第80話 パーティーと家出王子
次話を読んでいただきありがとうございます。
ゆっくりと楽しんでください。
あらすじです。
ヴァルハラ財団のエレオノーレ会長の誕生パーティーに来たディオス、そこで、ヴィクトールとソーディウス大公と対面する。
ディオスはバウワッハに連れられて、フランドイル王国へ来る。
バルストランを出たのは昼過ぎ、到着して、目的の場所、ヴァルハラ財団の運営する迎賓館に来たのは夕方の日が落ちた時だ。
バウワッハと共に黒塗りの高級魔導車を降りると、迎賓館のドアマンが…
「もしかして…アーリシアの大英雄様でありますか?」
それを聞かれてディオスは自分を指さし
「え、オレ…ですか?」
「はい!」とドアマンは頷く。
ディオスは面倒クサそうな顔で
「その…自分にはディオス・グレンテルという名前がありますので…」
「ああ…申し訳ありません」
と、ドアマンは謝罪した次に
「その…握手を…」
ドアマンは、純白の手袋を外して右手をディオスに差し向ける。
「ああ…はい」
ディオスはドアマンと握手すると、ドアマンは感激して
「ありがとう御座いました!」
お辞儀をした。
それにディオスは、右頬を掻いて
な、なんか…照れくさいなぁ…。
そう思いつつもバウワッハが
「では、行くぞ。ディオス」
「あ、はい」
バウワッハはディオスを連れて行く。
今日のヴァルハラ財団のエレオノーレ会長の誕生日パーティーの会場に入る際に、視線がディオスに集中する。
豪華なドレスに身を包む貴婦人達、そのエスコートをしている紳士達。
その視線の集中砲火を全身で浴びるディオス。
なんか…居づらい。
パーティー会場の入口で、来賓の署名を受け付けている女性が…
げ!と、ディオスは内心で唸る。
そう…前にディオスを引く抜こうとした。彼女、アルシェイ・フォル・ヴァルハラがいる。
しまったーーー ヴァルハラ財団のパーティーだから、当然、いるよね…。
アルシェイは、署名する来賓達にお辞儀している。
ディオス達の番が来た。
最初にバウワッハが署名して、次にディオスが署名する。
恐る恐るディオスは、アルシェイの顔を見ると、笑顔であるが…その裏に、威圧を隠している。
「ど、どうも…」
と、ディオスがお辞儀すると
アルシェイが
「これはこれは、アーリシアの大英雄様…。よくぞ、お越しくださいました。大母様もさぞ、お喜びでしょう。ですが…思うのですが…。あんな契約なんて持ち出さずに、いっそ、貴方様を押し倒して妻となった方が良かったですわ」
ディオスは渋い顔をする。
アルシェイは冷たい笑みのまま
「本当に、オルディナイト大公が羨ましいですわ。なにせ、貴方様の特殊魔法体質を受け継いでいるお子をもう、ご懐妊しているですから」
アルシェイの節々に棘を感じるディオスは、「ああ…うん」と引き気味でその場から去る。
バウワッハと一緒にいるディオスに、バウワッハが
「お主、ガマン出来なければいいぞ、言ってくれ。その…まあ…孫娘の事で、良い顔はしない連中は多いからのぉ」
「いえ…大丈夫です」
と、ディオスは肯き両頬を叩いて気合いを入れ直した。
会場に入るとそこは、チョットした豪華な屋敷のようだった。ライトアップされたプール、二階建ての広間が大きな屋敷、周囲に椰子の木が茂り、屋敷の後ろには、フランドイル王国の王都の夜景が見える。
マジ、ちょっとした結婚式場に使えるレベルだぞ。
そう、ディオスは思っている、自分達の元へ数名の貴族の青年達が近付く。
「こんばんわ、バウワッハ様。今日のお連れは…」
青年がディオスを横見する。
バウワッハが
「ああ…孫娘の婿に来て貰った」
あえて、孫娘のゼリティアの婿という事で通す事にするが…。
「成る程…。やっと、オルディナイトは、我らにアーリシアで最高の至宝をお目見えしてくださるのですね」
青年はディオスへ笑みを向ける。
それに、ディオスは
「ああ…どうも…」
お辞儀しつつ
オレは…宝石じゃあないんだけどなぁ…。
バウワッハが
「すまぬが…先にエレオノーレ殿に挨拶をしたい。その後で…」
「はい、楽しみにしておりますので…」
青年達はお辞儀する。
会場を進む、バウワッハとディオス。その周囲から視線が集中する。
それは、明らかにディオスに向けてだ。
痛い…とディオスは視線の鋭さに辛さを感じつつ、会場の屋敷に入り、奥の上座で、多くの者達に囲まれているバウワッハと同年配の老中年の女性の元に来る。
