第767話 原動 後編
次話を読んでいただきありがとうございます。
ディオスとラハトアは、共に協力者に会う為に移動する車内にいた。
窓の外を見つめるディオス、その対面の席にいるラハトアが
「ディオスさん。本当に協力するのですか?」
ディオスが渋い顔で窓の外を見つめたまま
「今、ここで止めなければ…この惑星、日の本星系区もアースガイヤも大変な事になる」
ラハトアが苦渋の顔で
「アースガイヤの応援を呼ぼうにも、星系間や銀河間、宇宙を繋ぐ超空間ネットワークの日の本星系区の接続が破壊されている。日の本星系区は孤立しているとはいえ…超空間ネットワークが修復されるまでの間は、自力で何とかできる。せめて、ぼく達の応援が届くまでは、動きを止めた方が…」
ディオスがラハトアを見つめて
「手始めに食料生産プラントを破壊した。無人のな…。だが、ここの統治関係者は…問題がないと決め込んだ。そして、宇宙港の破壊だ。次は何を破壊すると思う?」
と、ディオスが座っている席にある立体映像の端末を起動させ、ニュースをラハトアに見せる。
そこには、例の破壊された宇宙港の事件が事故とされていた。
何らかの人為的なミスによる反物質燃料を積載した宇宙戦艦の爆発…と。
それをラハトアが見て俯き
「あくまでも…事故で処理させた。大事にしない」
ディオスが厳しい顔で
「次は、この惑星を維持しているシステムの何かを破壊するかもしれないぞ」
ラハトアが困惑で
「狂気の沙汰だ。そんな事を何の意味があるんですか?」
ディオスが目を閉じて
「人ってのはなぁ…自分の命が軽いって分かった瞬間、どんなモノも無価値に見えるのさ。だからこそ、この世界に真の価値を示したいという幻想に取り憑かれる」
ラハトアが
「命って軽くないと思うんですけどね」
と、どこか怒りが混じっている。
ディオスが淡々と冷静に
「それは、ラハトアの事を大切に思っている人達がいるとラハトアが分かっているからだ。だがな…世の中には、誰にも大切にされていないと思っている人はいる。だからこそ…」
と、ディオスは言葉を詰まらせる。
ラハトアが
「だからこそ…何ですか? ディオスさん」
ディオスが悲しく目を閉じ
「呪いなのだろう。オレはここにいたという呪いを残したいのかもしれないし、もしかしたら…自分を大切にしなかった世界への甘えなのかもしれない」
ラハトアが外の整頓されたビル群を見て
「ここは、宇宙までに進出した超文明達なんですよね。それなのに…そんな悲しい事が」
ディオスは
「この日の本星系区は、男女の比率が半々になるように強制介入して出生を調節している。ある意味、地球に人類がいた頃の文化を残している特別区みたいなモノだ。そういう古い価値観が残るのだろう」
二人を乗せた車両が目的地に到着する。
ディオスが
「とにかく、やれるだけの事はやろう」
と、外へ出て、それにラハトアも続いた。
ディオスとラハトアが到着した場所は、とある海上施設だった。
かなりの大きさで、施設の港には幾つもの宇宙戦艦が停泊している。
ディオスとラハトアがその施設のゲートに来ると、目の前に一人の女性が立っている。
服装は、規律を示す深い紺色の制服。
この海上施設、日の本星系区の軍人だ。
日の本星系区の軍人の女性が敬礼して
「お待ちしていました」
ディオスが頭を下げ
「こちらこそ、よろしく頼みます」
と、ラハトアも続いた。
日の本星系区の軍人の女性が敬礼を終えて
「私は、牧山 明菜です。この部隊、日の本星系区の艦艇部隊の少佐をしています」
ディオスが海上施設の周囲にある艦艇を見る。
全長は百メートルから数十メートルと、駆逐艦サイズばかり。
ディオスが艦艇を見ながら
「ここは、艦を運営する宇宙戦艦軍のようなモノなのですか?」
牧山は微妙な顔で
「ここの施設にある艦艇は、全て一人で操縦するように出来ています」
ラハトアが驚きの顔で
「こんな大きな艦艇を一人で…それが天の川銀河連合では普通の事なのですか?」
牧山は首を横に振り
「一人で操縦する攻撃型艦の運営を行っているのがここで、他にも多くの人数が乗り込む宇宙戦艦も多数あります。ここは、そういう多数が乗り込む宇宙戦艦を守る攻撃宇宙戦艦を運用訓練する施設なのです」
ラハトアは、改めて天の川銀河連合の物量の差を感じる。
アースガイヤでは、それほどの物量を持っていない。
アースガイヤでのは艦の運営スタイルは、一隻に多くが乗るタイプばかり。
個人に宇宙戦艦一隻が支給される天の川銀河連合、いや…宇宙文明の巨大さを感じる。
ラハトアが
「これほどの物量、流石ですね」
と、驚嘆の声を漏らす。
牧山が渋い顔で
「それでも、貴方様達のアースガイヤには勝てないのが現状です。アースガイヤの技術は我らの持つ物理を越える。物量があっても、それを越える技術があるなら…それはただのゴミ同然に成り果てる」
その反応にディオスが鋭い顔をして
もしかして、何か…アースガイヤに関係して、思うところがあるのか?
