星光 第14話 サポートマネージャーの訓練
次話を読んでいただきありがとうございます。
エアリナと共に登校して、ティリオの観察眼の理由を知りつつ
新たなサポートマネージャーの活動も始まる。
ティリオ達とエアリナの四人は、学園の校舎へ向かうリニアに乗りながら
「ねぇ…どうして、あのデュエロタクトで、ゴールドジェネシスのマキナが勝つのが分かったの?」
ティリオの右にエアリナが立ち、ティリオの左にはナリルとアリルにジュリアの三人が並ぶ。
ティリオは頭は一つ半低いエアリナを見下ろしながら
「分かったのか?ってそれは…」
唐突にエアリナがティリオの襟を掴み
「アンタ、デカいんだから見上げるアタシが疲れるの」
と、エアリナの隣に空いている席にティリオを座らせようとするが、エアリナの腕力と体重は軽いので、エアリナがまたしてもティリオに吊り下がって足が浮く。
それをティリオの左にいるジュリアとナリルとアリルが笑いを堪えている。
威嚇しているのだろうが、全く威嚇が伴っていない。
ティリオからすれば、小さな子猫が目の前でシャーシャーと唸っている可愛い光景でしかない。
そして、ティリオの思い出に小さかった頃の弟妹達と遊んだ記憶がよぎる。
かわいかったなぁ…とティリオは思いつつ、それにエアリナを重ねてしまう。
ティリオの身長は185だ。
エアリナは150前後。
ジュリアとナリルとアリルの三人は全員が170から少し上だ。
確実に端から見れば、ティリオとエアリナは、父と娘のような感じにはなるが、この学園専用の紺色の制服、しかも男女共にスラックスが基本だが、女子からの提案によって、女子は膝までの足が出るハーフパンツがある。
なので大半の女子はハーフパンツを着用しているが、ジュリアとナリルとアリルはティリオと同じスラックスだ。
ティリオは、必死に噛みつくかわいい子猫のエアリナの言う通りにして、空いている席に座る。
やっと、それでエアリナの視線と同じにはなる。
エアリナが
「じゃあ、続きだけど。どうして、勝つのが分かったの?」
ティリオが淡々と
「自分達は、マキナの…機体の検査をするだろう」
エアリナが頷き
「ええ…」
ティリオが冷静に
「それによって、機体のマキナのスペックが分かる。どういう仕様でどういう武装をメインにしているか…とね」
エアリナが首を傾げて
「つまり、それで…ある程度は分かるって事?」
ティリオが教官のように鋭い感じで
「装備や機体のスペックによってある程度は、どのような戦いが得意なのか?は予想が可能だが…実際には戦っている現場を見ない事には分からない事もある」
エアリナが理解する。
「つまり…機体のスペックから…ある程度の戦闘形態を見抜けて、後は実際の戦いになった場合に、その戦略と戦術から予想が可能って事なの…」
ティリオは頷き
「そうだ。実際、リアルな…そう、戦争や…」
と、告げようとする顔に苦悶が浮かぶ。
実戦の話をするのは、あまり好きではない。
それをジュリアが察して
「私達は、軍属にいるのは知っているわよね」
エアリナが「ええ…」とジュリアを見る。
ジュリアが
「軍隊とデュエロタクトの違いは、必ず結果を持ち帰らないといけない事。つまり、作戦を決行するなら、その成果、結果を持ち帰るのが当然なの。その為に様々な事を調査、下調べして、綿密な作戦を練る」
アリルも
「競技と実戦の違いは、そこなのよ。競技は決められたルールの範囲でルールという檻の中で結果をお互いが出すように努力し合う。ある意味、平等ね」
ナリルが
「でも、実戦は違う。必ず作戦を決行するなら、その作戦を決行した結果を出さないといけない。もし…結果を出せないなら…それは、責任問題になる」
ティリオが鋭い目で
「結果を出せない、イコール、それは大損害でもあり、そして、多大な犠牲を出したという事だ。デュエロタクトには勝利の結果として、提示されたモノの交換がある。それは競技だからこそ通る事だ。実戦は…違う。その結果が起こらないなら、即時撤退しなければならない。それは作戦の失敗であると同時に、見積もりの甘さという責任だ」
エアリナは黙ってしまう。
それを同じくリニア車両にいる生徒達も聞き耳を立てていた。
ティリオ達、実戦を知る者。
エアリナのような競技でありエンターテインメントの者。
まさに明白な違いがここにあった。
競技やエンターテインメントは、結果なんて重要ではあるも、その試合さえ面白ければ、盛り上がれば十分。
実戦は、必ずその結果を持ち帰らないといけない。それが出来ないなら、失敗であり、大損害なのだ。
ティリオ達は、実戦としての見方で見ている。
エアリナは、競技の見方で見ている。
その違いによって勝者の選別をしていた。
エアリナは、少しティリオ達が怖くなった。
ティリオ達は、戦う為のマシンとしての側面を持っている。
「ねぇ…なんで、そんなに大人びた感じなの? アンタ達は…」
ティリオがフ…と笑み
「色々とな。事件に巻き込まれたりしたからな」
