スラッシャーが笑み
「じゃあ、教えてやるよ。真理なんて人の数ほどある」
聖ゾロアスは嬉しげに
「その通りだ。それを分からないなんて、やはり…私は神なのだろう」
スラッシャーが怪しく笑み
「アンタは正真正銘の神だよ。人が信仰する神っていう、おしゃぶりじゃあない」
聖ゾロアスが
「その通り、私は甘く優しく心地よい真実という包み紙にラッピンされた陰謀論のような妄想の神ではなく、真に人々を進化させる正真正銘の残虐非道な神なのだから」
スラッシャーが
「イエスもブッタもアラーも、アンタを神ではないと否定するだろうが、それがアンタを肯定している。人が信仰する神なんて、始めから存在しない。だから、信じたいって妄想に取り憑かれるのさ」
それを聞いて聖ゾロアスは嬉しそうに笑っていた。
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