第762話 予兆 前編
次話を読んでいただきありがとうございます。
人の本質は、悪性である。故に、この世から悪を駆逐する事はできない。
なぜなら、人は悪でさえ善性に変えるのだから。
―アラン・スミスー
アースガイヤがある時空、アースガイヤ星系外、天の川銀河連合の東部、日の本星系区。
その惑星、特別自治区、トウキョウ惑星の無人海上生産施設が消失した。
その施設は、とある小さな島をコアに周囲へ無人の食料生産プラントを広げていた。
直系は五キロという巨大な施設。
それが…完全に消失していた。
そして…消失したそこがクレーターのように凹んでいる。
海の上なのに、海が消失したそこだけ凹んでいる。
異常を駆けつけた警備の無人機達がその上を忙しなく飛んで、サーチしている。
その近くに人を乗せた小型の宇宙戦艦が到着。
その艦橋から凹む海を見つめる。
「どういう事だ?」
と、首を傾げる男。
隣の席でオペレーターしている女性が
「信じられない。あの凹んだ海の部分だけ重力が異常を起こしているわ」
別のオペレーターの男性が
「無人機達の探査では、何も痕跡が発見できていない。まるで、そこだけ存在が無くなったかのごとく…」
男性が
「反物質爆弾か? それとも…」
女性が
「そんな高エネルギーの爆発があったら…もっと早くに事態の異常を発見できているわ。それに…その痕跡だって残るはず」
別の男性が
「物理的な痕跡が一切残っていない。まるで…はじめから無かったのように…」
男性が
「存在を無かった事にできる力…」
女性が
「どうやって上に報告しますか?」
男性が鋭い顔で
「全てをありのままにだ。そう、隠さずにだ」
と、告げた男の顔には不安があった。
間違いなく、とんでもない事になるのは目に見えていた。
そして、そんな力を行使できる存在を知っている。
「最悪、アースガイヤの彼らの力を借りるかもしれん」
ディオスは一人、オルディナイト邸宅の会長室で考え事をしていた。
そこへ執事のオルストルが
「何か、考え込んでいるようですが…会長、何か?」
ディオスが鋭い視線のまま、隣にいるオルストルを見て、オルストルが身を引かせる。
ディオスがは頭を振って
「すまない。怖がらせてしまって…」
と、座っていた椅子から立ち上がって外を見つめて
「今回の人型ゴーレム事案について、考えていてな」
オルストルが
「今回は、ご子息様達のお陰で解決しました。周囲ではディオス様のご子息様達に関する評価がうなぎ上りですから。色々と財団や企業がご子息様達に接触して、慌ただしくなるかもしれませんね」
ディオスが溜息を吐き
「まあ、その程度なら…問題はないが…」
オルストルは苦笑いをする。
その程度なら問題ない…とは。この人の器の大きさは計り知れない。
ディオスが鋭い視線のまま
「今回の事案、楽に片付きすぎだと思ってね」
「ええ…相当に大混乱だったと思われますが…」
と、オルストルが困惑する。
ディオスが
「いや、パターンの感じが…アズサワがアースガイヤを小手調べした時と似ていてね」
オルストルがハッとして
「つまり、何かが起こるか、起こす為の…」
ディオスが厳しい顔で
「確証はない。カンだ。だからこそ、それを払拭する要素を探しているが…」
オルストルが
「見つからない…と」
ディオスは静かに頷く。
ディオスの予感が叫んでいる。もっと大きな厄災か、事件が…アースガイヤへ
気のせいだと思いたいが…。それを…。
セバスが会長室へ入り
「会長、メルディオル様が…緊急で来られて来られております」
ディオスが鋭い視線で
「何か起こったのか?」
セバスが
「メルディオル様がどうしても…お力を借りたいと」
オルストルが驚きを向ける。先程、ディオスと話していた事を思い返した。
「分かった。直ぐに行く」とディオスは向かう。
三日後、ディオスが編成したアースガイヤの調査団がメルディオルの龍機戦艦に乗って、日の本星系区へ向かう。
メルディオルが頼った相手は、ディオス達だった。
ディオスとラハトア、ディオスが連れる魔導技術者達、その中に子供達ティリオとリリーシャにゼティアがいた。
龍機戦艦の艦内でラハトアがディオスに
「良いんですか? ご子息達を連れてきて」
ディオスが
「いいだよ。今回は、何かが起こった場所の調査だ。危険な事はないはずだ。それに子供達の能力は、前の事案の時に証明されたろう」
ラハトアが渋い顔で
「でも…やはり…」
ラハトアは、ゼティアの許婚だ。ゼティアが危険に巻き込まれるのを良しとしていない。
ディオスがラハトアに
「もしもの場合は、ラハトアが全力で子供達と逃走してくれればいい」
ラハトアが厳しく
「ぼくの判断で、危険となったら…即時、アースガイヤへ帰還させますから。良いですねディオスさん」
ディオスが頷く
「ああ…構わん」
ディオス達が乗った龍機戦艦が例の場所へ来る。
龍機戦艦の大きな艦内の画面に、その凹む海が投影され、メルディオルがディオスを隣に
「アレが例の場所だ」
ディオスは巨大画面から見て
「ああ…? 本当に海が凹んでいますね」
そのディオスの傍には子供達三人もいる。
ティリオが顎を摩り
「なんですか? 重力に関係するエネルギーの暴走ですか?」
メルディオルが
「か、それに系統する何かの兵器か…とにかく、原因が分からないから君達を…」
と、ディオス達を見ると、リリーシャとゼティアが身を乗り出して凹む海を凝視している。
それにメルディオルとディオス、ティリオが気付いていて、ディオスが
「どうしたんだ? 二人とも」
リリーシャとゼティアがディオスとティリオを見つめ、ゼティアが
「パパ、パパのサードアイで、あの状態になっている海の水に違和感がある場所を探して!」
リリーシャがティリオを引いて
「ティリオは、私と一緒に異変がある海の水をくむ!」
ティリオが慌てて
「どうしたんだ? なんで慌てるんだよ」
リリーシャとゼティアが互いに視線を交差させた後、ゼティアが
「あの現象は、重力の異変なんかじゃあないわ!」
リリーシャとゼティアの二人だけが事態の重さに気付いていた。
事態はゆっくりと深刻化する。
次回、予兆 後編