第81話 家出王子と…
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あらすじです。
フランドイル王国より、家出してきたアウグストス王子、その理由にディオスは仰天して、そこへゼリティアが来た。
ディオスがいなくなった屋敷の庭、そこに集まっているフェニックス町の人達、ヒロキが
「アレ? ディオスさんは?」
その問いにユーリが
「その…旦那様は、急なお客さんの対応をしているので…」
「お客さんって?」
「その…フランドイルの王子が…」
「はぁ?」
ディオスは広間にて、アウグストス王子の応対をしていた。
「その…王子…。グランスヴァイン級魔法運用者には…流石に出来ません」
「何故ですか!」
顔を寄せるアウグストス。
「その…十二国の王達の同意が必要ですから…」
ディオスはドン引き気味に答える。
「なら…」とアウグストスはディオスの両腕を掴み
「それに匹敵する! 求道者にしてください!」
ディオスは眉間が寄る。
えええええええええええ! そんな無茶な…
と、内心で思うも口にしない。
「落ち着きましょう王子…。何があったのですか?」
ディオスはアウグストスから事情を聞く。
アウグストスは前々から、国の防衛に関する事があると、王宮に残されるのが不満だった。
最近になって、また…ロマリアとフランドイルにある、別の緩衝地帯で、小競り合いがあったが…。
グランスヴァイン級魔法運用者であるヴェルオルムとその部下達が駆け付け、小競り合いの原因である、ロマリア強硬派の部隊の上空に向かって威嚇のグランスヴァインを発射したのだ。
それに驚愕した強硬派の部隊は、一斉に退却、何とか事を収めた。
こういう、ロマリア強硬派の活動は、度々、ロマリアでも問題となっていて、強硬派達のアピールとして、フランドイルとロマリアとの緩衝地帯で、長年起こっていたようだ。
それが、フランドイルのグランスヴァイン級魔法運用者達によって、抑えられた所為で、強硬派は萎縮した。
まあ、ロマリアにとっても、目の上のたんこぶが大人しくなったのと、ロマリアの中で元来、国民と国益の防衛を主軸にするロマリア右派とロマリア保守派に、穏健派が纏まった事も大きい。
右派、保守派、穏健派の考えは、国民と国益が中心なので、ロマリアの為にアーリシアと手を組んでいた方が無難という考えと、何時か…アーリシアからグランスヴァイン級魔法運用者の技術提供も視野にとの強かさだ。
そんな政治的な話をしたアウグストスの顔は輝いている。
兄、ヴェルオルムの活躍が自分の事のように嬉しかったのだ。
そんな兄の力になりたいとして、父親ヴィルヘルムに提言したのだ。
それは…一喝で、ダメだと拒否された。
それにアウグストスはぶち切れ、部屋に篭もって深夜…部屋を抜け出して、単独で深夜の飛空艇に乗って、このバルストランへ、そして、ディオスの屋敷まで来たと…。
ディオスは両手で顔を隠す。
何でそうなるーーーーーーーー
ディオスとアウグストスの対話を窓の外から見つめるクレティアとクリシュナ、そして…ヒロキ達、フェニックス町の人達。
ディオスの顔を隠す仕草にフェニックス町の人達は
「なんか…妙案でも考えているのかぁ…ディオスさん」
「おお…考えているんだろうなぁ、ディオスさん」
クレティアとクリシュナだけは、ディオスの気持ちが手に取るように分かっている。
滅茶苦茶、困っているよ…。
ディオスは顔から両手を退かし
「王子…その…これはマズイのでは? 王子はフランドイルでも王位継承第二位ですよね。そんな方が護衛も連れずに、こうして単独で来るなんて外交としても問題が…」
アウグストスが顔を悲しげに染め
「ディオス様は、エレオノーレ大母様の時に、言ってくれましたよね。自分を鍛えてくれると…ウソ…なのですか?」
ディオスは痛そうに顔を染め
確かに言ったけど…。それを…今、ここで果たせって。
もっと、こう…考えて、行動して欲しいよ。
回りの迷惑もあるし…。
は!
もしかして…オレが色々とやって、迷惑になっている状況にいる人ってこんな感じなのか?
アウグストスの行動を通じて、自分が他者に与える影響と迷惑を感じて、軽く凹むディオス。
「王子…その…その…」
ああああああああああ!