と、勘ぐる。
牧山がディオスを見つめて
「私は、かつて…アースガイヤ星系へ進攻した西方連合軍にいました」
ディオスとラハトアは、ハッとする。
十年前の天の川銀河連合の西方連合軍の暴走事件を思い返す。
牧山が鋭い目線で
「その艦隊の中に、私達が乗った攻撃型艦の部隊もいました。惨敗だったのを憶えていますよ」
ディオスとラハトアが黙ってしまうと、牧山が首を振って
「ですが、それが良かったのかもしれない。あのまま侵攻して、アースガイヤ星系を占拠したら…アースガイヤで行われた非道を消してしまう、愚行を行っていたかもしれない」
ディオスが鋭い目線で
「それを、今でも納得していない人達が…」
牧山は悲しい顔で
「ええ…います。だからこそ…」
と告げた後に背を向けて施設内を案内する為に
「お二人が思う以上に、天の川銀河連合は社会的に揺れましたから」
ディオスとラハトアは、牧山に連れられて単独運用の攻撃型宇宙戦艦達の港施設を見て回る。
ナノテクノロジーの集大成である極小金属構造体…メタトロンで構築された宇宙戦艦達は、凄まじい兵器を搭載している。
反粒子炉を主動力に、光速を突破する超光速航行と、重力子を使ったエネルギー砲、更に反物質ミサイルといった強大な破壊兵器。
そして、空間を曲げてフィールドと推進力を展開する補助機関の相転移エンジンといった、宇宙域で絶対的な優位性を確保できる装置達。
ラハトアは、天の川銀河連合の宇宙軍の実力を知る。
かつて、アースガイヤを攻めてきた恒星間戦略兵器デウスマギド達を防いだ実績があるも、それ以外の膨大な数の兵力を天の川銀河連合は持っている。
だが、それでもアースガイヤに攻めてこない理由は、ラハトアの目の前にいるディオスのお陰だろう。
ディオスが様々な時空達との繋がりや、超越存在としての力と技術によって、天の川銀河連合に一目置かれているからこそ…。
ディオスが後ろにいるラハトアに視線に気付き振り向いて
「どうした?」
ラハトアが微笑み
「不断のディオスの力のお陰を感じています」
「んん?」とディオスは首を傾げる。
意味が分からなかった。
施設内の説明が終わって、ディオスとラハトアが司令室へ来る。
段々になっている司令室のホールの一番上の席、司令席で牧山が司令席に座る女性、秋田司令を紹介して、秋田司令が手をディオスに差し出し
「はじめまして」
「はじめまして」とディオスは握手する。
秋田司令が
「概要は…聞いていますが…信じられないというのが…」
ディオスが厳しい顔で
「ですが、その可能性が高いと…」
秋田司令が溜息交じりで
「再び、アースガイヤ星系への侵攻を画策する為に、この日の本星系区でテロを行う。その兵器は、未知であり…それを作れるのはアースガイヤ星系の魔導文明でしかないから…」
ディオスが
「飛躍しすぎだと思われるでしょうね」
秋田司令は頷き
「ええ…」
ディオスが
「ですが」
司令ホールの明かりが消えた。そして、赤い警戒灯へ切り替わる。
秋田司令がホール全体に
「何が起こった!」
司令ホールのオペレーターが
「司令! 日の本星系区の…動力施設の一つが…消失しました」
司令ホールの巨大画面に、クレーターのように削れて消えた動力施設の上空映像が出た。
ディオスはそれを睨むように見つめる隣で、秋田司令が忙しなく指示を飛ばす。
「原因を特定しろ!」
司令ホールのオペレーター達が急いで検索や、各所関係の連絡を行う。
秋田司令が
「第十八区域動力施設…そんな、そこは反物質をエネルギー源にしていて…爆発があれば、何かの反応があるはず。しかも、周辺に異常はなく、動力施設だけが…あり得ない」
ディオスが厳しい顔で
「事態は…転がり続けているか…」
それに秋田司令や、牧山、ラハトアが視線を向ける。
次々と起こる破壊。
その元となったアースガイヤの事件と…
次回、過去の思い 前編
続きを読みたい、面白いと思っていただけたなら
☆の評価をお願いします。
次話を出すがんばりになります。