第754話 人型ゴーレム前編
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ティリオは、何時も彼女達、ジュリアとアリルにナリルの婚約者達を連れてアフーリアのレオルトス王国にいるクレティアの兄、伯父のヴァルドの屋敷へ来ていた。
ヴァルドがティリオの剣術の相手をする。
軽く流れるように交わされる二人の剣術。
それをヴァルドが受け流して答える。
ティリオとヴァルドは、お互いに微笑んでいる。
二人にとって、剣術とは戯れでありスポーツなのだ。
無論、二人が握っている剣は、刃のない模擬刀だ。
ティリオの流れるように繰り出す剣術達をヴァルドが受け流していると、不意にティリオがヴァルドから見て憶えた二段突きをする。
ヴァルドは驚くも嬉しそうにそれを流す。
二人の剣舞の様子に周囲にいるヴァルドの訓練生や奥方、子供達、ティリオの婚約者達も安心して見ていられる。
きっちりとした動きは、ミスや淀みがない。
それは、何処までが安全圏であり、踏み込んで良いレベルを分かっているので、二人は大ケガをする事が無い。
いわば、ヴァルドとティリオは、お互いに相当な剣術の力を持っている証でもある。
武術と舞踊は一身一体、高度な剣術は高度な舞踊に見える。
まさに、ティリオの動きは達人に匹敵する域に来ている。
それを受けているヴァルドも同じなのだ。
ティリオが、クリシュナ母から受け継いだ蛇腹突きを放つ。
本来は、槍術に向いている武術を剣技で再現して、それにヴァルドは微笑み。
蛇のようにうねって来る剣先を綺麗に受け流す。
そこで二人の剣舞が終わった。
ティリオが一息ついて
「ああ…やっぱり、おじさんだと反応しちゃうか…」
ヴァルドが剣を腰に下ろして
「何度か…経験があるからなぁ。しかし、それを扱えるなんて驚きだぞティリオ」
ティリオも剣を腰に下ろして
「クリシュナママの動きを再現しようとしたら、体格的にムリがあるから、ゼリティアママの槍術と、クレティアママの剣先を変えるワザをミックスさせたら、できたんだ」
ヴァルドがティリオの剣を見て
「それの剣の長さより長くても、短くても、上手くいく事は…」
ティリオが肩をすくめて
「そう。これ以上、剣が長いと槍のように上下する叩きに変わって、これ以上短いと放つ前のフェイントになっちゃうから…」
ヴァルドが難しい顔で
「昔、剣を極薄にして蛇のようにしならせる事で似たような動きを再現したヤツがいたが…」
ティリオが頭を振り
「ええ…そんな事をしても、結局、間合いを詰められて終わりでしょう。大道芸なら価値はあるけど…」
ヴァルドが頷き「その通りだ」と答えた。
こうして、伯父と甥っ子は会話して休憩に入る。
その後、ジュリアやナリルにアリル達も、訓練に混じって色んな技の練習をする。
剣術の基本は、変わらない前方へ向ける九方向の斬撃が基本中の基本だが、それを相対した時にどう繰り出すのか? それが剣術の戦い方のミソであり、達人クラスでは読み合いが勝負を決める。
どんな武術でもそうだが…基本的な事は二年半くらいで憶える。
だが、そこから強くなるには、経験と知識が必要だ。
良い知識は、良い経験を与える。
だが、悪い経験は悪い知識をもたらす。それは逆もしかりだ。
ティリオも技術は優れているが、まだまだ発展途上なのだ。
ティリオがいる訓練場にレオルトス王のフィリティが妻のウルティアナが来た。
そう、ディオスの昔の事でトラブルとなった、あのウルティアナがフィリティと結ばれて、二人の間に子供が二人もいる。
フィリティがティリオ達を見つけて「お、ティリオ!」と、近づく。
フィリティの後ろには、フィリティの子供である男女の二人が付いてくる。
「こんにちは、フィリティ陛下」とティリオが挨拶して、それに同じく婚約者達の三人も挨拶する。
フィリティが微笑ましくティリオを見つめ
「大きくなったなぁ…ここ数年で…こんなにも成長して」
フィリティは、ディオスの屋敷へ来ると良くディオスの子供達の相手をしていた。
そして、自分にとっても姉であり剣の師匠でもあり、そして…そんなクレティアの血を引くティリオがお気に入りでもあった。
ティリオの顔立ちは、どことなく父親のディオスと似ているが…ちょっとした仕草にクレティアの部分が見えた。
そして、クレティアと似た剣術を使う。