ディオスは内心で叫んで頭を抱えた。
そこへ、外から中を覗いているクレティアとクリシュナ達の背に
「お主等…何をしておる?」
ゼリティアが、セバスを伴って顔を見せる。
屋敷に遊びに来たのだ。
ゼリティアのお腹は、七ヶ月の立派な大きさだ。
クリシュナが、窓の中を指さす。
「んん?」とゼリティアが覗くと、ディオスとアウグストスが対話しているのが見えた。
「夫殿は、何をしておるのだ?」
クレティアが
「実は…」
と、事情を説明すると、
「はぁぁぁぁぁぁ」とゼリティアは溜息を漏らし「全く、夫殿は…次から次へと…」と呟き、屋敷の中へ入った。
「夫殿…」とゼリティアはディオスに呼び掛ける。
「ああ…ゼリティア。来てくれたんだ…」
ちょっとホッとするディオス。
ゼリティアはディオスの前にいるアウグストスに近づき
「これはこれは、アウグストス王子。ご拝謁できて光栄にございます」
アウグストスもお辞儀して
「これは…オルディナイト大公。丁寧な挨拶、感謝します」
と、定石の挨拶を交わした。
ゼリティアは
「事情は…外の者から伺っております」
ゼリティアの入って来た玄関に、クレティアとクリシュナにヒロキ達の顔があった。
ゼリティアはディオスから貰った扇子を広げ、口元を隠しながら
「王子…僭越な申し出になりますが…。ちと…王子としての自覚がないと思われます。王子が自分の立場を軽視するようでは、お父上も兄上もお困りになってしまいます。そのお覚悟は立派です。ですが…些か、やり方が稚拙です。それでは、お父上と兄上の顔に泥を塗ります。それがお望みですか?」
「う…」とアウグストスは項垂れる。
ゼリティアが
「夫も、突然の王子の訪問で、どう対処すれば良いか、困ってしまいます。それによって夫が抱えているアーリシアにとって大事な仕事が、不十分になる可能性があります。ここは、妾の屋敷で一旦、身を預け、夫が王子に十分に対処出来る準備が整うまで、待つというのはどうでしょう?」
アウグストスは、項垂れながら
「うん。分かりました…」
了承した。
それを聞いてディオスは助かった…と胸をなで下ろした。
「セバス…」とゼリティアはセバスを呼び。
「は…」とセバスが来て
「王子を…」
「畏まりました」
セバスは屋敷に連絡と取って、アウグストスを向かい入れる様に手配した。
ディオスはゼリティアの左に来て、ゼリティアを腰から抱いて
「すまん。助かった」
「はぁ…よい。お主の妻なんじゃ。このような事態を覚悟はしておる」
「ありがとう…」
ディオスは、本当に自分には勿体ない位の妻達に囲まれて幸せを実感した。
その後、ディオスはヴィルヘルムから貰った直通の連絡先で、ヴィルヘルムにアウグストスが、バルストランにいて、説得に応じてくれて、オルディナイトの屋敷にいると伝えた。
フランドイルでは、アウグストスの失踪で、国が大混乱だったらしく、ディオスの元に無事に預けられていると知ってから
「すまん! このカリは必ず返す」
と、ヴィルヘルムは通信機越しに声を張った。
ディオスは、直ぐに返すのは、本人を怒らせるという事で、当分の間、こっちで預かるという事で、アウグストスの身辺の護衛達の手配をお願いした。
その夜、ソフィアがディオスの屋敷に来た。
玄関を荒く開けた次に、ダッシュでディオスの元へ走り、ディオスの肩をつかんで、勢いの乗せた正確な腹パンをした。
「ごふふふ!」
ディオスは腹を押さえてその場に伏した。
「全く、アンタは何で、そう! 厄介事を起こすのよ!」
伏しているディオスの前でソフィアは仁王立ちだ。
オレの所為じゃあ…ないのに…
ディオスは理不尽さを感じていた。
翌日、ディオスは正装して、王都の空港の飛行場にいた。
無論、その周囲には正装したナトゥムラやスーギィ、マフィーリアとソフィア、そして、アーリシアの十二国王達と、その部下達多数。
大きな数千単位の集団があった。
この一団が待つのは、アリストス共和帝国のアインデウス皇帝の一行達だ。
空に轟音が響く。
アリストス共和帝国がある西の方から、巨大な空飛ぶ巨城が出現する。
全長千メータ近い、ゴシック調の建物を伸ばす空飛ぶ巨城。
それは、アインデウス皇帝が使う巨城式飛空艇だ。
ディオスはそれを見て、ニヤリと笑う。
この世界の飛空艇は、なんかサイバーパンクぽかった。
だが、このアインデウスが乗っている巨城式飛空艇は、まさに魔法世界っぽい感じだ。
いいねぇ…こういうの大事だよ。
と、ディオスが喜んでいるのを隣にいるゼリティアは感じて、苦笑いをする。
重厚な音をさせて、アインデウスの巨城飛空艇は、飛行場の半分を埋め尽くして着陸する。
巨城式飛空艇が色々と形状を変化させて、空に突き刺すような巨城となった。
いいね! いいね! ますます、これだよって感じだ!
