第766話 原動 前編
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真実とは劇毒である。一般とされる多くの人達は、自分達が呑み込みやすい真実を受け入れるが、それは虚構という雲海だ。社会は虚構の雲海を頼るが、それは死に近づく。
―ユキヒト ツゲ―
一莵とディジレーターの奈瑞菜は、とある惑星に降り立つと、そこに
「おーーーーい!」
と、先輩の少女のディジレーターが待っていた。
一莵が近づき
「おい、目立つ」
と、いう口を先輩の少女が塞いで
「領域内操作を展開しているのよ。この程度の物理文明には、アタシ達が役人と接触している姿しか、記録されない。DIなんて所詮、システムでしか存在できない。それ以上のアタシ達には、絶対に敵わない」
一莵がその口を退けて
「分からんぞ。以外に…」
奈瑞菜が肩をすくめて
「大丈夫よ」
と、周囲を見開いた眼で見つめている。
「この周辺のセキュリティシステムは、先輩の言う通りに記録しているのを確認したわ」
一莵が渋い顔をして
「それなら良い、で?」
先輩の少女が
「もう、でっち上げは出来ているから問題ないわ。一莵くんのお望み、馬鹿な父親は、この天の川銀河連合に密入国して、事故死。その為の遺体を用意済みだから」
一莵が
「バレないか?」
奈瑞菜が
「バレないって、一莵が前に殺して置いた父親の遺体から複製したし、脳内のネットワークデータをダウンロードして、遺体に模写したから…宇宙文明程度では、絶対に見破れないわよ」
一莵がフンと鼻で笑い
「クソ野郎も最後は役に立ったという事か…」
先輩の少女が
「クソ野郎から抜き取った記憶と人格データ、それを使ってアタシ達が遊んで良い?」
一莵が背を向けて「好きにしろ」と告げて懐からサングラスを取り出して目元に掛けると、一莵の姿が黒髪の少年から、白髪の中年に変貌する。
白髪のスーツの男に変装した一莵を先頭に、先輩の少女もスーツの女性に変化して、元からスーツに奈瑞菜が一莵の後ろに続き、同じく先輩の少女も続く。
一莵が向かう先、そこは…
ディオス達は、宇上天皇の宮内に来る。
宇上天皇と対面するディオスとラハトアに、宇上天皇の隣に立つ職員がとある資料の端末をディオス達に渡す。
ディオスとラハトアは、それに目を通して
「な…なんて事だ…」
と、ディオスは困惑する。
ラハトアが
「こんな事が本当に起こるのですか? この端末にある彼らは、この天の川銀河連合の日の本星系区の住人であり、そして…天の川銀河連合の軍属ですよね?」
宇上天皇は苦しそうな顔で
「そうです。彼は優秀な軍人でしたが…」
ディオスとラハトアが見ている端末の映像、それは…とある人物が白髪の男と接触しているのを捉えた映像だった。
白髪の男は、天の川銀河連合のかつて、西方連合軍に所属していた軍人、中山 雅人。
その中山 雅人が接触している人物は、ゼクス・マーキスだった。
ディオスが額を抱えて
「今回の…食料生産プラントを消した未知の兵器…それは、ゼクスがもたらしたモノという事か…」
ラハトアが
「その未知の兵器を使って、この日の本星系区で革命を起こす…。そんな事、本当に可能だと思っているのですか?」
ラハトアの疑問は当然だ。
この天の川銀河連合は宇宙技術文明だ。統治は、全て天の川銀河連合に張り巡らされたセンサーと人工知性体、DIによる膨大な情報処理によって行われる。
確かに、人が政治に絡む事はあるも、それは天の川銀河連合でも一端であるイデオロギーの部分でしかない。
残りの大半、九割の社会維持と社会福祉、技術開発、それは全てDIとそれに繋がる者達によって維持されている。
宇上天皇が
「革命とは、愚かな独裁があった時代の古代の遺物。今は…違う。成功する筈もありません」
ラハトアが前に出て
「そんな、意味がないと分かっているの…やるのですか! 成功する筈もないのに行うなんて…おかしい」
ディオスが鋭い顔で顎を摩りつつ
「宇上陛下…目的が革命ではないのでしょう?」
宇上天皇が頷き
「私もそう…思います。これには裏がある」
ディオスが思考を回す。
革命を起こす為に未知の兵器を使う、だが…革命が目的ではない。
では、それによって利益を得るのは…
「は、もしかして…アースガイヤが狙いでは?」
ラハトアがハッとして
「ディオスさん、まさか…革命ってのは只の囮で…」
ディオスが頷き
「この天の川銀河連合のナノテクノロジーでも作れない未知の兵器、それを作れるのは魔導文明であるアースガイヤとして、再び…」
宇上天皇が
「つまり、再度のアースガイヤ星系への侵攻を起こす為に…」
ラハトアが青ざめて
「止めないと…そんな事になれば…」
ディオスが真剣な顔で
「宇上陛下、我々はそれを止めたいのですが…」
宇上天皇は頷き
「協力者を探します。どうか…お願いします止めてください」
浮かび上がる目的、その先に待つモノとは?
次回 原動 後編
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