バウワッハがお辞儀して
「ヴァルハラ財団のエレオノーレ会長。今日は、このような素晴らしいパーティーに呼んで頂き、感謝の極みにございます」
金髪で老中年の凜とした夫人、エレオノーレ会長は、嬉しげに微笑み
「招待に賛同して頂き感謝します。オルディナイト財団理事長、バウワッハ殿。そして…」
ディオスはお辞儀して
「どうも、弱輩者ですが…。バウワッハ様と共に参上いたしました。ディオス・グレンテルにございます」
エレオノーレ会長は満足げに
「今日の誕生日は盛り上がりそうだわ…。何せ、アーリシアの大英雄が来てくれたのですから…」
ディオスは何度も頭を下げ
「自分には身に余る名誉です」
「身に余る?」とエレオノーレ会長は巻くし「貴方からそんな事が出てくるようでは、世の中の全てのモノが、名誉を受け取れないわ…。なにせ、あのヴァシロウスに戦いを挑み、勝利して、更にアーリシアを纏め、ロマリアでさえ…手駒にするのですよ。そして…もう…噂は尽きないわ」
そこへ
「そう、ディオスを困らせないで欲しい」
と、ヴィルヘルムが現れる。両側には長男ヴェルオルムと、次男アウグストスがいた。
エレオノーレ会長が
「あら、いらっしゃい。ヴィル…ヴェルも、アウグも…。今日は楽しんでいってね」
「はい、エレオノーレ様」とヴェルオルムも
「はい、楽しみます」とアウグストスも
柔やかに微笑む。
バウワッハが頃合いを見計らって
「では…」と両手を叩き合わせると、奥から台車が入ってくる。その上には白い結晶を掲げた王冠のような装飾品が乗っている。
「これは、ワシからの誕生日プレゼントです。エレオノーレ会長」
エレオノーレは席から立ち上がり
「何かしら…」
ディオスが
「魔力を込めてみてください」
エレオノーレが魔力を込めると、周囲が無重力状態になって浮遊した。
「こ、これは…」とエレオノーレは戸惑う。
ディオスが、
「周囲を風の魔力で無重力状態にさせ、どこでも柔らかい浮遊をさせる装飾品です」
バウワッハが
「ディオスのヤツのがのぉ…。ヴァシロウスの魔導石で何か出来ないかと…試行錯誤して、このような、装飾品を作り出したのじゃよ」
「これさえあれば、どこでも、ベッドソファーになります」
とディオスは頷いた。
エレオノーレは魔力を装飾に込め、無重力状態を解除して、贈り物を掲げ
「これは…良い物を頂いたわ…」
ディオスが
「すいません。その…下手な横好きで、そんな形になりまして」
エレオノーレがディオスを見つめ
「もしかして、ディオス殿が…手作りで…」
「は、はい。下手ですよね」とディオスは畏まる。
エレオノーレは嬉しげに
「いえいえ、大事にしますわ」
そう、アーリシアの大英雄が自分の為に手作りしてくれた一品だ。シンプルだが、なかなかに装飾も凝っている。贈り物としては十分な品物だ。
ディオスの手作りする品は、各地区で国宝扱いされている。
ディオスが活躍して打ち立てた功績によって国宝級になっている。
それ程までにアーリシアの大英雄という名誉の力は強大であり、ディオスはそれに見合う事をしているからこそなのだ。
バウワッハが「では、パーティーを楽しんでまいります」と、告げてディオスを連れる。
「ごゆっくり…」とエレオノーレは告げて、ディオス達から貰った装飾品を見つめると、王冠の部分の裏に、
ディオス・グレンテルより
エレオノーレ・オル・ヴァルハラ様の誕生日を記念して
と、金で刻印されている。
「フフフ…」とエレオノーレは嬉しそうだった。
ディオスは、バウワッハに連れられ、外の大人しめのテーブルに来ると、そこへボーイが「飲み物です」と、多種多様な飲み物があるグラスのテーブル台車を持って来る。
バウワッハが
「大人しめのカクテルを」
「はい」
ディオスは
「じゃあ、紅茶酒を」
「はい」
ボーイが二人のいるテーブルに飲み物を置く。
ディオスは
「その…すこし、つまめる物を…」
「畏まりました」
ボーイが呼び鈴を鳴らすと、スーと食べ物が載った食台車が来て
「何にしましょうか?」
ディオスは、台車にある「これと、これを」と指さし、食台車のボーイはテーブルに置いた。
ディオスはそれを見て
ああ…やっぱり、大財閥を持つ大貴族様のパーティーってこんなにも豪勢なんだなぁ…住む世界が違いすぎて、おかしくなりそうだよ。
