第753話 協力者 その二
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ディオスは、アーリシア大陸にある、とある教会に来ていた。
その教会の管理する者は、セイントセイバーのユリシーグと、その妻アイナだ。
そう、この教会は、アーリシア大陸に根付くシューティア教の教会であり、その教会の秘匿組織サルダレスの管理下の一つで、とある存在達の…
「いやぁぁ! ありがとうね聖帝様」
と、教会の中にある客間で楽しそうに声を放つ
ペンダントと、それをしている六人の男女、修道士と修道女がいた。
その修道士と修道女達が首にしているペンダントは、宝石の部分が光を放ち浮かび会話をする度に上下して反応をする。
六人の彼女達、彼らの身につけているペンダントは、かつてディオスが作ったゲーティアの鍵という邪神を封印した装置なのだ。
十年以上前にディオスがルクセリア王国の事案の時に手に入れたドラックールの使った術式から生まれた技術で、現在…アーリシアにいた邪神二十体の全てがゲーティアの鍵に封印されて、その内…人と対話して共存可能なゲーティアの鍵の邪神達だけは、こうして…サルダレスの修道士と修道女の手元に置かれている。
光って浮かぶペンダント達のテーブルの中央には、ディオスが作ったお菓子達が並べられて、それをゲーティアの鍵の邪神達が…食べているのか?
減っているようには見えないが、おいしい、美味いと舌鼓している。
実際に食べるのは、ゲーティアの鍵をしている修道士と修道女なのだが…。
ディオスは、それを見てお仏壇にお供えする供物の概念なのだろうか?と思ってしまう。
ゲーティアの鍵の邪神の一人が
「さて、聖帝様…アタシ等に、こんなお菓子を持ってきて、ただ…お喋りなんて分けないよね」
口調が、どこかのおばあさんだ。
ここにいるゲーティアの鍵の邪神の全員が、おばあさんっぽい。
ディオスが近づき、そのテーブルの席に座って
「ええ…ご協力を願いしたい」
ゲーティアの鍵の邪神達、いや…今は平和に暮らしているので神々とした方が正しいだろう。
ディオスが
「皆様、古来の神格達のお力を借りて、とある存在の手がかりを探して頂きたい」
ゲーティアの鍵の神々の一人が
「アンタは、確か…サードアイを持っているんだよねぇ…。それさえも見つからない存在なのかい」
ディオスが溜息交じりで
「ええ…私の力では探せないように妨害されているようです」
ゲーティアの鍵の神々の一人が
「アンタの力を妨害するような連中に、アタシ等は対抗できないわよ」
ディオスが微笑みながら
「そういう事ではありません。ただ…そう…アースガイヤを回って、見つけて欲しいのです。旅行する気分で、色んな場所を回って、そう…アースガイヤの民なのに…何か…外れているような気配の者を探して欲しいのです」
ゲーティアの鍵の神々の一人が
「そんな存在…アースガイヤにいるのかねぇ?」
ゲーティアの鍵の神々の一人が
「この世界は、アインデウスの力が全てに満ちているわ。まあ、それで全てを救える事は出来ないけど…それでも、そこから外れるなんて…」
ディオスが真剣な顔で
「今、アースガイヤは…本来ある世界に戻り、順調に人口も増え、技術も進歩している。だからこそ、現れるのかも知れません。アースガイヤの人口は百億から、あと数年で百五十億に達する。そうなってもやっていける方法はありますし、問題はありませんが…」
ゲーティアの鍵の神々の一人が
「数が多くなれば為るほど、外れる者が現れる確率が上がるって事かねぇ…聖帝様」
ディオスは頷き
「そういう事です。我々は、万能ではありません。神さえも全てを救う事は不可能。それは私達も同じです。その結果…それは最悪な形で現れる。そうなる前に…」
ゲーティアの鍵の神々達は、沈黙する。
何か、思う事があるらしい。
ゲーティアの鍵の神々の一人が
「みんな、どうだい? ちょっとアースガイヤを回って見るだけだから、協力してみようじゃないかい?」
ゲーティアの鍵の神々の一人が
「そうね。アタシ等は…その神性に引きずられて力として行使されたけど、この聖帝様のお陰で、こうしてノンビリと日々を過ごせるようになった事のお礼として…ねぇ」
ゲーティアの鍵の神々達が
「そうだね」
「また、こうしてお喋りもしたいし」
「アタシ等が出来る事があるならねぇ…」
ゲーティアの鍵の神々の一人が
「他の連中も協力してくれるか、どうか…聞いてみるわ」
ディオスは頭を下げ
「ありがとうございます。貴女方のような他とは違う特別な見方をする方達の協力が必要なのです。どうか…」
ゲーティアの鍵の神々の一人のペンダントが少し浮き上がり
