第75話 サルガッソーの中心
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あらすじです。
サルガッソーの中心で不気味な事をする二隻の戦艦、ディオスはクレティアとクリシュナを伴ってそこへ斥候に行くと…
不明な戦艦があるサルガッソーでディオスは、クレティアとクリシュナの二人に目を合わせる。
斥候にいくぞ!
クレティアとクリシュナは頷く。
ディオスが
「ヴィスヴォッチさん」
「なんだ?」
と、隣にいるヴィスヴォッチ
「これから、三人であそこへ偵察に向かいます。何かあっ場合は直ぐにここから」
「はぁ…」とヴィスヴォッチは溜息を吐き「分かった。だが、待ってはいるぞ」
ディオスは頷いた後、クレティアとクリシュナを連れて、戦艦のそばに行く。
大凡の距離を、ディオスはクレティアとクリシュナを抱いてベクトの瞬間移動で来る。
戦艦から数百メートルまで来ると、岩陰に隠れながら、戦艦へ近付く。
このサルガッソーは隠れる場所が沢山ある。
大きな岩が転がっているのもあるが…別の戦艦の船首や船尾が地面から幾つも突き出ているのだ。
ここがサルガッソーと呼ばれる所以だ。
このサルガッソーには、超古代遺跡時代の戦艦達が大量に埋まっている。
何故、こんなにここで埋まっているのかは…不明だが、とにかく、その戦艦達の骸が埋まるここが船の墓場に見えるので、山岳台地でも、サルガッソーと呼ばれているのだ。
ディオス達は慎重に二隻の戦艦に近付く。
戦艦のそばに来ると、その周囲を警護している者達が見えた。
全身が黒服の特殊部隊のようなサバイバルスーツに身を包み、両手に何と…この世界に存在しないアサルトライフルのような武器が見える。
様相だっておかしい。
この世界の軍隊や、武装者は、魔法の力が加わった魔導鎧が定番の装備だ。
それが、今、ここにいる連中は、ディオスが地球にいた頃にいた。特殊軍隊の様相だ。
ディオスの視線が鋭くなる。
これ程までに、自分の産まれた地球の事を感じさせる瞬間はなかった。
魔法世界では異質の特殊部隊の兵士達は、戦艦の周囲を警戒している。
クレティアが
「ねぇ…一人、ゲットして色々と聞いてみる?」
クリシュナが首を傾げ
「おかしいわねぇ…」
「どうした?」
と、ディオスが…
「その…魔力の気配を感じないの…」
クリシュナが疑問を告げる。
「ええ…」とクレティアは疑問視するも、警戒する兵士を見つめると…
「アレ? 本当だ…何にも感じない」
ディオスは訝しい顔をする。
そう、生命であれば…大体、魔力を持っているので…何かの装備をしても微量に魔力が漏れて感じるのだ。
ディオスは
「ちょっと一人、捕まえてくる」
ベクトの瞬間移動して、丁度いい兵士を探すと、兵士が一人になった瞬間があった。
そこへすかさず、ベクトの瞬間移動して背後を取って、エンテマイトの超震動を纏って背中に正手突きした。
だが、その感触が何時もとは違う。まるで、鉄の塊を吹き飛ばした感触だ。
えええ?
