第751話 シンイラの者 その二
次話を読んでいただきありがとうございます。
ディオスは、霧矢との話を終えて複雑だなぁ…と思ってしまう。
霧矢は、とある男の話として自分の過去を…。
「んん…どうしようか…」
と、考えているとそこへ、クレティアが来て
「ダーリン。お話は終わったの?」
ディオスが二階の廊下にいるクレティアを見て
「ああ…」
あまり元気がない夫ディオスに、クレティアが隣に来て座り
「なんか、あったの?」
ディオスが口にするのを迷っていると、クレティアが
「ねぇ…ダーリン。そうやって一人で抱え込まなくて良いんだよ。アタシは、ダーリンと一緒にずっと生きていく奥さんなんだから…」
ディオスは、ためらい気味に霧矢の話を口にしてしまった。
それを聞いたクレティアが
「そう…そんな話が…」
ディオスが
「おそらく、ヤツは…これを自分に喋った事で、エメロード姫達にバレる事を織り込み済みな気がする」
クレティアが
「じゃあ、ダーリンは話すの?」
ディオスが首を横に振り
「いや、話したくない。これは、エメロード姫達と霧矢の問題だからな」
クレティアが
「それで良いんじゃない。程よいって事が一番、大事だからね」
「そうだな」とディオスはクレティアの助言を受け入れる。
エメロード姫達が帰還する日。
ディオス達も護衛でエメロード姫達が乗ってきた時空戦艦の見送りをする。
ミリオンの宇宙港で、エメロード姫達がティオス達に挨拶をしている。
見送りの挨拶は、ソフィアが対応して
「また、アースガイヤにお越しください。エメロード姫」
と、ソフィアが答えて
エメロード姫が
「ええ…ありがとうございます」
と、伝えた後にディオスを見つめる。
ディオスがその視線に気付いて
「エメロード姫、何か助けが必要な事がありましたら…協力しますので、気軽にお声をおかけください」
エメロード姫が
「霧矢殿の事については?」
ディオスは、フッと笑む
「ええ…まあ、何と言いましょうか…。暴走するような思考の持ち主では、ありませんし…それに…」
と、エメロード姫の後ろにいるネヴァを見つめる。
ネヴァが自分を指さし
「私が…何か?」
ディオスが含み笑みで
「霧矢殿と、仲良くしてやってくれ。君の事を…昔の友人と似ているから、気にしているようだ」
ネヴァが
「霧矢が…私に昔の友人を重ねているのか?」
それを聞いて、ネヴァの隣にいるドラグとフレアがネヴァを見つめる。
フレアがネヴァの方に肘を置いて
「良かったじゃん。上手くいけば玉の輿だよ」
ネヴァが苛立ち気味に
「どこがだ?」
ドラグが
「世界の法則を組み換える程の力を持つ男だぞ。望めば…相当なモノを用意してくれるかもしれん」
ネヴァが呆れて
「そんなつもりはない。アイツは…バケモノだ。怖くて頼み事なんて出来ないさ」
ディオスが顎を摩り
「ほう…守銭奴のクセに…」
ネヴァがディオスを睨み
「守銭奴でも、相手は選ぶわ!」
エメロード姫がディオスに
「霧矢殿と話したのですね」
ディオスは頷き
「ああ…少しだけな」
エメロード姫は、ディオスを見つめて
「そうですか…」
と、告げた後、ネヴァを見つめて
「霧矢殿の気になる方がいるなら、話も通じる事もありましょう。ねぇ…ネヴァ」
ネヴァがエメロード姫の口調から察して
「姫様。わたくしは、あんまり…あんな得体の知れないヤツとは…」
エメロード姫が微笑みながら
「得体が知れないのは、お互いに知り合おうとしなかっただけであって、話してみると以外や気が合うかもしれませんよ。ね、ディオス様」
と、ディオスにウィンクする。
ディオスが腕を組み
「そうだな。対話が通じる相手なら…ね」
エメロード姫達と会話を終えて、ディオスは去って行くエメロード姫達の時空戦艦を見つめる。
エメロード姫達の世界にいるサタンヴァルデウスの霧矢の問題は、エメロード姫達が解決するべき課題だ。
自分達が主導しても、意味は無い。
手助けならするが…やはり、エメロード姫達で解決させた方がいい。
それは、きっと霧矢にとっても必要だ。霧矢の人としての…。
これ以上は、まだまだ、先の事だ。
