第750話 シンイラの者
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ディオスは、エメロード姫達の世界との通信を開く。
通信を開いた場所は、何時もディオスの屋敷の玄関広間だ。
通信をする相手は…
「初めまして、だな…」
と、ディオスが見つめる立体画面には、鋭い目つきの男がいた。
この男の名は、霧矢。
エメロード姫達の世界に存在するサタンヴァルデウスであり、エメロード姫達の世界、時空に広がる超空間ネットワークの根幹を支える超位存在だ。
霧矢がディオスを見つめる。
その雰囲気は、何処となく雷御と似ている。
だが、四十代近い感じの雷御より十くらい若い三十代に見える。
霧矢が淡々と
「初めましてだな、聖帝殿…」
と、挨拶をしているもその声色から警戒が現れている。
玄関広間のソファーに座るディオスが朗らかに
「まあ、緊張しないでくれ。適当に話をしたいだけだから」
エメロード姫達は、霧矢を警戒している。
エメロード姫達の世界、時空を覆う超空間ネットワークには、ディオスへ異常を知らせるシステムが組み込まれている。
無論、霧矢が何かをすれば逐次報告されるが…それも万能ではない。
霧矢のような超位存在、サタンヴァルデウスにとっては抜け穴が幾つもあるのだろう。
ディオスが
「そうだな…サタンヴァルデウスは、罪人を喰わないと生きていけないのか?」
霧矢は冷静に
「いいや、別に…」
ディオスは軽い感じで
「元は、罪人を喰らい尽くすサタンヴァルデットなんだろう? だったらその性質が残っている筈だ。人間だって動物だった頃のサガから逃れられない。ある程度は理性で制御できるが、できない部分がある。それと似たように…」
霧矢は淡々と
「聖帝殿はサタンヴァルデットに対して誤解をしているようだが…サタンヴァルデットの根幹にあるのは、罪人への憎しみと、罪を絶滅させたいという願いだ。捕食は、その作用でありつつ、より罪人を見つける為の精度向上でしかない。罪人を食らって罪人を探す精度を上げる必要がないなら、食らう必要性はないが…」
ディオスが
「つまり、その罪人を食らう必要がなくなって、罪人を捜す精度を持ったのが、サタンヴァルデウスか…」
霧矢は、頷き
「そういう事だ」
ディオスは本題に切り込む。
「では、どうして、君の世界で…たまに罪人が消える事があるんだね? それも痕跡的にに見ても、喰手触手に喰われた跡があるらしいが…」
霧矢は、焦る様子もなく
「オレを疑うのは仕方ないが、オレはやっていない。オレに繋がっているシンイラがやっている事だ」
ディオスが少し鋭い目線で
「どういう事だ?」
霧矢は、平然と
「サタンヴァルデウスがいる宇宙、時空には…シンイラと繋がる空間位相、まあ…時空波動が生まれやすい。まあ…何というか…理論的な話として、量子理論的に言えば…カイラルや、同調空間一致、ハイパーリンクっという感じだ」
ディオスが考える。つまり…繋がる…という事か…
「つまり、一時的だが…シンイラの本拠地がある時空と繋がり易くなるという事か…」
霧矢が頷き
「そうだ。四次元的…まあ、生命や人、知性体がいる領分では、空間は強固で破壊できないが…。それより上の高次元では…空間や存在は確定ではなく不連続だ。これは、オレ達、人が存続できる世界から、量子の世界を見れば不連続に見える同じという事だ」
ディオスが
「つまり、サタンヴァルデウスである君がいる事で、罪人を皆滅ぼす世界、シンイラとの見えない量子的穴、ゲートホールが一時的に出現する事がある…と」
霧矢が「そうだ」と頷く。
ディオスが背もたれに深く腰掛け
「それをエメロード姫達に説明したか?」
霧矢が
「それを説明して理解するには、聖帝殿と同等の知識が必要だ」
ディオスが呆れ気味に
「説明していないのか…」
霧矢は淡々と
「説明した所で、余計な不安を与えるだけだ。なら…たまにオレが食らっているいう事にすれば…不安は減る。それに…罪人を狩ったという証拠も残せば、尚のこと…な」
ディオスが
「だから、狩った罪人の片腕や一部が残るように…」
霧矢が
「そういう風には、シンイラとの契約でなっているが…。それは、こちらの世界で罪人認定された者だけであって…」
ディオスが
「そうでない、隠れた罪人は…していないと…」
霧矢が冷徹な視線で
「では、どうする? ある日、突然、父親がとんでもない罪人でした?と言われたら…。見かけや表面的、家族的には、優しく暖かで良き父であったが…裏では…。それを受け入れられるか? 人は一面だけを見て判断するが、人は多面的な存在だ。それを見ないフリをするのが、人の性だ」
ディオスがソファーの肘当てに肘を置いて顎を手で支え
「分かったよ。それで十分だ」
霧矢が
「あと…聞きたい事は? どうせ、エメロード姫達が探って欲しいと」
ディオスが余裕の笑みで
「そこまで察しが良いなら、ネヴァについては…どうだ」
霧矢が口を閉じる。
ディオスはそれを察する。
さっきまで冷静だった霧矢に感情の変化が現れたのだ。
「周囲は、気付いているぞ。ネヴァに対して、お前が…気を遣っているとね」
霧矢は眼を閉じて
「昔の忌々しい記憶の彼方の事だ」
ディオスが
「言いたくないなら、別に…」
霧矢が
「昔の、とある男の話だ」
と、霧矢は昔話を聞いて。
ディオスは、それを最後まで聞き終えるのであった。
エメロード姫達の話題にした霧矢と話、それをどうするか?
ディオスは考えて…エメロード姫達に伝える。
次回、シンイラの者 その二