ティリオが「フィリティ陛下、今日は」と告げるに合わせてフィリティが
「お兄さんで良いよ」
と、フィリティが微笑む。
ティリオも微笑み
「フィリティ兄さん。今日は、訓練に来たんだよ。フィリティ兄さんは?」
フィリティは
「同じく、剣術の訓練風景を見に来たのだけど…変更だ。どこかへ食べに行こう」
ティリオが首を傾げてヴァルドを見ると、ヴァルドが来て
「私達の護衛を伴えば、問題ない。陛下…行きましょうか」
フィリティは、どうすればいいか?とティリオの考える仕草にクレティアを見る。
ディオスは、困った時に眉間を寄せて判断を仰ぐ相手を見る。
確かにティリオは、ディオスに似ているがこの仕草がクレティアを同じだ。
やはり、クレティアの子だと認識する。
フィリティ達家族と、ティリオ達に護衛のヴァルド達を連れての大所帯だが、町へ繰り出す。
散歩感じに町中を回ってレストランを物色する。
ヴァルド達の護衛は、私服に似せたアーマーゼウスリオンを纏っている。
ディオスが作った技術によって、王族が気軽に護衛を連れれば町で食事できる事が可能な世界。
それは平和の象徴でもある。
アースガイヤは、国々が繋がる連邦になった。
国家間の争いが皆無になり、主要な政府関係者が気軽に国々へ訪れて交流する惑星連邦国家になった。
良い事だが…問題も…。
ティリオが立ち止まり、とある一団を睨む。
それにアリルとジュリアにナリルが気付き、ジュリアが
「どうしたの?」
ティリオが見つめる数メートル先の一団。
それをティリオが
「アイツら…人型ゴーレムだ」
『ええ…』とティリオ以外の全員が驚きの声を漏らす。
ティリオが睨む一団は、どこかの観光客の一団にしか見えない。
ナリルがティリオの袖をつまみ
「ホントなの?」
ティリオの顔が険しくなり
「間違いない。上手く偽装しているが…魔導波紋と歩数、魔力の波動の乱れが人型ゴーレムのソレだ」
ヴァルドが周囲の護衛達に
「私がティリオと行く。後は…」
「了解です」と護衛達が頷く。
ティリオが
「ジュリア、アリル、ナリル、フィリティ兄さん達を頼む」
「う、うん…」と三人は頷いた。
ヴァルドがティリオを連れて一団に近づく。
そして同時に、その一団がいる店の前にとある魔導車が到着する。
その魔導車から出てきた紳士と婦人をフィリティが見て
「あれ? あの二人…レオルトスの財務長官の…」
その財務長官の夫婦が行こうとする店の前にいる偽装人型ゴーレム達が…
「え…」
と、二人が戸惑う。
その瞬間、人型ゴーレムの両手が武器の砲身に変わる。
「きゃあ!」と婦人が驚き夫の紳士が妻の婦人をかばう、そこへ兵器へ変貌した人型ゴーレム達が襲いかかるが、瞬足で駆けつけたティリオが両手に高エネルギーの魔導剣を握り締め、一刀両断する。
次にヴァルドが来て、アーマーゼウスリオンを展開、両手にエネルギー魔導剣を握り締め、正体を現した人型ゴーレム達を一刀両断。
攻撃された人型ゴーレムは、異常な振動を伴って加速、一瞬で二階の壁を登り、ティリオを上から襲いかかる。
残りの人型ゴーレムもデタラメな動きをしてヴァルドに襲いかかる。
ティリオは、絶対零度の魔神のゴットディオンアーマーを装備して、乱れ飛ぶような斬撃を繰り出す。
それに貫かれた人型ゴーレムは、瞬間凍結してその場に倒れる。
ヴァルドは、戦いをティリオに任せて、婦人と紳士の保護に走り
「お二方! こちらへ」
紳士が
「ヴァルド殿、助かる」
ヴァルドが二人を連れて逃れる。
それを人型ゴーレムが追跡する
その動き、明らかに人が出来る可動範囲ではない。
だが、ティリオがそれを許す筈もなく、凍結魔神のゴットディオンアーマーの周囲に絶対零度へ落とす魔導剣と魔導槍を数多に生じさせて握り、それで人型ゴーレム達を貫き凍結停止させる。
そして、残り一体となった時に、その一体が激しく暴れ回り胸部のリアクターが異常加熱しているのをティリオは察し、そこへ何本もの絶対零度化の剣と槍を打ち込んで止めた。
人型ゴーレムを全て倒したティリオの元へジュリアとナリルにアリルの三人が来て
「ティリオ!」
と、ナリルが声を掛ける。
ティリオは、凍結停止させた人型ゴーレムを睨んだまま
「イヤな予感がする」
ティリオ達の戦いを遠くで見ている者がいた。
佐々木 一莵だ。
ティリオが遭遇した人型ゴーレムの軍団。
だが、その人型ゴーレムにはとんでもない秘密があった。
次回 人型ゴーレム後編