「ごめんよ。修道士と修道女のアンタ達をつき合わせてしまうけど」
ペンダントをしている修道士と修道女は微笑み
「構いませんよ」
と、了承してくれた。
こうして、ゲーティアの鍵の神々によるアースガイヤ全体の見回りが始まった。
探すべき対象は、ガオス・カルパールが言っていた善性と邪悪を持った異質な者だ。
アースガイヤの者は、アースガイヤの力を宿す為にそれに引っ張られて見つけにくい。
だが、ゲーティアの鍵の神々は、アースガイヤの力の影響を受けていないからこそ、その異質さを見つける事が出来る筈だ。
ディオスは、それを頼る事にした。
早期にその者を保護して…そうすれば悲劇の前に防げる筈だ。
全てが手遅れになる前に…。
ディオスは、ゲーティアの鍵の神々と話し合いを終えて、屋敷に帰ってくると世界王族会議の面々で話し合ったガオス・カルパールの話を取り纏めた書類に目を通す。
この事について公表するのもあったが…不用意な不安を煽るだけとして、世界中に隠れている政府や王政府、レスラム教、シューティア教、仏教といった長い歴史がある宗教者達が持つ秘匿組織達の力を借りる事で探し出す事にした。
こんな秘匿組織達の連合が出来るのも、ディオスが世界をアースガイヤを繋げてくれたお陰だ。
だからこそ、ガオス・カルパールに意識を持って行かれた時は、メチャクチャ怒られた。
オルディナイトでは、意見を求める三賢人の一人、ゼリティアの叔母のゼルティオナに小言を言われ、バウワッハからは
「ディオス、ワシより先に死ぬ事はゆるさんぞ」
と、悲しまれて
アースガイヤ全域の各財団長達からは、屋敷にある不穏な物の撤収と封印を口煩く言われ、その他、聖帝の威光ネットワーク関係者達にも小言を言われ、オルディナイト財団の理事長になってから、色んな人がディオスに小言だが怒っていた。
その本心は、ディオスがいなくなって欲しくないという事だ。
相当な数の人達にディオスは、必要とされているのを改めて痛感する。
「変な行動は止めよう」
と、ディオスは、ぼやくのであった。
そんな感じで、書類のチェックをしていると、オルディナイト邸宅と繋がるヤヌスゲートからティリオが帰って来た。
「お、おかえり…」
と、ディオスが息子を迎える。
「ただいま」とティリオが答えた後に
「父さん、明日…ジュリアとアリルにナリルの三人を連れて、レオルトス王国のヴァルド伯父さんの所へ行っても良いかなぁ?」
ディオスが頷き
「ああ…良いとも、クレティアママにそれを伝えて置けよ」
ティリオが頷き
「うん。ちょっと剣筋に関してヴァルド伯父さんにアドバイスが欲しいんだ」
ディオスが
「ティリオは剣術が好きなんだなぁ…」
ティリオが
「趣味みたいなモノだからね」
ディオスが
「強くなろうと思っているのか? なら、剣術大会とに出て見るのも良いかもしれないぞ」
ティリオが微妙な顔で
「競い合うとは…違うんだよね。なんて言うか…そう…大切な彼女達を守る力と、一緒に戦う力を身につければ良いって感じかなぁ…」
ディオスが頷き
「そうか…ムリはするなよ」
ティリオが微妙な笑みで
「父さんこそ、母さん達が身重で兄弟達がお腹にいるんだから、母さん達を心配させるような事をしないでよ」
ディオスが何度も頷き
「分かっている。本当にその辺は申し訳ないと思っている」
ティリオが二階の自室に向かいながら
「父さんがぼく達、兄弟姉妹達に色んな事を教えてくれるのは嬉しいけど、父さんの事を本当に必要としている人達が多くいるんだから、父さんこそ無茶しないでね」
ディオスは微笑み
「ああ…分かったよ」
と、告げる頃には、ティリオは二階へ行った。
ディオスは、自分が恵まれていると感じる。
良き人達、助けてくれる家族、愛情を通わせる妻達。
本当に信じられない程に恵まれている。
だからこそ思う。
自分が恵まれている分、その何倍も恵まれていない人が裏ではいる…と。
自分がゲーティアの鍵の神々に言った。
”神さえも全てを救う事は不可能”
それは、自分なら救えるという傲慢さだったが。
現実は、自分ではどうにでも為らない事が多いという事を…。
「いや、やれる事はやろう」
と、ディオスは自分を鼓舞するのであった。
例え、最悪な結末が待っていようとも…。
一人の男が曙光国の海辺にいた。
空を見上げる瞳は、ガラスのように透き通っている。
だが、それに生気は無い。まるで作り物のようだ。
彼の名は、佐々木 一莵
ガオス・カルパールが予言した善性と邪悪を備えたアンフォーギブンだった。
ゲーティアの鍵の神々達にお願いした脅威の探索。
そして、ティリオとディオスの会話。
次回 人型ゴーレム 前編