ディオスは困惑して、数メータ吹き飛んだ兵士を見つめる。
兵士は仰向けに倒れているが、なんと、トンでもない挙動をする。
両手足が、あり得ない反対方向へ曲がって、蜘蛛のように動きディオスに襲い掛かる。
「ゲ!」
と、ディオスは驚き恐怖して、瞬間的に超重力魔法で粉砕してしまった。
”グラビティフィールド・アビス”
超重力の圧縮によって不気味な蜘蛛動きをする兵士が砕け散ったが、全身から機械の部品をバラ撒いた。
ディオスの足下に、兵士の頭が転がってくる。
ディオスは恐る恐る、兵士の頭を取り、その被さっているゴーグルニット様相を捲ると
「あぁぁぁぁぁ」
絶句した。
ディオスは、クレティアとクリシュナのいる場所に戻ってくる。
「おかえりダーリン」
と、クレティアが
「アレ? 兵士は?」
と、クリシュナが
ディオスが兵士の首を掲げる。
クリシュナが嫌そうな顔をして
「何、生首を持って来ても意味ないわよ」
ディオスは首を横に振って
「良いから見てくれ」
二人の前に置いて、その兵士の首のあるゴーグルニットを外すと
「え!」とクレティアは驚き
「ウソ…」とクリシュナは困惑。
そう、そのゴーグルニットの中にあったモノは、金属の骸骨だった。
目は、紅い輝きのカメラ、所々にピストンと基板が見えて、歯は鋼色に輝いている。
まさにTネーターの中身そのモノだ。
クレティアは額を抱え
「これ…どういう事…。人型の…ゴーレムって事?」
クリシュナはツンツンと金属の骸骨を突っつき
「こんなの…見た事ない。ダーリンは?」
ディオスは額を押さえ
「これに近い想像上のモノは見た事があるが…。まさか…実物を見るなんて…」
クリシュナは、警備している兵士達を凝視して
「まさか…この魔力を感じない動いている者達全員が…」
ディオスが肯き
「ああ…多分、これだ…」
持って来た金属の骸骨を指さす。
ディオスは、考える。
この兵士達、全員が…人型の自動兵器だ。この自動兵器を多用する感じ、レジプトで出会ったエニグマのアズナブルのようだ。
もう…確定でいいよなぁ…
ディオスの中で、この戦艦を使って何かをしている連中は、エニグマと断定した。
そして、自動兵器の兵士達に見つからないように、隠れながら戦艦に来る。
戦艦の上部、甲板らしき所に来て、全体を一望する。
まず、自分のいる戦艦は、主に戦艦の傍にある大穴に向かって数本の一メータサイズの太さがある動力パイプを伸ばして、大穴の奥へ入っている。
もう一隻は、戦艦の後部が開き、そこから空に向かって数メータサイズの光線が昇っている。
その光線の先には、この地帯を覆い隠している雪氷の雲まで伸び、その雪氷の雲が渦巻いて発生している。
更に、その渦巻きから、都市遺跡群で襲来したワイバーン達が発生しているのが確認出来た。
そう、全ては、この事態を隠す為に仕組まれた事だ。
「何をしているんだ…」
と、ディオスは、動力パイプが伸びる大穴を睨む。
そこへ、甲板のドアがスライドして開き、ディオス達は急いで甲板の上部、隠れられる場所に身を隠して、不可視の透明になる結界で自分達を包む。
甲板に現れたのは、三人だ。
一人は白の短髪に額に×字の傷跡がある屈強な男。
その右に、黒い魔導士のような格好をした線の細い髭の男性。
そして、左には…アズナブルがいた。
ディオスは、アズナブルを見て
ヤロウ…何をするつもりだ…!
殺気が篭もるディオスに、隣に密着するクレティアが
「ダーリン、殺気を押さえて、気付かれちゃう」
「ああ…すまん」
と、ディオスは呼吸して気持ちを落ち着ける。
アズナブルは、×字の屈強な男に
「ゴルド殿…どうですかなぁ…計画の推移は?」
ゴルドと呼ばれた×字の屈強な男は、怪しげに笑み
「順調だ。後僅かで、起動出来る」
黒い魔導士の男が髭を擦り
「それは上出来だ。小生もうれしい限りである」
アズナブルが、黒い魔導士の男に
「今回は、マッドハッター殿の、ワイバーンを発生させて隠れ蓑にする装置の力がなければ、ムリでしたな」
マッドハッターと呼ばれた黒い魔導士の男は
「まあ…試したい技術の実験が出来て助かったがね…」
ゴルドは二人に笑みを向け
「いや…助かった。この礼は何れ…」
マッドハッターは肩を竦め
「気にするな。我らは…繋がりこそ薄い、個々の軍勢だが…。同じ目的で動く同志だ。この世界を我らの手に」
マッドハッターが右手を伸ばすと、アズナブルとゴルドもその右手に右手を置いて
『この世界を我らの手に…』