そう、思いつつ摘まむと、そこへさっきの貴族の青年達が歩み寄り
「同席しても…?」
バウワッハはディオスを見て、ディオスは頷く。
「構わんぞ」とバウワッハは同意した。
青年達は、ディオス達の席に座り、そこへ飲み物のボーイが青年達にカクテルや、ワイン、ウィスキーを置く。
青年の一人が
「ディオス様…マリウスの事を助けて頂き、ありがとうございます」
と、お礼を告げる。
ディオスはハッとして
「あ…もしかして、アリストス南の…」
「はい、マリウスとは、同門の友でして…」
「ああ…そうですか…」
「本当にありがとうございました」と青年達は頭を下げる。
ディオスは頭を掻きながら
「いや、まあ…彼も、ちょっと…焦っていた所があったし、丸く収まりそうで、ホッとしてはいますよ」
そこへ
「おや、おや…。そこにいるのはアーリシアの大英雄殿ではありませんか」
ヴィクトールが姿を見せる。
「何を楽しげに話しておられるのですか? わたくしも混ぜて欲しいですなぁ」
ヴィクトールは強引に、席に座る。
さらに、
「その話、私も混ぜていただこうか…」
ソーディウス大公が姿を見せ、同じく強引に相席する。
ディオスは渋い顔をする。
ヴィクトールには、子供達の特異体質をバラされた事があって印象が良くない。
ソーディウス大公には、娘を薦められ断った経緯があるので、接しにくい。
ディオスの中で二大、接しにくい人達の接近に戸惑う。
ヴィクトールが
「そうだなぁ…。どうやって、オルティナイトは、ディオス殿を手に入れたか…その経緯を聞きたいなぁ」
そう、ヴィクトールは、ディオスがオルディナイトに引っ張られたのが気に入らないのだ。
それはソーディウス大公も同じだ。
「そうですね。是非、聞きたい」
二人は口だけが笑み、目が鋭く光っている。
クソ、面倒クセーーーーー
ディオスは思って口を閉じていると…二人はバウワッハにロックオンして
「バウワッハ様…」とヴィクトールが
「どうやって、どのような手段で、どのような方法で、堅物で有名なディオス殿を落としたのか…聞きたいですねぇ」
バウワッハが渋い顔をする。
ここで、バウワッハが何を口にしても、ぐずぐずしそうな雰囲気に
ディオスが
「ゼリティアとは、前々から親交がありました。その…自分が悪かったのです。ゼリティアは…自分に好意を抱いていたらしく、それを全くの自分は無自覚で…。皆さんが、自分に対して…その…紹介したのが、切っ掛けとなって、思いを打ち明けてくれたのです。こうして、ゼリティアと結ばれたのも皆様のおかげです」
と、ディオスはニッコリと営業スマイルで微笑む。
それを聞いてヴィクトールは目を閉じ、ソーディウス大公は目を細める。
いわば、自分達が誘発した事態だと説明されて、言葉がないが…ヴィクトールは
「成る程…そういう事が…」
と、噛み締めた次に
「バウワッハ殿、やっと、オルディナイトはアーリシアの大英雄と至宝を我らにお披露目してくれた。では、これをオルディナイトだけに独占させるのは、不合理、不条理、不道理だ。我らにも分けていただかねば…」
ディオスは目を見開き
何を言い出すんだ! コイツはーーーーーー
ちょっと、青筋が浮かぶ。
バウワッハが
「のぉ…お主等…ディオスは」
「そこで、何を企んでいる?」
ヴィルヘルムが息子二人を連れて、一団に近付く。
ヴィクトールが
「これは、ヴィルヘルム陛下…。陛下からも言ってくださいよ。アーリシアの大英雄という至宝を、皆で分け合うべきだと…」
それを聞いたヴィルヘルムは項垂れ
「ヴィクトール殿…そういうのは、信頼関係が必要だ。聞くところによると、オルディナイトとディオスは、それ相応の信頼関係があったから、ディオスはオルディナイトの元へ来たのだぞ。それも無しで分け合えなぞ…。ワシとしては看過できん」
ヴィクトールは「う…」と唸る。
ヴィルヘルムは、ディオスの傍に来て
「ディオス、よいか? ロマリアの件で使った魔法について…」
「あ…」とディオスは眉間を寄せて「分かりました」
ディオスはバウワッハを見て「ちょっと…」
「うむ…」とバウワッハは頷いた。
ディオスは、ヴィルヘルム達と共に、人の少ない場所へ行く。
その後、ヴィクトールとソーディウス大公は
「バウワッハ様…お話が…」
と、二人して詰め寄った。