ディオスは屋敷に帰って来て、玄関広間で魔法の研究に入ろうとしたが…不意に玄関広間の壁の額縁に飾っているシンイラとの契約の剣が眼に入り、そこへ近づき
「そういえば…最近、シンイラと…」
周囲が一気に暗転した。
ディオスは、周囲を見渡す。
全てが闇、深淵の底が目の前にある。
ディオスは、青ざめる。
手を見つめる。
感覚が…鈍い、フワフワと浮いている。
ディオスは瞬時に理解する。意識だけが引っ張られた。
現実のディオスは、飾ってある契約の剣の前に倒れていた。
それを音で気付いたクリシュナとレベッカが駆けつけて、クリシュナがディオスの頬と脈に息と魔導波動を触って調べ
「生きてる…起きて! 起きて! アナタぁぁぁぁぁぁ!」
屋敷では、ディオスが原因不明で倒れたとして、驚天動地になる。
レベッカがとある気配に気付く。
それは、シンイラとの契約の剣が淡く光を放っていた。
意識を持って行かれたディオスは、深淵のような闇の中で額のサードアイを開いて全てを見通す所へ
「ああ…すまないね…驚かせて…」
ディオスの目の前の空間が赤く歪み、そこから赤い王座に座るラージャンであるガオス・カルパールがいた。
ディオスが鋭い視線で
「どういうつもりだ?」
ガオス・カルパールが微笑みながら
「君の中にある、サタンヴァルデットを通じてアクセスさせて貰ったよ。この話が終われば…直ぐに戻れる」
ディオスがその場に腰を下ろそうとしたが、背後から金と銀で作られた王座が現れる。
その王座には、聖帝の印と機神人類の印が刻まれていた。
ガオス・カルパールが
「君の座だ。座ってくれ」
ディオスが自分の力の化身である座に腰を下ろして
「で、どんな話だ?」
ガオス・カルパールが肘置きに肘を乗せて優雅に
「霧矢の事、配慮してくれて助かった。お礼を言わせて貰うよ」
ディオスが呆れ気味に
「別に、私が解決する問題じゃあない。エメロード姫達が解決する問題だ」
ガオス・カルパールが微笑みながら
「君のそういう優しさが私は好きだよ。救いを求める手を必ず取る。それ以外は、放置する優しさ、流石…聖帝、救済の権化、救世全煌帝だ」
ディオスはフンと鼻息を荒げ
「その為に意識を奪う程の事をして呼んだのか?」
ガオス・カルパールが指を鳴らすと、闇の光景が変貌する。
最初は、アルダ・メルキオールが敗れた情景だ。
「アルダは、人の心に負けた。絶対なる王は、人の心が持つ輝きで、絶対の支配が瓦解、そして…アルダ・メルキオールの魂は、人へ転生した。続きは、ヘオスポロスのエピオンか、ルビードラゴンにでも聞いてくれ」
次は、ベルダ・バルタザールが北斗と対消滅した光景だ。
「狂気の創造主は、自分と並び立つ存在によって、消えたが…極天となり、神越存在の影となって寄り添っている」
ガオス・カルパールが指を鳴らすと、幾つもの世界の情景が通過する。
発達した宇宙級文明達、滅んだ時空級文明達の情景が通り過ぎる。
「私は…三位一体となった。神人、超越、人の三つを併せ持ってしまった為に、一つの法を放つ神域の存在と、一個人という、全なる一になった」
ディオスが
「そんな全にして一である、アンタは…全ての罪人を殺す事を望む絶対の法になって、何がしたい?」
ガオス・カルパールが微笑みながら
「愛、そう…愛を証明し続ける事だな」
ディオスの眉間が歪む程に困惑して
「愛を…証明?」
ガオス・カルパールが
「皮肉なモノだ。全ての罪人を殺す神法が、人の愛を証明し続ける世界を広げる。そう…思わないかね?」
ディオスが額を掻いて
「つまり、アースガイヤをその神法に包むつもり」
「いいや、違う」とガオス・カルパールが否定する。
「少し、余分なお喋りだったよ。本題を告げよう。アースガイヤに…善性と邪悪の相反する二つを持つ者が出現する。それをシックス・ホモデウス達、アヌンナキが狙っているぞ」
ディオスの顔が険しくなり
「それは…本当か?」
ガオス・カルパールが
「調和と親愛のアースガイヤに…現れる筈のない、ソレが出現する兆候を察知した。アズサワ達、エヴォリューション・インパクターの波と同質のソレだ」
ディオスと邂逅したシンイラの宗主、ガオス・カルパール
その告げられた事実にディオスは、対応策を始める。
次回、協力者 その一