と、呼び合って甲板から去って行った。
ディオスは鋭い殺気が篭もる顔で、その両脇にいるクレティアとクリシュナは互いに視線を交差させる。
ディオスは、不可視の魔法を解いて立ち上がり
「一旦、戻ろう…」
「うん」「ええ…」とクレティアとクリシュナは頷いた。
雪上キャタピラ魔導車に戻って来たディオス達。
そのキャタピラ魔導車の大きな荷台場で、ディオスの話を聞いてヴィスヴォッチが頭を抱えた。
「よりにも寄ってエニグマか…」
と、ヴィスヴォッチは不快な感じだった。
おそらく、ヴィスヴォッチの前部隊である特殊部隊の時にも、エニグマの事を聞いていたのだろう。
荷台の会議の場には、ディオスにクレティアとクリシュナ、ヴィスヴォッチとその部下二人、そして、ナルド達四人。
ディオスがヴィスヴォッチに
「ヴィスヴォッチさん。エニグマとロマリアは…どのような関係で?」
ヴィスヴォッチは頭を掻き
「ビジネス的な関係だ。お互いに利益が一致するなら共同で動くが…。それでなければ、…ドライな、金でしか繋がりがないなぁ…。ぶっちゃけ、過去に何度か、エニグマが関係して領土を広める戦争に荷担はしたかもしれん。だが…それは、ロマリアの為ではない。エニグマが武器を売って収益を得る為に行った事だ」
ディオスは「ふ…」と皮肉な笑みをして
「最低だ…。死の商人、真っ只中だ」
ナルドが挙手して
「その…エニグマは何をここでしているんでしょうか…?」
クリシュナが腕組みして
「それが問題よね…」
クレティアが首を傾げ
「ここは、超古代遺跡時代の戦艦が眠っている場所だから、その戦艦の亡骸達の中でも、強力な戦艦を復活させて、何かしようって魂胆かなぁ…」
ハンマーが「う…ん」と唸り
「あり得そうですなぁ…」
ディオスは顎に右手を当て
「ナルドさん、ラチェットさん、リベルさん、ハンマーさん。もう少し、ここの詳しい事を教えてくれませんか?」
ナルドとラチェットが顔を見合わせ、ラチェットが
「その…ここにある戦艦の亡骸達は…妙なんだ」
「妙?」とディオスは眉を寄せる。
ナルドが
「動力炉がないんです。戦艦の遺跡なら、大体は…動力炉があるんです」
リベルが
「発掘される戦艦の遺跡は、その動力炉のエネルギー源が空っぽの状態で見つかります。おそらく、一万年前の大破壊の時に、その動力炉のエネルギーが消失したので、墜落して地面に埋まっているというケースが定番です」
ハンマーが
「しかし、このサルガッソーの戦艦達には、動力炉がない。そればかりか…人が乗れるスペースさえない」
ラチェットが
「まるで、戦艦の形をしたゴーレムみたいな感じなんだよ」
ディオスは顔を顰め
「動力炉がない。戦艦の形をしたゴーレム…」
ナルドが
「その…前に、初めてディオスさん達と冒険した遺跡にあった人サイズのゴーレムと似ているかもしれませんね」
ディオスはそれを聞いて…
「まさか…」
額から血の気が引いて青ざめる。
そう、このサルガッソーに埋まる戦艦の遺跡達の驚愕な真実に気付いた。
ディオスはそれを皆に口にした瞬間
ヴィスヴォッチはフラフラして
「まて…どういう事だ!」
ディオスが
「そういう事だ。連中の目的は、その軍勢の復活だ!」
ラチェットが目を上にして
「ええ…ちょっと、もしそうなったら…」
何かを数えた後、頭を振って額を抱え
「冗談じゃない…」
ディオスがヴィスヴォッチの肩に手を置き
「ヴィスヴォッチさん。急いで、この事を伝えてください」
ヴィスヴォッチは黙ったまま、何度も頷いた。
ディオスは、左右にクレティアとクリシュナを見て
「二人とも…何とか…やってみるぞ」
クレティアとクリシュナは黙って頷く。
リベルが
「ディオスさん。ディオスさん達では危険過ぎる」
ディオスは、リベルの微笑み
「大丈夫、危ないと思ったら…直ぐに撤退しますから」
心配するリベルにラチェットが
「大丈夫だ。お前だってディオスさん達の力を知っているだろう」
何とか、安心させた。
ディオス達を残して、雪上キャタピラ魔導車の部隊は撤退する。
この事を知らせる為に、ディオス達三人、クレティアとクリシュナを連れてディオスは、サルガッソーを守る雪氷の壁を越えて入った。
最悪を回避する為に、ディオスは戦うも、ディオスの脳裏にゴルドの言っていた。
あと僅かで、起動出来る
を思い返した。
早くしなくては…。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ありがとうございました。