ディオスはヴィルヘルムと人がいない場所に来て、ヴィルヘルムが
「面倒な事になった。お主が前にポルスペルのリンスで聞かされた事…。ロマリアの事件の時に使って、ちょっと旗色が悪い」
ディオスは顔を訝しくさせ
「やっぱり、そうなりましたか…」
そう、ディオスがリンスでヴィルヘルムに語った事とは、グランスヴァイン級魔法、熱核魔法グランスヴァインと、殲滅魔法バルド・フレアの精密遠距離発射魔法についてだ。
大破壊級の魔法が遠方からの精密運用可能となると、それはそれは、他国にしてみれば都合が悪い。一カ所にいて、多方向に運用出来るのだから…。
「どうしましょう…」とディオスが頭を抱える。
隣にいるグランスヴァイン級魔法運用者のヴェルオルムが
「お父様、ディオス様…。ここは…偶々、使えたという事にして…時期が揃うまで…」
ヴィルヘルムは肯き
「そうしかないだろう。何とかロビー活動は継続させるが…。後、数年は先という事だ」
ディオスも肯き
「ええ…そういう事で…」
何とか話を纏めた後、別れ際に次男のアウグストスが
「ディオス様…自分は…。王位継承権があるので、何時も…お父様と兄上の前線行きから除け者にされます」
アウグストスの顔が悲しそうだった。
そう、ディオスはグランスヴァイン級魔法運用者の開発の時にフランドイルから長男のヴェルオルムとその親衛隊達が来た事に驚いた。
自分の息子を寄越す程に、信頼があるのかよ!と内心でツッコんだが…。
アウグストスはまだ、十六の少年の悲しそうな顔だ。
その肩にディオスは手を置いて
「王子がよろしいのでしたら、自分が王子を鍛えてあげます。なぁーに、剣聖と多方面武術に、槍術の達人達が妻達です。素晴らしい修行が出来ますよ」
剣聖とはクレティア、多方面武術とはクリシュナ、槍術とはゼリティアだ。
奥さん達が武闘派だ。
「ディオス様…」とアウグストスは明るい顔をした。
まあ、所謂、お世辞というヤツが、後々に…。
パーティーが終盤に差し掛かった頃、ディオスは合間に作っていた花火魔法を使って、パーティーを盛り上げた。
そうして、パーティーが締めくくられ、帰りの魔導車の中でバウワッハが
「はぁ…全く…」と項垂れている。
「どうしたのですか?」
と、ディオスが尋ねると
「許嫁として、ゼリティアから産まれるひ孫を、欲しいと説得されそうになったわい」
「ははは」
と、ディオスは堅い笑みをした。
あんにゃろう共が…
と、ヴィクトールとソーディウス大公の顔を過ぎらせる。
それから一週間後、それはとある日の前日だった。
アリストス共和帝国が、ディオスの南での功績を讃える為に、アインデウス皇帝の直属部隊、ドラゴニックフォース軍団と共に来る前日の午前だった。
その午前中は、フェニックス町の人達も来ていた。
フェニックス町の人達は、ディオスの妻達が剣聖で、元暗殺者は秘密だが、守護という多方面武術のエキスパートなので、剣と武術の腕を上げたいとして、月に二度、集まる事がある。
そして、魔法の分野としてはディオスが教えるというより、個々の持ち属性を加味した魔法を伝授させたりしている。
その雰囲気は、町民の緩やかな集会のようだ。
町民達と、和やかに過ごしているそこに、レベッカが来て
「旦那様…」
「ん? どうしたの?」
と、ディオスは目をパチパチとさせる。
「少々、厄介な事が…」
「はぁ?」
ディオスは、レベッカに連れられて広間に来ると、そこに…
「ゲー――」
そう、ヴィルヘルムの次男アウグストスがソファーに座っている。
ディオスはアウグストスに近付き
「アウグストス王子…どうしてここへ」
アウグストスは真摯な瞳を向け
「お願いです! 兄上と同じく、私も、グランスヴァイン級魔法運用者にしてください!」
ディオスは額を掻いて
「王子…その事は…お父上のヴィルヘルム様も…」
アウグストスは項垂れ
「父とはケンカをして、出てきました…」
チン! 家出決定。
ディオスは眉間を押さえた後
「少々…お話を聞きましょうか…」
家出した一国の王位継承権のある王子から事情を聞く事にする。
話が分からんと何も出来ん!
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次話があります。よろしくお願いします。
ありがとうございました。