エアリナは、ジュリア達三人を見ると彼女達も経験ありという笑みだ。
「そう…」
と、だけしかエアリナは答えられない。
それ以上、何かを言えなかった。
◇◇◇◇◇
全校生徒が共通で受ける倫理観の授業が終わり、ティリオ達は自分が学ぶ整備や生産の学科へ向かう。
その最中
「よう!」
と、呼び止めるのはルビシャルだった。
「ああ…どうも」とティリオはお辞儀して、ジュリアとナリルとアリルが続く。
ルビシャルが笑顔…営業スマイルで
「実はお願いしたい事があるんだけど、いいかな?」
ティリオが少し警戒気味に
「なんでしょう?」
ルビシャルが頬を掻きつつ
「アタシ達のホームに所属している仲間をコーチして欲しいんだわ」
ティリオが少し戸惑い気味に
「機神の…ああ…デウスマキナのマキナの訓練にですか?」
ルビシャルは頷き
「そうそう。先日のファクド達のマキナとの戦いを見たでしょう。最近、ファクド達のマキナに勝てない事が多くなってきたの。だから…その訓練をお願いしたいの」
ティリオが戸惑い気味に
「ですが…自分は、片方に肩入れするのは…」
ルビシャルが
「アタシ達だけに肩入れしなくて良いのよ。他の人達も頼まれれば、同じように欠点を解消する訓練をしてくれれば良いのよ」
と、告げて自分より頭一つ高いティリオの肩を持ち
「それにアタシ達、親戚でしょう!」
と、笑顔で告げる。
ティリオは微妙な顔をする。
ルビシャルが
「だって、デウスマキナの系譜の始まりであるオリジンの龍神 充人様の下へ、アンタの妹が嫁いでいるんでしょう! だったらアタシ達、親戚じゃあない!」
ティリオの妹、同じ日に生まれた異母兄妹のリリーシャが充人の元へ嫁入りしている。
十六歳という若さでの嫁入りだが、充人の始めの奥さんであるレディナとの約束もあって、結婚している。
そして、結婚して数ヶ月後には妊娠して、ティリオはオジさんとなった。
聖帝ディオスの子供達の中で一番早くに出産した。
ティリオの上にも七人近い兄姉もいて、上の姉達が三人結婚したばかりだったのに、それよりも早く結婚し出産をして子育てしている。
充人とティリオの関係は、元から甥っ子とおじさんの感じなので変わらないが。
色々と急ぎ足で、驚くばかりだったのは憶えている。
それを思い出してティリオは遠くを見ていると
「ねぇ、そういう事だから!」
と、ルビシャルが押す。
ティリオは、少し微妙な感じだが
「分かりました。その訓練をお受けします」
ルビシャルがバンバンとティリオの背中を叩いて
「いや!!! 話が早くて助かるわ。じゃあ、三日後だけど良い?」
ティリオは頷き
「構いません」
◇◇◇◇◇
ティリオ達は三日後、ルビシャルの、デウスマキナのホームへ行く。
デウスマキナのホームでは、甲冑のデザインを持つ機神達が並び、その掃除を機神の持ち主である学生が行っている。
ティリオには、この風景に馴染みがある。
ティリオの故郷である惑星アースガイヤにも充人が結成した機神の部隊、マジックギガンティスが存在する。
他にも魔導文明であるアースガイヤに機神の力が入り込んで、機神持ちになる住民もいた。
その機神持ち達は、こうして定期的に自分の機神の掃除をやっていた。
それと似た風景に何処となくティリオは安心感を持つ。
実際にティリオは、充人の影響を受けて多くの機神を宿している。
機神は身近な存在でもある。
機神達の掃除風景を見ているティリオに
「おーい」
と、ルビシャルが呼びかける。
こうして、ティリオを交えた訓練が始まった。
ティリオは自分のホームから、とあるマキナを持って来ていた。
そのマキナの入ったカーゴが訓練する訓練区に置かれる。
そのカーゴの隣には、ティリオ達が乗るゼウスリオンが立っている。
ティリオは外に出て、ジュリアとナリルとアリルの三人はゼウスリオンの操縦席にいた。
ティリオは今回、訓練するデウスマキナの生徒達を見つめる。
六人の男女半々のメンバーだ。
十七歳のティリオより一つ下くらいだろう。その六人が真剣な眼差しをティリオへ向けている。
ティリオが持って来たカーゴを示し
「今回は、この模擬体で訓練する」
と、カーゴが開く。
そのカーゴには、銀色に輝くゴールドジェネシスのマキナに似せて作ったマキナがあった。
「はい」と六人がかけ声を放つ。
その風景をデュエロタクトのラウンジで見つめるルビシャルは、ニヤニヤと笑っている。
そこへファクドが来て
「おやおや、早速、サポートマネージャーを使っての訓練とは、抜け目がないね」
ルビシャルが
「良いじゃない。デュエロタクトの戦いには参加させないけど、こうして強化訓練はやってくれる。アタシ達にとっては、凄く得な事だよ」
ファクドもそれを見守る為にソファーに座り
「確かに贅沢だ。ティリオ・グレンテルは、その手のプロの中で名が知られているからね」
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次回、忍び込む罠