ディオスの喜びのピークが最大値を迎えた、その右頬をゼリティアは抓り
「少し、気持ちを落ち着けい。みっともない」
「あ、あう…はい」
巨城となった巨城式飛空艇の門が開いて、ドラゴニックフォース軍団の行進と共に、アインデウス皇帝が妻達と共に、そこへ降り立つ。
アーリシア十二国王達も、アインデウス達に近付き、アインデウスと十二国王達が対面して
「今回の事、感謝する。アーリシアの王達よ」
アインデウスが感謝を告げる。
ノーディウス王のノヴァリアスが代表して
「当然の事です。アインデウス皇帝」
アインデウスと十二国王達は同時にお辞儀をする。
これより、ディオスの功績を讃える授与式が始まる。
アインデウスの巨城式飛空艇からパイプオルガンの音色が響く。
そして、儀式用の鎧に身を包んだ一団が、儀式槍を掲げて一糸乱れぬ足音で出現する。
「ほら…行くぞ」とゼリティアはディオスの腕を取り、アインデウスの前に来る。
アインデウスとディオスは対面する。
二回目の対面に、ディオスの中、渦の奥にある存在が疼く。
アインデウスはニヤリと笑う。
それが、ディオスには、自分の中にいる存在が疼いているのを見透かしているように思えた。
儀式の部隊がディオスの前に来ると、左右に割れて道を作り、そして、奥から黄金で作られた大剣が収まる透明なケースが運ばれ来る。
黄金と宝石をちりばめた柄に、プラチナとゴールデンフィアの刃、その刃を仕舞う鞘も豪華で、サファイアとエメラルド、ルビー、ダイヤで出来ている。
ディオスとアインデウスの元へ、黄金の大剣が来ると、アインデウスがケースに触れた瞬間、ケースが割れて大剣の柄がアインデウスに伸びる。
アインデウスは黄金の大剣を手にして、刃の側面を自分に向けると、魔法で刃の側面に何かを刻む。
アインデウス・フォルス・アリストスより
ディオス・グレンテルの功績を讃えて
そう、刻むと黄金の大剣をディオスに差し向け
「汝の功績を讃えてこの勲刀カエサルを授ける」
ディオスは一礼して、両手をアインデウスに向けると、その両手に勲刀カエサルを授けた。
ディオスは勲刀カエサルが乗る両手を見つめると、アインデウスが
「さあ…掲げよ! 世界にお主の武勲を知らしめよ!」
ディオスは、柄を握って天高くカエサルを掲げると、カエサルのプラチナとゴールデンフィアで出来た刃が、太陽の光を強く反射させ、灯台の光のように周囲へ光の光線を放った。
周囲から一斉に拍手が沸き起こった。
勲章を行っている一団から、防犯の都合上、離れている記者達が、一斉に新たな勲章を掲げるアーリシアの大英雄、ディオスを撮ろう、魔導カメラのフラッシュを壊れんばかりに連写した。
勲刀カエサルを持つディオスとアインデウスが堅く握手する姿を、記者のカメラは捉えていた。
その様子は、アーリシア全てに放映され、各地でアーリシアの大英雄の栄誉を讃える酒会が催されていた。
それはディオスの屋敷でも放映されていた。
広間では魔導通信機の立体画面にディオスの雄姿が映り、それを前にフェニックス町の人達が集まって祝ってくれた。
「ほら…ティリオ…パパだよ」
と、クレティアがティリオを抱えて、画面を見せる。
「リリーシャ、パパが映っているよ」
と、隣でクリシュナがリリーシャを抱えて、画面を見せる。
ティリオとリリーシャは、画面にいるディオスを指さし「ばあばあばああ」と言っている。
ヒロキがそこへ来て
「お前達、パパ。凄い事をしたぞ。ロマリアの皇帝と、アリストスの皇帝を動かしたんだ。すげーーパパだぞ!」
式が終わると、そのまま飛行場で全体を交えた立食パーティーとなった。
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